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第69話 打ち首!イーラさん!

 前回のお話

  インウィデアさんはユキトを消したい?ストレィさんのサブシア改造?エルフの極魔道士の動き?の3本です。

 

 ユキトが王都に戻れたのは、イーラを倒してからさらに1ヵ月ほど経過してからだった。


 砦周辺の天候は、雪を降らせていたイーラの魔力が突然失われたことで、1週間と少しの間、荒れに荒れていた。だが、ある日を境にピタッと快晴が続くようになり、伝書鳥による手紙の送付も可能となったのである。


 快晴となったその日、ダンマルタン子爵とユキトは早速、事の顛末を記した報告書を王都へと送っている。


 ユキトとしては、すぐに百九年蝉(こうつうしゅだん)のセミルトを呼んで王都へ、そしてサブシアへと戻りたかったのだが、解凍されたファウナの体力回復、及び砦周辺の豊かな自然を堪能するために、しばらく砦に滞在していた。


「で、イーラはどうするんだ?」


「我が国を襲撃した敵であるからな……処刑が普通なのだが」


 砦の責任者たるダンマルタン子爵には、様々な権限が与えられている。捕虜の処刑を決めることも子爵の仕事の一つであるが、野盗や一般兵ならともかく、ある程度の大物であれば王都の判断を仰ぐべきだろう。そんなわけで、大物中の大物である七極(セプテム)のイーラの処遇は王都預かりと決められていた。


「それで可能ならば、シジョウ卿にイーラを王都まで護送してもらいたいのだ」


「うーん、仕方ないな……」


 ユキトもイーラを護送するのに他に適任がいるとは思えない。今のところは大人しくしているが、魔力が回復してしまえば、魔法封じの枷など簡単に破壊してしまうだろうというのが、物知りセバスチャンの判断であった。


 幸いにして、イーラの襲撃では砦の兵士に死者は出ていない。ただし、氷系の魔物によって、ファウナのように凍らされた者が多数おり、そのうち数名は適切に解凍される前に腕や足を砕かれていた。その後に解凍されても、砕けた部位は二度と戻ることはない。他にも魔物との戦いで重傷を負った兵士は少なくない。


「俺のせいって言えば俺のせいでもあるんだよな」


 イーラを焚きつけたインウィデアが何を考えていたのかは不明だが、ユキトのとばっちりを受けて、四肢の一部を失った者がいるというのは、流石に良い気分はしない。


「シジョウ卿、兵士というのは命を失う覚悟持って役務に臨んでおるのですぞ。そのように気にされますのは侮辱に当たります!敵襲の理由などは関係ないのです」


 ユキトの呟きを耳にしたテック男爵は、ユキトにそんな注意をしてくれた。なるほど、如何にも意地悪そうな見た目のおっさんだが、兵士に人気があるわけだなとユキトは苦笑いした。


 **************


 ファウナが充分に体力が戻ったところで、ユキトは王都へと伝書鳥を飛ばした。百九年蝉のセミルトを呼んだのである。そして、伝書鳥を飛ばして数日後には、砦の上空に巨大な蝉が飛来した。


 セミルトは、砦の上空で円を描くような軌跡で飛んだ後、砦から少し離れた位置へと降り立った。


「無事そうデなにヨリ」


 砦の門から出て、巨大な蝉の元へと向かったユキトに、セミルトが挨拶をする。ユキトは砂糖水を詰めた小型の樽を持参している。ここまで飛んできてくれた蝉への差し入れである。


「まぁ、どうにかな。とりあえず、砂糖水を準備したから、これ飲んでくれ」


「ココへ来るマデに栄養ヲ消費したノデ助かル」


「早速だが、明日には王都へ飛んでもらうからな」


「1日休めルなら充分。ブラック企業とは呼べナイな」


「ちょ、蝉。どこでブラック企業なんて覚えてきたんだよ」


「あノ乳の大きナ女が教えテくれタゾ?」


「ああ、ストレィが出所か。セミルトにサブシアまで送ってもらったんだったな。アイツ、電子辞書で何調べてんだよ……」


 ストレィにはユキトの治領であるサブシアの様子を見てもらっている。だが、蝉から飛び出した思わぬ単語に、ユキトは無性にサブシアが心配になった。


(サブシアが魔改造されてないだろうな……)


 ユキトの脳裏に近代化されたサブシアの街が浮かぶ。想像のサブシアでは蒸気機関の自動車が街中を走っていた。


(いやいや、まだ数週間しか経ってないんだし、そんなになるわけがない)


 慌てて妄想を否定するユキト。遥か遠くのサブシアでは、活版印刷機の試し刷りを始めていたストレィが「くしゅん!」とクシャミをしたのだった。




 翌日、一行はイーラを連れて王都へ向かって飛んだ。セミルトの抱えるゴンドラはそんなに大きくないので、4人も乗ればかなり狭い。イーラをどうするかが問題だ。だが、ユキトが頭を悩ませていると、ゴンドラからパキパキと音を立てて氷が広がっていく。


「これは……イーラの仕業か?」


 ユキトはイーラの方へと振り返る。


(わらわ)が乗れるように拡張しておるまでじゃ」


 イーラの言葉の通り、木製のゴンドラの床からは1名分のスペースとなる氷製の床が伸び、更に氷の椅子までもが追加されていた。


「お前、魔力戻ってんだな」


「全回復にはほど遠いぞえ? 心配せずとも暴れることはせぬ」


「ホントに頼むぞ。暴れられたら大迷惑だからな」


 ユキトもどこまで信用して良いか分からないが、イーラが本当に暴れる気ならここで魔力が戻りつつあると知らせはしないだろう。充分に回復するまで黙っておいて、油断させた方が利口というものだ。


「よし、定員の問題は解決した。じゃあセミルト頼んだぞ」



 そうして巨大な蝉がアルビ砦前から舞いあがって、2日後。一行は王都へと降り立っていた。


白竜(ホワイトドラゴン)より速かったのぅ」


 普段はドラゴンに乗っているイーラも、百九年蝉という変わった乗り物に満足したようだった。とても護送される罪人には見えない。


 まず一行は王城に向かい、そこでイーラを引き渡した。国の重要な砦を襲った大罪人であるのだ。事前に連絡を入れていたこともあり、ユキト達が到着するとともに魔法使い達がわらわらと出てきて、イーラの周囲に強力な魔封じの結界を張ったり、魔法無効化の魔道具を配置していく。


「やぁ、シジョウ卿。大手柄だね!」


 そこにラング公爵が姿を見せ、ユキトに話しかけてきた。


「まさか敵が七極(セプテム)とはね。普通はその時点で諦めるものだよ」


 ラング公爵は呆れたような表情をしながら、チラリとイーラに視線を走らせる。イーラは魔法使い達に囲まれて、大人しく立ったままだ。これから自身がどうなるかも不明なのに眉ひとつ動かしていない。心臓まで氷なのだろうか。


「で、イーラはどうなるんです?」


「王国を攻撃してきたのは間違いないので、王国法に従えば首を刎ねることになるだろうね。兵士に被害も出ている。ただし、七極(セプテム)を処刑なんて大事すぎるんだよ。他の七極(セプテム)を刺激することにもなりかねない」


 ラング公爵は難しい表情をしていた。ユキトにも理解はできる。兵士の中には腕や足を失った者がいる。王国としても攻めてきた張本人を無罪にはできるはずもない。だが、大々的に公開して処刑などすれば、他の七極(セプテム)が敵に回る可能性もある。となると、公にしないままで処刑することになるだろう。


(ラノベだと、このまま俺の仲間になるのがあるある展開なんだけどな)


 ユキトは益体もないことを考えていた。だが、国に攻めてきた者を無罪放免にしていれば、いずれ国は滅ぶだろう。


「さてシジョウ卿。僕が立ちあうので、話が広まる前にこれで彼女の首を刎ねてもらえるかな?」


 ラング公爵はとんでもない言葉を吐くと、ユキトに一振りの剣を差し出した。


「お、俺が!?」


 この世界の価値観では処刑も止む無しとは思っていたユキトだったが、まさかその役目が回ってくるとは想像もしていなかった。


「仮にもイーラ殿は七極(セプテム)だからね。この役目は一介の処刑人じゃなくて、倒したシジョウ卿がふさわしいだろう」


「ええええええ!?」


 ユキトにも心の準備と言うものがある。いきなり、イーラの首を刎ねよと言われて、ハイと斬れるものではない。ついこの前まで日本人をしていたのだ。(いとま)なら、ハイと斬りそうだが、あんな狂人と一緒にしてもらっては困る。

 そもそも倒したのはフローラだと言いたいが、まさかフローラに斬らせるわけにもいかない。


「くくくく、今更何を慌てておるのじゃ?お主は」


 場違いな笑い声が響く。声の主はイーラだ。彼女はユキトの方を見て笑っていた。やがてラング公爵へとゆっくり視線を移す。


「シジョウ卿に首を刎ねてもらえるか。中々に礼儀を弁えておるのぅ」


「ご挨拶が遅れました、イーラ殿。アスファール王国にて公爵位を賜っているラングと申します。イーラ殿が誤った情報によりアルビ砦を襲った旨は聞いておりますが、王国法に則り、処罰させていただきます」


 ラング公爵はイーラに対して丁寧な口調で語りかけた。流石に七極(セプテム)ともなると、公爵位の人間にも気を使わせる存在なのである。


「ふむ。(わらわ)もまさか負けるとは思っていなかったがのぅ。まぁ、王国としては見逃すわけにはいくまいな。さ、シジョウ卿、早うせぬか」


「えええええ!?」


 ユキトの背中はしっとりと濡れている。冷や汗がタラリと耳の後ろを流れていくのが分かる。


(手や足を失った兵士もいるし、国を襲った相手を無罪に出来ないのは分かる。法律に則って首を刎ねるのも仕方ない。そして、一介の処刑人にやられるよりは、自身を倒した俺にってのも理解できる)


 ユキトも理屈は理解できる。だが、覚悟が決まらないだけだ。


「早うせんか。お主がやらねば、首切り役を他の者に代えられてしまうではないか」


 イーラは軽い調子でユキトを煽ってくる。


「……わ、わかった」


 ユキトはゆっくりイーラに近づくと、彼女と目を合わせる。冷たく透き通るような目だ。ユキトと目を交わし、イーラは軽く頷いた。


 そして、ユキトの横薙ぎの一閃がイーラの首を刎ねたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ユキト「こういう引きの時は死んでないパターン」

フローラ「ちょっと何で言っちゃうんですか!」

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