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第56話 電源オン!文明開化!

 前回のお話

  ストレィは主人公に謎のメカを渡してくれる発明係に就任した。

 

 ユキトがストレィに加護を付与(エンチャント)して、5日間が過ぎた。その間に電気や電流の概念についてストレィに教えたり、魔法の授業においてユキトも小さな炎を(とも)すことに成功したり、アントニーの父であるアンバルト侯爵がユキトに謝罪に訪れたり、とそれなりに色々なイベントが発生した。


 アントニーの騒動については、アンバルト侯爵からの謝罪もあったので、ファウナがアントニーを一発殴る件は保留である。死刑を延期したとも言う。


 そして、肝心の電池の充電である。5日後のその日は、学校も休みだったのだが、朝からストレィがユキトの部屋に押し掛けてきた。


「これ、成功したと思うわぁ」


 ストレィの手には、充電済みであるという単三電池の姿がある。見た目では充電されているか否かは分からないので、確認するには実際に電子辞書に入れてみるしかない。


「とはいえ、2本要るんだよな……もう1本にも充電してもらわないと成功したか分からないぞ」


 ユキトの電子辞書は単三電池が2本必要だ。1本だけでは確かめることもできない。


「ふふふ。これを見てよぉ」


 ストレィが悪戯っぽい笑みを浮かべて、テーブルの上にもう1本、電池を置いた。先ほどの電池と全く同じものだ。


「あれ? 1本しか貸してないよな?」


物質複製(コピー)の魔法よ」


 どうやらユキトから付与(エンチャント)された加護の力もあって、あるアイテムを複製する魔法が使えるようになったらしい。ただし、魔力についてはコピーできないので、伝説の武具などを複製することはできない。


「電池には魔力は関係ないでしょ? 実験中に失敗する可能性があったから複製魔法で増やしておいたわぁ。実際、何度も爆発させちゃったしねぇ」


「便利な魔法だな。なんでも複製できるのか?」


 爆発という単語が聞こえた気がしたが、ユキトはスルーしておく。


「複雑さで言えば、電池くらいが限界ねぇ。電子辞書は複製できそうにないわ。それに魔法を発動させるためには媒体として、金や白金を消費するのよ。金貨を増やして……というわけにはいかないわねぇ」


 やはり無限に金貨を増殖させたりはできないらしい。そもそも腕の良い魔道具師に莫大な魔力を使わせて、金貨を1枚増やしたところで、人件費的には赤字である。


「とにかく、充電済みの電池が2本揃ったな」


「充電の仕組みは簡単だったけれど、流れを一定にするために圧を調節する必要があったのが大変だったわぁ」


 ユキトも充電については詳しくないので、ストレィのセリフが飲み込めなかったが、ニッケル水素充電池の充電は、電圧を調整して電流を一定にする定電流充電方式となっているのだ。ストレィは、そこに辿りつくまでに何度も電池を爆発させており、複製した電池の本数は10本以上になる。


「ありがとう。色々と苦労してもらったみたいだな」


 ユキトもストレィの苦労に感謝を述べる。


「身体で払ってくれればいいわよぉ」


 ストレィの冗談を無言でスルーしたユキトは、さっそく電池を電子辞書にはめ込む。さぁ、いよいよ文明開化だ。


「いくぞ、ポチッとな!」


 定番の掛け声とともに、ユキトは電源ボタンを押した。やがて電子辞書の画面がうっすらと輝きを取り戻す。


「よっしぁー!!! 成功だ!!」


 ユキトの背後で画面を覗いていたファウナも目を丸くしている。


「すごい、文字が映ってる……読めない文字もあるけど」


「画像も入ってるぞ、ほら」


 ユキトは内蔵されていた百科事典で「城」を検索し、資料画像を画面に表示させた。


「随分と精密な絵ね……それに立派だけど変わった建物ね」


「俺の国の古い城だ。熊本城と言う」


 ファウナの目に映った城は、王国の建築様式とはまるで異なるものだった。威風堂々としており、王城とはまた異なる美を輝かせている。


「ねぇ、ユキトくぅん。私にも見せてよぉ」


 横からストレィも画面を覗きこんでくる。もちろん、功労者である彼女にも見る権利はあるのだが、ユキトの腕にスイカ並の胸を押しつけてくるため、ファウナが物凄い目でユキトを睨んでくる。


「へぇ、すごいわぁ。でも、確かにこの文字が読めないわね」


 ストレィとファウナが読めないと言っているのは、漢字だった。逆を言えばひらがなは読めていることになる。


「やっぱり、言語が自動で翻訳されているわけじゃないんだな……」


 これで、世界(ディオネイア)で使用されている文字は、日本語のひらがなだという事実がほぼ確定した。当初は『まろうど』であるユキト自身に異世界テンプレの言語チートが働いているのかと思っていたが、ファウナとストレィが電子辞書のひらがなが読めるということで、その仮説は取り下げざるを得ない。


(これは日本とこの世界(ディオネイア)につながりがあるってことだよな……)


 ユキトはこの世界には何か自分の知らない秘密があるようだと推測する。一方、女性2人はユキトの考え込んだユキトを余所に、電子辞書に夢中である。


「読めない文字はともかく、他にも色々とあるんでしょう? 見せてよぉ」


 好奇心に対して素直なストレィだけでなく、ファウナも目を輝かせて画面を注視している。


「仕方ないな。じゃあ、今の俺の領地で試行中である紙の作り方から見てみよう。折角だし、フローラ達も呼ぶか」


 フローラとセバスチャンもユキト達と同じく寮に入っている。今後のことを考えても、電子辞書のお披露目に立ち会ってもらうべきだろう。


 2人も暇を持て余していたようで、すぐにユキトの家に集合した。なお、呼びつけについては、ユキトが超能力の加護で得た「テレパシー」が活用されている。寮の敷地内であれば、強く念じることで、念話を送ることが可能なのだ。




「これは凄まじいですな」


 電子辞書を見たセバスチャンは唸りながら、そう評価した。彼の目から見ても、このアイテムは王国の常識を一変させる力があるように思われた。


「ユキト様の国の絵…しゃしんと仰いましたか? もっと見たいですわ」


 フローラはユキトの故郷の大都会の写真に仰天していた。話には聞いていたが、百メタ以上の建物が立ち並ぶ様は、まさに異世界であった。


「私はもっと技術に関することが知りたいわぁ」


 胸を密着させながらストレィがおねだりするのは、技術的な情報だ。


「さ、さっきのコアラって動物……もう一度見れない?」


 ファウナは異世界の愛らしい生物に心を奪われた様子である。


「待て、落ち着け。電子辞書は逃げないから」


 各人が色々と希望を挙げだしたので、ユキトは慌ててそれを制する。そもそも5人で覗きこむには画面が小さすぎるのである。


「まずは、紙の製法以外にも俺の領地で活用できそうな情報を取り出して、手紙で領地(サブシア)に送っておく。俺が帰るまでに向こうでも色々と試行してもらおう」


 ユキトは、手始めにコウゾやミツマタの写真を絵に写していく。さらに百科事典で調べた紙の製法についても、事細か手紙に記す。既にサブシアでは紙の製法を色々と試しているはずだが、この内容を送ることで試作が飛躍的に進むだろう。


「あとは順番で使ってくれ。1人あたり、この砂時計が落ちるまでな」


 ユキトは電子辞書に使用を交代制と定め、簡単に使い方を教示した。兄弟が多い家庭のゲーム機のようである。もっとも、誰かが調べ物をしている間も、残りのメンバーは背後から覗きこんでいる。


「なにこのカバって動物! かわいい」


「ファウナ……見た目は可愛いけど、そいつに随分と人間が殺されているからな」



「ユキト様! この赤と白の塔は美しいですわね」


「東京タワーってんだ。333メタの高さがある」



「ねぇ、この活版印刷(かみをするぎじゅつ)すごいわぁ!」


「ストレィ、狙ったようにチート知識見つけたな……」



「ふうむ、ユキト様の世界の御婦人の下着は進んでおりますなぁ」


「おい、セバスさん。何を調べてんの?」



 皆が調べる内容は、各人の興味が如実に反映されているようだ。漢字は読めなくとも、図示されていることで内容は掴めるらしい。パーティーメンバーが異世界の知識を楽しんでいるところを見て、ユキトもふと調べたい事を思い出した。


(そう言えば、俺ってアニメとか漫画の加護ばかり使ってるけど、そもそもは日本の神様をモチーフにできるんだよな。古事記の神様について調べてみるか……)


 こうしてユキトのチート能力がまたパワーアップするのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマ、評価にも大変感謝です。



10/8 ストレィが「活版印刷」の漢字を読めていたので、ちょっと修正しました。現状では、ユキト以外のメンバーは図やひらがな部分のみで内容を判断しています。

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