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第72話 侵入?不審者対策!

 前回のお話

  サブシアの町、発展中

 

「人が増えたなぁ」


 他人事のように呟くのは、サブシア領主のユキトであった。


 サブシアの町は相変わらず発展を続けているが、一方で問題も生じていた。外部からの流入が増えるに従い、治安の悪化が懸念されるようになってきたのである。


「なんかガラが悪いのが増えてきたわね」


「盗賊団が入り込んだという噂もありますわ」


 ファウナは町を歩いている時に、ガラの悪い男達に絡まれたらしい。かなり強引なナンパだったようである。ただし、男達はファウナの名を聞いた途端、全員で土下座して謝罪したという。当のファウナは「私ってどんな印象なのよ!」とお怒りであった。


 一方、フローラの報告も見逃せない。サブシアへの人の出入りは激しく、急速に豊かになりつつある。こうなると犯罪者達も流れてくるものだ。しかも、サブシアは元々が街道沿いの町である。その街道には、サブシア産の商品や作物を目当てにした商隊が頻繁に通るようになり、それを狙う盗賊も出没していた。


 さらには、他国からの諜報員も増加していることをユキトは知っている。なぜ分かるのかと言えば、念話(テレパシー)の力だ。思考を完全に読み取ることは出来ないが、「ああ、こいつは諜報員だな」くらいは感じ取ることができる。


 原因の1つは、サブシアを通る街道を利用する商隊が急激に増加した一方で、他の街道が廃れつつあることだ。何しろかなりの遠回りになっても、サブシアを経由するのが商隊のトレンドとなっている。ユキトが幾つかのレシピを印刷して町に配ったこともあり、サブシアの料理レベルが一気に向上したことも一因だ。


「ハンバグという料理が絶品であった」


「いやいや、ポタジュというスープを飲んだか?」


 サブシアの宿や食堂は旅人や商隊員で常に満席である。食材の関係で、ここでしか食べられない料理も多く、それ目当ての者も多い。


 だがそうなると、廃れた街道沿いの領地を治める貴族としては面白くない。中にはサブシアの邪魔をしてやろうと企む貴族も出てくるのである。


「くそっ!あの成り上がりの所領に商隊達が流れてしまっておるではないか!」


「サブシアには珍しい品が溢れているという噂ですからな」


「なんとかできぬのか! 貴族になって日が浅いシジョウならば警戒も薄いだろう? 人を雇って消してしまえぬか?」


「……七極(セプテム)を退けたというシジョウ卿を暗殺ですか?」


「そうであったな……」


 このような調子で、流石にユキトの暗殺が可能と考えている貴族はいない。そのため諜報員達は、まだ市場に流していない作物を盗んだり、紙の製法を探ったり、悪い噂を流す……といった地味な活動をしている。


「地味なんだが、こっちとしては困るんだよなぁ」


 作物については半ば諦めているユキトであるが、技術的なことは、あまり広めたくはない。紙程度ならともかく、蒸気機関などは影響が大きすぎる代物である。


 そう、蒸気機関だ。サブシアでは秘密裏に蒸気機関が発明されていたのである。ユキトもストレィが簡易的とはいえ蒸気エンジンを作成するとは思ってもいなかった。なにやら彼女がゴソゴソやっているなと思っていたところ、ある日ストレィがモジモジしながらユキトに告白したのである。


「あのね……ユキトくぅん……できちゃった」


 思わず飲んでいたお茶を吹き出したユキトだったが、よくよく聞けば、鍛冶ギルドの頭領の力も借りつつ、電子辞書の百科事典を繰り返し読んで、自身で蒸気機関を作り上げたという。元々、魔道具の製作に長けていたストレィに秘密道具の加護が加わったことで、彼女の技術力はこの世界でもトップレベルなのだ。知識さえあれば、製作は難しくない。


 シュコーシュコーシュコーシュコー


 ストレィに連れられて訪れたのは、彼女に研究用に与えた大きめの地下室である。目の前の蒸気機関は卓上サイズの小型のものだが、ボイラーから蒸気を漏らしつつ、円盤(ホイール)を回転させている。


「これは、封印すべきだろ? あと、換気していると言っても地下室で火を焚くな」


 蒸気機関を見せられたユキトは頭を振りつつ、即座に封印を提案した。ちゃんと動いているところを見ると試作品としては大成功なわけだが、これが普及すると、剣と魔法のファンタジー世界が、スチームパンクの世界になり兼ねない。


「えー! せっかく作ったのにぃ」


 語気を強めて抗議してくるストレィであったが、やり過ぎの自覚もあるらしく、しぶしぶと封印に同意する。


「分かったわよぉ……でもぉ研究は続けるからねぇ」


「完全にオーバーテクノロジーになったら、逆に真似されないんだろうけどな」


 現状の簡易的な模型では、見る人が見れば、仕組みが理解できてしまうかもしれない。だが、蒸気機関車などの形になれば外から見ただけでは動力は分からないだろう。ユキトのその言葉を聞いて、ストレィは大きく頷く。


「そうよね。ところでウランってこの辺りでは採れないのかしらぁ……」


「ちょっと待ちなさい」


 なにやら危険なことを呟くストレィを慌てて止めるユキトであった。


 *********************


「領主様、どうやら街道沿いにグング盗賊団が出没しているようです。既に3組の商隊が襲われております」


 その日、タンドーラ町長から上がってきた報告は、懸案の治安問題であった。名前付き(ネームド)の盗賊団ということは、恐らくその規模も大きいのだろう。そう考えて、ユキトは町長に聞き返す。


「グング盗賊団?」


「はい、以前は王国と皇国をつなぐ街道に出没していた盗賊団で、構成員が50名程度と多いのが特徴です。また、グング盗賊団とは別にパードンの禿竜という盗賊団が入り込んだという報告もあったのですが……」


 町長はそこまで報告すると、執務室内で焼き芋をほおばっていたイーラをチラリと見る。この七極(セプテム)、暇を持て余すと執務室に遊びに来るのであった。


「どうしたんだ? そのパードンの禿竜がどうかしたのか?」


「いや、郊外の森で全員が氷漬けになっているのが発見されまして……」


 ユキトもタンドーラ町長が先ほどイーラを気にした理由を理解し、即座に彼女へ視線を向ける。


「イーラ? お前、何かやったろ?」


「なんじゃ? (わらわ)は森を散歩中に襲いかかってきた無法者どもを凍らせただけじゃぞ?」


 平然と答えるイーラに、ユキトは呆れながら諭す。


「襲いかかってきたなら仕方ないけどな。せめて報告してくれよ」


「お主は蟻を踏んだことを気にするのかえ?」


 今まで食べたパンの枚数を覚えているのかとでも言うような態度のイーラであるが、領主としてはあまり勝手な真似をされるのも困る。


「気にしてくれ。報告しないなら飯抜きだ」


「ぬぬぅ……それは困るのぅ……」


 ユキトは、イーラがサブシアに留まっている理由の半分は飯が美味いからということに気づいていた。残りの半分はユキト達の傍にいると何かと面白いからだろう。既にユキトが『まろうど』であることはイーラにも伝わっている。


「そのような訳でパードンの禿竜は全滅しております」


 タンドーラ町長が結論を述べる。つまり、現状で問題なのはグング盗賊団の方である。


「そのような雑魚の集団、(ねぐら)付近にフローラが火炎球(ファイアボール)でも撃ち込めばよかろうに」


 イーラが恐ろしい提案を口にする。フローラが1兆度の火球を撃ち込めば、盗賊団は全滅するだろうが、サブシアや王国も消えかねない。オーバーキルにも程がある。


「別にフローラでなくても、俺達の誰が出ていっても負けはないだろうけどな」


 ユキトの言葉通り、パーティメンバーなら盗賊達に負けることはないだろう。

 セバスチャンには剣豪の加護が付与(エンチャント)されており、斬撃を飛ばして遠距離のモノを斬ることができるし、刀身の長さ以上の厚みの物体を斬ることもできる。ユキトの世界の漫画に出てくる剣豪のイメージそのままである。

 ファウナには武術の加護が付与(エンチャント)されており、某戦闘漫画のように闘気を飛ばして攻撃でき、鬼神をも凌ぐ怪力を有している。そのうちに超エルフにならないか心配だ。何しろ髪はすでに金色なのだ。


 そんなわけでパーティメンバーが出ていけば、盗賊は確実に潰せるだろう。だが、治安というものは個人に依存させるのではなく、システム的に安定させるべきだとユキトは考えている。可能ならば警備兵などで対処できるようにして、パーティメンバーは奥の手ということにしておきたい。


「兵士については、ラング公爵とかウィンザーネ侯爵に相談して、少しずつ揃えていくしかないか……」


 まだまだサブシアの運営には課題が多いようである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや評価も嬉しい限りです。

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