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11.変態と生理現象……


読んでいただいて有難うございます。


男性の朝の生理現象について、

不快に思う方はご注意ください。


 貴賓室のソファーベッドで、風花は夜中まで眠り続けていた。女神によって再生された身体に、風花の精神が馴染むまで……風花の身体は、通常よりも多くの休息を必要としていた。







 ガシャ、ガシャ……


 金属の触れ合う音が微かに響き、囁き合うような声がして、その後……ドアを開閉した音が、聞こえた。


風花がそっと目を開けたその先に、誰かがいた……



「だ、だれ……?」


「ん?あ、ああ悪い……起こしちまったか?」


 怯えた様に声を掛けた風花の耳に聞いた事のある声……ライオン隊長の声だった。


「う、ううん……ん~~……」


 私は上体を起こし、両手を上げて伸びをした。

寝ている私に配慮していたのか、私が目覚めるまで薄暗かった室内の照明に明かりが灯された。



「ピクリとも動かないで……息してなきゃ死んだかと思ったぞ……」


「えぇ……?!い、いったい何時からいたんですか?」


「ぁあ?五分ぐらい前か……気持ち良さそうに寝てやがって……」


 そう言うと、ライオン隊長は私の横に腰を下ろして、背中側から抱きついてきた。

そして、私の肩に頭を乗せると、深い溜め息を吐いた。


「はぁ~……癒される……」


「むむぅ……ライオン隊長さんお疲れなの……?」


 ライオン隊長は、私の肩に頭を乗せたまま、息を吐くように、「ああ」とだけ答えた。


「はぁっ……フーカ……いい匂いがす……」


「いっ、やぁ!変態!!」


ふんす、ふんす……と鼻音をさせ、風花の匂いを嗅ぐ隊長(へんたい)の腕から逃れようとしても、後ろからガッチリ抱きしめられていて、身をよじる事しか出来ない……


モゾモゾ動いていたら、ライオン隊長が低い声で呟いた。



「フーカ、動くな……反応しちまうだろ……」


「!」


反応?反応って……ナニがぁあ……??

私は抵抗するのを諦め、刺激を与えないように体を固くすると、ライオン隊長が離れるのを待った。


 長いようで短い時間……じっとしていた私に、ライオン隊長は、「悪かったな」と呟くと、張り付いていた私の背中から離れて行った。

離れていく温もりに、ほんの少し(さびし)さを感じた気がした……

 

 昼過ぎに応接室から出ていった後、隊長さんに何があったのだろう……?私が疑問を口にする前にライオン隊長は、自分から話し始めた。



「はぁ~疲れたぁ……昼過ぎからずっと、馬で移動して、さっき戻ったばかりだ」


「馬で移動って……何処へ……?」


「バンデールとラッセンまで、ちと様子を見にな……ラッセンの街は粗方燃えちまって、復興するには時間がかかるだろうな……」

ったく、これ以上孤児が増えなきゃいいがな……



 国境線の街バンデールとラッセン、二つの街が復興するまで、ローゼン国の守備と防衛を担っている第二騎士団から、国境警備、監視体制強化の為に、騎士団員が派遣される事が決まった。


 ライオン隊長は、バンデールとラッセン、二つの街まで現状確認のついでに、ローシェンに駐在の第二騎士団員をバンデールの街まで案内して行ったそうだ。



「リカルドが言うには、昼すぎから晩飯も食わずに寝ていたって?」



 ライオン隊長の“リカルド”という言葉を聞いて、私は寝る前の、恥かしい出来事を思い出してしまった。

次に会う時、どんな顔をすれば……イヤイヤ、意識したら負けだ。スルーするに限る……そう、あれは多分小説とかで読んだ、騎士がする挨拶……ただの挨拶なんだから……



「うん?どうしたフーカ?ヘンな顔して……」


「べ、べつに……何でもない……」


「そぉかぁ……?晩飯食って無くて、腹が減ってるんじゃないか?」



 ライオン隊長はそう言うと、二人分のお茶と、木箱をテーブルに並べた。

戻りが深夜になる隊長と、爆睡していた私の為に、冷めても美味しく飲めるお茶と軽食を、リカルドさんが手配して

くれていた。うん、さすがオカン属性……


 私はライオン隊長と二人で、真夜中のお茶と、軽食を美味しくいただいた。

食べ終わって、片づけをした後、ライオン隊長は私に、夜明けまで少しでも眠る様にと言った。


 隊長さんは眠らないの?と、私が聞くと、私がいるソファベッドの対面にある同じソファを、手際よくベッドの状態にしていた。

そして、棚から掛け布を出してきて、横になった。


 テーブルを挟んだすぐそばに、男が寝ている……

日本にいた時でさえ、一部屋で男性と夜を過ごす状況になった事など無かった。何故、どうして、そこで寝る……

狼狽た私は、わなわなと体を震わせていた。



「なんだ?震えたりして……もしかして寒いのか?こっちに来るか?」



 そう言ってライオン隊長は掛け布を捲ると、横になったまま空いている隣を、ポンポンと叩いて私を手招きした。



「そ、そんな、おいでおいでされたって……お、同じ……ベッドでなんか、寝られるかー!ばかぁ!エッチ!!」


「うんぁ?つべこべ煩い!黙ってろ……」



 そう言うとライオン隊長は、私のいるソファーベッドに移動し、掛け布ごと私を抱き込むと持ってきた掛け布を掛けて横になった。



「あぁ……温かくてちょうどいい……」


 そう呟いたライオン隊長は、すぐに寝てしまった……

余程疲れていたのかもしれないが、私は湯たんぽでも、抱き枕でもない……ぐぬぬ……油性マジックがあったら、額に肉とか、セクハラ大王とか、落書きしてやるのに……


 外す事の出来ない、太く逞しい腕という鎖に囚われ、抜け出すのを放棄した私は、いつしかその温もりに包まれ、眠りへと、落ちていった……





******


 


 

 私は、何か硬い物で背中を突かれる夢を見ていた……

うぅ~ん……身体が重い……私、丸太を抱えてなんか……



「!!」



 私の寝ぼけていた頭が、一瞬の内に覚醒した。寝ている私の、後ろにいるのは、ライオン隊長……だ……

では……よもや背中に当たっている、硬い、の、は……


 私はライオン隊長のお腹に、何度も肘鉄をくらわした。

身長差のせいで、私の肘部分が隊長の鳩尾にクリティカルヒットしたらしい……



「な、なんだ……お、おい、おちつ……」



「うっさい!!変態!どスケベ!セクハラ大王!!」



 私は貴賓室を飛び出し、トイレに逃げ込んだ。

用を済ませて手を洗い、ついでにと顔を洗った後で、拭く物が無い事に気がついた……


着ているワンピースのポケットに、ハンカチを入れていてよかった。カツラから雫が落ちて、襟もとが冷たかった。

ずっとカツラを付けたままで、そう言えば二日もお風呂に入ってない……


それなのに、ライオン隊長ってば密着して、私の匂い嗅いでたよね……?……やっぱり変態??


 ライオン隊長と、顔を合わせたくなくて貴賓室に戻るのを躊躇っていた。

遅くなりついでに、私は神様にお願いしていた、清浄の魔法を試してみる事にした。


清浄クリーン》と、念じてみると、私の全身を花の香りのするミストが覆った様な気がした。

その後、風が吹き上げて、瞬く間に乾燥していった。

三秒もかからずに、洗浄された私は、全身サッパリと、

シャワーを浴びた様な気分だった。


 変態隊長の事も忘れて、機嫌よく通路に出ると、そこにはリカルドさんが立っていた。



「おはよう、フーカ。昨夜は大丈夫だった?」



リカルドさんに、そう聞かれた私は、「()()は大丈夫でした」、と答えた。そう、夜の内は、何とも無かったからね……



  

 男という生き物に免疫の無い風花は、隊長の……

男であるが故の“朝立ち”という生理現象について、知識としては理解できていても、心情的には、受け入れる事が出来ていなかった。


背中に当たっていた、隊長のソレを、『何だコレ?』と、触って確かめなかった事だけは、不幸?中の幸いだっただろう……



 朝のアレ(・・)は、男の人にとって、生理現象で、無意識で、しょうがない事かもしれない……でも、でも……ないわー!!

あんなの……知らない……もういい、私、子供で良い……

カーディナルさんの子でいい……

ライオン隊長の家族……無理……



 リカルドが話しかけても、風花はうわの空で、トイレから出てそのまま建物の外に移動した事も、気が付いていない様だった。



「フーカ……聞いていますか?ずっとうわの空で……隊長と……何かあったのですか?」


リカルドの鋭い指摘に、風花は無言で首を横に振った。


「な、なにも、何も無いよ。あるわけないじゃん……」


 あんなヘンタイ……と、言葉を続けようとした風花は、前方にいる隊長に気が付いた。

隊長は何事も無かった様な、まぁ、本人にしてみれば通常な事かもしれないけど……平然とした顔をして、リカルドさんと私を待っていた。


 拳を握って恨めしそうに隊長を見ている風花を見て、リカルドは軽く息を吐いていた……


 出立時間が迫り、風花を馬に乗せる為、リカルドが準備をしていると、二頭立ての立派な馬車がゆっくりと、隊列に近付いてきた。


 馬車を先導しているのは、ジャスティンだった。


ジャスティンが隊長に、何事か話をすると、すぐにリカルドが隊長に呼ばれた。


 ジャスティンを連れて、風花のいる場所まで来たリカルドは、恨めしそうな目でジャスティンを睨んでいた。


 ジャスティンは理由もわからず、自分を睨んでいる副隊長のリカルドに、若干怯えながらも風花に声を掛けた。



「お迎えに来ました、フーカ、どうぞこちらへ……」



 そう言ってジャスティンは風花の手を取ると、馬車へと連れて行った。


風花が馬車の前に着くと御者が扉を開け、後ろからジャスティンに抱き上げられ、風花は馬車に乗せられた。

馬車の中には誰も乗っていなかった……




 レオンハルト・フォッカー隊長が率いる、ダンガルディ守備隊は、馬車を守る様に隊列を組むと、領都セントールへ向けてローシェンの街を後にした。





 通り過ぎる隊列と、馬車を見送った人々は、思っていたことだろう……

屈強な兵士に護衛さ(まもら)れて移動する豪華な馬車に、乗っているのは、何処の姫君か高貴なお方か……




 実際は、思っていた以上の馬車の快適さに、すぐに寝息を立て始めた、残念な少女……(異世界産)が乗っていたのだった……


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