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化け物の扱い方⑧






 スカルが報告を終えて隊舎に戻る途中。先ほど話題に上がっていたノイズがふらふらと前を歩いていた。スカルは眉を寄せる。


「おい、てめぇふらふらしてんじゃねぇよ」


 要観察対象が一人でうろうろしている所を上官に見られると、大目玉をくらう。防衛隊の建物の中なら万が一逃げられても容易に捕まえられるだろうが、小言は増えるだろう。


「いやいや、追い出されたんだよ。『化け物が良い気になるな、目が腐る』とかなんとか言ってさ」

「……てめぇにビビってるだけだろ」

「やっぱり?だから大人しく目の前から消えてやったんだって」

「……ばかか?」


 両方とも。と思ったが、そこまでは止めておいた。子供の喧嘩じゃあるまいし。とはいえスカルも、ノイズを無害としたが、この男を気に入った訳ではない。相変わらず態度が鼻につく。


「なあ、知っているか?」


 そんなスカルを知ってか知らずか、ノイズはにこやかに話しかけた。


「…なんだ?」


「強く願えば奇跡も起こせるって、神にもなれるって話」


 何を突然。と思うが、スカルはその話を知っていた。普通に生まれた娘が、神となって村を守る話。といってもそれは空想上のオトギバナシで、実話な訳が無い。


「それこそ、不老不死にだってなれる」

「てめぇが自分でそう願ってその体を手に入れたとでも言いたいのか?」


 だとすれば自業自得だ。死にたいなんておこがましい。


「違う」


 当然、ノイズははっきりと否定した。


空想上の話は、自分がそう願ったのではなく、周りに願われたから神とやらになってしまった。物語自体はハッピーエンド。神様になった娘は、いつまでもその村を守り続けました、で終わる。

ただ、あんなものは作り話だ。一般的に、神とは不老不死である。ならば、その神になった娘は、今も実在していることになる。


 そんな話は、聞いたこともない。物語は、めでたしめでたし、で終わったのだ。


「……」


 なんて、そんな、わけが、ない。

なぜなら目の間には、ほんとうの不老不死の化け物がいるのだから。


「もし本当に望むものが手に入るなら、俺は『死』を欲するよ」


 見方を変えれば、そのオトギバナシの娘は、村の犠牲になった。神にされ、いつまでも村を守り続ける。自分の意思とは関係なく。


 ならばノイズも、不老不死になったのは誰かにそう願われたからと考えたのだ。たとえば、知人友人、恋人、両親。ノイズは慕われる男だったという。ならば、そう願う人間もいたかもしれない。奇跡が起こる程に、強く。


「…誰かがお前が神になる事を望んでいるって?」


 馬鹿にしたように言ってやる。

なんのために。もしそうなら、娘が『村を守る』としたように、理由がなくてはならない。

いや、ノイズの場合、もしあるとすれば。


「異常者を殺すためにか?あほくせぇ」


 ならばノイズには、異常者に渡り合えるほどの身体能力が備わっていなければならない。だから、ノイズが不老不死になった理由があったとすれば、ただ誰かに『生きる事』もしくは『死なない事』を願われた事になる。けれどそう願われる人間など、世界を探せばごまんといるだろう。ノイズにだけとは限らないはずだ。寿命、病気、不慮の事故。大切な人間のどうしようもない運命に、奇跡が起こる事を望むのだ。


「化け物が、人間みたいに悩んでんじゃねェよ」 


そもそも、スカルは悩みを聞いてやれる人間ではない。それにそうやってうじうじと悩む奴は、いつかとんでもないことをしでかすのを知っている。ブラッドから聞いた。ノイズが本当に防衛隊を敵に回すような化け物になるとしたら、そういうことだ。


 いくらこの男が危険でないと、今、報告していたとしても。今後壊れないとも限らない。


「お前が、俺を本当に殺したいなら、そう願うなら、俺を殺せるんじゃないのか」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

そうなる前に、と思った矢先。何を言い出すかと思えばと、笑い飛ばしてやれる雰囲気ではなかった。


「なぁ」


ノイズが詰め寄る。


「殺せよ。なぁ、殺してくれ」


バグは、その気味悪さに、一歩引きそうになる。

この男は、出会い頭からずっとスカルが彼に向けていた敵意に、期待、しているのだ。


「頼むよ…」


 ノイズも、自分のそれが如何に危険かを自覚している。けれど、それを防ぐ術はない。今すぐ簀巻きにして動けない様に牢にぶち込んでやるべきだ。


柄にもなく憐みが湧いてくる。この化け物に同情を感じ得ない。


「さっき、言われたんだ」


 いつ爆発するか分からない爆弾を置いておくリスクは高すぎる。隊長であるブラッドも分かっている筈だ。身体能力がそこまでないとは言え、いきなり後ろから刺されたら溜まったものではない。


「俺は、お前らの誇りを穢してる」


 そう言ったのは、アイルーだろうか。


「お前らが、今まで異常者の為に心を砕いて戦って来たことなんて俺は考えちゃいない。可哀想だな、お前ら俺なんかがそうやって場を踏みにじって。だけど、俺は、お前らの覚悟なんかより、自分が可愛い」

「下手くそな文句だな」


 異常者が全員こんな風なら楽だっただろうか。いや、不老不死なんて化け物は一匹で十分だ。

スカルは、懐から銃を出す。


殺してやりたいと思った。


怒りではない。心の底から、この化け物が可哀想だと思った。ブラッドよりも長く生きてる故の余裕が鼻についていたが、結局こいつは、その肉体の年齢で精神の時も止まっているのだ。可哀想で、哀れで、気味が悪い。たしかに化け物だ。この男の思考は、理解できない。


銃口を、ノイズの頭に押し付ける。


「……死ねると良いな」


ノイズの目が瞬いた。その表情が少し幼く見えて、鼻で笑う。


「おまえの思ってるもんとは違うが、本当にそう思う」



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