表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/196

第68話 確認!各地の様子

 前回のお話

  ようやくイーラからの誤解が解けました。

 

「で、俺が七極(セプテム)を狙っているなんて誰が言ってたんだよ?」


 ユキトは肝心な点をイーラに確認する。ユキトの考えでは、その候補は3通りだった。


 まずは王国と敵対しているというハルシオム皇国とやら。敵対しているアスファール王国に、単身でジコビラ軍を壊滅させるような冒険者が出てきたと聞けば、その対策も打ちたくなるのも道理だろう。

 次点の候補はそのジコビラ連合だ。バロンヌへ攻め込んできた国であるが、冒険者1人にしてやられたとなれば、仕返しのために最強と名高い七極(セプテム)に力を借りるという発想が出てきそうなものだ。

 そして最後の可能性として、虚井 暇(うつろい いとま)。あの奇妙な男なら、特に理由もなしに、嘘を流すことぐらいやりかねない気がする。


 だが、イーラから出てきた名前は意外なものであった。


「ああ、その情報はインウィデアからじゃ」


「インウィデア?」


 意外というよりもユキトが知らない名前である。いや、どこかで聞いた気もするが、どこだったろうか。


「知らぬのか……インウィデアを知らぬ者が七極(セプテム)の座を狙っているはずがないのぅ。インウィデアは七極(セプテム)の1人じゃぞ?」


 呆れた表情でイーラが説明してくれる。ユキトもどこかで聞き覚えがあると思ったら、どうやら七極(セプテム)の1柱だったようだ。


「思い出した……復讐の神とかいうヤツだ」


「そう呼ばれておるのぅ。ヤツの使い魔から聞いた情報じゃ」


 ユキトとしては、七極(セプテム)に恨みを買うような真似はしていないつもりだ。名前すら覚えていなかった相手であるのに、流言を飛ばされる心当たりがあるはずもない。今回の戦いで七極(セプテム)の実力を痛感したが、そんな恐ろしい存在とはできるだけ関わりたくないというのが本音である。


「ふむ……(きゃつ)(わらわ)をたばかったのか、それとも元の情報が間違っておったのかじゃな」


 イーラは天井を見つめながら呟く。


(これは俺の命が狙われているってことか? 確かに俺の能力を使えば、イーラも簡単に倒せたくらいだから、危険因子として念のために消しておきたいってことかもしれないが……)


 ユキトとしては、念のため程度で殺されてはたまらない。充分に用心が必要である。


「やっぱり七極(セプテム)に絡まれる展開になったか……」


 異世界の実力者に目をつけられる展開は、元の世界で読んだラノベでも一般的ではあったが、やはり避けられないものらしい。ユキトは大きく溜息をつくのだった。


 **************************


「ええ、その植え方でいいわよぉ」


 ユキト達がファウナの体力が回復するまでとアルビ砦に滞在していた頃、ストレィはサブシアの町で領主代行として、領内の状況の確認を行っていた。本日は、王都のユキトから送られてきた作物の栽培実験の監督である。ストレィはユキトから借り受けた電子辞書を使って、それぞれの作物の栽培法を確認していく。サブシアの農民たちはチラリチラリとその胸に視線を奪われつつも、農地で土にまみれながら指導してくれるこの領主代行をすっかり受け入れていた。


「おい、タゴロス……領主代行のストレィ様っていいよなぁ」


「ああ。やっぱり英雄だとあんなでかい女性と知り合えるんだな。領主様が羨ましいぜ」


「胸だけじゃなくて、自分が汚れるのも気にせずに、畑の中に入って来て作物の状態を確認してくれるのも感動だよな」


「これらの作物をしっかり実らせて、ストレィ様に喜んでもらわねぇと」


 サブシアの町に届いている新しい作物の数々。トマト、じゃがいも、さつまいも、コメ等。農民達は領主であるユキトが王都で買い付けた珍しい作物だと思っているが、実際にはユキトの加護により産み出された地球の作物だ。土の相性や病害虫への耐性などの問題があるかもしれないので、異世界の地での栽培が必ず上手くいくとは限らないが、成功すれば地域の発展に大いに貢献するだろう。実際、じゃがいもの栽培は現在までのところ順調である。



「ストレィ様ぁ、例の試作が出来ましたぞ」


 ここで畑の傍にタンドール町長が姿を見せ、畑の中で土の様子を確認しているストレィに向かって声をかけた。


 ストレィは農具の改良にも手を出している。現代農業のコンバインやトラクターは無理だが、電子辞書を通じて確認した鋤や犂の改良はすぐにできる。今回作ったのは、踏車という足踏み揚水機である。踏車は、竜骨車という名前の複雑な揚水機をシンプルにした作りである。人間が脚で回転させる水車のようなものだ。


「ありがとぅ。それで動きはどう?」


「はい、問題なく動作しております。西の荒地で、池の水を押し上げるのに重宝しそうですな」


「よかったわぁ。紙の生産も順調かしらぁ?」


「コウゾ? でしたか。使用する木々の種類を指定して頂けたおかげで品質が非常に向上しました。あれならば王都にも卸せるでしょう」


「畑にまく肥料の配布は終わったの?」


「ええ、効果が楽しみです」


 タンドーラ町長がニコニコしているのは、ストレィの胸が大きいからだけではない。ストレィからもたらされた知識が町の様々なところで実を結んでいるのだ。もちろん出所は電子辞書であるが、サブシアの人々からは「今度来られた女領主代行のストレィ様は、胸だけでなく知識も豊かでいらっしゃられる」と評判である。


 もちろん、ストレィとしても電子辞書から知識を引き出す作業が楽しくてしょうがない。ストレィは、電子辞書に付属の漢字学習ツールで学習を進めているおかげで、かなりスムーズに漢字を読むことができるようになっている。そんなストレィが現在、最も嵌まっている事が、活版印刷のための装置の試作だ。現在は許可をもらって職務から離れているとは言え、総教会の司祭という肩書も持っているストレィとしては、聖典の印刷などに効果的だと考えている。ユキトから与えられた生産系の加護「秘密道具の加護」の力もあって、何度かの失敗を挟みつつも試作品は正常に動作するようになってきていた。活字さえ揃えれば、実際に聖典の印刷も可能なレベルになりつつある。


「それにしてもユキトくん、遅いわねぇ」


 ストレィがサブシアに来てからすでに2週間程が経過している。まさか七極(セプテム)と戦ったとは思っていないので、砦の防衛に手こずっているのかと気になっていた。ストレィもユキト達が異世界由来の加護によりとてつもない戦闘力を持っていることは知っているが、実際に目にしたのはファウナによる闘技場(コロッセウム)の破壊程度だ。やはり心配であった。


 もっとも、心配をしながらも、電子辞書を占有する楽しさにすっかり嵌まっているのだが。


「さて、今日は化学式を調べてみようかしらぁ」



  ***********************



「アウリティア様」


「……何事であるか」


 アスファール王国の北に広がる地、そこはエルム山地と呼ばれている。このエルム山地には、ドワーフやエルフといったヒトとは異なる種族が住みついていた。その中でも最も栄えているのがエルフの国である。国と言っても、ヒト族のそれとは異なり、エルフ達の国とは、里の集合体のようなものだ。


 その里の中でも2番目に大きく、そしてヒト族から秘匿されている里がリティス。このリティスは七極(セプテム)の1柱として知られるエルフの極魔道士アウリティアが治める里であった。


 漆喰で塗り固められた白壁がまぶしい部屋の中で、木を編んで拵えた椅子に座っている見た目は40代程度の男。この男こそがアウリティアである。極魔道士と呼ばれるだけあって、男の周囲には高密度の魔力が漂っている。


「はい、アウリティア様。少量ですが王国で新しい『紙』が出回っているとのことです」


 報告を持ってきたエルフが背を伸ばして、回答する。まだ若いエルフで緊張しているようだ。


「どこで生産されているものかは不明ですが、我らのものとは少々製法が異なるようです」


「ほう? 人間達が『紙』の製法を解き明かしたか?」


 アウリティアは面白そうに椅子から身を乗り出した。


「我々の技術を盗んだのかも知れません! 引き続き調査をします!」


 若いエルフはそう言うと、部屋を後にした。自種族の技術に誇りがあるのだろう。一方で部屋に残されたアウリティアは何やら愉快そうな笑みを浮かべた。


「調査の結果次第だが、久々に王国に行ってみるのも面白そうだな」


 ユキトとアウリティアの衝撃の出会いの数カ月前の出来事であった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。風邪は治ってきたけど咳がなかなか取れない…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ