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第85話 興奮!魔道士は光線がお好き!


 前回のお話

  王都へ向かうユキト達とアウリティア達。流石にアウリティアは強かった。

 

「うおぉぉぉ、これは燃えるな!」


 ユキトラマンとでも呼ぶべき巨人へと姿を変えたユキトを見て、アウリティアはテンションを上げていた。変身は男子の夢なのだ。600歳のエルフになってもそれは変わらないようだ。


「でも、ディティールは元ネタとは結構異なるんだなぁ。色もオリジナルとは違うし、姿も……」


 ユキトの世界での正義の巨人は細身なイメージだが、ユキトが変身した姿は足元が太めの、重量タイプの戦士の姿だ。ネロルの街付近でゴーレムと間違われたのも無理はない。アウリティアは、そんな元ネタとの違いが気になっている様子だ。


「おい、魔物退治の途中だからな」


 ユキトは戦闘中にも関わらず、すっかり観察に夢中になっているアウリティアに注意を促す。こんなヤツでも七極(セプテム)なのだから、油断して魔物に後れを取ることはないと思うが、念のためだ。


 ガキャガキャ……


 その間にも、骸骨の集合体は不気味な音を立てながら近づいて来る。巨大化したユキトを前にしても逃げ出さないところを見ると、恐れるという感覚がないのかもしれない。複数の頭骨が虚ろな眼孔をユキト達に向けている。常人ならば恐怖で動けなくなるような不気味で恐ろしげな姿だ。


 だが、40メタになったユキトにとって、2~3メタの球形の骨の集合体は、人間から見た直径10センチ程度のボールに過ぎない。骨が寄り集まって出来たボールが軋みながら近づいて来る。


「さて……どうするかな。まずは踏むか」


 攻撃方法を原始的な手段に決めたユキトは、勢いよく足を振り上げると、思い切り骸骨ボールを踏みつけた。巨大化したユキトの踏みつけは、純粋な質量攻撃である。


 グワシャ!!!  ドゥーーーーン!!!


 派手な音を立てて、ユキトの足がボールを形成していた骨を踏み砕く。骨の破片と緑色をした謎の粘液が周囲に飛び散った。しかも骨程度では四股にも似た踏みつけの威力は減じられず、そのまま激しく大地を揺るがす。


「ああっ! お前、そこは光線技だろぉ!!!」


 足元ではアウリティアが何やら騒いでいる。どうやら、光線技が見たかったらしい。光線は男子のロマンなので、当然と言えよう。


「せっかく巨大化したんだし、光線撃てよ~。お約束ってものだあるだろ~」


 そんな文句を言いつつも、アウリティアは魔物から飛び散った液体が仲間にかからないように、何やら薄い光の膜で遮断してくれたようだ。光の膜に触れた緑色の粘液はジュウと音を立てて蒸発していく。


「アウリティア、この液体には何か効果が?」


 ユキトはアウリティアに尋ねてみる。碌でもない効果がありそうな色なので、とりあえずは避けるのが正しい対応だと思われるが、後学のために効果を知っておいて損はない。


「腐食性の強い液体だ。粘りがあるので相手の動きを制限する効果もある」


 アウリティアは緑色の液体について説明を返してくれた。やはり、碌でもない効果があるようだ。もっとも、ユキトの変身後の身体には腐食の効果もほぼ及んでいない。正義の味方のボディは強いのである。


「俺の身体には特に影響なしか。……さて、思い切り踏んでみたけれど、倒せてないみたいだな」


 ユキトが踏み砕いた骸骨ボールは、ゆっくりと再生を始めていた。折れた骨が互いに骨繊維を伸ばし、複雑に絡み合って球を形成していく。


「骨を砕く程度の攻撃だと、魔力が尽きるまでは再生を繰り返すぞ。一気に消し飛ばすしかないな」


 アウリティアが下から声をかけてくる。もちろん、言外に光線を撃てと言っていることぐらい、ユキトにも分かる。


「仕方ない。お待ちかねの必殺技にするか」


 あまり焦らしても仕方ない。この加護は3分しか持たないのだから、残り時間は1分程度だろう。そろそろ魔物に止めを刺す必要がある。


「あ、距離が近いからギャラリーの防御は任せたぞ」


 ユキトはアウリティアに対し、粘液が飛び散った時と同様に、仲間たちへのカバーを頼んだ。光線で大地が爆破されれば、石や岩が周囲に飛び散る可能性がある。


「任せとけ。その分、思いっきり撃てよ」


 フルパワーの光線は、イーラ戦で氷結竜(フリーズドラゴン)を倒した実績がある。相手が大物アンデッドとは言え、オーバーキルだろう。


「ま、七極(セプテム)様のご希望に従いますかね」


 ユキトはそう言うと、腕を胸の前でクロスしながら、足元の骨を軽く蹴り飛ばす。


 ガシャガシャ!


 骨同士がぶつかる音を響かせながら、再生途中の骸骨ボールが50メタほど遠くへ転がった。その位置で不気味に蠢いている。


「では……なんとかニウム光線、発射!」


 ユキトの声に従って、そのクロスした腕から眩い光の束が放射された。光を纏ったたくさんの粒子が一直線に骸骨の集合体へと浴びせられていく。


 ボォコォオオオオオオオオオオオオン!!!!


 一瞬の間を置いて、魔物は爆煙を上げて大地ごと吹き飛んだ。もうもうと煙と炎が上がり、後には大きなクレーターが残っている。


「うは! すっげ! こりゃ派手だな!」


 光線の威力を目の当たりにして、アウリティアのテンションがさらに上がっている。恐らくは、彼も同等の破壊力を持つ魔法を使えるのだろうが、光線という点が男のロマンをくすぐるのだろう。


 ユキトも加護が時間切れになったので、元の姿に戻る。元ネタに忠実な加護である。


「ふぅ。満足か、アウリティア?」


「いや、これは楽しい能力だな! 俺もエルフじゃなくて、こっちの能力の方が良かったな」


 七極(セプテム)たるアウリティアにそう言われるとユキトも悪い気はしない。もっとも、アウリティアも異世界転生からの異世界無双、更に美しいエルフとの結婚までイベントを終わらせているのだから、充分過ぎるほどに異世界を満喫しているはずであった。


 だが、折角の機会だ。ユキトの力で加護のひとつやふたつ、付与(エンチャント)することは可能だ。


「じゃあ、サービスでアウリティアにも加護をつけてやろうか。適合度が低いと一時的な加護になるけど」


「ホントか!? 是非、頼む! どうせなら、永続的に付加するヤツが嬉しい」


 アウリティアは即座に首を縦に振る。加護を付与(エンチャント)してやる礼として、後で何か便利な魔道具でも要求してやろうと考えながら、ユキトはアウリティアにふさわしい加護を検討する。


(こいつの魔法をこれ以上強くしても意味ないしなぁ……こいつの性格的に適合しそうな加護となると……あ、あれがハマるんじゃないか?)


 ユキトは、かつて自身に付与(エンチャント)しようとして、すぐに消えた「とある加護」を思い出した。アウリティアは面倒臭がり屋で、里に引きこもっているらしいので、きっと適合するだろう。


「んじゃ、ほいっと」


 教会付きの付与師(エンチャンター)が聞けば怒りだしそうなくらい気楽な掛け声とともに、ユキトは自身の能力を発動させた。対象はアウリティアだ。


「おいおい。もっとありがたい感じで付与(エンチャント)できないのかよ……って何かエネルギーが入ってきたな」


 ユキトの気楽さにアウリティアは苦笑しながらも、自身の変化に気がつく。魔力にも似た力が、何らかの形を伴って自身の中に入ってくる。


「って、この力は……日食の魔法?」


 ユキトが付与(エンチャント)したのは、天照大神の加護だ。天照大神は女神様であるため、アウリティアと性別は異なる。だが、引きこもりという共通点から、上手く適合するのではないかと踏んだのだが、果たして成功したようだ。


「お前さては、引きこもりでイメージしただろ!?」


 自身に付与(エンチャント)された加護を確認したアウリティアには、ユキトの考えたことが伝わったようである。ちゃんと適合しているのだから仕方ないだろう。


「宇宙レベルの天変地異を引き起こせる大魔法が使えるようになったろ? 役には立たないけど」


「巨大化とか聖鎧とか光線が良かったー!」


 駄々を捏ねる極魔道士。そんな彼がエルフの女王と結婚していることに納得がいかないユキト。そんなワイワイと騒がしい一行が、王都へと辿りついたのは更に1週間後のことであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


物語的にはつなぎの回ですね。

次回あたりから、また話を動かしていきたいと思います。

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