23.禁断症状とモノ作り
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算術(計算)勝負は、風花の圧勝で終わった。
女子大生だった風花にとって、小学六年生程度の計算問題なんて、お茶の子さいさいだった。
風花は迎えに来たアイシャと部屋に戻るのではなく、とある場所に向っていた。
「フーカ様、何故厨房に行かれるのです?」
「う~ん、確認と野望の為……?」
「や、野望ですか?」
「そう……もうね、禁断症状が出そうなの……」
風花は硬くて甘く無いお菓子にウンザリしていた。
それに、週に一度は必ず食べていたアレの、禁断症状が出そうになっていた。
無いんだったら、作ればいいじゃない?
幸いにしてレシピは検索出来るし、あとは材料だよね……
焼き菓子に、アレを足せば美味しくなるし、アレはアレで自家製が……
風花が、アレアレ考えてニヤニヤしている内に、二人は厨房の入り口に着いていた。
アイシャがキッチンメイドに来訪を告げると、二人は厨房の中に案内された。
『厨房に入りたい。厨房を使わせて欲しい……』
風花が辺境伯にお願いしたのはこの事だった。
風花とアイシャが厨房に入ると、料理長と厨房スタッフが並んで挨拶をした。
「よろしくお願いします」
と、風花も笑顔で挨拶をした。
風花はまず、調理器具の確認を始めた。
ソースパン、フライパン、鍋類、調理用のスプーン、ヘラはあったが、泡だて器や菜箸、ケーキ型やココット型等は無かった。
使い方はわからないが、オーブンも大中小と複数あった。
料理によって使い分けしていると、料理人が説明してくれた。
風花に対応しているのは、厨房に勤めて二年目の料理人のジャンさんだ。
「調理器具の次は、調味料と食材ですか……」
「はい。お願いします」
「……」
農家の三男坊だったジャンが、辺境伯の城の厨房に入れる様になるまで、三年以上かかった。
辺境伯の遠縁というだけで、甘やかされた娘に、厨房で何が出来る?どうせ何も出来ないだろうと、ジャンは高をくくっていた。
風花は調理台に並べられていく調味料と食材を見ては、ジャンと言葉を交わし、何かを確認していた。
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うわぁ~、大きくて広い……
お城の厨房って、今迄バイトした事のあったファミレスよりも広くて大きい……
それに、スタッフの数も多いし、男の人が多い……邪魔にならないように注意しなくっちゃ……
料理長さんから、ジャンさんを紹介してもらった。
ジャンさんは、厨房スタッフとして二年目の料理人さんだ。私はまず、調理道具を見せてもらった。
ガスも電気も無いから、燃料は薪で、カマドだった。
調理台には鍋の底に合わせて大きさがいくつか違う穴があった。蓋の様な物で穴をふさぐと、余熱調理や、保温が出来ると、ジャンさんが説明してくれた。
火加減は、薪の量で加減するか、使う場所で調節できるようだ。日本の古民家のカマドと違って、使い勝手良さそう。それに、燃料薪だけど、オーブンがある……オーブンがあるよ!!大事な事なので、二回繰り返したよ!
オーブンがあれば、アレとか、アレとか、作れちゃうよぉ……
あ~、泡だて器が無い……菜箸は、スティックみたいなので、代用できるかなぁ……
材料があれば、作成能力で調理器具も作れるはず……
風花は調理器具の作成、と心のメモ帳にメモしていた。
風花に言われて料理人のジャンは、調味料と食材を調理台の上に並べていった。風花は手に取って確かめながら、ジャンに説明してもらっていた。
地球の中世を基本に世界を創造したらしい女神様の説明通り、調味料も塩、胡椒、砂糖、柑橘果汁、酢(ビネガー?)と、常備してある物は、地球の調味料とあまり変わりなかった。
香辛料は、流通が少なくて値段が高く、砂糖もまだ贅沢品なのだとか……
食材も馴染みのある野菜が多くて、肉も豚、牛、鶏と、異世界でのお約束的な、魔物の肉は無かった。
辺境伯の領地では酪農業をする領民がいて、乳製品もあった。
食材は貯蔵室と氷室で、保管しているとジャンから説明された風花は、氷室でアレが冷やせる、と、早速取り掛かる事にしたのだった。
「ジャンさん、作りたい物があるので手伝って下さい!」
「ぉおぅ……」
風花はジャンとアイシャにも手伝ってもらって、必要な道具と材料、それとマグカップの様な器を用意させた。
エプロンをして手を洗ったら、調理開始だ……
風花は小さな鍋に砂糖と水を入れて、焦げないように注意しながら火にかけた。
ジャンに湯を沸かしてもらい、焦げ茶色になった小鍋に湯を入れてカラメルソースを作った。
カラメルソースを器に入れてから、風花はボウル代わりに別な鍋に卵を割りほぐした。
保温しながら卵と砂糖と牛乳を入れて混ぜたら、カラメルを入れた器に均等になる様に、ゆっくりと静かに流し入れた。
蒸し器が無いので、火が通り過ぎない様に、お皿を入れた鍋にプリン液の入った器を並べて水を張り、蓋をして火にかけた。プリン液が沸騰しない様に、熱くなり過ぎないよう注意して、二十分程したら、火から下ろして保温状態で十分程度放置した。
あ~ボウルとか、泡だて器とか、地球製品が取り寄せ出来ればなぁ~まぁ、無けりゃ作ればいっかぁ~
鍋を見ながら風花が思案している間に、使った道具類は、キッチンメイドが、洗って片づけていた。
風花は粗熱が取れて、出来上がったプリンを取り出し、追加して作ったプリン液の入った器を鍋に入れて、同じ様に火にかけた。
追加分が蒸し上がるまでの間に、味見タイムだ!
粗熱が取れたプリンを皿の上に取り出すと、アイシャが目をキラキラさせていた。
「ふわぁ~プルプルしてますぅ~」
「何だ、そりゃあ?」
「これはねぇ、プリンです!プリンという至福です!!」
風花はプリンを見たアイシャとジャンに向かって、ドヤ顔で答えた。
「美味しく出来てるか、味見してみますね」
風花は味見用に取り出したプリンを、小さなスプーンですくって食べた。
「う~ん……ぅふふっ、おいひぃ……」
風花は味見用プリンを、無言でもう一口食べた。
週に一度、禁断症状が出そうなくらい、風花はプリンが好きだった。古臭いカフェのバイトをしていたのも、割引で食べられる美味しいプリンが目当てだった。
蕩けそうな表情でプリンを食べる風花を見て、若干引き気味のジャンだったが、風花が醸し出す妙な気に当てられてうっすらと頬を赤く染めていた。
「フーカ様……」
遠い眼をして風花を見ていたアイシャだったが、味見用に差し出されたプリンに、すっかり魅せられていた。
恐る恐るプリンを口にしたジャンは、残っていた味見用のプリンを持って、料理長の所にすっとんでいった。
その後風花は、プリンを味見した料理長とジャンにプリンのレシピと、作り方を教える事になったのだった。