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19.ジェンガで遊ぼう


読んでいただき、有難うございます。

中盤、風花視点になっています。



 アビゲイルに連れられて執務室を後にした風花は、ダイニングで昼食を取った。


そして、午後からはアビゲイルの子供達と一緒に、勉強する事になった。


 アビゲイルは家庭教師のマーカスに、風花の事を遠縁の娘だと紹介した。


マーカスは風花の学力を把握するために、王都にある王立上級学院の昨年の入学試験の問題をさせていた。


 王立上級学院は十五歳になった貴族の子供が三年間学ぶ全寮制の学校で、平民であっても貴族の後見があり、試験に合格すれば入学する事が可能だった。


貴族の子息、令嬢であれば、合否に関係無く入学できるのだが、試験結果でクラス(ランク)別けが為されるので、どの貴族も子供の教育には熱心だった。



「さて……お嬢さんの出来具合は、と……」


 風花の答案を見てマーカスは、度肝を抜かれた。

解答用紙を持つ手は震え、目は大きく見開かれていた。

後ろからマーカスの様子を見ている風花に、ギギギギ、と音がしそうなぎこちない動きで振り向くと、風花の肩をガシッと掴み、大きく前後に揺さぶっていた。


「な、な、何なんですかぁ、キミはぁああ!!」


「ちょっ、ちょっ、っと……や、め……」


自分よりも大きな男性に上半身を揺すられて、風花は気が遠くなり、口から魂的な何かが出てしまいそうだった。


見かねた二男のエドワードが、マーカスに声を掛けた。


「マーカス先生、フーカが……」


「!あ、ああ、す、すまない。だ、大丈夫か?」


「ぅきゅぅ……」


「先生、何があったんですか?」


三男のフェリクスが、マーカスに問いかけた。


「あ、ああ、フーカ君の試験結果が……」


「え?……」


風花は不安そうな顔をしてマーカスの次の言葉を待った。


マーカスは右手で顎を撫でながら、考えこんでいた。


「ふむ……今日はここまでにしましょう」


マーカスは今日の授業を急遽切り上げると、終わっていない課題は明日までの宿題とした。

慌ただしく学習室を出たマーカスは、試験問題と風花の答案を持って、アビゲイルの所へと向かうのだった。

 

 マーカスの様子を訝しんでいたエドワードは、母親のアビゲイルがマーカスと一緒に辺境伯の執務室に入って行くのを目撃していた。





 ******




 午後からアビゲイル様の子供達と一緒に、家庭教師による授業を受ける事になった。


アビゲイル様が家庭教師のマーカス先生に、私の事を遠縁の娘だと紹介していた。


「風花といいます。宜しくお願いします」


私が挨拶をすると、マーカス先生は少しだけ口角を上げて、基礎学力を知る為にと、上級学院の昨年の入学試験問題をするようにと言われた。


理数系の問題は、元の世界……日本の小中学校程度の問題だった。でも社会と歴史、文学については、この世界の事を知らない私にとって、わからない事ばかりだった。


検索機能を使って調べれば、全て解答できただろう……でも、検索を使って解答するのはカンニングと同じ事……そう思うと出来なかった。


記入した解答用紙を見たマーカス先生は、驚いた顔をして暫く固まっていた。

それから私の肩を掴むと、前後に身体を揺すり始めた。


ヒョロっとしていても大人の男の人なだけあって、力強く揺すられて、目の前がクラクラしてしまった。

エドワードに声を掛けられたマーカス先生は、急遽授業を終了にして、何処かに行ってしまった。



 辺境伯補佐官のコストナーさんの手伝いもある事だし、この国(世界)について、勉強する事の必要性を実感していた。書棚にあった歴史の教本を借りると、マーカス先生を止めてくれたエドワードとマーカスに声を掛け、学習室を出て部屋に戻った。


 案内されて部屋に戻ると、マリーとアイシャがお茶の用意をしてくれていた。

使用人が一緒にお茶など出来ないと始めは断られていたけれど、お友達もいないし、一人でお茶するのも寂しいからとしつこく強請って、三人でお茶を飲むことが出来るようになっていた。


お茶菓子は、()()()()がある、甘くない焼き菓子だった。しいて言うなら、洋風瓦せんべい?のちょっと厚いバージョン……


 お茶が終わるとアイシャに頼んで、昨日作ろうと思った()()()を作る為に、薪を保管している場所に連れて来てもらった。


 燃えやすい大きさに割る前の短い丸太を見つけると、失敗すると恥ずかしいからと言って、空いている作業部屋で一人、作成能力を使ってある物を作った。


五十四本の直方体を造り、怪我をしない様に表面を滑らかにしながらわずかに厚みを変えて、収納する為の専用のボックスも作成した。


始めに作った物は、記憶にあった物よりサイズが大きかった……小さい子向けにコレはこれでいいんじゃない?


それから深呼吸を一つして、日本で市販されている製品の大きさを意識しながら、二セット作り上げた。



 私が作った物……それは、三歳のギルバートと一緒に遊ぶために、三本の直方体を積み上げて遊ぶジェンガだった。


異世界で日本人が広めるゲームと言えば、小説ではリバーシが定番だけど、三歳のギルバートを見て考えたのは積み木だった。小さい子供だけなら積み木でもいいけど、ジェンガだったら、大人が一緒にやっても楽しいかな?と思って、ジェンガを作ってみたのだ。


ジェンガを三セット作っても、材料の木材が余っていたので、リバーシも作ってみた。

升目の線は炭で書いたように黒く、円筒形の長い棒から切り取った木片の片側も、炭で塗った様に黒かった。


材料が()だから升目の線と石の片側は()()出来たけど、もう片側を彩色する材料が無い……


色付けは後日にして、作業途中の物は作成した専用の木箱に入れて、作業部屋を片付けた。


 出来上がったジェンガを持って作業部屋を出ると、アイシャと一緒に部屋へと戻った。


部屋に戻ると、私とアイシャが持っている木の箱を見て、『それは何ですか?』とマリーが聞いてきた。


私はテーブルの上に、底の部分を外した木の箱を縦に置いて、そっと上に持ち上げた。

箱から出てきたのは、三本ずつ十八段に積み上げた、五十四本の木片で出来た木のタワーだった。



「フーカ様、これは?……」


「あんな短時間で、こんな精密な物を作られたのですか?」


「え?雑だよ。もっと時間があったら、文字も入れたかったし……」


「それで、フーカ様、いったいコレは何なのでしょう?」


「ふっふっふ……これはね……」



 私は悪い笑みを浮かべながら、片手でタワーから一本のブロックを抜き取ると最上段に積み上げた。

目を見張る二人に、再度タワーから木片(ブロック)を一本片手で抜き取り最上段に積み上げ、一番上の段に三本揃うまではすぐ下の段から、ブロックを抜き取ったらいけない事と、抜き取る時は片手でというルールの説明をした。


説明が終わった後でマリーとアイシャにも、私がやった様に、タワーからブロックを一本抜き取って最上段に積みあげ、崩した人が敗者になるという遊びだと教えた。


三回戦を終了する頃には、ブロックを抜き取るコツも覚えて、五巡程度までは、毎回出来る様になっていた。


 夢中になっていたら、夕食の時間間際になっていて、ノックの音にドアを開けると、アンナさんが私達を迎えに来ていた。



「フーカ様がいらっしゃらないので、何事かと、心配致しました」


「す、すいません。今すぐ行きます……」


「「も、申し訳ございません……」」


「……」


 項垂れている二人の年若い侍女を見る侍女長アンナの視線は厳しかった。





 ******




 夕食の後、移動したダイニング隣の談話室で、風花は大きなブロックのジェンガをテーブルに出した。

風花のすぐ隣に座っているギルバートは、キラキラした目で、テーブルの上にある木で出来たソレを見つめていた。



「遊び方は簡単だよ。ちょっとやってみるね」


風花はマリーとアイシャを呼んで、ルールを説明しながら、タワーを崩さない様に気を付けながら、ブロックを慎重に抜き取っては、タワーの最上段に積んでいった。


真ん中にあるブロックを、指でつつきながら、スッと抜き取り、慎重に積み上げる……

単純作業の繰り返しで、至極簡単なゲームに見えた。



「ボクもやるのー」


「うん、ギルバート、一緒に遊ぼう」


「にいちゃ、も、いっしょするのー」


「「ハイハイ……」」


「う~ん……ねぇギル、慣れるまで私とチームを組もうか?」


「あい!……ちーむ……?」


「私とギルで、ペア……二人で一緒、っていうことよ」


「わぁ~い、ふーかといっちょ」



 風花は、参戦したエドワードとフェリクスに、ルールを説明しながら、真ん中のブロックを抜きやすいように指で突いた後、ギルバートにそっと抜き取る様に、指示した。



「すごーい、ギル上手~……次はねぇ、そ~っと一番上に載せてね」


風花の言う事に、ギルバートは無言で頷くと、ブロックをそーっと最上段に載せていった。


続いてエドワードは、そっと端にあるブロックを抜き、最上段の、ついさっき、ギルバートが載せたブロックの隣に、そっと置いた。


フェリクスも、初めてにしては大胆に、真ん中にあるブロックを、指でつついて抜き取っていた。


 四巡目も、風花に取りやすくしてもらっていたギルバートは、難なくブロックを抜き取り一番上に積んだ。


エドワードは抜き取るブロックを慎重に選び、少しづつ

指で弾いて何とか抜き取ると、慎重に最上段に載せた。


フェリクスは、それまでと同じ様に、端にあったブロックを、抜こうとして……タワーが崩れてしまった。



「あ~フェリにいちゃ……」


「タワーを崩したので、フェリクス君の負けです」


「えぇ~?ナンだよソレぇ……」


「フッ、よく考えて抜かないからだ」


「チッ、もっかいやんぞ……負けたままで止められっか」


「ふふ……罰ゲームが無くて良かったですね」


「「罰ゲーム?」」


「罰ゲームって?何のことです?フーカさん」


「フーカでいいですよ、エドワード君……罰ゲームっていうのは、負けた人に罰的な何かをやってもらう事です」


「フーカ、私の事はエドで……それにしても、罰的な何かか……例えば?」


「そうですねぇ、モノマネをさせるとか、何かを飲食させるとか……でも、悪辣な罰はダメですよ。嫌がらせ程度の罰ですかねぇ」


「俺の事も、フェリでいいからな、フーカ。それで、具体的にどんな罰があるんだ?」


「モノマネだと人物とか、動物とかかな?嫌がらせ的な物だと、女装させるとか、好きな食べ物を一回譲るとかですかねぇ……」



罰ゲームに関して説明しながら、風花はタワーを積み終わっていた。



「ん~……試しに、次に負けた人は、動物の真似を披露するで、どうでしょう?やってみますか?」



「「おう!」」


「あいあーい」


 風花は離れた場所で、我関せずといった感じで本を読んでいるマクシミリアン……車椅子の少年にも声を掛けた。



「簡単だから、マクシミリアン君も一緒にやろう?」


「…………」


「ねぇ?聞こえてるよねぇ?」

っと、いけない、いけない……十歳の子相手にムキになるなんて……


 それにしてもマクシミリアン君は何でこんな捻くれてるんだろう?と、風花は思うのだった。障害……足が不自由だから?なのか?では、私の能力で治癒する事が出来たら……そう考えこんでいた風花に、ギルバートが早くゲームをしよう、と強請るのだった。




 考え無しに直感で引き抜こうとして立て続けに負けたフェリクスが、罰ゲームでモノマネを披露する事になった。


鼻を摘まんで少しだけ声を変えたフェリクスがやったのは母親、アビゲイルの真似だった。


「エドワード、いつまで寝ているの?さっさと起きて、鍛錬しなさい。蹴とばすわよ!」


「ぶ、はっはっは、ハラが……よじれる。やめ……」


「にいちゃ、かーしゃま……かぁしゃま!」


「ん?なんだギル?そんなに似てるか?」



「ほぅ……今のは私の声真似か?」



 不意に聞こえてきた声に、フェリクスは体をビクンと跳ね上がらせた。

コマ送りの様にぎこちない動きでフェリクスが振り返ると……そこには、頬をヒクヒクしながら、額に青筋を立て笑顔を張り付けたアビゲイルが、腕を組んで仁王立ちしていた。


「エドワァードォ、フェ~リックスゥウ~、明日の鍛錬が()()()()()()()()()……遅れない様、部屋に戻って休め」



「「はい、母様」」



 エドワードとフェリクスの二人は、先を競う様に談話室を出て行った。

それを見ていた風花は、リアルな『イエス・マム!』だと頬を引き攣らせていた。


アンナがマクシミリアンの車椅子を押し、アイシャがギルバートの手を引いて、子供達は皆、談話室を後にした。



 テーブルの上に、崩れたまま置いてあったジェンガを、

木の箱に仕舞い、挨拶して退出しようとしていた風花を、アビゲイルが引き留めた。



 アビゲイルに促され、ソファに座り直した風花に、意を決したように、アビゲイルが話し始めた……


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