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30.動かぬ脚……

読んでいただいて、

ありがとうございます。



 アルフレッドから鋭い眼差しを向けられた風花は、その理由を考え、戦々恐々としていた。




 ハァ……アルフレッド様の視線が怖い……

大切な甥っ子のマックスを引っ叩いて、バカって言ったから?それとも脚を癒せない……癒そうとしないから?ぅう~睨まれて、めっちゃ怖い〜……

怖いアルフレッド様は、見ないようにして、これからの話をしないと……


 私はマックスの頭を撫でながら、脚の状態について話す事にした。


「ねぇ、マックス……」


「なに?」


「あなたの脚、治っているのよ」


「……」


「だから、癒やしは必要ないの……って、聞いてる?」


「う、そだ……治ってなんかない。治ってるなら、何で動かないんだよ……」


 マクシミリアン……マックスは抱きしめられている風花の腕の中から、抜け出そうとしてもがいてた。

もがいたせいでマックスの顔は、慎ましい……とはいえ、兄達とは違う女の子の柔らかな胸の感触に戸惑っていた。


 風花はマックスの小さな肩や背中に、小さな男の子を抱っこしている感覚でしか無かった。

マックスが胸の間に埋もれて、動揺しているなどとは、少しも思っていなかった。



「マックス……脚を診せてね」


「え……?」


 風花はそれまで、抱いて背中を撫でていたマックスを自分から離した。そして、マックスの足元に移動すると、掛けてあった掛け布を取り払った。


「うわぁっ、な、何を、止め……フーカ!!」


 悲鳴を上げ、焦っているマックスのガウンの裾も捲っていた。


 風花の前には、筋肉が無く、白く細い脚があった。

風花は慌てふためく周囲に構わず、マックスの脚に触れた。


「マックス、怪我したのは、左右どっちの脚なの?」


「……左」


「え?どっち?」


風花はわざと、聞き直していた。


「左……左脚だよ!」


マックスは、風花に掛け布を取られ、ガウンまで捲られて、何をされるのかと、慌てて上半身をおこそうとした。


「マックス、起き上がるの禁止!そのまま寝てて……」


「何で?フーカ、お前、何してんだよ?」


「いいから、ジッとしてて……すぐ終わるから」


「何、やってんだよ……」


 マックスは羞恥と、脚を動かして抵抗する事が出来ない情けなさから、両腕で顔を覆っていた。


「マックス~……怪我してない右脚は、動くよね~?ね~?」


風花はマックスの右足の裏をくすぐってみた。


「マックス……ねぇ、右脚は怪我しなかったのよね?」


 風花はマックスの足の裏をくすぐったり、足の指を曲げたり曲げた右手の人差指でグリグリしたりした。

右脚はもちろん怪我をしていた左脚にも、もう異常は無いというのに、マックスは動かそうとしない。


 風花はマックスの両脚を、爪先からゆっくりと撫でさすっていた。初めは優しく触れていた風花だったが、膝から足首までを軽く握る様に圧迫し、何かを流す様に膝から爪先に向けて、圧迫したまま手を滑らせていた。


 白く冷えていたマックスの脚が、段々と血色が良くなり、温かくなってきていた。

マッサージをしながら、不可視のタブレットで神経図を見ていた風花は、どうにかして、脊髄を走る神経に刺激を与える事が出来ないか、考えていた。


 針治療……は出来ないし、どうしよう?

風花は膝から上の部分……マックスの大腿部を神経節を探る様に、擦り始めた。


「!……ふぐっ……」


 風花にされるがままのマックスだったが、足先を触っていた風花の手が、大腿部から脚の付け根、股間に近づいた事で、恥ずかしさに身を捩っていた。


「あっ、ん、マックス……もう少しだけ、ジッとしてぇ」

もう少し……運動神経に刺激を……


風花はマックスの脚を擦る手の動きを速めていた。

こうやって擦ってたら、静電気起きないかな……雷魔法なんてやった事無いし、静電気でパチパチってなったら感じるかな……


そんな事を考えて夢中になって動いていた風花は、額に薄っすらと汗をかいていた。


 何で……何故動かせないの?

脚の肉がこんなになるまで、五年も……こんなに小さい子が自分を責めて、遊びたい盛りに、脚を動かさず、歩かないでいたなんて……


「……バカ……マックスは、馬鹿よ……」


「な、お前また……」


「歩けるのに……動けるのに、どうして……何で動かさないのよ……」


 風花の両眼から、涙が溢れていた……

溢れ零れた涙は風花の頬をつたい、マクシミリアンの腰のあたりに落ちていた。


「あ゛っ……あつ、熱い?あぁっ……」


 冷たい筈の涙の雫に、それまで大人しくしていたマクシミリアンが、熱いと言って暴れ出した。ベッドに座って、マクシミリアンの足をマッサージしていた風花は、ベッドから蹴落とされていた……


「ちょっと……蹴飛ばすなん、て……」


 風花はベッドから落ちた。

マクシミリアン……マックスに、蹴落とされたのだ。


風花は立ち上がると、ベッドの脇からマクシミリアンの様子を見ていた。


 カーディナルは、熱いと言って、暴れ出したマクシミリアンを落ち着かせるのに精一杯で、気が付いていないようだった。


 アルフレッドも、何がおきているのか心配そうに、甥の様子を義兄の後から、窺っていた。


 風花はバタバタと動いているマクシミリアンの脚を見て、涙が止まらない……

風花はマクシミリアンを宥めているカーディナルの横から奪う様に、マクシミリアンを抱き寄せた。


「マックスの脚が、あなたの脚が……」


「脚?脚がなに?そんな事より、僕に何した?背中が、背中の骨が、焼けそうに熱くなって……」


「マックス、背中はもう熱くないか?他に熱く感じる所は?」


 カーディナルは、風花が触れていない背骨が焼けるように熱くなったと聞いて、何が起こっているのか不安になっていた。


「背中が熱くて、我慢できなくて……何かを蹴飛ば……?蹴飛ばした!?」


「そうよ!マックスが脚で、私をベッドから蹴落としたのよ!」


「僕が?脚で……?だって、僕の脚は動かない、はずで……」


「動くの!マックスの脚は動くのよ!」


「……う、動かない……動かないよ!フーカの嘘つき!」


マクシミリアンは脚を動かそうとしたが、脚は思ったようには動かなかった。


「マックス、ゆっくり、足の指を動かしてみて……私を信じて、マックス……」


 マクシミリアンは、風花の目が涙で……泣いて赤くなっている事に気が付いた。

嫌われている、と思っていた風花が、自分の事を泣くほど心配してくれている。


マクシミリアンは風花を、これ以上泣かせたく無かった。


「クッ……」


 マクシミリアンは足の指を、ギュギュッと、丸める事を意識して、丸めた足の指を想像しながら、力を込めた……


 カーディナルはマクシミリアンの脚が動くと聞いて、相手をするのを風花に任せ、脚の動きを見る為に、マクシミリアンの足先に移動していた。


「足の指を、動かして……」


風花に言われたマクシミリアンの足の指が、ゆっくりと……だが確実に動いていた……


「動いている……マックスの脚が、動いている!」


カーディナルは、歓喜の声を上げた。

マクシミリアンは脚が動いたと言われても、実感がわかずにいた。


「マックス、今度は足先を左右に動かしてみて」


「グッ……」


 マクシミリアンは、両足の先を左右に動かそうとするのだが、なかなか動いてくれなかった。

足の先を左右に動かそうとすると、脚の付け根から足先まで、脚全体を動かすことになるからだ。


「難しい?そしたら、足の先を前後に動かせる?」


「クッ……で、出来ない……」


「そんな事ない、出来るよマックス……」


 風花はマクシミリアンが自分の目で、自分の脚を見ることが出来る様にマクシミリアンの視界を塞いでいた自分の身体をずらした。


「さぁ、マックス、やってみて」


「クッ……」


「そんなに力まないで、大丈夫……あなたなら出来るわ」


 風花に耳元で囁くように言われたマクシミリアンは、ついさっきまで、風花に素足を撫で擦られていた事を思い出していた。


「あ、ああ……」


 マクシミリアンは、恥ずかしくて脚が動くなら、逃げ出してしまいたい……

そんな風に思ったからだろうか?

マクシミリアンの脚がもがくように、ジタバタと動いた。


「マックス、すごい!ねぇ、見えるよね?見えてるよね?動くの……マックスの脚は、動くのよ」


「う、動く……本当に、動いてる……僕の脚は、動くんだ……」


 風花がまた、マクシミリアンを抱きしめていた。

カーディナルは、騒ぎに気が付いて、部屋に戻ってきた

アビゲイルと抱き合って喜んでいる。


 アルフレッドは、目の前で起きた奇跡のような出来事を、神に感謝していた……





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