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25.アルフレッド


読んでいただき有難うございます。

ブックマーク登録ありがとうございます。


アルフレッド視点による、話しです。


 ダンガルディ守備隊隊長のレオンハルトが、国境沿いの町から連れ帰った不思議な娘フーカ……

複数の能力ギフトを持ち、教会に秘匿される癒しの能力(ギフト)まで有している……



 五年前の事故以来、癒着して開かなかった右目が、フーカの癒しによって目蓋が開き、視力が戻っていた。

右頬に残っていた大きな傷跡も、ほとんど消えていた。


五年前から、脚の怪我が治っても歩く事が出来ない甥っ子のマクシミリアン……

脚の怪我だけでなく、事故以来心を閉ざし、笑う事も話す事も出来なくなっていった……

鬼姫と称される気丈な姉も、目に見えて疲弊していった。



 姉に五人目の息子が産まれ、小さな弟と過ごす内に、心を閉ざしていたマクシミリアンも、閉じていた心を開き、言葉が戻り、表情も明るくなってきていた。


赤子だった弟が立ちあがり、歩く様になっても、マクシミリアンは歩く事も、自分で立ち上がる事さえ出来ないままだった。


 教会の治癒師が匙を投げた右頬の傷と目を癒したフーカに、姉が縋るのも、仕方がない事だろう……

マクシミリアンの脚の状況に誰よりも詳しい、優秀な医薬師でもある夫、義兄上を迎えに行った姉上……


 母親あねうえが不在で、寂しい思いをしていただろうと、共に出来なかった夕食での話を聞けば、フーカが作ったプリン?を仲良く食べさせ合っていたという……

姉弟の様に微笑ましかったと、侍女頭のアンナが言っていた。末っ子のギャビィとマクシミリアン……マックスの面倒をかいがいしくしていた様だ。


 一人で取った食事を終え、談話室に向えば、子供達の賑やかな声がしていた。中に入り、壁際に立ったまま見ていると積み重なった木で出来た()()かで遊んでいた。


子供達が気が付いていないのを好い事に、暫く監察していた。どうやら崩した者が敗者で、負けたものは何かを披露せねば、ならない様だった。


ギャビィが木を崩した時、フーカが頭に猫の耳の様な、飾りをつけ、猫の鳴き真似をしていた。

『にゃぁあ~ん』という鳴き声と、丸めた手の仕草が途轍もなく可愛い……

かわいい飾りを付けたフーカの頭を、撫でまわしたい……


そう思ったのは、俺だけじゃ無かった様だ……

エドワード……エディの手がフーカの頭に向かって、伸びていた……

駄目だ!それは俺の……


「何をやっている……?」


気が付けば低く、唸る様に咎めていた……


 エディは顔面蒼白になって、手をっ引っ込めていた。

大人気ないとは思ったが、俺は更に畳み込もうとした。

母親アビゲイルが不在だからと、たるんでいる甥っ子達を叱るつもりが、一緒に遊ぶ事になっていた。


 フーカが作ったという()()はジェンガという、木片を使ったゲームだった。

微妙に厚さの異なる木片を積み重ねた物を、崩さないように一片を抜き取り、また積んでいく……遊び方は三歳児(ギャビィ)にも出来る簡単な物だった。


遊び方は簡単だが、木片を抜き取る時に気を抜くと崩れやすく、どの木片を抜き取るかをよく考えてやらないと、すぐに崩れてしまうのだった。


 小さなギャビイは、フーカと組んで遊んでいた。フーカが手伝って上手に抜き取っているが、それでも崩して負ける回数が多かった。


三回負けると、罰として何か披露しなくてはいけない様でギャビイが崩した後でフーカがまた、猫耳の飾りと、今度は白いエプロンを付けて、ソレをやり始めた……


「にゃ~ん。猫耳メイドにゃ。ご主人様、ご用は何にゃ?」


ね、猫耳メイド?ナンだ?何なんだソレは!!

フーカが披露したソレを見た俺は、呆然となってしまった。猫族の亜人と人族の間に、稀に生まれてくるという獣人の様だ。こんな姿……見られたら浚われてしまうではないか。いや、普通にしていても人攫いに浚われそうだというに……


 この娘、フーカに、いろいろと言う事が出来た……

俺は甥っ子達を下がらせ、フーカに説教する事にした。

フーカが作ったという、ジェンガについても、詳しく聞きださなければならない。

それに、何より成人前とはいえ、男の前で、あんな……

無防備に可愛い姿を曝すものでは無い!


俺は、懇切丁寧に猫族の亜人の話や、異性の前で気を抜くのではないと、事細かに諭していた。

少し口うるさく言い過ぎただろうかと、黙ったまま俯いているフーカを見た。すると、フーカは上目遣いに、目をウルウルさせて呟いた。


「ご主人様、許して欲しいにゃ……」


くっ……無自覚なのだろうが、何てことだ……

嗜虐癖のある人物だったら、そのまま何をされるか……

いや、嗜虐癖などなくても、男の支配欲、征服欲を煽ってしまうその仕草、その口上セリフ、その表情に、俺は理性と忍耐を総動員して耐えた。


 俺はフーカに、猫耳メイドの封印を誓わせた。

それから、上目遣いに目をウルウルとさせるのも、俺以外の前ではやってはいけないと、禁止させた。


納得出来ずに、口を尖らせていたフーカの唇を、


「い、いひゃい、ごみぇんなひゃい、もうひまふぇん」


と、言うまで、指で摘まんでしまった。


成人していたなら、口で口を塞いだものを……

無自覚に、可愛過ぎるフーカが全ていけない……

成人したら、覚悟するといい、俺はもう、我慢しない……


 その時を想い、狙い付けた様に見つめた俺を、怯えた様に見つめ返すフーカ……



 能力ギフトなど無くても、俺は君を逃がさない。

悪い男と出会ったと、諦めてもらうしかない……




 ******




 フーカは専属の侍女アイシャと共に、談話室を出て、自室へと戻って行った。

退出するフーカの後ろ姿を、アルフレッドは愛し気に、見送るのだった。


 侍女頭のアンナは、凍り付いていたアルフレッドの心を溶かしたフーカに感謝と、憐みの感情を向けるのだった。


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