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第94話 講義だよ!全員集合!

 

 ストレィは何らかの創作活動に打ち込むべくアトリエに籠ってしまった。アトリエというのは、貴族学校にあるストレィの部屋兼作業場のことを指す。十中八九、教会の宝物庫から手に入れたという生命の宝珠を使って何かを作っているのだろう。


「ストレィがR&Dモードに入ったとなると、どうしようもないな。終わるまでアトリエから出てこないぞ」


 サブシアにおいて、ストレィが研究開発に打ち込んでいる際の様子を知っているユキトは、大人しくストレィの創作活動が終わるのを待つことにする。だが、ただ待っているのも勿体ない。ユキト達も時間を有効に使うべく、久々に貴族学校に顔を出すことを決めた。


 何と言っても、まだまだユキトはこの世界の事情には不慣れである。ユキトに加護を付与(エンチャント)する能力があるとしても、異世界を平和に生き抜くためには、情報は少しでも得ておく方が良い。その意味で、この世界の情報を体型的に入手する手段としては、貴族学校は非常に優れていると言えよう。しかも、ユキトもストレィもフローラも貴族学校に籍は残っているのだ。これを利用しない手はない。


 貴族学校では、定められた3年分のカリキュラムを断片的に消化することが認められており、ユキトの知るところでは大学の単位制に近い。これは、貴族によっては1年ごとに王都と領地を行き来する必要があったりするためである。そのような貴族の子弟は、1年間学校に通って、1年間休学することを繰り返すことになるのだ。


 ユキトの場合も領地経営のための休学のような扱いであったので、王都に滞在している期間は、好きな講義を受けることができる。そのようなわけで、その日は貴族学校へ向かうため、ユキトとフローラ、ファウナ、セバスチャンの4人が、朝から宿の共用スペースに集合していた。


「でも、ユキトが授業を受けてる間、私は暇なのよね」


 ユキトをジト目で眺め、ファウナは若干不満気である。ファウナはユキトの付き人という扱いであるため、好きに授業を受けられるわけでもない。幸い、学校内には付き人が利用可能な施設も充実しているのだが、ファウナが惹かれる施設は多くなかった。カフェの甘味が少し気になる程度だ。


「逆にファウナが何か教えたりはできないのか?」


 ジト目で睨まれているユキトは適当な思いつきを口にしてみる。冒険者であるファウナが、貴族の子弟に勝手に何かを教えて良いとは流石のユキトも考えていない。だが、ファウナはA級冒険者でもある。しかるべき手続きを踏めば、特別講義くらいはさせてもらえるような気もする。


「わ、私が先生なんて……無理よ! そもそも何も教えることないし……」


「理論とかを教えるのは無理でも、模範演武みたいなもの見せるだけでも刺激になるんじゃないのか?」


「模範なんてとんでもないわ。私程度の実力じゃ……」


 恐らくはこの異世界でもトップクラスの格闘家が何やら世迷言を言っているようだ。付与されている加護の力によるものではあるが、ユキトの目算では、ファウナの戦闘力はS級を与えても良いレベルだ。


「ふむ、ファウナ様の技なら是非に見たいと思う者も多いでしょうな。クアラン卿に相談してみましょうか」


 ユキトの思いつきにセバスチャンも同意してくれる。セバスチャンも、ファウナが暇を持て余すよりは良いと思ったのだろう。だが実際、ファウナのスピードと技は、普通の戦士にとっても一見の価値はあるだろう。参考にはならないかもしれないが。


「でも、セバスさん。俺が提案しておいて何だけど、先生達が嫌な顔したりしないか? 教える側としては、実力があるからって勝手なことされたら困ると思うんだが……」


 ユキトは慌ててセバスチャンに尋ねる。自分の思いつきがきっかけで、先生達の不興を買う事態は避けたいものだ。


「ご心配には及びません、ユキト様。学校の教師陣も、実力のみで教師となっているわけではありません。技術や理論を含めた体系的な講義をなせるからこそ、貴族学校で教鞭を取っているのです」


 セバスチャンが言うには、むしろ実力者の特別講義がある場合には、教師陣が率先して詰めかけるそうだ。ラノベでありがちな「ふんっ、腕っ節ばかりのヤツが何を教えるというのだ!」のような展開を、学校の教師陣に心配する必要はないようである。「実力者の技が見られるなら、是非見たい」という向上心があることが教師の条件でもあるらしい。


「なら、ファウナの特別講義ってのもありだな」


 ユキトはそう呟いた。



 **************



「では、特別魔法講座を始めましょう。特別講師のアウリティアです」


「同じく七極(セプテム)のイーラじゃ」


「どうしてこうなった……」


 貴族学校の敷地内にある巨大な講堂内の一席で、ユキトは頭を抱えていた。


 この講堂は、なんと3階席まであり、オペラや演劇も可能とする広い舞台を設けてある施設である。七極(セプテム)の2人による特別講義があるということで、1年生から3年生、貴族学校に所属する教師ほぼ全員、更には王立の魔法研究施設の研究員らまでもが詰めかけていた。立ち見が必要なほどで、告知する時間が殆どなかったにしては、異常な集まりっぷりだ。


 なぜ、こんなことになっているのか。


 歯車が狂ったきっかけは、ユキト達が宿を出発する直前、宿の2階から寝起きのアウリティアが姿を見せたことにある。ユキト達が貴族学校に行くことを伝えた時は、あまり興味がなさそうだったが、ファウナが特別講師をするかもしれないと言ったのが良くなかった。


「ほう、面白そうだな」


 アウリティアは面倒臭がり屋のくせに、こういう変わった体験には首を突っ込みたがるところがある。


七極(セプテム)の俺が講義するって言ったら、学校から許可も下りるんじゃないか?」


「ええ、アウリティア殿が講義するとなれば、学校中の魔法関連の教師が聴講に来るのは間違いないでしょうし、学校外からも詰めかけるでしょうな」


 アウリティアの提案に、セバスチャンが見解を述べる。七極(セプテム)の講義など、大金を積んだとしても聴けるものではない。ほぼ確実に学校から許可は下りるだろう。


(ノーベル賞受賞の学者が講演に来るみたいなものかなぁ)


 ユキトはそんな想像をしてみる。この世界の七極(セプテム)の扱いを考えると、そのくらいのイメージが調度良いような気がする。


 だが、ここで状況はさらに混迷の度合いを増すことになった。宿の共用スペースの一角に、突如粉雪が舞ったかと思うと、その中から2人目のノーベル賞学者が出現したのである。イーラだ。


「ならば同じ七極(セプテム)として、(わらわ)も講義してやろうぞ」


 いつもは姿を見せないイーラだが、こういう面白そうな瞬間を狙って現れるのだ。常に監視しているのではないかとユキトは疑っている。どちらにせよ、2人の七極(セプテムが)が特別講義をして下さるというのだ。ありがたい限りである。ありがたくてユキトは胃が痛くなってきた程だ。


「……一応、クアラン先生に尋ねてみるけど、ダメだったらあきらめてくれよ」


 ユキトはそう釘を刺したのだが、アスファール王と会談した超VIPの提案を学校側が断るはずもない。ユキトから七極(セプテム)の講義を打診されたクアラン先生は「はぁ!?」と突然の事態に戸惑ったものの、すぐにアウリティアとイーラを招待講師として、特別魔法学講座と銘打ったイベントが開かれることになったのである。


*******



「で、他の講義が全部休講になったんだが……」


 ユキトとしては、王国の経済や地方貴族の歴史についての知見を得たかったのだが、それらの講義も休講となっているので、仕方なく特別魔法学講座に顔を出している。周囲の聴講者らが期待に目を輝かせている中、ユキトの表情は憮然としたものだ。


「私がやるはずだったのに……」


 その憮然としたユキトの隣で、ユキト以上にファウナはむくれていた。口では「私なんてとんでもない」と言いつつも、その気になっていたらしい。自分がやる流れだった特別講義が、完全に七極(セプテム)の2人に取り上げられてしまった形だ。


 中央の演台に立ったアウリティアが説明を始めている。


「そもそも魔法というものは魔素を……」


「極の字よ、そのような素人でも分かるようなことを説明するでない。(わらわ)が実演を見せてやれば済む話じゃ。ほれ」


「おい、イーラ! いきなり演台を凍らせるんじゃねぇ!」


 そんなグダグダな講演を苦笑いしながら聴講するユキトだったが、意外とアウリティアとイーラの掛け合いが好評で、特別講義は大盛況に終わったという。その中で、ユキトとファウナだけが溜息をつくのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマや評価も感謝致します。



週2~3回くらいの更新をしたいのですが、ちょうど繁忙期でして、今の時期を抜けるまでご勘弁を。

そろそろ物語を進めたいところです。

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