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第9話 入ろう!冒険者ギルド!

 

 翌朝、ユキトはファウナとの待ち合わせ場所である宿屋の前に立っていた。


 目の前の通りはそれなりに大きく、結構な人通りがあって賑わっている。上を向けば、透き通るような青空が広がっており、白い鳥の群れがかなり高いところを飛んでゆくのが見えた。

 朝の市街を抜ける風は大変心地よい。だが、同時に路上の砂も舞い上がるのが残念な点だ。上を向いたことで、大きなあくびをしてしまったユキトの口の中が、若干ジャリジャリする。

 ユキトが口の中に意識を向けていたところに、背後から声がかかった。


「待たせた?」


「いや、今来たとこ」


 定番のセリフで返事をしつつ、声の主たるファウナを迎える。


 街歩き用なのか、昨日の当て革のついた旅用の服とは違ったノースリーブのシャツを着ている。肩まで見える白い腕がまぶしい。スカートではなく細身のパンツをはいているのは、格闘家としての譲れない線なのだろうか。


(さすがエルフ……胸は小さめだな……)


 シャツの胸の部分は控えめに膨らんでおり、男としては気になるところだ。ユキトがそんなセクハラ観察をしていると、ユキトの視線を訝しんでいたファウナが、その視点の終着点に気付く。


「な、なんば見よっと!?」


 ファウナは慌ててその胸を手で隠しつつユキトから一歩距離を離し、ユキトに抗議の目を向けた。


「いや、誤解だ誤解。こっちの世界の服装が珍しかっただけだ」


「……そ、そう。少し勘違いしたわ」


 誤解などではなく、ユキトの有罪は明白なのだが、ファウナはユキトの言い訳を信じたようだ。昨日までの慎重さは宿の部屋に忘れてきたのだろうか。


「これは街用の服なの。どうかしら、似合う?」


「お、おう」


 突然、評価を求められて慌てたユキトは、残念な答えを返してしまう。気の利いたセリフの一つも出てくれば良いのだが、こんな美女を評する機会など今までなかったのだから仕方ない。


 ユキトのこれまでの人生においては、奇跡的に彼女ができたこともあったのだが、基本的には非モテクラスタに属して生きてきたのだ。


 さて、それはそれとして、ユキトは今更ながらに気になっていた点を確認しておくことにした。


「そうだ、ファウナ」


「なによ?」


「お前ってさ、慌てると方言…っての? 国の訛りがでない?」


「へ!? そ、そげんことはな……いや、ゴホン……そんなことないわ!!」


「……いや、いいんだけどな」


 確実に方言らしきものが出ているファウナに対し、深く突っ込むのも可哀そうに思い、ユキトはあえて聞かなかったことにする。少なくとも本人は恥ずかしがっており、隠したい、隠せると思っているようである。


「さあ、移動しましょうか。冒険者ギルドはこの通りをまっすぐ行った先よ」


 話を変えるかのように移動を促すファウナに従って、ユキトも通りを歩きだす。当たり前の話だが、通行人も皆が現代日本とはかけ離れた服装をしている。色調は全体的に地味だ。


(やっぱり異世界なんだなぁ)


 改めて異世界を実感しつつ、通りを歩いていくと、正面に石造りの2階建ての建物が見えてきた。T字の突き当たりという利便性の良い場所に位置しており、大きめの出入口からは絶えず人が出入りしている。出入りする人々の格好は、街の人々とは少し趣が異なっており、その多くが剣や弓等の武器を持ち、当て革や鉄で補強された服、軽鎧をまとっている。


「ファウナ、あれが?」


「そう。この街の冒険者ギルドよ」


 ファウナは慣れた感じでギルドに入っていく。慌てて後に続くユキト。建物内の内壁や床は木造となっており、外観のごつごつした感じとは変わって、温かみを感じる造りだ。


 もっとも、中に集まっている冒険者と思しき人々の外見の厳めしさを考えると、わずかでも内装を軽くしたかったのも理解できるというものだ。内装も石造りのままであったら、盗賊団のアジトと間違われるかもしれない。


 ギルド内部のレイアウトは、ユキトの知識の中では銀行のそれに近い気がした。それなりに広い待ちあいスペースとカウンター、その他に掲示物のコーナーがある。


 ファウナはそんな中を物怖じもせずに受付らしきカウンターへ歩いていく。もちろんカウンターも木造だ。ファウナは3つあるカウンターの一番左手にいた眼鏡をかけた係員らしき女性に話かけた。


「戻ったわ」


「ファウナさんでしたね。任務、お疲れさまでした」


「これ、達成票ね」


「はい、確かに……では、これが護衛料です」


 カウンターの女性は何枚かの貨幣をファウナに渡す。ファウナはその貨幣を数え、自分の腰につけた袋へ入れた。どうやら、ファウナは冒険者ギルドから何かしらの仕事を請け負っていたらしい。


「ファウナ、何か仕事を請け負ってたのか?」


「ええ、隣の街まで商人を護衛する仕事があったの。ユキトと会ったのはその帰りね」


「ってことは、俺の登録とは関係なくここに用事があったってことじゃん」


「ふふふ、そうむくれないでよ。 キリュ、この人は冒険者登録をしたいんですって。対応してくれる?」


 ファウナはキリュと呼ばれたカウンターの女性にユキトの対応を依頼した。


「承知しました。初めまして、ギルド職員のキリュート=アブシアンと申します。キリュとお呼びください」


「あ、御丁寧にどうも。俺はシジョウ ユキトと言います。ユキトと呼んで下さい」


「では、ユキト様、冒険者登録は初めてですか?」


「ええ。というか初めてじゃない登録ってケースもあるんですか?」


「再登録の方も時々いらっしゃるもので」


「なるほど(再登録ということは、取消とか剥奪とかあるってことか)」


 日本の免許証を思い浮かべながら、再登録という言葉から考えられる事態を想像する。


「では、初めてということで簡単に説明をさせていただきます」


「よろしく」


「まず、冒険者とは……



 職員さんの説明を要約すると、冒険者は冒険者ギルドからの依頼である「クエスト」を達成することで、報酬を得ることができるという。

 そのクエストには難易度によってS~Fまでの7つの区分が定められており、基本的に難易度が高いほど達成時の報酬も多い。クエストと自身のスキルを天秤にかけて、達成可能と思うものを自身で選択するシステムとなっているようだ。


 クエスト同じように、冒険者にもS~Eまでの6ランクが設定されており、1つ上の区分のクエストまでしか請け負うことはできない。クエストの難易度の方だけにFがあるのは、一般人にも請け負うのが容易な雑用レベル向けの区分ということだった。


 聞けば聞くほどに日本の小説やゲームに出てきた典型的な冒険者ギルドのシステムだった。

 全く異なった進化の系統にいるはずの生物が、住んでいる環境や生態が似通っていると、同じような姿に進化することを収斂進化と呼ぶが、それと同じで、どの世界でも冒険者を管理するためのシステムとして、この形式に落ち着くのだろうか。


「では、説明事項は以上です。続いて登録ですが、登録料として銅貨5枚をいただきます。

 次に名前をこちらに記入していただき、血を一滴だけこの丸印の中に垂らしてください」


「血を?」


「はい。魔法により血液から本人識別情報を記録します」


 こんなところで魔法が出てくるとは、とユキトは驚きを隠せない。まさか最初に目にする魔法が登録用のものになろうとは思いもしなかった。


 提示された羊皮紙には、名前の記入欄と並んで、黒いインクで小さな円が記述されている。ユキトからすると、印鑑でも押したくなるフォーマットではあるが、見知った押印用の印と異なるのは、その円の周囲にも何やら怪しげな文様が記載されている点だ。


 ユキトはまずは銅貨を5枚取り出すと、ギルド職員のキリュに手渡す。キリュは銅貨の枚数を丁寧に確認し、引き出しの中にしまい込んだ。それと引き換えにユキトにペンを差し出す。


 ユキトはペンを受け取ると、名前欄に[シジョウ ユキト]と自分の名を記載した。カタカナはこの世界でも通じるのは確認済みだ。


 続いて、血が一滴必要なわけだが、これもキリュが針を貸し出してくれた。


「消毒はされてるのか?」


 異世界では感染症の概念がどこまで普及しているか不明である。ユキトとしては確認しておく必要があった。


「炎で炙ったものですので、大丈夫ですよ」


「分かった。……(痛っ)」


 ユキトは指先に軽く針を刺し、滲む血を羊皮紙に記述されている円の中に垂らした。その瞬間、垂らした血液がサッと円に吸い取られ、周囲の文様に広がっていき、文様全体が赤く染まる。赤い色が文様に行き渡ったところで、キリュが羊皮紙を回収し、何やら確認をする。


「はい、大丈夫です。ではギルド証を発行しますので少しお待ちください」


 そう言うと、キリュはカウンターを離れ、ギルドの奥で何やら作業を始めた。ユキトはカウンターから数歩離れて、キリュの作業が終わるのを待つ。


 5分くらい経つと、キリュがカウンターに戻ってきて、ユキトの名を呼んだ。


「こちらがユキト様のギルド証です。Eランク用です」


「ありがとう」


 ユキトが受け取ったギルド証は、カードのような形状で、枠のみ金属で、本体は木製であった。名前と発行ギルド名、あとは先ほどの登録用羊皮紙に記載されていたような特異な文様が記載されている。偽造防止用だろうか。


「あ、登録が完了したようね。これでユキトも私と同じくEランク冒険者ね」


 ユキトのギルド証を見て、満足げにファウナがうなずく。



 登録したばかりのユキトはEランクからスタートし、クエストの達成状況や戦闘能力、評判などを加味して、ギルドが昇級を決めるらしい。


 ファウナは戦闘力だけならもっと上のランクらしいが、まだ登録して1カ月程度で、大きなクエストも達成していないので、Eランクに留まっているとのことだ。


 ちなみにSランクは伝説級の存在で、この大陸でも2名しか存在しないという。Aランクは超人級で国に10名程度、Bランクは達人級で国に100名程いるらしい。Cランクは熟練級、Dランクは一般級、Eランクは初心者だ。


 せっかくなので、ユキトは何か適当なクエストがないかを確認していくことにした。


 ユキトとファウナはクエストが張り出されている掲示板に近づく。クエストを記した羊皮紙が何枚もピンで留められている光景は、ユキトの大学の掲示板にも良く似ていた。


「最初は簡単なクエストを遂行して、システムに慣れることから始めたいな」


「それが良いでしょうね。素材の採集とか簡単で分かりやすいわよ」


 ユキトは張り出されているクエストを確認していく。


 --------------------------------------

 薬草の採取:銅貨10枚~ 採取量に応じて増額 詳細は別紙 (難易度F)

 白岩の輸送:銅貨30枚  岩切場から街までの白岩板の輸送 (難易度E)

 カゲビト討伐:銀貨2枚 村の近辺に出没するカゲビトの群れの討伐 (難易度D)

 ロートゥ討伐:銀貨7枚 村の近辺に出没するロートゥの群れの討伐 (難易度C)

 --------------------------------------


 なるほど、採取や単純な労働よりは討伐系の方が難易度も報酬も高いらしい。


「ロートゥってのは? カゲビトとは違うのか?」


「ええ。狼の頭を持っている人型のモンスターよ。カゲビトよりもかなり手強いわ」


(なるほど、コボルトみたいなもんか……)


 ユキトは元いた世界のファンタジー知識を思い出し、犬の獣人のようなモンスターを頭に思い描く。


「どちらにしても、俺は討伐なんて選ばないけどな。ま、採取系は薬草のみか」


「クエストを受けると複数の薬草の見分け方と種類を記載した資料を貸してもらえるわよ」


「じゃあ、このクエストを受けて見るわ」


「なら、その紙を受付に持っていって」


「了解」


 ユキトは留めてあったクエストの紙を手に取り、受付へ向かう。そのまま職員に紙を手渡し、クエストを請け負いたい旨を伝える。


「薬草の採取ですね。では、こちらが詳細の資料です」


 手渡された資料には、複数の薬草の図とそれぞれの単価、付近の薬草の自生地への地図が記されていた。


 なるほど、Fランクだけあって、子どもでも出来そうな内容だ。期限は4日程与えられるらしい。その間に採取した薬草を持ち込めば良いとのことだった。必要な薬草は、最低4株以上で、それ以上は採取数に応じて報酬が増額される仕組みだ。


「これなら楽にこなせそうだ」


「じゃあ、今日の午後から早速始めましょう」


「ああ、だが、先に飯にしようぜ」


「そうね、お腹減ったもんね」


 ユキトとファウナは冒険者ギルドから出ようと出口に向かっていると、ギルド内にいる他の冒険者たちの視線が絡みついてくるのが分かる。ファウナがエルフかつ美女だからなのか、新人への興味なのかは分からないが値踏みするような、あまり品が良くない感じの視線も混ざっている。


 例えば、奥のテーブルに座っている銀色の長い髪をした若い女性と初老の執事さんみたいな組み合わせの2人組もこちらを興味深そうに見ているが、この2人からの視線には嫌な感じはない。

 一方で出口付近にいる体格の良い強面の3人組の男達の態度は、顔に浮かべた品の無い笑いといい、じろじろと値踏みするような視線といい、明らかに悪意を感じるものだった。


(ああ、これはテンプレ的な展開があるのか?)


 元の世界で読んだファンタジー小説では、主人公がこの手の冒険者ギルドや酒場に立ち寄ると、柄の悪いのに絡まれるのが定番だ。ユキトの脳裏でフラグがピコンと立ちあがったのであった。


文章を書くときにいまだ迷っているのが、人称と改行です。なろうの多くの小説では3人称であってもある程度1人称に近い位置で記載するのが通常のようなので、それに倣っています。

改行については、1行ごとに改行するケースが多いのようなのですが、個人的には改行し過ぎな気がするので、この作品ではそこまで改行を入れていません。将来的には変更するかもしれません。


8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割しました。それに伴って話数がずれています。(ストーリーには影響ありません)

9/28 都合によりファウナさんの胸のサイズを変更

12/21 ご指摘を頂き、ファウナさんのセリフの口調がおかしかったのを修正

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