第80話 衝撃!異世界の正体!
前回のお話
紺スケ「異世界って何だと思う?」
「ユキト、お前はこの異世界ってのが何なのか、気づいているか?」
600年を生きるエルフの紺スケは、すっかりナイスミドルの風貌を手に入れている。そんな顔で質問されると、中身が紺スケと分かっていても、どうにも落ち着かないユキトである。
とはいえ、紺スケの質問はどうやら重要な問いのようだ。ユキトはしばし真面目に考える。薄暗い部屋は卓上のランプで照らされ、木目を持った壁に2人の影が浮かび上がっていた。
(何なのかって言われてもな……実は、この異世界が俺達がやってたオンラインゲームの世界っていうベタな話じゃないよな?)
ユキトと紺スケ、安藤はそもそもオンラインゲームを通じて知り合った仲だ。転移した異世界がそのオンラインゲームの世界であったという展開はラノベではベタすぎる展開である。
「ちなみにゲームの世界ってわけじゃないぞ」
だが、紺スケは、ユキトが口を開く前に、ユキトが考えていたことを否定した。どうやら考えていた事はお見通しだったようである。
「え、まだ何も言ってないだろ!」
「どうせ、この異世界って俺達がプレイしてたオンラインゲームの世界なのか? なんて考えていたんじゃないのか?」
「ぐぅ」
図星をつかれたユキトはぐぅの音を出して黙る。確かにあのゲームの世界とこの異世界は似ても似つかないものだ。だが、ゲームの世界ではないとしたら、異世界が何かという問いへの回答は思いつかない。
「600年も生きてるお前なら分かるかもしれないけど、こちとらまだ初心者なんだよ」
上から目線の出題者に対して、ユキトは抗議の意を示した。だが、その抗議を受けた紺スケはニヤリと笑った。ユキトの前に豚骨ラーメンを差し出した時のような悪戯めいた笑いだ。
「いや、お前は既にその答えに行きつくためのパーツを持っているはずだぜ?」
紺スケはそんなことを述べ、推理してみろと言わんばかりの態度だ。だが、ユキトとしては手掛かりがなさすぎる。このまま1年間考えても答えに辿りつけそうにはない。
「せめて、ヒントくらい出せよ」
「そうだな……ユキトは魔物の『神位体』については聞いているだろ?」
「神位体……? ああ、あの魔物の上位種みたいなやつだろ」
ユキトが覚えていた『神位体』は、魔物の種族ごとに存在するという1ランク上の個体の名称だ。その姿は、元となる種族をより強大にしたものとなる。例えば、蜥蜴族の神位体ならば、その姿はまるでドラゴンの様だという。むしろ、この神位体こそが種族の始祖であり、同種族の魔物は神位体の劣化コピーだという説もある。
「神位体は全ての魔物の種族に存在すると言われている」
「ああ、聞いたことがある気がする」
ユキトは、記憶の片隅を掘り返して、かろうじてその話が埋まっているのを発見した。だが、その神位体が異世界とどう関わるのか、まだ見えてこない。トカゲの上位版であるドラゴンモドキと異世界の正体に、何か関係があるのだろうか。
「さて、話は変わるが、ユキトはダンジョンを攻略したことがあったな?」
「ああ、あるけど……神位体の話はどうなったんだよ」
突然に話題が切り替わったことでユキトは困惑する。いや、困惑しているが、何かがぼんやりとユキトの頭の中で組み合わさりつつあった。まだはっきりしていないが、とても重要な事実のような気がする。
「お前はダンジョンについて何を聞いた?」
紺スケがスッと目を細めつつ問いかける。ユキトの思考を答えへと誘導する問いだ。ジジジ……と卓上のランプが音を立て、その炎が揺れる。部屋の壁に映る2人の影も大きく揺らめいた。
「え? ダンジョンと言えばラノベでも良く聞く特徴だったな……ダンジョンにはコアがあって、時間とともに成長し、トラップで旅人を誘き寄せる。一説にはダンジョンは魔物の一種であるとも言われ……ん?」
その瞬間、ユキトの頭の中でパーツがカチリと音を立てて組み合わさった。急速に頭の中の霧が晴れていく。
「ダンジョンは魔物の一種……。そして、全ての魔物には神位体が存在する……そういうことか!」
「そう。ダンジョンにも神位体がいるはずだ。その神位体は姿も規模もダンジョンの上位となる存在のはずだ。地下に広がるダンジョンの姿が1段階ランクアップしたら、どうなると思う?」
既に答えに辿りついたと思しきユキトに向かって、紺スケが確認するように問いかける。
「それが異世界……」
「そう。俺は、異世界というのはダンジョンの神位体だと思っている。ダンジョンが地上に風穴を開けて旅人を誘い込むように、異なる世界の人間を次元の裂け目やら転移などで誘い込む。ダンジョンが強力な武器や防具で冒険者を釣るように、チート能力や強力なステータスで異なる世界の人間を釣る」
「ダンジョンの上位種が異世界……」
「俺達が地球で見たラノベも全部がフィクションじゃなかったのかもしれないな。ラノベに出てきていた異世界の特徴は、今考えればダンジョンの上位版と考えるとしっくりくる」
ユキトはあまりに衝撃的な紺スケの説を反芻していた。確かにそう考えると、異世界の不思議さやご都合主義も色々と解決する。
まず、魔物の出現。異世界モノでは世界に魔物が出現するのだが、これはダンジョンと同じ構図だ。さらにダンジョンには、特有の法則などを持つものがあるが、異世界の多くも独自の法則を持っている。そして、転移者に与えられるチート能力も、ダンジョンに強力な武具が用意されていることの相似形だ。なにより、両者とも人間を外部から己の内へと誘い込もうとする。
魔物であるダンジョンが発展し、成長し、行きつく先。それは一つの異世界の誕生に近いのではないか……ユキトはそう考えるに至った。
「辻褄は合うな……」
ユキトはそう答えたが、内心では確信していた。異世界の正体は、ダンジョンの神位体だと。
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