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24.マクシミリアンの苛立ち


読んでいただき有難うございます。

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感謝です。たいへん励まされております。



 料理長とジャンに、プリンのレシピと作り方を説明しながら、風花は料理研究家か菓子職人の様に、ひたすらプリンを作っていた。


 一通り作業が終わって、火にかけている間に、今度は料理長とジャンが、アイシャが書き記してくれたプリンレシピを見ながらプリンを作り始めた。


「カラメルは焦がし過ぎない様に、湯を入れる時は跳ねるので注意してください」


「焦げると苦くなるので、基本の色と香りを覚えていて下さいね」


 初めてカラメルを作る料理長とジャンに、風花から注意事項がとびます。


「出来たカラメルは熱いうちに器へ……冷めたら固まります」


「牛乳は人肌ぐらいで、砂糖を溶かして、温度が高いと卵が……」


ジャンが作っていたプリン液は、砂糖牛乳の、かき玉汁のようになっていた……


 失敗したと言って、廃棄しようとするジャンを止めた風花は、勿体無いと言って布巾で濾して、固まった卵をとり除いた。

風花は濾した砂糖牛乳に更に卵を割り入れ、そこに硬いパンをスライスした物を浸していた。


 作り直したジャンのプリン液と、料理長の作ったプリン液を、各自作ったカラメルの入っている器にそっと流し込むと、深めのフライパンで蒸し始めた。


「火加減に注意して、プリン液が沸騰しないようにして下さい」


「中に入れている水が沸騰していたら、火が強いので弱めて……」


プリン大好きな風花は、プリン作りには厳しいのだった。


どうせ作るなら美味しく作りたい。美味しいは正義なのだ!


 料理長とジャンがプリンを蒸している間に、風花は中途半端に固まっていた卵を新たに割った卵と混ぜてプレーンオムレツを作った。そして卵液に浸しておいたパンをフライパンで焼き始めた。


 フライパンにバターを溶かしてパンの両面をこんがりきつね色に焼いていく……


風花は焼きあがったパンを皿に乗せると、上から蜂蜜をかけた。


「フーカ様、それは?……」


「フレンチトースト……食べてみる?」


 風花に言われて、アイシャはゆっくりと皿の上にある、フレンチトーストを一口食べた。


「はふぅ~ん……甘くて美味しいですぅ~~」


「あれ?甘すぎた?」


アイシャの感想を聞いて、焼き上がりにヘラで適当に切り分けていたフレンチトーストを風花も試食していた。


「蜂蜜が甘くて、濃厚?なのかなぁ……でも美味しい」


風花とアイシャがフレンチトーストを食べているのを、プリンの入ったフライパンを余熱で放置中の二人……料理長とジャンが、無言で見つめていた。


 風花はフライパンにバターを引いて、砂糖牛乳卵液に浸してあった、残りのパンも焼き始めた。

両面こんがり、美味しそうに焼けたパンに蜂蜜を掛け、三枚のお皿にそれぞれ一枚づつのせて、料理長とジャン、それから、手伝ってくれたキッチンメイドさんの前に出した。


「砂糖、牛乳、卵を混ぜた液に、スライスしたパンを浸して、バターで焼いて蜂蜜をかけたパンです」


風花による作った物の説明は……まんまだった。


「ジャンさんが失敗したプリン液を再利用しました」


そして、一言余計だった……


失敗したプリン液、と言われたジャンは、心臓はーとをグサッと何かで貫かれたように感じたようだ……


「簡単なのに、美味しいですなぁ、いやぁ~脱帽です」


 料理長さんは、風花の作ったフレンチトーストに感心していた。


 粗熱が取れたプリンを氷室で冷やして、夕食のデザートと、明日の執務室のお茶の時間に出してほしいとお願いすると、風花は料理長とジャン、厨房スタッフにお礼と挨拶をして厨房を後にした。





 ******




 その日の夕食でデザートに出てきたプリンに、子供達は驚いていた。


「こちらは、フーカ様が作られたプリンにございます」


侍女頭のアンナさんが、テーブルに並べられたプリンを、そう説明していた。


「これをフーカがぁ……?」


「プルプルしてるですぅ……」


 風花が作ったと聞いて、疑ってかかるフェリクス、揺れるプリンに瞳をキラキラさせているギルバート……

テーブルマナーも完璧なエドワードは、黙々とプリンを食べていた。


「ふん、こんなも、もぐぁがっ……」


 風花はマクシミリアンの事だから、素直に食べないだろうと、踏んでいた。予想通り、プリンを見ようともしない

マクシミリアンの口に、スプーンに乗せたプリンを押し込んだ。


「おまっぇ、なにすっ……」


「はい、ア~ンして……」


「ぐっ……」


「あら?駄目じゃない言う事聞いてくれないと……」


男が一旦した約束を破るの?と、マクシミリアンにしか

聞こえない様にひっそりと風花は囁いた。


「美味しいでしょ?はい、ア~ン……」


「……」


「う、ん、そうそう、お口開けて……」


「……」


「どう?美味しい?もっと?はい、あ~ん……」


「「……」」


 風花とマクシミリアン……弟と少女のやり取りを見て、エドワードは顔がほんのり赤くなり、フェリクスは開いた口が塞がらないでいた。


「マク兄ちゃずるい。僕もあ~ん、してぇ、フーカぁ」


ギルバートの可愛いおねだりに風花は、まだ残っているマクシミリアンのプリンをテーブルに置くと、ギルバートの隣に座って、プリンを食べさせ始めた。


「はい、ア~ン……ギル君、美味しい?」


「うん、しごく美味しい!」


 半分ぐらいしか残っていなかったギルバートのプリンは、すぐになくなってしまった。

自分のプリンがなくなってしまったギルバートは、風花の

プリンをスプーンですくっていた。


「フーカ、ア~ンするです。はい、ア~ン……」


「……あ~ん、ん、ふぅ、おいひぃ……」


 我ながら上手に出来たなぁ、と自画自賛しながら、多分料理長かジャンが作ったプリンを食べ、風花は蕩けるような顔をしていた。


「「!」」


 咲き始める前の蕾のような少女の、蕩ける様な微笑みに、エドワードとフェリクスの二人は、胸の奥に何とも言い表せない感情が沸き上がるのだった。


マクシミリアンは、風花にまた“ア~ン”などとやられては堪らないとばかりに、残りのプリンを食べ終えた。


 アンナとアイシャ、他の侍女たちは、子供たちの様子を見て、仲の良い姉弟の様だと暖かい目で見ていた。


 プリンのおかわりは無いのか?と聞くフェリクスに、「プリンは一日一個だけ!」と、風花が答えていた。



 夕食後子供達は談話室で、風花が作ったジェンガを楽しんでいた。マクシミリアンも風花によって、強制的に参加させられていた。


ギルバートとチームを組んで参加していた風花は、ギルバートがタワーを崩してしまい、罰ゲームでモノマネをやる事になった。


風花は仕舞い込んでいたネコ耳カチューシャを付けると、手を猫の様にして、首を傾け、『にゃぁあ~ん』と、可愛く猫の真似をしていた。



 可愛い、ネコ耳に触ってみたい……

そう思ったエドワードは、そっと風花の頭に向かって、手を伸ばしていた。


エドワードの手があと少しで、風花の頭に付いているネコ耳に触れる、と思ったその時……アルフレッドが不機嫌そうに声を掛けた。


「何をやっている?」


 エドワードは自分が怒られたと思い、顔面蒼白になって、慌てて手を引っ込めていた。


「母親が出掛けて不在とはいえ、ふざけすぎるのは……」


 朝から出掛けている母親アビゲイルに代わって、お説教が始まりそうな場の雰囲気をギルバートが壊した。


「アル兄ちゃも一緒にやるです」


「ん?ナンだギャビィ、一緒にって?」


「叔父上、風花が作った変なゲームですよ」


「風花が作った?ゲーム?」


「変なゲームじゃない、ジェンガよ」


 そう言うと、風花は手早くジェンガを積みなおした。

風花からルールを説明されたアルフレッドも、物は試しと、参戦する事になった。


 マクシミリアンは、皆には良い顔をする風花を見て、苛ついていた。ジェンガも、子供だけ誘うのではなく、大人アルフレッドにまで声を掛ける……

『言う事を聞け』なんて言うのなら、自分だけを相手すれば良いのに、とマクシミリアンは思い始めていた。



 慎重に抜き取るエドワード、マクシミリアンと違い、大雑把な性格のフェリクスは、豪快に抜こうとして崩す事が多かった。初参加のアルフレッドも、大人の余裕からか、バランスよく抜き取るので、タワーを崩すのは大抵、フェリクスかギルバートのどちらかだった。


再び、罰ゲームで猫のモノマネをする事になった風花は、ネコ耳カチューシャ、そして白いエプロンを付けた。


「にゃ~ん。猫耳メイドにゃ。ご主人様、ご用は何にゃ?」

 コスプレ……これはコスプレ……


風花は自分でやらかしながら羞恥心に耐え、十四歳だからオッケー……と自分に言い聞かせていた。


 アルフレッドはネコ耳メイドになった風花を見て暫く固まっていたが、急に不機嫌になると、甥っ子達を部屋に下がらせ、風花には話があると言って残らせた。


 居間に残された風花に、アルフレッドからのお説教が始まった。


早く終わってほしいと思った風花が、『ご主人様、許して欲しいにゃ……』と言ってしまい、更に事細かくお説教されたのは、風花の自業自得からだろう……


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