第54話 勘違い!?探偵失格であります!
前回のお話
先生に注意されたユキトに、今度は怪しい女性のハニートラップがせまる!?
「ストレィ、ユキト殿と何を話しているのかな?」
会話を交わしていたユキトとストレィにまた別の女性が話しかけてきた。その女性はショートの髪とファウナに近いスレンダーな体型を有しており、黒をメインカラーとしたセクシー路線のストレィの服装とは対照的に、白を基調とした落ち着いた衣装を纏っていた。必然的に彼女が醸し出さす雰囲気も清楚なものになっている。
「えーと、確か同じクラスの……」
「バルバラという。よろしく頼むよ」
清楚系美女はバルバラと名乗り、にっこりと微笑んだ。ストレィの肉感的な魅力とは異なり、こちらはこちらで健全な美女と呼ぶにふさわしい。
(こっちが総教会の司祭さんだろうな……)
ユキトのクラスには、娼婦街の総元締めである伯爵家の娘と総教会の女性司祭がいるとフローラが言っていた。ユキトはフローラの情報と目の前のピースを組み合わせていく。
対照的な2人であったが、意外というべきか、だからこそというべきか、ストレィとバルバラはとても仲が良いらしく、バルバラに引っ張られるようにストレィは教室から連れ出されていく。どうやら放課後に一緒に菓子を買いに行く約束をしていたらしい。
「約束を忘れるとはひどいな。そんなにユキト殿が気になったのかい?」
「そうなのよ……って引っ張らないでぇ」
なんだか気になるガールズトークをしながら、2人は去っていった。面倒なことにならなければいいがとユキトはため息をつきながら、セバスチャンに学校内を案内されているファウナを探すべく、教室を後にした。
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30分ほどの捜索の後、無事にファウナを見つけたユキトは、2人でこれからしばらく暮らすことになる寮へと足を踏み入れた。
学校の寮は、貴族向けということもあり、なかなかに広い間取りだ。キッチンを備えたダイニング兼リビング、さらに個室が2つ付いている。片方は付き人用の部屋だ。
「おお、これは豪勢な」
「こ、ここにユキトと……暮らすの……?」
今更であるが、ファウナは長い耳の先まで赤くなっている。一つ屋根の下で男女が……というと外聞が悪いが、実際、貴族によっては付き人が性欲の処理役を兼ねている例もある。大切な跡取り息子に悪い虫がついては困ると、女性の付き人をあてがっているのだ。もちろん、その場合の両者の関係は恋人などではなく、単なる従者と主人の関係である。
もちろん、ユキトもいきなりファウナに手を出すつもりはない。ユキトから見ても、充分にファウナは魅力的であるが、こういうのはもっと手順を踏んでからと考えている。そもそも、このエルフは襲いかかって勝てる相手ではない。
(一緒に暮していれば、色々と進展はあるよな……きっと)
そんな控えめな下心を持ちつつ、ユキトは部屋を見て回る。一方、ファウナは小さい方の個室を自分の部屋と定めたようで、既に自分の荷物を運び込み、引き出しなどへと収納し始めていた。6畳ほどの広さで、ベッドと簡単な木製のチェストが備え付けられている。
「部屋のドアは勝手に開けないでね! 勝手に開けたらビンタは覚悟してもらうわよ」
荷物を整理する手を止めることなく、ファウナはそんな恐ろしいことを言い放つ。そのビンタはドラゴンにもダメージが通るだろう。今でもファウナが毎日の鍛錬を欠かしていないことをユキトは知っている。
「分かった、俺も命が惜しいからな。決して開けない」
「……その言い方も腹が立つわね」
開けないと宣言したにも関わらず、金髪エルフのご機嫌の傾斜が増していく。無体な話である。ユキトは慌てて話題を変えることにした。
「ところで、俺のクラスに女性が2人いるの知ってるか?」
「あー、リムス家の御令嬢と教会の司祭様ね?」
「ファウナ、良く知ってんな」
「ユキトのクラスメイトについては、セバスさんから色々と聞いたのよ。そうだ、さっき2人に会った時に伝言メモを預かったわ」
「え?」
セバスチャンと校内を回っていたファウナは、連れだって菓子店へ向かう2人と出会い、その時にユキトに渡して欲しいとメモを手渡されたのだという。
「ど、どっちから?」
「司祭様の方よ」
(あれ? バルバラさんの方か)
ユキトは、ここまでの流れからストレィからのメモだと思っていたので、意外に思う。バルバラがユキトに何の用事だろうか。ファウナは懐から丸められたメモを取り出し、ユキトに手渡した。紙ではなく羊皮紙の小片である。
「なになに……明日の朝に3階の第3講義室の前に来て欲しいだと。これって呼び出されたってことだよな」
ユキトは教会の司祭様から呼び出されるようなことをした心当たりはなかった。
「えー、行かなくていいんじゃないの?」
ユキトが女子から呼び出されたことに、ファウナは露骨に不満そうである。
「リムス家からならともかく、司祭様は清楚そうだったし、行っても面倒なことにはならないだろ」
「え? 清楚?」
ユキトの言葉に対して、ファウナは不思議そうな表情を浮かべた。その理由については、翌朝にユキトも知るところとなる。
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翌朝――
「なんで、ストレィがいるんだ?」
翌朝、ユキトに付いてこようとしたファウナをどうにか先に教室に向かわせ、一人で第3講義室の前へと向かったユキトを待っていたのは、なぜか巨乳オブ巨乳ことストレィであった。
(バルバラさんにメモを渡させたってことか?)
訝しむユキトに対して、艶っぽい笑みを浮かべるストレィ。
「ふふ、お誘いに乗ってくれて嬉しいわ」
「いや、バルバラさんに呼ばれたと思って来たんだけど」
「あらぁ、呼び出したのは私よ?」
ストレィは意外そうな顔で呼び出した本人であると述べる。ファウナが間違えたのだろうか。
「教会の司祭様からメモを渡されたとファウナは言ってたんだ」
「ええ、そうよ」
ユキトは混乱する。どうも話がストレィとの会話が噛みあっていない。どこかで情報が混線しているのは間違いない。混乱の元を明らかにすべく、ユキトは思考を巡らせる。何がおかしいのだろうか。
「……まさか」
ここでユキトは一つの仮説に思い当った。もしこの仮説が正しければ、全ての混乱は解消される。その仮説を検証すべく、ユキトは目の前に立つ美女に確認する。
「ストレィって……教会の司祭様なの?」
「あらぁ、言ってなかったかしら? そうよ、総教会で女性司祭をしているの」
ストレィ・アルマニャック、彼女こそが王国総教会の女性司祭であった。
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「人を見た目で判断してしまった……」
人を見た目で判断する奴は探偵失格である。そんな文句が故郷の漫画にも書いてあったとユキトは落ち込んでいる。ユキトが勘違いしたのも無理はないが、胸元の開いたセクシー衣装のストレィこそが女性司祭、清楚なバルバラこそがリムス家の令嬢バルバラ・リムスであった。
「私がリムスの家の人間だと思ってたのぉ?」
「すみません」
全てが早とちりしたユキトの責であるのは明確だ。ユキトも「そんな服を着る方が悪い」と逆ギレするほどにはクズレベルは高くないつもりだ。平謝りである。
「まぁ、いいわぁ。私がユキトくんを呼び出したのは人気のないところで確認したいことがあったからなの」
幸いにしてストレィは間違われたことを然程に気にしていない様子だ。それよりも重大な用事があるのだという。
「確認したいこと? なんだ?」
「ユキトくんって、他人に加護を与える力がある? それも特殊な」
突然の指摘にユキトは声も出せない。昨日、出会ったばかりのはずのストレィが何故ユキトの能力を看破できるのだろうか。確かにユキトはこの世界に来たときに管理者から他人に加護を付与する能力を与えられている。しかも、ユキトの世界のアニメや漫画をモチーフとした加護だ。
(落ち着け……別にバレて困るわけじゃない)
能力を正確に言い当てたストレィに対して、焦ってしまったユキトであるが、別にバレてはいけないというわけではない。まずはどうしてそんな発言に至ったのかを確認するべきだろう。
「ストレィ、どうしてそう思ったんだ?」
「ほぼ当たりかしらぁ? じゃあ順を追って説明するわ。私は趣味で魔道具を作っているんだけどね」
そう言うと、ストレィは腰に結わえつけた小さな袋から、透明な板のようなものを取り出した。
「この板を通してみると、付与された加護が霊気みたいに見えるのね。昨日、これでユキトくんを見てみたらぁ、色々な霊気が混じり合っていたの。色も形もね」
「霊気? オーラみたいなものかな。つまり、その板を通してみると相手の加護が分かるのか?」
「うーん、文字が出るわけじゃないけどぉ、似たような加護は霊気の色とか形状が同じだから予想はできるわよぉ」
「で、俺からは色んな色と形状の霊気が出ていたと」
「そうなの。私が過去に見てきた中で霊気がそんな状態になるのは、付与師だけなのよぉ」
「なるほど、それで俺もそうじゃないかと思ったわけか。その魔道具ってストレィが作ったのか?」
「そうよぉ。色々趣味で作ってるのよ。自動で人参を切る魔道具とか、何も飲みたくないとき向けに使う水分を吸収するグラスとか」
使えない物も多そうだなと思うユキトだったが、ストレィの趣味が魔道具作りと聞いてある考えが浮かんだ。それは悲願とも言うべき計画だった。
「ストレィ、取引をしないか?」
「取引? いったい何の? もしかしてぇ、私の身体が欲しいのぉ?」
本当に司祭なんんだろうかと呆れつつ、ユキトは1つの提案をストレィに示す。
「いや、そうじゃなくて……電池を充電して欲しいんだ。そのために必要な加護を君に付与するから」
電池が充電されれば、英知の塊である電子辞書が使えるようになるだろう。魔道具制作が趣味のストレィに生産系の加護を付与できれば、電池の充電もしくは作成も可能ではないかとユキトは考えたのだ。ここにユキトの電子辞書復活計画がスタートした。
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