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3.異世界は危険に満ちている


残酷表現があります。

ご注意ください。


読んでいただいて有難うございます。

ブックマーク登録、有難うございます。


 異世界アルシオーネ……

光の女神・リュミエールが私をその世界に送る時に言っていた似たような状況って、まさか火災現場?!……そりゃないよー!





 『じゃぁ~がんばってねぇ~』

そう言って手を振っていた女神様が消えた後、視界が真っ暗になったと思った次の瞬間、私が居たのは木で出来た倉庫の様な建物の中だった。


外からは人の叫び声や、悲鳴が聞こえてくる……一体何がおきているのか……?


 私は外に出た方がいいのか、このまま隠れていた方がいいのか、判断する事が出来なかった。外はますます騒がしくなって、馬のいななきやドドドドッっていう地響きまで聞こえてきた。



<ぎゃぁ~……>

<逃げろぉ~>

<助けてぇ~>


混乱する人の声に交じって、怒鳴りつけるような声も聞こえてきた。


《切り捨てろー》

《皆殺しだー》

《火だ!火をかけろー》


 火をかけろという声の後、パチパチという火が爆ぜる音と、煙が立ち込めてきた……女神様が言っていた似たような状況って、やっぱり火事かー!!


 

 なにしろ木造の建築物だ、火の回りは元の世界のビル火災よりも早いだろう……湧き出る煙に視界を塞がれる前に、私は煙を吸わない様に注意しながら、壁伝いの引き戸の隙間から何とか外に出られた……



「げほっ……げほっ……」



 私がいた建物は、まだ火がついたばかりだったが、周囲の建物は既に、激しい炎に包まれ燃えていた。

風に煽られた炎と、飛散しながら降って来る火の粉が熱いし、煙が目にしみる。


息苦しさに手で口を押さえながら、逃げ惑う人の流れに私は紛れる事にした。

足早に人の流れに近付こうとしていた私は、人々を追う馬に乗った兵士に腕を取られてしまった。



「や!やだぁ、離してぇ!!」


「大人しくしろ!へっ、おかしな格好の小僧だ……だが、悪くない。小奇麗なところを見ると、名のある家の出だろう……いい稼ぎになる」


 そう言うとその兵士は腕を引き、よろけた私の腰に腕を回すと、一気に馬の上へと引き上げた。


「!……お前……女か!こりゃあ益々いい拾い物だ」


「やっ、ぁ……離して!」


 私は腕の中から抜け出そうと、兵士の腕を両手で押したり、叩いたり爪を立てたりしていた。


「っ、痛い目にあいたくなければ、大人しくしていろ!」


兵士の腕の力は、緩むどころか逆に強くなってしまった。

逃げられない……イヤだ……誰か助けて……



 兵士が馬を走らせようと馬の腹を足で蹴るのと同時に、獣が吠える様な聞こえてきた……



「どぅりゃぁあああ……」


ザシュッ……


 雄叫びと共に騎乗していた馬から、颯爽と飛び降りた誰かが、その勢いのまま剣を振り、乗せられた馬の首を斬り落とした。

駆け出そうとしていた馬は、胴体から首が離れた事に気付く間もなく、乗っていた兵士と、捕まっていた私を巻き込んで倒れていった。


「ぅぎゃぁあ~」


「きゃぁあ……」


 私と、私を捕らえていた兵士は、倒れた馬の下敷きになっていた。

体の大きい兵士のおかげで、馬の体重が私に直接掛かってこなかったのは、不幸中の幸い?みたいなものだった。

 

 剣の一振りで馬の首を落としたその誰かは、馬の下敷きになって動けなくなっていた兵士の首を、情け容赦なく切り落としていた。

私の顔は、噴き上がった兵士の血で真っ赤に染まった……



……ぁ、あ、い、いや、だ……め、目の前で人が……く、首が飛んで……

「いっ、いやぁあ……」


兵士の首を落とした剣を携えたまま、敵なのか味方なのかわからないその誰かは、悲鳴を上げ、ガタガタ震えだした私を、面倒くさそうに馬の下から引きずり出した。



「おぅ、生きてるか小僧……ん?何だ、どっか怪我したのか?」


 そう言うとその人は、剣を腰につけていた鞘に戻し、着けているマントの裾で、血に染まった私の顔をゴシゴシと拭い始めた。顔の血を拭いてくれるのは優しさなのだろうけど、力加減が……



「大丈夫か?立てるか?」


「……」


「……っ、しょうがねぇな……大人しくしてろよ」



 私を捕まえていた兵士とは違い、甲冑を付けマントを纏ったその人は、腰が抜けて動けない私を抱え上げ騎士は、軽く舌打ちしたみたいだったけど、そんな事を気にする余裕は、私に無かった。


 恐慌状態の私をいたわるどころか、まるで荷物の様に馬に乗せたのですよ……

お腹が馬の背に圧迫されるし、頭が逆さまになっている状態が続いて、気持ち悪くなってきた。

いつまでこの状態がつづくのだろう……お願い、止まって……それか体勢を変えて……


お腹に来る圧迫感をなんとかしてくれないと、ダメ、吐きそう……ヤバイ、間違いなく吐く……吐く吐く~~~……



 私から漂う異様な雰囲気に気が付いたのか、目的地だったからか、漸く馬の脚が止まった。

ぅう、早く下ろして、このままだと、吐いちゃうよ~……



「隊長、周辺には敵兵はもういません。追撃を恐れて、早々に撤退したようです」


「住民はどうした?非難状況は?」


「ラッセンの町中には、生き残った民はもういません……

全員野営地に向けて移動中です。」



 何だ……私の状態に気が付いたんじゃなくて、他の人と合流したから止まっただけか……

私は段々腹が立って来て、気が付かせるために手足をジタバタ動かした。



「……隊長……それは?」


「ん?あぁ、敗走兵にとっ捕まってた小僧だ。って、おい!どうした?大丈夫か?」



 私を助けてくれた大柄なその男は、合流した他の人から隊長と呼ばれていた。

その隊長に、今度は首根っこを掴まれて、猫の様にぶら下げられた。


……すみません……もう、限界です……


「ぐっ……げぼぉ……」


 心配そうに私を覗き込んでいた人めがけて、口には出せない物を口から出してしまった。

身体能力が高いのだろう、隊長はササっと避けていた。

取りあえず、最小の被害で済んで良かった……少しだけ服が汚れたけど、固形物が無かったのが、せめてもの救いだったかな……



「ぅぁあ……」


「ぶっ!!くっくっく、あーはっはっはは……」


「た、隊長……」



 耐えられなくて、粗相をしてしまったけど……まさか爆笑されるとは……

「ご……ごめんなさい……」


 私は申し訳なくて、借りてきた猫の様に、ぶら下げられたまま被害を被った男の人に謝っていた……



「……近くに水場はあるか?」



「この先に洗い場があります。案内します。」



 恐縮して小さく(気持ちだけ)なっている私を隊長さんは、今度は横向きにして自分の前に乗せると、案内する仲間の後ろについて馬を進めた。


 洗い場に着くと、並んだ木桶の一つに、隊長は私を放り込んだ。 


ザッブ~ン……ブクブクブク……

思ったより深い……ちょ……助けて!溺れる!!



「馬鹿か!何をやっている?こんな所で死ぬつもりか!」



 溺れそうになってもがいている私を、隊長が引っ張り上げた。助けてくれたみたいだけど、元はと言えば、隊長が貯水槽に私を放り込んだんじゃないか……


私は恨みがましい眼で、隊長を睨んだが、百戦錬磨?な、隊長様には、まったく通じなかった様だ。

隊長の代わりに、案内してくれた男の人が、私を凝視して、固まっていた。その人の顔が徐々に赤くなって……



 ん?何を見てあんな顔に……?


 私が転移した時、身体は再構築されたらしいけど、着ていた物はカフェでバイトしていた時に着ていた服のままだった。珈琲色のカフェエプロンに黒い細身のパンツ、上は真っ白のブラウスだった……


貯水槽に落とされてずぶ濡れになったブラウスが、上半身にピッタリくっついて体の線が露わになっていた。

水に濡れたせいでタンクトップも透けて、その下のピンクのブラまで透けて見えていただろう……


「い、いやぁ、見ないでぇ……」


 両腕を胸の前で組んで前屈みになった私に、私達の後を付いてきていた別の誰かが、サッとマントを脱いで私の身体をすっぽりと覆い隠した。

そのまま、小さい子を抱っこする様に私を抱き上げると、そっと馬に乗せ、ひらりと馬に跨った。


馬からずり落ちてしまわない様に、私の腰に腕を強く回すと、その誰かは耳元で囁いた。



「落ちない様に、しっかりつかまって下さいね」


 冷たい貯水槽の水の中に落とされた私は、寒さでかじかんで、口がうまく回ってくれない……

私は頷くことで、了承の意味を伝えた。


 寒くて震えていた私は、抱きかかえてくれた誰かの……人の温もりが心地よくて……馬の振動のリズムが、これまた、いい調子で……

いつの間にかその人の胸に、縋りつく様にして、私は眠りについていた……




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