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第71話 発展!サブシアの町!

 前回のお話

  イーラは処刑されて残機-1で幼女化したよ!

 

 蝉に運ばれるユキト達がサブシアへと到着したのは、逢魔が時と呼ぶべき時間帯であった。空が赤く染まる中、巨大な蝉の魔物が降りて来る様子は中々に禍々しい。


 とはいえ、サブシアの人々は、ストレィが運ばれて来た際に百九年蝉のセミルトを目撃している。そのため、今回はパニックを起こすことなく、それでも多少は不安げな表情で領主の帰還を眺めていた。


 だが、たまたまサブシアを訪れて、領主代行と面会していた客人は、初めて見るセミルトに大慌てだ。そう、ザンブルク司教はちょうど領主の館から出て、獣車に乗り込もうとしていたところだった。


「魔物だ。司教座下をお守りせよ!」


 総協会に所属する聖騎士達は、空から舞い降りる百九年蝉の姿を認めると、すぐさま司教の周囲を取り囲む。無駄のない動きであり、なかなかの練度の高さだ。


 その様子を目にしたストレィは、いきなりセミルトに攻撃などされては堪らないと、司教に蝉の正体を説明する。


「司教様ぁ、あれはユキト領主のお帰りですわ。あの蝉さんが運んでいるのですわよぉ」


 緊張が走る騎士団とは対照的に、ストレィの説明は相変わらずのんびりした口調だ。ザンブルク司教は眉を寄せながら、ストレィの話を聞いていた。


「そう言えば、冒険爵が百九年蝉の使役に成功したという話だったか……危険はなさそうだな。よし、下がれ」


 ユキトが百九年蝉と労働契約を結んでから1ヶ月は経過している。当然、司教の耳にもこの情報は入っていたようだ。ザンブルク司教の言葉に従って、周囲を固めていた聖騎士達が持ち場へと戻っていく。


 セミルトの運ぶゴンドラから降り立ったユキト達は、その聖騎士達と入れ替わるような形でストレィと司教の元に近づいた。


「ようやく戻ってこれた。いやぁ、待たせたなストレィ……って、そちらの方は?」


 ユキトの目の前には、相変わらずの見事な巨胸を誇るストレィと、どうやら彼女の客人であるらしい50代くらいに見える聖職者然とした男が立っている。口髭を生やしており、有り余る気難しさが溢れ出ているような顔である。


「シジョウ卿とお見受けする。儂はザンブルクという。総教会で司教位を戴いておる者だ」


 ユキトと初対面であるザンブルク司教は、まずは丁寧に挨拶する。小言は煩いが、常識は弁えている男なのである。


「はじめまして、ザンブルク司教座下。ユキト・シジョウです。冒険爵としてこのサブシアを治めております」


 背を正して挨拶を交わすユキト。尤も、サブシアを治めていると言っても、ストレィに投げっぱなしであり、たった今戻って来たところである。


 無事に挨拶が済んだところで、司教は離れた位置に着陸したセミルトをギラリと睨みつけると、早速文句をつけ始める。


「シジョウ卿。いくら便利とは言え、魔物を使役するのは女神様の御心に反するのではありませんかな?」


「いえいえ。かの魔物は人間に害をなさぬことを誓っております。むしろ女神様の教えが魔物にも届いたものと思われます」


 もちろんユキトのセリフは適当なでまかせである。


「だが、相手は魔物。その誓いが偽りであるやも知れませぬぞ」


「その時は、この私が魔物を確実に処分致します。相手が魔物とは言え、最初から誓いを疑うのは、女神様の御心に沿う行為とは思えませぬゆえ」


「……ぬぅ」


 ユキトの出まかせは意外と効果があったようだ。結局、司教は油断しないようにと釘を刺すと、また寄らせてもらうと言い残して去っていった。あまり寄って欲しくないなぁというユキトの思いは心の中にしまっておくことにする。


「まぁ、何はともあれ我が領地だ!」


 ユキトも戻り、ようやくサブシアの発展が始まろうとしていた。


 **************************


 ユキト達がサブシアへ帰還して4ヶ月程が経過した。


 ザンブルク司教は当初の言葉通り、定期的にサブシアへやってきていた。やってきた司教は、司祭職へはまだ復帰しないのかとストレィに小言を言ったり、領内で変わった作物ばかり育てているが飢饉の心配はないのかとユキトに対してお節介を焼いたりしてくる。


 しかし、ジャガイモが収穫された記念に開いた収穫祭で、じゃがバターを食べさせてやって以降は、作物に関するお節介は一切なくなった。代わりに来るたびにじゃがバターを食わせろと要求してくる。随分と気に入ったようだ。


 また、紙の生産も順調である。王都へもそれなりの量を納めるようになっており、町は好景気に沸いている。更には、ストレィが試作した活版印刷機を始め、織機などの産業機械も製作され、サブシアでは世界(ディオネイア)の常識では考えられない高効率での書籍や織物の生産が可能となっていた。


「サブシアの工房は魔法を使っているのではないか」


 王都の商人の間では、そんな噂すら流れている。


 一方、サブシア産の新しい作物の噂も広まっている。特にジャガイモは王領やラング公爵領を始めとして、他の貴族領でも栽培が開始されていた。寒冷地でも育ち、鳥害にも影響されず、味も優れているとあって、ジャガイモは各地で引っ張りだこだ。100日程度で収穫できる点も大きい。


「ラング閣下、我が領にも是非にジャガイモを」


「私の領にも! 寒冷地ゆえ麦の育ちが悪いのです。なにとぞ!」


 領地経営で食糧問題は重要だ。ラング公爵もジャガイモの配布を通じて、その地盤をより強固なものにしていた。


「うん、少し分けてあげるから持って帰るといいよ。ただし、これはシジョウ卿からもらった作物だからね。御礼を言うなら彼にね」


 そんな経緯もあり、今やアスファール王国のサブシアと言えば、技術、農作物、文化の発信地として、その名が広まりつつあった。しかも治めているのは、七極(セプテム)すら退けたアスファールの英雄シジョウ冒険爵だ。サブシアはまるで伝説の地のような人気である。


 そうなると人口も激増する。アスファール王国では、領主の許可なしでの移領は認められていないが、ラング公爵の許可を得て、公爵領内で移民希望者を募ったり、貧窮している幾つかの寒村を丸ごと受け入れたりしている。ジャガイモなどを使えば、寒村を立てなおすことも可能なのだろうが、ラング公爵なりの礼であろう。


 サブシアとしては、今は人手がいくらあっても足りない状況なので、人が増えるのはありがたいのである。





「うーん、建築ラッシュで町が混沌としてきたな」


 領主館の窓から外を眺めるユキトは、外の景色にそんなことを呟く。


 ユキトが領主の館として使っている屋敷は、当初はそれなりの建物だったのだが、サブシアの町の急速な発展により、だんだんと目立たないようになってきた。周囲に大きな建物が幾つも建設されているのが原因である。


「ユキトが色んな加護をばら撒いたからじゃないの?」


「既存の技術を技術書にまとめたのも大きいですわね」


 ファウナのツッコミ通り、ユキトは信頼できると判断した大工の棟梁や鍛冶の頭領に、技術を向上させる加護を与えていた。鍛冶の神である『天目一箇神(あめのまひとつのかみ)』をモチーフにした加護や、工匠の守護神とされる『手置帆負命(たおきほおひのみこと)』をモチーフにした加護である。ユキトは全く名前を知らなかった神様だが、これも電子辞書のおかげだ。


 更にはフローラの言うように、技術書の存在も大きい。サブシアでは、建築や鍛冶に必要となる基本的な技術を書籍にまとめ、活版印刷機で大量に印刷し、建築ギルドと鍛冶ギルドに貸し付けてある。これにより、若手職人も自分で学習することができ、効率的な技術修得が可能となりつつある。


「町が大きくなるのはいいことですが、早すぎるのも問題ですな」


 セバスチャンが焼き芋をほおばりながら、話に参加してきた。


「フローラの親父さんのウィンザーネ候も一部の領民をこっちに移してくれるって言ってるし、こっそり移り住んでくる奴らもいて、まだまだ人口は増えそうなんだよな」


 領内の安定を図るのが領主の仕事である。そういう意味では、急激すぎる発展は歪みを生じさせかねないものだ。今のところは万事が上手くいっているようだが、何か問題が生じたときに一気に破綻する危険も秘めている。


「町の範囲を広げてしまえば良かろうに」


 発言したのは、セバスチャンの向かいで同じように焼き芋を食べているイーラだ。残機を減らして、幼い見た目となったイーラであるが、そのままユキトのところに居候を決め込んでおり、旅立つ気配はない。その見た目に合わせて、随分と人格も丸くなったようだ。かつて見下していたフローラに完敗したことで何か思うところがあったのかもしれない。


「いや、既に町は広げているんだけどな」


 元々が簡単な塀で囲まれた程度のサブシアの町なので、拡張は難しくない。それもあっての建築ラッシュである。


「ならば、落ち着くまでは仕方ないのう」


「……書類が山のように溜まっていくんだよなぁ」


 建築ともなれば、領主の決裁が必要な事項も多い。ユキトの仕事は当分は減りそうになかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。中々時間がとれず、更新が2日空いてしまいましたが、どうぞ宜しくお願いします。

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