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14.辺境伯の思惑


読んでいただき有難うございます。

ブクマ登録いただき有難うございます。


 

 アビゲイルに連れられて執務室をでた風花は、城の居住区にある一室に、案内されていた。



「さぁ、ここよ、入って入って……」


アビゲイルは風花の手をとると、自らドアを開けて部屋の中へと連れ込んだ。


部屋の中には落ち着いた装飾のテーブルセット、応接セット、壁には暖炉があった。



「私がいた頃と、変わっていないわねぇ……」


 この部屋は、アビゲイルが嫁ぐ前に使っていた、辺境伯の子供が代々使用する子供部屋の一つだった。



「こ、この広さ……豪華さで、子供部屋??」



 大富豪とか、王族とか、超セレブが泊まる豪華ホテルの

スイートか、はたまたセレブの高級住宅お宅訪問番組で見る様な部屋が子供部屋だと聞いて、風花は驚いていた。


コンコン……


 ドアをノックして、侍女頭のアンナが侍女を二人連れて、部屋の中に入って来た。


「失礼いたします、アビゲイル様、フーカ様を担当する

侍女を連れてまいりました」


アンナに連れられて入室した二人の若い侍女が、頭を下げアビゲイルと風花に挨拶をした。


「フーカ様のお世話をさせていただきます、マリーと申します」


「アイシャと申します。フーカ様、今はまだ侍女見習ですが、精一杯お仕えさせていただきますね」


まだ見習だというアイシャの挨拶に、侍女頭アンナの表情が険しくなっていた。

アビゲイルはそんなアンナを見て、「……程々にな」と、呟いていた。



「ああ、ところでアンナ、()()はそのままか?」



「……アビゲイル様がいらっしゃった時のままです」


 アンナの返事に、アビゲイルは満足そうに口角を上げた。笑顔を交わすアビゲイルと、アンナ……



「ああ……ようやく、悲願が……」


アンナはハンカチで目頭を押さえながら呟くと、二人の侍女に目配せした。


二人の侍女の目が、獲物を見つけた捕食者の様にギラつくと、満面の笑顔を張り付けて、風花の腕を両側からそれぞれガッチリと掴んでいた。



「え?な、なに……?」



有無を言わさぬ勢いで、風花は二人の侍女に、浴室へと連れて行かれるのだった。

アンナはハンカチを振りながら、侍女二人を激励した。



 風花は「一人で出来るから」と、訴えていたが、聞いてもらえなかった。



「まぁまぁ、フーカ様ご遠慮なさらずに……」


「そうですわ。私達にお任せ下さいませ」



 二人の侍女、マリーとアイシャの手によって、風花は

抵抗むなしく身ぐるみをはがされ、磨かれるのだった。



「あら?あらあら……」


「アイシャ?どうし……!」



 風花の髪を洗っていたアイシャが、カツラに気が付いた。そして、現れた風花の黒い髪を見て、マリーが呟いた。



「女の子なのに、髪が……」


風花はマリーの、「髪が……」と言った後の言葉が良く聞こえなかった。聞き返そうかとも思ったが、多分、短いとか、珍しいとかかな……と考えていた。


「……まだ小さいのですもの、それに整えたり、カツラで遊んだり……楽しみだわ」


「アイシャったら……それにしても、フーカ様のお肌……

なんて手触りがいいのでしょう」


「「楽しみだわぁ~……ねぇ~」」



 風花はマリーとアイシャによって全身を磨かれ、マッサージをされながら、香油を塗られていた。



 それにしても、何がそんなに楽しみなんだろう?

風花が抱いた疑問は、直ぐに判明した。


浴室から出て、乾いた布で全身を拭かれ、頭に布を巻かれた。それから、浴室の隣にある小部屋を過ぎてドレッサーが置いてある部屋へと、風花は連れて行かれた。

下着を着け、長い靴下を履き終わると、何着ものドレスを抱えて、アビゲイルとアンナが現れた。


 風花の髪を見たアビゲイルは、抱えていたドレスをマリーに預けると、クローゼットから別のドレスを選び出していた。


アビゲイルが別のドレスを選んでいる間に、風花はアンナ、マリー、アイシャの三人によって、何着ものドレスを着せられては、脱がされていた。


 平坦な顔の日本人に、ど派手なドレスは似合わない。

肩までしか無い黒い髪も、フリフリなドレスには似合わなかった。


途中ふざけて男の子の格好をさせられた風花を見て、マリーとアイシャがうっとりとしていた。


 可愛い女の子を着飾らせたいアンナとアビゲイルは、金髪のカツラを風花に被せてみたりもしていた。が、それでも、今一つしっくりこない。


何着も着せ替えられた風花は、疲れ果てていた……

試着した中でどれが良かったか、話し合う四人に、自分でも選んでみたい……そう言って一人クローゼットに向かった。


 クローゼットを見た風花は、死んだ魚の様な目をして溜息をついた。風花だって、童話のお姫様みたいなドレスを着てみたいと思った事はある。実際にドレスを着た風花の感想は、動きずらいし、重いし、もう無理……普段は着たくない、という物だった。


 風花は女神リュミエールにもらった作成能力を使ってみる事にした。クローゼットの中にあるドレスを素材に、女子高生の制服に似た雰囲気で、白いブラウスにチェック柄のベストとフレアースカート、丈の短い上着を作成し、足には編み上げタイプのハーフブーツ履いて、衣裳部屋(クローゼット)を出て行った。

 


 衣裳部屋(クローゼット)を出て、おずおずと四人の前に出てきた風花を、アビゲイルは可愛いといって抱きしめていた。


アンナは、初めて見る衣装に不思議そうに首を傾げたが、自分で選んだだけあって、風花にとても似合って、可愛らしいので、何も考え無い事にした。


マリーとアイシャは、風花の可愛らしさに、きゃっきゃっと、跳ねる様に喜んでいた。


風花は、作成能力が使えた事よりも、これで着せ替えが終わる事に、心の底から安堵するのだった。




 ******




 風花がアビゲイルに連れ去られた後の応接室では、辺境伯アルフレッドとコストナー補佐官、レオンハルト隊長、

ジャスティンの四人が、渋い顔でお茶を飲んでいた。


 


「……誤解しないで下さいね。あの娘が……という訳では無いです。ただ、遠縁の娘として預かる事で、来ますよ、多分……間違いなく来ますね」


 コストナーの言葉に、辺境伯は顔を歪めた。

十三年前、前辺境伯が亡くなりわずか十二歳で辺境伯の地位を継いだアルフレッドに、親族だの親戚だの腹違いの兄妹だの……その実、血の繋がり等一切無い者たちが押し寄せてきた。中には娘をアルフレッドの婚約者にして、年若い辺境伯の後見人になろうと画策する者まであった。


それらをことごとく排除し、退けていったのは、九歳年上で鬼姫と名高いアビゲイルとその伴侶、前補佐官のコストナーとその子息ルイス、そしてアルフレッド自身だった。


 そんな中、亡き母の従妹だという子爵婦人だけは、退けるける事が出来なかった。


亡き母の肖像画によく似た面差しの子爵婦人は、アビゲイルやアルフレッドに親身になって、亡き母の話をしたり、社交術を教えようとしたりしていたが、一年近くたっても、家へ帰ろうとしなかった。

幼い娘を連れた子爵が迎えに来て、ようやく帰って行ったのだ。


 アルフレッドに対し()()な身内愛を持つ子爵婦人が、アルフレッドが預かる事になった風花の事を知れば、確実に様子を見に訪れる事だろう……面倒な事にならなければよいが……と、コストナーは眉間に皺を寄せるのだった。



 アルフレッドは小さく溜め息を吐くと、思い出した様にジャスティンに声を掛けた。



「戻ってすぐで悪いが、王都まで頼みたい……」



「えぇ~?アルフレッド様、人使い荒いっすよぉ……」



ブツクサ言うジャスティンの頭に、レオンハルトが手刀を落とした。あまりの痛みに、ジャスティンは頭を抱えた。



「詳しい事はコストナーから指示を受けろ。王都から戻ったら、たっぷり休みをくれてやる……頼むぞ!」



 仕事を終えて戻ったら、休みが貰える……ジャスティンは喜色満面で、叫び出したいのを我慢した。

恭しく辺境伯に騎士の礼をすると補佐官を追い立てる様に忙しなく応接室から出て行った。




 応接室に残ったアルフレッドとレオンハルトは、長椅子から立ち上がると、部屋の奥にある、盗聴防止を施してある、隠し部屋に入っていった。



「それで、レオンハルト……書状の内容は事実か?」


「はい。フーカの癒しで、切断寸前の足が傷一つなく治っていました」


「あの娘……フーカの身元は?」


「ラッセンで保護される前の事は、はっきりしません」


「ふむ……様子を見るしかあるまい……我等にとって得難い娘となるか、仇為す者となるか……それまでは、娘の能力ちからを利用すれば良し、味方に出来れば……」


「敵であろうと、取り込んでしまえば良いのでは……?」


「レオン……出来ると思うか……」


「出来るも何も……やはり私がフーカを引きと……」


「それは、駄目だ!……あ、いや……姉上が……手放す事を認めないだろう……」


「鬼姫に気に入られた事が、吉と出るか凶と出るか……」


「ふ……それを姉上の前で言うなよ……」


「言いませんよ!まだ命は惜しいですからね」


 アルフレッドとレオンハルトは、顔を見合わせて笑い合った。


「何にせよ、フーカが何かを隠しているのは確かで……」


「自分から話すようになるまで待つしかあるまい……それまでは、護衛と監視を怠るな」


「……はっ、危険が無いよう護衛いたします」





 密談が終わるとレオンハルトは守備隊本部へ、アルフレッドは執務室へと向かった。

アルフレッドが執務室に戻ると、補佐官のコストナーが積まれた報告書を前に黙々と仕事をしていた。


 ジャスティンはコストナーに渡された書簡を携え、既に王都へ向け出立していた。


「そうか……要望が通れば良いのだが……」


「そうですね……って、なにシレっと、出て行こうとしてるんです?逃がしませんよ」



コストナーに捕まったアルフレッドは、執務机の上に積み重なっている書類を見て、深いため息を吐くのだった……





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