第78話 ご無沙汰!旧友との再開!
しばらく家を空けていたのもあり、少し更新の間が空きました。
前回のお話
なんと、アウリティアはユキトの旧友「紺スケ」だった!
「安藤は、俺より早くこの世界に来ている可能性が高い」
紺スケは、安藤が紺スケよりも早い時期にこの世界に来ていたと考えているようだ。仮にそうだとすると、安藤がこちらに来てから最低でも600年以上の時間が過ぎていることになる。
「そうだとすると、安藤……もう生きてないよな」
ユキトはオフ会仲間の女性を思い浮かべる。ハンドルネーム『安藤』は、『紺スケ』や『ユキト』と同様に本名から抜き出した名前だったはずだ。
「まぁ、俺の例もあるから、必ずしも彼女が死んでいるとは断言できないけどな。可能性はあると思っている」
紺スケはそんなことを言うが、600年生きてきた紺スケが出会えていないのだから、寿命にせよ、そうでないにせよ生きていないと考える方が自然だ。
「ところで、ユキト。お前、管理者からどんなチート能力をもらったんだ? イーラに勝ったと聞いてるぞ」
安藤の話を切り上げて、紺スケはユキトのことを尋ねてきた。既に七極のイーラに勝ったことは知られている様子だ。イーラと同じく七極とされている紺スケも、彼女の実力の高さは知っている。半端な能力では勝てないはずだ。恐らく、ユキトには管理者から相当にチートな能力が与えられたのだろうと紺スケは予測していた。
「ああ、それは――
ユキトは紺スケに自身の能力を簡単に伝えた。元々は神々を想定した『非実在の存在』をモチーフにした加護を付与する能力だったこと。『非実在の存在』の判定に、アニメや漫画のキャラが含まれていたこと。光線を撃てる巨人になる加護や超能力を得る加護、魔法少女になれる加護、一兆度の火球を撃てる加護等のこと。
「お前……それは随分とチートな能力だな……意味通りのズル能力だろ」
「まぁ、この能力のおかげで助かってきたけどな」
「加護って他人に付与できるわけだろ? パーティを強化できるバフ系の能力としても使えるのが良いな」
バフ系とは、味方の能力を上昇させる効果のことを指すオンラインゲーム用語だ。思えば、オンラインゲーム中の紺スケは、バフ系の魔法やアイテムを効果的に使って戦っていた。
「バフ系魔法とかは極魔道士とまで呼ばれている紺スケの方が得意なんじゃないのか?」
ユキトは紺スケに尋ねてみる。極魔道士とまで大層な二つ名があるのだから、魔法については相当なスペシャリストなのだろう。
「そりゃ確かに俺も防御魔法やら補助魔法は色々と使えるし、元の世界の知識を使って新魔法の開発もしたさ。でも、一兆度の火球を撃たせるのは無理だな」
やはり、極魔道士をしても一兆度は無茶な温度のようだ。
「フローラ嬢だっけ? 一兆度の火球が暴走しないように、エルフの里に戻る前に簡単に手ほどきしておくよ。世界を滅ぼされたら敵わないからな」
「それは助かる」
やはり『一兆度の火球』は取り扱いを間違えると世界を滅亡させかねないようだ。紺スケとしても、日本よりはるかに長く暮らした世界を滅ぼされたくはない。彼もまた同族に技術を伝え、料理を改革し、この世界で長く生きてきたのである。
「そう言えば、エルフ族は紙を作ったりできるらしいけど、それもお前が?」
ユキトは紺スケことアウリティアがサブシアにやってきた表向きの理由を思い出しつつ、確認する。エルフ達は、サブシアの製紙技術はエルフの里から盗まれたものではないか?などと言っていたが、アウリティアが紺スケだったとすると、そうでないことはとっくに知っていたはずだ。どうせ、ユキトを驚かそうという魂胆だったに違いない。
その悪戯好きのアウリティアが、様々な技術をエルフに伝えたと言われている。恐らくは、エルフが紙を作れるというのも、紺スケが指導したものなのだろう。
「ああ、紙だけじゃなくて、色々と技術を開発したよ。ラノベとかじゃ、知識チートって言ったっけ? といっても、世界の人間社会に影響を与えないように、エルフの里から外に出してないものも多いけどな」
紺スケが言うには、サブシア産の紙が出回ったことで、ユキトがこちらの世界で動き出したことが確認できたという。
「もちろん、各地の『まろうど』の情報は集めていたけど『まろうど』の情報ってのは、あまり公にならないからな」
紺スケの言うとおり、『まろうど』は特殊な能力を持つため、存在が秘匿されることも多い。『まろうど』と知られれば、その能力や知識を利用しようとする者も出てくるのだ。
「なるほど、この紙が広まらなかったら、俺のことも紺スケに伝わらなかったのか」
ユキトはサブシア製の紙を流通させたのは正解だったと考えたが、すぐに紺スケがそれを否定する。
「いや、そんなこともないな。紙の件を調べていたら『シジョウ卿』の名前にすぐに辿りついたし、イーラを倒した噂も流れてきたから紙の件がなくても見つけられたと思うぞ」
ユキトの名前は思っていたよりも広範囲に知られていたようだ。確かに七極を退けた冒険者ともなると、その名は大陸中に知れ渡って当たり前である。
「紺スケのアウリティアと違って、俺はこの世界でも本名で生活してるからな」
アウリティア=紺スケなど絶対に分かるわけがないとユキトは言外に語る。何しろ姿まで変わっているのだ。そういう意味で、紺スケから見つけてもらわなければ、この再会はなかったのは確かだ。
「俺の場合は管理者からもらった特典が『転生』だったからな。超魔力のエルフに転生して、知識チートで魔法を発展させて、俺TUEEE系の主人公してたよ」
どうやら、紺スケは一足先に異世界ラノベのお約束を満喫していたらしい。
「ぐぬぬ。もしかして結婚も?」
「ああ、エルフの女王のティターニアは俺の伴侶だ」
なんと、紺スケはラノベの主人公よろしく、エルフの女王と結婚しているという。ユキトとしては羨まけしからん事実である。
「ユキトの方こそ、サブシアの技術の高さはなんだ? お前って理系だったか?」
一方、紺スケとしてもサブシアの技術の高さには驚いていた。知識チートと言っても、普通に暮らしていると、紙の作り方一つとっても、おぼろげにしか理解していないものだ。コンクリートをどうやって作るか知っている人間はそう多くない。
ユキトは正直に答えるか少し迷ったが、今更紺スケが敵に回ることもないだろうと判断し、サブシアの極秘事項である電子辞書について伝えることにした。
「まぁ、紺スケには伝えておいていいか。俺の荷物に電子辞書が入ってたんだよ。最近の電子辞書には、百科事典とか入ってるだろ? これから使える知識を取り出してるんだ」
流石に電子辞書があるとは思っていなかったらしく、紺スケも驚いた表情を隠さない。
「電子辞書! 知識チートし放題だな! 俺にくれよ!」
「やれるか! サブシア発展の肝だぞ」
紺スケの要望を即座に却下するユキト。だが、それをきっかけに、料理勝負で敗者は可能な範囲で勝者の要求を聞くと約束していたことを思い出した。無理なら断って良いという程度の緩いルールだったはずだ。
「そういえば、料理勝負は俺の負けだろうな。ラーメンはめっちゃ美味かったし。で、何を要求するつもりなんだ」
紺スケも久しぶりの美味い野菜に感動していたようだが、流石に600年かけて再現した豚骨ラーメンを味わわされたユキトとしては、負けを認めざるを得なかった。問題は、紺スケが何を要求するつもりなのかである。
「んー、別にユキトを驚かせたかっただけだから、特に要求はないなぁ。強いて言えば、サブシア産の野菜が欲しいな。俺の里でも植えたい。あと、電子辞書も少し使わせてくれ」
「そんな程度で良いのか? 控えめだな」
「あと、これは要求じゃなくて、提案なんだが、今後は俺の治めているエルフの里『リティス』と『サブシア』との交流を進めるのはどうだろう?」
「悪くないな」
こうして、サブシアとエルフの里リティスとの交流が始まるのであった。これにより、サブシアの町は、七極のイーラが滞在し、七極のアウリティアが治める里と交流し、S級冒険者が治めるという、大陸でも有数の注目地域となっていくのである。
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