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16.辺境伯と癒し


読んでいただいて有難うございます。





 ソファーから立ち上がり挨拶をする風花を見て、アビゲイルの子供達は同じ様な感想を抱くのだった……



うぁあ~小さ~い……本当に僕と同じ歳?


チビだ……これで年上って、嘘だろ?……


ふ…ん…十四歳だって?嘘吐き……



 車輪の付いた椅子に座っている四男のマクシミリアンは、風花が十四歳だと聞いても信じていなかった。

弟のギルバートが()()なのに()()だと、いつも言っているからだ。



「エドワード、君と同じ十四歳だ……よろしく」


「フェリクス、十二歳……さっきは、悪かったな……」


「……僕はマクシミリアン、十歳……ギルは、本当は三歳なんだよ。君、フーカだっけ?十四歳ってさぁ、本当?ギルみたいに年上ぶってない?」


 三人が三人共、風花の年齢に疑問を持っていた。十四歳という割に、風花があまりにも小さかったからだ。


 元の世界で、十四歳当時の風花の身長は、大体140センチぐらいだった。高校生だった三年間の間に身長が伸び、165センチになった私は平均より高身長だったと思う……


今の風花の身長は一つ下のフェリクスよりも、車輪の付いた……車椅子に座っている十歳のマクシミリアンよりも低く、年齢よりも風花は小さく、幼く思われていた……


「そ、そんなことしてない、よ……」

 

疑わし気なマクシミリアンに答えた風花は拗ねた様にツンと、口を尖らせていた。


 他人に対して、普段は無関心なマクシミリアンが、初対面の風花に突っかかるのを見たアビゲイルは、そういえば(アル)も、風花に対しては予想外の行動を取っていた事を思い出した。


「さぁ、食堂に移動して……食事の後でまた話をしよう」


 子供達に言い付けながらアビゲイルは、風花の存在が、マクシミリアンにも、アルフレッドにも良い影響を与えてくれることを密かに願っていた。





 時間が早まったからか、子供達と食べるのが煩わしいと思ったのか……その日の夕食に辺境伯が顔を出すことは無かった。




 *****




 夕食の後、風花はアビゲイルと、四人の子供達と共に、

談話室で過ごしていた。


末っ子のギルバートはまるで定位置だという様に、ソファに座る風花の膝の上におさまっていた。


 ゴールドブラウンの巻き毛の、日本の三歳児よりもしっかりした体つきのギルバートが膝の上にいると、正面から風花は全く見えなかった。



「ぷっ、くくっ、ギルのクッションになってる」



三男のフェリクスは笑い上戸なのかな……?

身長は150センチぐらい?十二歳だよねぇ?


風花は膝の上のギルバートの肩に頭を乗せ、半開きの目でフェリクスを見ながら、そんな事を考えていた。



「それで、本当は何歳いくつなの?」


風花の膝の上にいる弟のギルを構いつつ、二男のエドワードは、正面から覗き込む様に風花に問いかけた。


ワイルドなツーブロックヘアーの赤い髪に緑の瞳……

“ニッ”と笑った口から見える八重歯が牙みたいだと、風花は思った。



「ねぇ?聞いてる?」


いつの間にか問いかけているエドワードの顔が、風花の顔のすぐ近くにあった。


ちょ、近い……近すぎる!……


 困惑している風花の雰囲気に、偶然か、意図したものなのか、膝の上に座っているギルバートの拳がエドワードの鼻に裏拳パンチを食らわせていた。


「って……」


痛かったのか、エドワードは涙目になっていた。風花はギルバートの頭をヨシヨシと撫でながら、エドワードに返事をした。


「小さく見えるかも……だけど、十四……歳だから……」


言いながら風花は、顔を背けていた。


少し前まで二十一歳だったのだ。十四歳なんて、恥ずかしくて、堂々となんて言えるかー!!


 やさぐれていた風花は、膝の上で向きを変え、ぎゅーっと抱きついて慰めてくれるギルバートに癒されていた。


風花はレオンハルトやリカルド、辺境伯が、膝の上に小さい子を乗せて離さない気持ちがわかるような気がしていた。




 夜も更けて、子供達は自室へと戻り、風花も専属メイドになったマリーに案内されて、部屋へと戻って行った。





 *****




 翌朝、天涯付きの大きなベッドで目覚めた風花が、身だしなみを整えていると、ドアをノックしてマリーとアイシャが入って来た。



「「おはようございます、フーカ様」」


「お、おはようござし……ます」


 朝からテンション高めの二人に気圧されて、風花は朝の挨拶を噛んでいた。



「今日のお召し物は、何がいいかしら?」


 マリーとアイシャが楽しそうに、クローゼットに向かっていた。朝から着せ替えさせられてはたまらない……そう

思った風花は、追い掛ける様に慌ててクローゼットに向かうと、昨日作成したセーラー服の様なワンピースを選んで、二人に気付けてもらうのだった。


「今日の装いも、可愛らしいですぅ~」


 アイシャは手を上げて褒めそやし、マリーは初めて見るセーラーカラーを、獲物を見る猛禽類の様な鋭い眼で見つめるのだった。




 遠縁の娘という事で辺境伯の城で過ごす事が決まった風花だったが、どう過ごせばいいのかまるでわかっていなかった。今後の身の振り方について風花は、辺境伯と早く会って話しをしたいと思うのだった。



 二人の侍女マリーさんとアイシャさんの話では辺境伯とアビゲイル様、二男のエドワード君と三男のフェリクス君も、朝は守備隊と共に鍛練しているという事だった。


男の子だから、エドワード君とフェリクス君が鍛錬に参加するのはわかるけど、なぜそこにアビゲイル様も……?


「アビゲイル様は、お子さんたちが怪我をしない様に見守っているのですね……」

子供を心配するお母さんって、異世界でも変わらない……


 風花の発言を聞いたマリーとアイシャは『ハイ、ソウデスネー』と誤魔化し笑いをしながら答えていた。





 朝食は、ダイニング席についた者から順次食べ始める

とアイシャに説明された風花は、朝食を食べてから、辺境伯に会いに行くことにした。




 アイシャに案内された風花がダイニングルームに行くと、車椅子の少年……アビゲイルの四男、マクシミリアンと一緒になった。



「おはようございます」


「……」


 風花が挨拶をしても、マクシミリアンは何も言わなかった。風花は末っ子のギルバート以外の子供達から、胡散臭い奴だと思われている気がしていた。特にこの、マクシミリアンという男の子には、嫌われている様に風花は感じていた。


 手早く食べ終えた風花は、ご馳走様と言って席を立つと、マクシミリアンに向かって、声を掛けた。


「……私の事、嫌いなのはわかるけど、挨拶も返さないのは、人としてサイッテーだよ!」


「な、何を……」


 いきなり風花に言われたマクシミリアンは、顔を赤くして風花を睨んだ。


「お先に失礼……」


 マクシミリアンに睨まれても、何てこと無いように軽く退出の言葉を発して、風花はダイニングルームを出ていった。


 風花の側に控えていたアイシャは、マクシミリアンに礼をしてから風花の後を追うのだった。



 風花は部屋に戻ると、年下の子に、朝から怒る事も無かったかなぁ……と、反省するのだった。


 何もする予定の無い風花は、食後の運動を兼ねてアイシャにお城を案内してもらう事にしたのだった。

風花がいる部屋、居住スペースの下の階には、宿泊客用の、部屋が並んでいた。その内のいくつかが、アビゲイルや子供達が使っている部屋だという事だった。


公共的な部分には、広間、大広間、会議室、食堂、応接室が大、中、小、と三つもあった。


「此方の食堂は、守備隊の方々や城で働いている者達が利用しているのですよ。」


「マリーさんやアイシャさんもですか?」


「フーカ様……私共の事は、マリー、アイシャ、とお呼び下さい」


「え?でも、私お嬢様じゃないし……」


「いいえ、フーカ様は辺境伯様の、遠縁のお嬢様です」


 有無を言わせないアイシャの言葉に、風花は何も言えなくなった。


「わかりました。アイシャ……」


風花の返答にアイシャは満足げに頷いていた。


「さぁ、フーカ様、そろそろお部屋に戻りましょう」


 アイシャに促されて、風花は部屋に戻る事にした。部屋に戻るまでの間、曲がる処を何回か間違えた風花は、一人だと迷子になる自信があった。慣れるまで、自分用の案内図を作ろうと、風花は思うのだった。


 部屋に戻ると、マリーがお茶を入れてくれた。

風花はマリーとアイシャに、一緒にお茶を飲もうと声を掛けた。始めはとんでもない、と断っていた二人だが、風花の説得……可愛らしいおねだり攻撃に、敢え無く撃沈したのだった。



((フーカ様、卑怯ですぅ~可愛すぎますぅ~……))


二人の手は、妖しくワキワキと動いていた……


「ねぇ、私ってそんなに十四歳に見えないかな?」


風花が聞くと、マリーが遠慮がちに答えた。


「十四歳にしては、身体が小さいと思われます」


「フーカ様、私はいくつだと思いますか?」


アイシャが風花に問い掛けた。


「え、と、十八歳ぐらい……?」


「……」


「では、私は何歳だと思いますか?フーカ様」


「え、っと、マリーは、二十歳かな?」


 十八歳と言ったら、アイシャの顔色が悪くなったので、マリーの年齢は風花が思っていた二十二歳より若く言ったのだった。


「……ハァ……フーカ様、私は十八歳、アイシャは十五歳です」


マリーは笑っていた……笑っていたけど目がコワかった。

女性に年齢の話は鬼門だと、心に刻んだ風花だった。



 場の雰囲気を変えたくて……私は始め、二十一歳だと、勘違いしていたという話をした。二人は声を揃えて、“そりゃないわー”と、いや実際の言い方は違うけど、そんな事を言って、私もなんでかなー?って言い合いをしていたら、なんとなく場の雰囲気が良くなった。


 話しをしていた中で新たに知った事実……アイシャはなんと、侍女頭のアンナさんの娘だった。

親子で……というか、代々辺境伯家に仕えるというお家だった。


マリーの実家は城下町で雑貨屋を営んでいるそうだ。その内ぜひ、街に連れて行ってもらって、雑貨屋さんにも買物に行ってみたい……



 三人で楽しく話しをしていると、ドアをノックする音がした。マリーがドアを開けると侍女頭のアンナが部屋に入ってきた。


「フーカ様……アルフレッド様がお呼びです。ご案内致します」


 風花はマリーと一緒にアンナに連れられて、辺境伯の執務室に案内された。


執務室の前に立つと、中から辺境伯の大きな声が聞こえた。アンナがドアをノックすると、中から風花一人で入るようにと、返事が聞こえてきた。


 執務室に入った風花は、辺境伯を見て驚いていた。辺境伯は、顔に包帯を当てて巻いたり、外したりを繰り返していた。補佐官のコストナーは、そんな事より仕事して下さいと、文句を言っていた。


 風花は包帯で顔を押さえる辺境伯を見て、ショックを受けていた。


昨日、私が引っ掻いたから?まさか、感染症に?


 焦った風花は、ソファから立ち上がろうとしていた辺境伯に近寄ると、いきなり飛びついていた。


「見せて!」


風花はそう言うと、よろけて倒れ込んだ辺境伯を押し倒すような姿勢のまま、右の頬を左手でそっと撫でていた……


 辺境伯の右の頬、昨日風花が引っ掻いた傷が、真っ赤なみみずばれの様になっていた。

朝の鍛練の時、守備隊の隊員達には遠巻きにヒソヒソと見返され、レオンハルトとリカルドの二人は爆笑していた。

揶揄われぬようにと、辺境伯は腫れが引くまで包帯で隠そうとしていただけだった。


 風花は、前髪で隠されていた辺境伯の右頬を、マジマジと眺めながら、左手で優しく撫でながら癒していた。


辺境伯は五年前の落馬事故で顔の右側……眉の上から上顎まで、深い傷を負っていた。

眼球は無事だったので失明はしていなかったが、引き攣れた傷跡に、その眼は、ほんの少ししか開くことが出来なくなっていた。


傷……ク○ヴィス様のお顔に傷……ダメ……


 頬に傷のあるシブイ戦士も好きな風花だが、アンジェ○○クのク○ヴィス様そっくりの辺境伯の顔に傷があるのはイヤだった。


辺境伯の上半身に馬乗りになったまま、風花は辺境伯の右頬を左手で撫で続けていた……


 ソファに押し倒された辺境伯は、上に乗った風花を、始めこそ払い除けようとしたのだが、右の頬に触れる風花の左手が心地好くて、されるがままにしていた。


まさか、顔にあった傷が消えて、目蓋を開ける事が出来る様になるとは思ってもいなかった。


 補佐官のコストナーは辺境伯と風花を、黙って見ている事しか出来なかった。


 古い傷……塞がって治っていた傷を癒した風花は、能力(ちから)を使い過ぎていた。

ゆっくりと右目を開けた辺境伯……アルフレッドを見て微笑むと、風花は意識を手放していた。


アルフレッドは自分の身体の上で意識を無くした娘、風花をギュッと、抱きしめるのだった。






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