15.アビゲイルの子供達
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アビゲイルと侍女三人による、風花の着せ替えタイムは風花が作成した制服風衣装で漸く終了した。
侍女頭のアンナ、マリー、アイシャの三人は、侍女として培っていた技術を駆使し、奥方や令嬢を思う様に着飾らせるという願望を、ようやく叶える事が出来たのだった。
しかも……これからは毎日出来るのだ。
マリーとアイシャの二人は、風花の専属侍女に選ばれた事を、心から喜んでいた。
アビゲイルの専属侍女だったアンナは、着飾るよりも武芸……剣技を磨く事に励んだアビゲイルを、普通の令嬢の様に、着飾らせる事が出来なかった。
国境を守護する辺境伯の家系にあっては、女であっても、アビゲイルの様に剣技を磨き、自ら戦う事を選ぶ事も、当然の事であった。
結婚式でさえ、アビゲイルを着飾らせる事が出来なかったアンナは、アビゲイルの娘に期待……していた……
一方でアビゲイルは、自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。赤茶色の髪色、キリリと上がった眉尻にスーッと通った鼻筋……目が合っただけで昏倒する令嬢が出るほどの、大変凛々しい美形だった……
可愛らしいドレスよりも、男装が似合い、男よりも男らしい、鬼姫と恐れられた戦姫……
誰からも、そう評されていたアビゲイルだったが、その心の内は、実は可愛い物が大好きな乙女だった。
アビゲイルは、将来娘が出来たら、自分では着る事が出来なかった可愛らしいドレスを着せて着飾らせ、思う存分可愛がる事を望んでいたのだった。
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アビゲイルと侍女三人に、何着ものドレスを着せ替えられた風花は、慣れない出来事に疲れ果てていた。
精神年齢は大人のままの風花にとって、お風呂で他人に磨かれるという出来事は身体以上に、風花の精神を疲労させていた。
そんな状態で作成能力を使った風花は、寝ていて昼食を食べ損なっていた事も重なり、腹の虫がそれはもう盛大に、空腹を訴えていた。
羞恥に真っ赤になって俯いてしまった風花を、アビゲイルも、三人の侍女も、笑うようなことは無かった。
アビゲイルは、何か考えている様な微妙な笑顔で、アンナに夕食の時間を少し早める様にと指示していた。
夕食までの間、風花はアビゲイルの子供達と顔合わせをする事になった。
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辺境伯のお姉さん、アビゲイル様に案内された部屋は、結婚する前までアビゲイル様が使用していた部屋だった。
高級ホテルのスイートか、セレブのお宅拝見番組で取り上げられそうな豪華なその部屋は、辺境伯の子供が、代々受け継がれている部屋だと、アビゲイル様が説明してくれた。
ドアがノックされて、入ってきた侍女頭のアンナさんに、マリーさんとアイシャさんを紹介された。驚いたことに二人は、私専属の侍女さんだということだった。
アンナさんが二人に合図をすると、私の腕を両側から抱え込み、半ば引きずる様にして、お風呂に連れて行かれた。
自分で出来ますという私の叫びは見事にスルーされ、マリーさんとアイシャさんによって磨かれて、下ばきと胸当てをつけられ、長い靴下を履かされた。
部屋に移動すると、色とりどりのドレスを抱えたアビゲイル様とアンナさんが、いい笑顔で待っていた。
引き攣っていたであろう私には構わず、四人は選んだドレスを、着せては脱がせ、脱がせては着せて……を、繰り返していた。
アビゲイル様が子供の頃のドレスという事だったが、私には大きかった……主に胸が……
髪の長さが肩ぐらいまでしか無い事も、ドレスが似合わない事に拍車をかけている気がしていた。
ドレスよりも、途中で着た男の子の服装が似合っていたと思う……すぐに、脱がされて違うドレスを着せられたけどね。
子供用のドレスが底をついたのか、サイズが合わない物を着せても駄目だと諦めたのか、気が済んだのか、四人による着せ替えは、一先ず終了したようだった。
似合うか似合っているかも問題だけど、着慣れていないドレスを着続けるのは正直ツライ……かと言って、収納ボックスの中から向こうで着ていた服を出して着るのは駄目だよね……
私は、自分でもドレスを選びたいと言ってクローゼットに入ると、中にあったドレスを材料に、女神様に貰った作成能力を使って、白いブラウスにチェックのベストとスカート、高校の制服みたいな上着を作成した。足には編み上げのハーフブーツを履いた。
ドレスよりは着慣れている制服っぽい服は、短い髪でもそれなりに可愛く見える様で、アビゲイル様も、侍女さん達も可愛いと言ってくれた。
作成能力を使った私は、エネルギーが切れたのか、お腹が空いて、またもや腹の虫を大きく鳴らせてしまった。
アビゲイル様が、夕食の時間を少し早める様にと、アンナさんに頼んでくれていた。
夕食の準備が整うまでの間、アビゲイル様の子供達と顔合わせする事になった。どんな子供達なのか、すごく楽しみだった。
マリーさんに案内されて、ダイニングルームの横にある部屋のソファーに座って、アビゲイル様や、アビゲイル様の子供達を待っている間に、眠くなってきた。
眠い時は、一瞬で意識不明になれるのだ。
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夕食にはまだ早い時間、母親に言われて食堂横の談話室に入ったアビゲイルの子供達はそこで、ソファに横になって寝ている見知らぬ女の子を囲むように立ち尽くしていた。
「クスクス……」
「……無防備に寝てるな……」
「生きてるの?人形みたい……」
「おきてー、おきてー」
「鼻でも摘まめば、起きるんじゃないか?」
「っちっさ!鼻っちっさ!」
「ぷぷっ……かわいそうだよ……」
「ギルバート、ゴー!」
「あーい!」
アビゲイルの四人の子供達の内、一番年下の男の子が、三番目の兄に言われて、勢いをつけて風花に飛び乗った。
「ぐぇっ!……いったーい!!」
突然の衝撃に、無防備に寝ていた風花は、女子にはあるまじき悲鳴をあげていた。
「「ぶっくっく……あっはっは」」
「……」
「おきたぁ、ね?」
目を開けた風花は、太腿の上に馬乗りになっている小さな男の子と目が合った。
「だぁれぇ?」
そう言うと小さな男の子はコテンと首を傾げた。可愛いい幼児の可愛らしい仕草に、風花は口を開けたまま何も言えなかった。
ソファで倒れる様に横になって寝ていた上半身を起こすと、四人の男の子が、風花の事を見ていた。
もしかして、アビゲイル様の子供達?
まさか涎なんて垂らしてないよね?と、口元を手で気にしながら風花が子供達を見ていると、アビゲイルが部屋に入って来た。
ソファに座っている風花を見て、ニヤニヤしている二男と三男を見たアビゲイルが、険しい眼をして片眉を上げた。
「……貴方達、フーカに何もしていないでしょうねぇ?」
「べ、別に何も……なぁ?」
「「「……」」」
「本当でしょうねぇ?あ゛ぁ、ん?」
「にいちゃ、に言われて、バーンってしたぁ」
「ギル!ばか!だまってろ!!」
「いやぁ、止めようかとも思ったんだけど……」
「ほう?寝ている女の子に、ギルバートをけしかけたと……」
アビゲイルの手が素早く二男と三男を捕まえると、二人の額が互にぶつかる様に左右から押し付けた。
ゴッチィ~ン……
「「っくぅぅう~……」」
二人は額を押さえて、蹲っていた。
一番下の男の子は、いつの間にか風花の膝の上に乗って
母親に叱られている兄たちを見ていた。
「にいっちゃたちっめ!なの」
はぁぅぅう~……か、かわいぃい~
我慢できなくなった風花は、膝の上にちょこんと座っている小さな男の子を抱きしめ、後頭部に頬擦りしていた。
人見知りのギャビィが初対面で懐いてる……
アビゲイルは風花と末の息子を、暖かな眼差しで満足そうに見ていた。
「それで、母様……その子誰?何で此処にいるの?」
「ん?あ、ああ、そう言えば紹介がまだだったわね」
車輪の付いた椅子に座っている男の子が、風花の事を母親のアビゲイルに尋ねていた。
「彼女はアルフレッドが預かる事にしたフーカ。十四歳だから、アレクの二つ下ね。貴方達が良ければ、うちの子にしたいとも思っているわ」
「えぇ?僕と同じ歳??」
アビゲイルは風花の年齢を聞いて、信じられないような顔をした二男から順番に、子供達の紹介を始めた。
「二男のエドワード、十四歳……三男のフェリクスは十二歳、四男のマクシミリアンは十歳、そして……」
「僕ギルバート、五歳!」
風花の膝の上でくつろいでいる男の子が、元気に自己紹介をしてくれた。
かわいらしい自己紹介に微笑んだ風花は、良い子ね、とギルバートの頭を撫で、膝の上から下ろして立ち上がると、子供達に向かい会釈して挨拶をした。
「風花です。宜しくお願いします」
風花はアビゲイルに四人も息子がいるのかと目を大きくしていたが、実はもう一人、十六歳の長男がいると聞いて、五人も子供がいる様には見えないアビゲイルを、『美魔女』?一体いくつなの?と
驚いていた。
風花がアビゲイルの家族の事で更に驚愕するのは、何日か後の事だった。