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21.マクシミリアンと侍女見習い

読みに来ていただいて有難うございます。

ブックマーク登録いただいて、有難うございます。



 アビゲイル様とアルフレッド様から、車椅子の少年マクシミリアン君の足を治して欲しいと言われた私は、完治できるかわからないけど、癒しの能力ちからと日本での知識を使って、出来る限り力を尽くそうと思っていた。


 その為には、何はともあれ、マクシミリアン君の現状を把握しないと……

でも、医者でもない私が、「足を見せて!」なんて言ったりしたら、なんか痴女みたい?

それに……何だかマクシミリアン君に嫌われてるみたいだし……どうしたらいいかなぁ……?


 ベッドの中でウンウン、唸っている私を見て、マリーが心配そうにしていた。


「フーカ様……お目覚めでしたら、お茶でもご用意いたしましょうか?」


「ごめんなさい……早くに目が覚めちゃって……」


「眠れなかったのですか?」


「なんだか、いろいろ考えちゃって……」


「もう少し、お眠りになられますか?」


「う~ん……いや、もう起きる……着替え取ってくるね」


 私はベッドから起き出してクローゼットに向かった。そして《ドレスメーカー》と、命名した衣装作成能力で、これから着る衣装を作成した。


 今日は動きやすさ重視で、黒いゴスロリメイド風のワンピース、その上に白いエプロンを付けた。

スカート丈は、短くして、ニーソで絶対領域……にしてみたら、マリーに大反対(おせっきょう)されてしまった……

クローゼットに戻って、丈をふくらはぎが隠れる程度にして、足には編み上げブーツ、仕上げに、ネコ耳カチューシャを付けた。


「出来たニャ……今日は見習いメイドなのニャ」


そう言って、マリーに向かって手を猫の様にして、首を傾けてみた。


「!」


どうしよう……マリーが、黙って震えている……


「ぐ……フ、フーカ様……そ、そのお姿……」


「あ、この格好って、駄目だった?着替えてくるね……」


「……だ、大丈夫です、ぐふっ……と、とっても可愛らしいです」


「……う~ん、いっそ本物のメイド服を借りて……って、あ!」


ああ!良い事考えた!!

その時私の頭の中に、マクシミリアンの足を自然にチェックする為の妙案が浮かんでいた。





 ******




 コンコン……ドアをノックして、アビゲイルの四男、マクシミリアンの部屋に、世話係の侍女が入っていった。


「おはようございます。マクシミリアン様」


「おはようございます。お坊ちゃま」


「……お坊ちゃま?……誰だ?」


専属の侍女の他にもう一人、見慣れない侍女が、部屋に入って来ていた。


「侍女見習いのウィンディです。今日はマクシミリアン様の朝の担当をする事になりました」


「ウィンディです。宜しくお願いします」


 マクシミリアンが初めて見たその侍女見習いは、名前をウィンディと名乗った。



 マクシミリアンは、世話係の侍女に介助されながら、寝台のすぐ横にある椅子に移動すると、侍女が差し出した盥の湯を使って、洗顔を済ませた。


侍女が持っていたタオルで、ササッとマクシミリアンの顔を拭った。


次いで、盥から足の上にこぼれた湯を、侍女見習いがゆっくりと、足に触れるのをためらう様に拭き取っていた。


「……おい、はや、く……な……なにを……」


ゆっくりと時間をかけて足を拭いている侍女見習いのウィンディに、早くする様に言おうとしたマクシミリアンは驚愕していた。


ウィンディと名乗った侍女見習は、マクシミリアンの寝間着を膝上まで捲ると、両手で両足……特に左の足の膝から爪先まで、撫でる様に触っていた。


「な、何をする!」


 羞恥に真っ赤になったマクシミリアンに、肩を押されたウィンディは、後ろに倒れるのを防ごうとして、咄嗟にマクシミリアンの手を掴んでいた。


「マクシミリアン様!!」


「いったぁ……」


「うぅっ……痛…くない……柔らかい??」


 ウィンディに引かれるまま倒れ込んだマクシミリアンの頭は、柔らかなウィンディのお腹に受け止められていた。

年下の少年とはいえ、二人分の重さで床に倒れたウィンディは大きなヘッドキャップが功を奏して、頭を打つことは無かったが無防備だった背中に鈍い痛みが走った。


うぅっ、背中痛い……重た……

身体を起こそうとしたウィンディは、自分を下敷きにして、目の前……胸の部分の弾力を確かめる様に動いている手に、気が付いた。


「!……い、やぁだぁああ!ばかぁ!エッチぃい!!」


「な!そんなつもりは……」


焦って上半身を起こそうとしていたマクシミリアンの右手はウィンディの胸部に、左手は足の付け根付近にあった。

偶然とはいえ、恥かしい状況に、二人して真っ赤になっていた。



「マクシミリアン様、お怪我ありませんか?」


マクシミリアン付きの侍女は慣れた動作で、倒れているマクシミリアンの身体を引き上げると、椅子に戻していた。

それから、顔を赤くしたままの侍女見習いのウィンディに声を掛けた。


「ウィンディ、貴方もいつまで転がっているのです?役にたたないのなら、出て行きなさい。」


「ぅえっ……し、失礼いたしましたぁ……」


先輩侍女の叱責を受け、侍女見習いのウィンディは逃げる様にマクシミリアンの部屋を出て行った。


 専属侍女によって朝の支度をする間、マクシミリアンは、侍女見習いの、ウィンディの事を考えていた。


不躾に僕の足を触っていたくせに、偶然胸に手が……ちょっと触ったぐらいで大騒ぎして……ヘンな女……


 あのヘンな侍女見習が、明日の朝も来るのだろうか……そう思うと、マクシミリアンは小さく息を吐いていた。





 ******



 

 風花はお茶のセットと茶菓子を乗せた、手押し車(ワゴン)を押しながら、辺境伯の執務室に侍女見習いの恰好をしたまま入室してきた。

そして、何食わぬ顔でお茶を入れると、アルフレッドと補佐官のコストナーに、声をかけた。



「お茶が入りました……」


「うむ……」


「おやぁ?随分と可愛い侍女さんですね……」


「……」


「執務室に来るのは初めてですよねぇ?それに、侍女服も何か違いますねぇ……?」



あれ?私、不審がられてる?

「あ、あの、私、見習いの初心者なんです。ふ、不審者じゃな……」


「初心者……?」


 聞きなれない言葉を聞いたアルフレッドが射貫くような視線を、自称、侍女見習いに向けていた。


「見習いにしては、上手にお茶を入れましたね。ご褒美にここに座って、貴方も一緒にお茶しなさい」


「そ、そんな、わ、私侍女見習いなので……」


「いいからお座りなさい」


コストナーは悪い笑顔を浮かべながら、空いているソファの隣を手でポンポンと叩きながら侍女見習いを座らせた。


不敵な笑みを浮かべたコストナーは、自らお茶を入れ、侍女見習いの前にカップを置くのだった。


「あ、ありがとうございます……?」


コストナーは座ったものの、距離を取ろうとする侍女見習いの手を引いて、無理矢理自分の膝の上に乗せていた。


「コストナー?なにを……」


普段真面目で堅物なコストナーの意外な行動に、アルフレッドは面食らっていた。



「いえね……今日も手伝ってくれるはずのフーカ様がいらっしゃらなくて、仕事がはかどらなくて、つい……」


コストナーの言葉に、侍女見習いは怯えた様に身体を固くしていた。


「フーカにだって、何か事情があるだろう……」


「そうですねぇ……アルフレッド様と違って逃げたりふざけたり、なんてしませんよねぇ?」


そう言いながらコストナーは、お茶に添えられていた焼き菓子を小さく割って、膝の上に座らせた侍女見習いの口に運んでいた。


「う~ん、可愛いですねぇ~……アルフレッド様、この侍女見習いさん、私に下さい。連れて帰りたいです」


「!」


 休む間もなく食べさせられていた侍女見習いだったが、焼き菓子が喉に詰まったのか、苦しそうに手で口を押さえていた。


「……!!」


「おや、苦しそうですね……涙を浮かべて……本気で欲しくなってきましたよ……」


 目の前で繰り広げられている、普段のコストナーからは、考えられない暴挙にアルフレッドはとうとう怒り出してしまった。


「コストナー!いいかげんに……」


「……うっぐ……っひっぐ、えぐっ……」


「……あちゃー……虐め過ぎちゃいました?あぁ、ほら、お茶を……そうそう、ゆっくりね……」


喉につかえた焼菓子に、堪えきれなくなって涙目でしゃくりだした侍女見習に、コストナーは優しくお茶を飲ませていた。


 アルフレッドは侍女見習に対して甘い対応をしだしたコストナーを、じっとりとした目でみていた。


 コストナーはアルフレッドに顔を向けると、首を軽く左右に振り、肩を落としてわざとらしく溜め息を吐いた。


「アルフレッド様……まだ気が付きませんか?」


「ぁあ゛何を……って、まさか……?」


アルフレッドはテーブルの上に身を乗り出すと手を伸ばし、よく見える様に侍女見習いの顔を自分に向けた。

そして、頭に被っていた白いキャップを外すと、被っていた鬘も取れて黒く艶やかな髪が広がった。


「フーカ……何やって……」


呆れた目付きでアルフレッドに一瞥された風花は、首をすくめて瞬いた後、片目を閉じて小首をかしげ、舌を出した。


「てへっ……」

っく……恥かしいけどてへぺろで誤魔化すのよ……子供ならてへぺろもありよね?


「くっ……そ、それで誤魔化せると……?」


アルフレッドは手で顔を覆いながら呻いていた。


コストナーは残っていたお茶を飲みほし、風花に顔を向け無表情に言葉を掛けた。



「さて、遊びはこのぐらいで……まさか?とは思いますが、わかっていますよねぇ?」


 笑っているのに、怒っているとしか思えないコストナーの背後から、真っ黒なオーラが溢れ出すのが、目に見える様だった。



「!……ひゃ、ひゃい。」

うぅっ、悪魔だ……悪魔がいる……



 この後も、なんちゃって侍女見習いとして、やりたい事があった風花だったが、笑っているけど目が全く笑っていない悪魔の様なコワすぎるコストナーの笑顔に、積まれた書類が無くなるまで、人間計算機と化すのだった。


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