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第63話 襲来!氷結竜!

 前回のお話

  氷結の魔女イーラさん「お前、(わらわ)を倒すとか言うとるん?」

 

「なるほど、氷結の魔女か……」


「感心している場合ではありませんぞ! シジョウ卿が抱いた野心の代償として我らの砦が襲われているのですぞ!」


 期待の援軍として砦に招き入れられたユキト達は、兵士達の歓迎の声を浴びつつ、砦の責任者であるダンマルタン子爵と副官のテック男爵と面会していた。


 ダンマルタン子爵は、短く刈り揃えられた頭髪と四角く大きな顔、がっちりした体格を有しており、いかにも武人という外見である。一方のテック男爵はひょろりと痩せた長身の男で、ストレートパートの髭を神経質そうにいじっていた。


 当初こそ、援軍に来たのが王都で武勇を轟かせるシジョウ冒険爵その人であることを歓迎していた2人……であったのだが、ユキトがイーラの話を報告したあたりから、風向きが変わってきたのである。


「シジョウ卿が氷結の魔女を倒すなどと吹聴するから、こんなことになっているのです! 我らは巻きこまれただけではないですか」


 特にテック男爵は、砦が攻撃されているのはユキトのせいだと言わんばかりである。まぁ、イーラ本人がユキトを狙っている旨を発言しているので、あながち的外れということもないのだが。


「いや、でも俺はそんな発言はしていないんですって」


 一方のユキトにしてみれば、言ってもいないことで命を狙われているわけで、堪ったものではない。訂正すべき点はキッチリと訂正する。


「副官、シジョウ卿もこう言っておるし……」


「火の無いところに煙は立たぬと申します。何か魔女を怒らせるような言動をなされたのでは? 魔女の目的がシジョウ卿だとすれば、我々はシジョウ卿を誘き寄せる餌に使われたのですぞ」


 恐らくはテック男爵の読みは正しい。イーラは王国の重要拠点を魔物に襲わせることで、冒険爵であるユキトが派遣されてくるのを待ち構えていたのだろう。


「ふぅ……」


 テック男爵の言葉を受け、溜息をついて天井を仰ぐダンマルタン子爵。相手が普通の敵ならば、シジョウ卿と一緒に攻め倒してしまえば良いだけの話だが、相手は七極(セプテム)の一角である。兵の命を無駄に散らせるわけにはいかない立場としては頭が痛い。シジョウ卿に単独でイーラに挑んでもらえば、砦は見逃してもらえるかもしれない。


「どちらにせよ、明日になれば氷結竜(フリーズドラゴン)をけしかけてくるそうですわ」


 ユキトに責任を負わせても何も進展はしないとばかりにフローラが口を開いた。ダンマルタン子爵は声の主に視線を向け、何かを思い出したように眉を跳ねあげる。


「おや、そちらはウィンザーネ侯爵の御息女、フローラ嬢では?」


「はい、フローラ・ウィンザーネです。ダンマルタン卿、御挨拶が遅れまして申し訳ありません」


「もう5年以上前にバロンヌでお見かけしたことがあるが、美しくなられた」


「ありがとうございます」


 ダンマルタン子爵は過去にバロンヌを訪れたことがあるようだった。子爵は当時を思い出しつつ、ぐっと美しくなったフローラに対して質問を投げかける。


「シジョウ卿が氷結の魔女を挑発するような言動をしていないというのは本当かな?」


「ええ、私が保証しますわ」


 ダンマルタン子爵はフローラの噂を聞いていた。侯爵の娘でありながら、その手で人々を助けたいと願い、冒険者として領内を回っているというのだ。その噂を聞いた時、子爵は大いに感心したものである。そのやり方が効率的かは別にして、貴族としては珍しいタイプだと。子爵には、そのような女性が嘘を述べるとは到底思えなかった。それに先ほどから話しているシジョウ卿本人も野心に溢れるタイプにはとても見えない。


「ふむ……となると、やはり皇国が氷結の魔女に何かデタラメを吹き込んで、ついでにこの砦への攻撃も勧めたのかもしれんな」


「むぅ、それは……ありえますが」


 子爵の推測にテック男爵も同意を示す。ここ数年、皇国と王国の国境戦線はほぼ動いていない。皇国が何か新しい手を打ってくることは充分に考えられた。


「シジョウ卿は氷結竜(フリーズドラゴン)に勝てるか?」


 ダンマルタン子爵が武人特有の鋭い目でユキトに問いかけた。どうやら子爵はイーラに挑む覚悟を決めたようだ。


「勝てます……と言いたいところですが……。 フローラ、氷結竜(フリーズドラゴン)ってのはどんなドラゴンなんだ?」


「それは私が説明しましょうかな」


 フローラの代理として、氷結竜(フリーズドラゴン)の説明役はセバスチャンが買ってでた。ユキトもセバスチャンの知識には信を置いており、不満はない。


白竜(ホワイトドラゴン)と同じく、氷属性のドラゴンですが、白竜(ホワイトドラゴン)が下位竜として扱われるのに対し、氷結竜(フリーズドラゴン)は上位竜です」


「前に倒した山岳竜(ベルクドラク)は中位竜だから、あれよりも強いってことだな」


「そうなりますな。氷結竜(フリーズドラゴン)白竜(ホワイトドラゴン)よりも2回り程度は大きく、その身体は白い霜で覆われた氷で構成されています。冷凍ブレスを吐き、全てを凍らせる存在だと言い伝えられておりますぞ」


 どうやら、氷結竜(フリーズドラゴン)はこの世界の魔物の中でもトップクラスに強大であるようだ。他にも、この世界(ディオネイア)で一般的に知られる上位竜には、灼熱竜(インフェルノ)死極竜(デスウィング)碧海竜(ディープブルー)などがいるが、どの竜も伝説的な存在として伝えられている。


「しかも、氷結の魔女の従えている氷結竜(フリーズドラゴン)は、種族の中でも特に強大だとか」


「うげぇ……残り少ないけど、魔力補給用の(アンブロシア)もあるし、巨人化して光線で一気にかたをつけるしかないか」


 長期戦ともなれば、払うべき犠牲も大きくなりそうだ。そう判断したユキトは出来るだけ早期に勝負をつける方針を固めた。百九年蝉のときは、生け捕りというワードが頭にあったので、巨人化して放った光線も手加減していたのだが、今回はフルパワーで撃つつもりだ。


「勝ち目がないわけではなさそうだな」


 ダンマルタン子爵は、ニヤリと笑うとユキトの背をバンバンと叩いた。正直痛いが、彼なりの激励なのだろう。一方のテック男爵は不機嫌そうな顔をしたまま、そのピエール的な髭をいじり続けていた。


 ***************************


 ダンマルタン子爵の計らいで、温かい食事と寝具にありついたユキト達は、翌朝には砦の城壁の上に集結していた。寒さ対策として周囲には火を焚き、時間までは指定されていなかった氷結竜(フリーズドラゴン)の来襲を待ち構える。


 子爵と交渉し、兵士達は全員砦の中に籠ってもらっている。もし共に戦ったとしても、氷結竜(フリーズドラゴン)は弓矢による攻撃が通じる相手ではなさそうだし、犠牲者が増えるだけだろう。それに第3者に見られているとフローラは変身できないのだ。さらには、ユキトとしても銀色の巨人に変身した姿は出来れば目撃されたくなかった。ネロルの街の付近で目撃されたときの騒動が頭に残っているのである。


氷結竜(フリーズドラゴン)が来る時間をイーラに聞いておくべきだったな」


「これで夜に来襲したら、どうするのよ。風邪ひいちゃうわ」


 身体が細いファウナは、寒さにも弱いのだろうか。少なくとも耳は冷たそうだ。


「兵士の皆さんは砦の奥に?」


「ああ、覗きに来たら危険だって言ってある。フローラも変身できると思うぞ」


 第3者が見ていなければ、フローラは魔法少女に変身できる。防護魔法(プロテクション)等は氷結竜(フリーズドラゴン)のブレスを防ぐのに役立つはずだ。


 ここで、遠くを見つめていたセバスチャンがピクリと反応した。


「皆さま……姿を現したようですぞ」


 セバスチャンの言葉を受けて、会話を交わしていたユキト達も同じ方向に顔を向ける。すると、北側の山脈の上空に何やら大きな影が認められた。白っぽいその影は少しずつ大きくなっていく。巨大な何かがこちらに近づいているのは間違いない。


「よし、速攻で決めるぞ」


「後にはイーラも控えてるんだからね」


「分かってる。フローラも、大丈夫だな?」


 ユキトはフローラの目を見て、声をかける。


 昨夜、ユキトはフローラに過去にイーラと何かあったのかと尋ねた。イーラに対するフローラの様子に違和感を感じていたためだ。初めは渋っていたフローラであったが、やがてポツリポツリと過去のトラウマとなった記憶を話してくれた。


 この世界では、才能の無い者にそれを告げるのは優しさというケースもあるだろう。力なきものが自分を過信して冒険者となれば、命を落とすのだから。だから、ユキトはイーラの態度が間違っていたのかは分からない。聞いた範囲では、決して優しさからの言動ではなさそうだが、イーラの本心は本人にしか分からない。だが、ユキトはフローラが努力していることを知っている。今もフローラが毎晩魔法を練習しているのも知っている。ならば、ユキトはそれを支えるだけだ。


「ええ、ユキト様。大丈夫ですわ」


 フローラは澄んだ瞳でユキトを見つめつつ、力強く頷く。


 その頃には、砦の北の上空に巨大な氷のドラゴンの姿がはっきりと確認できた。その頭の上には冷たい微笑みを浮かべた美女が立っている。さぁ、七極戦(セプテムとバトル)だ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや評価もありがとうございます。

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