第79話 同郷?皆の反応!
前回のお話
紺スケは一足先に異世界転生で主人公TUEEEをやっていた。
「というわけで、シジョウ卿は私と同郷の友人であった」
「そう。アウリティアは友人だった」
思わぬ再会で話しこんでしまったが、料理勝負の最中だったことを思い出した2人は、アウリティアの建てたラーメン屋から外に出ると、メンバー達に簡単に事情を説明した。
全員が「こいつは何を言っているんだ?」と言いたげな表情をしている。まぁ、当事者であるユキトですら、突然の展開について行くのがやっとだったので、パーティメンバーの困惑も無理もない。
「えっと……アウリティアさんと同郷?」
「転生って言われましても……」
ファウナもフローラも突然の展開についていけなかったようだ。尤も、エルフ側の反応も似たようなもので、サジンは苦笑いで、ウヒトは困惑している様子だ。
「いや、アウリティア様。そういうことは先に言っておいて下さい」
サジンの言うことには、普段は里に引きこもっているアウリティアが、ウキウキと紙の技術が盗まれたものでないか確認するためにサブシアに行くと言いだしたので、不思議に思っていたそうだ。
「絶対、シジョウ卿を驚かそうと思って出てきたでしょう?」
どうやらアウリティアは、普段はやる気もなく、だらだらのんびりと引きこもって過ごしているのだが、何か頭の悪いイベントを思いついた際には、急にやる気に満ち溢れる気質のようだ。そしてそれは、ユキトの知る紺スケの性質と何も変わっていない。
「だって、600年も待ったんだし、驚かせたくなるじゃん?」
サジンに言い訳を始めるアウリティアだが、極魔道士という知的な二つ名からはかけ離れた言動である。
「だからと言って、私に偉そうなエルフを演じさせる必要はなかったんじゃないですか?」
「え? サジンさんの態度って演技だったんですか?」
サジンのどことなく偉そうな態度はアウリティアからの指示による演技だと聞いて、ユキトは驚いて確認する。
「ええ、シジョウ卿。大昔のエルフはプライドが高くて、あんなモノ言いだったらしいのです。しかし、御伽噺ならともかく、今のエルフ社会にはほとんどいません。若いエルフの中には少しはそういう者もおりますが、年齢とともに丸くなります」
「いや、ユキトのエルフのイメージを壊さないようにと思ってさ」
確かに日本で読んでいたラノベに出てきたエルフは、プライドが高い種族だった記憶がある。だからと言って、そのイメージまで再現しようとは大したサービス精神である。
「確かに俺達の世界だとそんなイメージあるけど、そこまでサービスしなくてもいいだろ……」
流石のユキトもアウリティアに呆れてみせる。サジンとウヒトもなかなか苦労しているようだ。
そんな皆が困惑する中、少し離れた位置で氷結の魔女が深く頷いている。
「なるほどの、アウリティアのヤツとシジョウ卿が同郷の『まろうど』とはのぅ。どちらも変人じゃと思うておったが、なるほどの」
イーラは納得した表情を浮かべていた。
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アウリティアは、10日程はサブシアに逗留するつもりのようだ。料理勝負に勝った要求として、エルフの里に持ち帰る野菜を選んでみたり、電子辞書で色々と調べたりと忙しそうだ。
「いやー、ユキト! 電子辞書を持ってきたのは素晴らしい功績だな!」
電子辞書に入っている百科事典は、紺スケがこの世界で試して、そして失敗してきた様々な事柄に関する知識をカバーしていたようで、紺スケは大いに感激していた。
「そう、醤油! 色々と試してみても、完成に至らなかったんだ! 日本のものと同じ大豆も手に入ったし、これで完成する!」
醤油についても、現代日本人は原材料などをおぼろげに知っている程度で、その工程を正しく理解している日本人は少ないだろう。だが、百科事典があればその製造も可能だ。難しい工程や技術があれば、そこをさらに百科事典で調べていけば良いのだ。
アウリティアは魔法による記憶が可能らしく、紙にメモすることもなく、電子辞書の検索を繰り返していく。その記憶魔法があれば、一目見ておくだけで、時間が経っても記憶から取り出せるとのことだ。
「しかし、この電子辞書とユキトの加護の能力の組み合わせは本当にチートだな」
アウリティアの見立てでは、電子辞書から得られた知識があっても、サブシアの人々がその知識を使いこなして、技術として確立させるのは困難であるはずだった。技術とは、少しずつ積み重ねてこそ発展するものだからだ。そのことはこの世界で600年を過ごしたアウリティアも強く実感していた。だが、ユキトに神の加護を付与された職人達は、ユキトの提供する異世界の知識を、巧妙に自前の技術へと取り込んでいた。加護の力がそれを可能にしているのだ。
「この短期間で一気に成長するわけだ」
サブシアを見て回ったアウリティアは、その発展ぶりに納得した表情で頷いていた。
その一方で、エルフの付き人もそれぞれ自由行動となっていた。好き勝手に動くアウリティアは放置されている格好である。
エルフのサジンは400歳を超える里の実力者らしい。魔法も剣技も得意で、セバスチャンと模擬戦をやったり、イーラと魔法談義をしていたりする。さすがに、加護を付与されているセバスチャンの剣の腕には及ばないようだが、風の魔法を応用して、飛ぶ斬撃もどきのような技を編み出していた。
「セバスチャン殿の技には感銘を受けましたぞ」
「いえいえ、サジン様の剣には400年のキレがございます」
精神年齢が高い者同士で話が合うようだ。
もう一人の付き人であるウヒトは、まだ100歳程度と若いエルフである。彼もサブシアの町を楽しんでいるようだが、少し様子がおかしいようだ。どこかそわそわした彼はファウナに近づくと、こっそり話しかける。
「……あ、あのファウナさん」
「えーと、ウヒトさんだったわよね? なに?」
ファウナは首をかしげて、ウヒトに顔を向ける。
「い、いえ……宿の近くに美味しい喫茶店があったので、お誘いしたいなと」
「へぇ、あの辺に美味しい喫茶店が……いいわね、行ってみようかな」
「ホントですか!」
「ユキト、フローラ、ウヒトさんがお茶飲みに行こうって」
(え? ファウナ、それは酷くないか!?)
一部始終が聞こえていたユキトは、内心でファウナに突っ込みをいれた。誰がどう見ても明確なウヒトの想いは、ファウナには見えていないようだった。尤も、ファウナがイケメンエルフになびかなかったことで、ユキトは大いに安心したのであるが。
そんな日常を過ごし、明日にはアウリティア達が帰るという夜。そろそろ寝る時間だとユキトが寝る準備を整えていると、ユキトの部屋のドアが軽くノックされた。
「俺だ、紺スケだ」
異世界では通じない名をわざわざ名乗っているところを見ると、アウリティアとしてではなく、紺スケとしての来訪らしい。
「どうした?」
ユキトはドアを開けると、友人を室内に通し、椅子をすすめた。
「いや、しばらく会えなくなる前に話をしておきたいことがあってな」
紺スケの改まった様子に、重要な話なんだろうと推測したユキトも真剣な表情で対面に座る。木で拵えられた椅子が軽く軋む。
紺スケは、周囲に人がいないかを確認する魔法を展開すると、静かに頷いてから、話を始めた。あまり他人に聞かせたくない類の話のようだ。
「ユキト、お前はこの異世界ってのが何なのか、気づいているか?」
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