32.トレーニングルーム
読みに来ていただき
有難うございます。
アルフレッド様に案内された場所は、ジェンガを作った時に使用した作業部屋近くの、がらんとした倉庫の様な部屋だった。
バスケットコート位の広さがあるその部屋は、当分使用する予定は無く、自由に使って良いと言われた。
部屋の奥には収納庫があり、中には筒状になった絨毯、衣装箱、椅子、壊れた収納棚、ベッド、クッション、テーブル、文箱、化粧道具など、女性の持ち物だったであろう品々が、所狭しと詰め込まれていた。
「おやぁ……未だ処分していなかったのですか?」
「忘れていただけだ……」
コストナーさんの問いかけに、アルフレッド様は不機嫌そうに顔を歪めると、忌々し気に『直ぐに処分させる』と言っていた。
私はアルフレッド様に、使える物は再利用するので捨てないで、使わせて下さいとお願いをした。
「手を貸すことはあるか?」
アルフレッド様の言葉に、私は遠慮なく手を貸してもらうことにした。
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「……って、何故、私が力仕事など……納得できない」
頭脳労働担当のコストナーは、不満を溢しながら作業していた。
対照的にカーディナルは、息子の為だからと、重くても何一つ文句を言わず、収納庫にあった物を黙々と運び出していた。
風花では運べない、大きな物や重たい物が、アルフレッド、コストナー、カーディナルの三人と、城内の警備担当の守備隊・隊員の手も借りて小部屋から前の部屋へと運び出された。
「あとは私一人でも出来そうです。手伝って頂いて有難うございました」
風花は三人と手伝ってくれた警備担当の隊員に丁寧に感謝の言葉を言うのだった。
カーディナルは、風花の言う『とれぇにんぐるぅむ』が出来るまで、手伝うつもりでその場に残ろうとしていた。
「あ、あの、一人で大丈夫です。部屋の改装が終わったらお呼びしますので……」
風花は作成のギフトを使ってこれからやる事、やろうとしている事を、誰にも見られたく無かった。
なかなか引き下がらないカーディナルだったが、『完成するまで、マックスに付いてあげて下さい』と風花に言われ漸く部屋を後にした。
「風花の手伝いなら私が……」
「何言ってるんですか!自分の仕事をして下さい」
コストナーは手伝うと言う言葉を遮り、アルフレッドの両肩を掴むと向きを変え、出口へと押し進めた。
倉庫の様な部屋で一人になった風花は、始めに部屋全体と収納庫、収納庫から取り出した物、集められた資材全てに、清浄の魔法をかけた。
収納庫にあった毛足が長く豪華な絨毯は、長い毛足に足を取られて転ぶ事が無いように毛足を短くし、その分クッション性を高く、部屋一面に敷き詰める事が出来る大きさに作り替えた。
テーブルや家具、ベッドは風花の作成能力によって分解され、素材別に置かれた。
風花は木材を使って歩行訓練用の平行棒を作り、部屋の壁には手摺りを設置し、古い布団はストレッチ用のマットに作り替えられていた。
部屋の一画にマットを置くオープン収納を作り、梯子でその上に登れるようにして滑り台で降りる事が出来る様にした。
金属製品は古くて錆びついた鎧、穴の開いた鍋、銅板、鉄の塊、金属片が用意されていた。
風花はそれ等の金属から薄い金属板を作り、くの字に折り曲げ、反動を利用したストレッチ板を作った。
高さ調整の出来る専用の椅子に座って足を乗せれば、自然に脚を動かす事ができた。
足……一歩一歩踏み出す……
歩くという動作の為に風花はシーソーの様に体重移動をする事で左右の足が交互に動かせる、ステッパーもどきも作っていた。歩くという事、脚の動かし方を忘れたマックスの足が、自然と歩き方を思い出す様に……風花はそう思いながら作成していた。
訓練用具だけではなく、遊ぶことも出来るようにダーツ、ツイスター、輪投げ、縄跳び、ボーリングっぽい物も
風花は作っていた。
歩行訓練に使う物と遊び道具を作り終えた風花は、次に羊毛と余分な布類でスウェット風ジャージ?ジャージ風スウェット?の上下組を、自分用、マックス用、大人用、と各サイズ色違いで数セット作っていた。
ゴムが無いので、代わりに臍付近まで伸縮の良いメリヤス編みで、見た目は幼児用の腹巻付きパジャマのズボンの様だった。一応ウェスト部分には、微調整出来るように男子用には紐を通し、自分用の物には滑りの良い布で作ったリボンを通した。
トレーニングルーム造りが終わると、風花は小部屋の改造を始めた。
更衣室にある様なロッカーを特大サイズで壁面に五人分設置し、着替えが出来る様に扉付きの縦長の箱も設置した。
風花が作ったロッカーの中には、服を掛けるハンガー、ハンガーを掛ける横棒、荷物を置く棚とフックも取り付けた。
収納用のロッカーを別の壁面に作ると、風花は残った資材を全て収納ボックスに収納した。
部屋の改造作業を終わらせた風花は小部屋に入ってジャージに着替えると、作成した訓練用具を試し始めた。
あとはストレッチと、マッサージと……プールがあったらなぁ……温泉も身体にいいよねぇ……温泉といえば、スパ、スパ!すぱらしい~
マクシミリアンの為にとあれこれ考えている内に、思考が自分の欲望に変わる残念な風花だった……
自作の訓練用具を一通り試した後、風花は収納スペースからマットを一枚取ると床に敷いた。
マットの上に胡坐をかき、見えないタブレットで股関節や脚のリハビリのストレッチを検索していた。
風花は画面を見ながら脚を大きく回したり、曲げたり、伸ばしたりしながら考えていた。
ハァ~……この運動とか、ストレッチとかマッサージとか……カーディナルさんにどうやって教えよう……運動だし、ストレッチ……だから自分的には見られるのは多分大丈夫だけど、男の人に教える事を考えると恥ずかしい……かと言ってマックスに私がするのも気まずい……
マットの上に仰向けになった風花は、両手両足を伸ばし、足首をぐるぐる回した。
両脚を揃えて上げて、斜めの位置でキープ……息を吐きながらゆっくりと脚を下ろして、上げてを繰り返す……
ぐはぁ、腹筋がプルプルしてきた……
風花は上体を起こすと脚を開き右腕は頭の上、身体を左にゆっくりと倒していった。
次は左腕を頭の上に、右腕で軽く支えながら右側に上体を倒していく……
身体の側面が伸びて、気持ちがいい……
どうすればいいか考えながらストレッチをしていた風花は、立ち上がるとマットを収納スペースに戻し、小部屋に入って着替えた。
着替え終わった風花は収納ボックスから羊毛と布を取り出し、カントリードールを作った。人形を使って、ストレッチやマッサージの説明をしようと考えたからだった。
衣装箱に入っていたドレスや端切れでドール本体と、ドール用の服を作り、羊毛で作った毛糸でドールの髪を作り、下着も装着させたので、スカートをめくられても安心な作りにした。足の動きがわかるように、ツナギ装着の男の子のドールも作った。
ダーツの的を取り付けた壁の横に、人除けの為に設置したカウンター付き間仕切り収納の上に二つの人形を並べて置いた。これでトレーニングルームの準備は完了だ。何か不具合が出たら、その都度修正すればいい……
何も無い倉庫の様だった部屋をトレーニングルームに改装し終えた風花は、部屋のチェックと作成した用具の使用方法などを説明する為に、アルフレッドとカーディナルを呼びに行こうと扉を開けた。
扉の前には警備担当なのか守備隊の隊員が立っていた。外に出ようとする風花の前で、その隊員はいきなり跪くと、唖然とする風花の右手を両手で引き寄せるのだった。
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風花が作ったカントリードールが、人気になり、子供達の間で長く愛されるようになるのはまた後の話……