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第53話 メロン?いやスイカ?

 前回のお話

  ファウナがリングを破壊した。アントニーは死ぬ。


 その日の放課後、ユキトはクアランに職務室まで呼び出された。学校の設備を破壊したのであるから、当然である。日本でも、体育館を破壊した生徒がいたとしたら、呼び出さない学校はないはずだ。


「ユキト君、何をどうしたら、あの様になりますかね?」


 この貴族学校では、教員が集まる職員室に代わって、各教員に職務室が用意されている。その部屋の中で、困ったような顔をしてクアランがユキトを詰問する。


「えーと、アントニーから賭闘(デュエル)を挑まれまして」


「アントニー君ですか……なるほど、だから彼は早退したんですね」


「えっ!? 早退?」


「急に用事が出来たとか」


(アイツめ、逃げやがったか……)


「そのアントニーが付き人同士の模擬戦を提案してきたんですよ。で、負けたアントニーが闘技場(コロッセウム)の修理代も持つことになってます。証人もいます」


 ユキトは最も重要な修理代の負担について力説する。どう考えても安くない額だろう。ユキトが払わされるようなことは絶対回避せねばならない。


「後でその証人にも確認しますけど、きっとそういうことなのでしょうね」


 クアランはユキトを信用してくれたようで、ユキトの説明は概ね真実として受け入れられた。ユキトとしても一安心だ。


「で、だいたい予想はついていますが、原因はエルフの付き人ですか?」


 クアランは騒動の原因について確認する。どうやらファウナが原因だと予想がついていたらしい。


「よく分かりましたね」


「アントニー君は権力を誇示するものに執心する性質(たち)ですから」


「先生の予想の通り、アントニーがファウナを賭けて勝負を挑んできたんです」


 ユキトは迷惑千万という表情でクアランに説明する。クアランも苦い表情で頷いているところを見ると、アントニーの普段の行いも想像がつくというものだ。


「というわけで、俺は被害者みたいなものです。ではまた明日……」


 ユキトは軽やかに挨拶をして、部屋を出ようとする。


「ちょっと。すんなりと帰ろうとしないでください。切っ掛けは分かりましたから、どうして闘技場(コロッセウム)が破壊されているのかを説明して下さい」


(逃げられなかったか)


 仕方なく、ユキトはファウナとカーネリアの闘いについてクアランに説明する。カーネリアが魔法を封じるサークルを出現させたこと、ファウナがリングを殴り飛ばしたこと、破片が飛び散って観客席まで達したこと。魔法を封じるような相手だったので、ファウナも手加減ができなかったのだと、適当に捏造しておく。


「……ファウナさんが素手で!?」


「目撃者も大勢いますよ」


 ファウナが素手で破壊した。クアランはその事実がなかなか信じられない様子だったが、落ち着き払って目撃者に言及するユキトを見て、どうやら嘘は言っていないと認識したようだ。


「今回の責がアントニーにあることは分かりました……しかし、次回からは自重をお願いしますよ」


「善処します」


「善処じゃなくて、完全禁止です」


 クアランとしても、責があるのがアントニーであることは理解したが、だからと言って、簡単に闘技場(コロッセウム)を破壊されても困る。ユキトに対して厳重に自重を指示するのであった。



 ****************************


(思ったほどは怒られなかったな)


 ユキトは職務室を出て、教室へと向かう廊下を歩いていた。廊下には絨毯が敷いてあり、ユキトの知る学校の廊下とは随分と異なる。流石は貴族の学校といったところだ。


「ユキト様!」


 教室へと戻る途中、ユキトはフローラに声をかけられた。


「あれ? フローラ一人か。セバスさんは?」


 珍しいことにフローラの背後には、万能執事セバスチャンの姿がなかった。フローラはにこっと微笑んで、理由を話し始めた。


「ファウナさんってこちらは初めてでしょう? 何かと困ると思いまして、セバスにファウナさんを案内させています」


 フローラの計らいにより、セバスチャンはファウナに学校内の施設を案内して回っているらしい。ということは、教室に戻ってもファウナはいないということになる。


「それは助かる。ファウナにも学校を楽しんで欲しいしな」


「ファウナさんもすぐに慣れると思います。ところでユキト様、初の学校は如何でしたか?」


 フローラと2人で話すのも久しぶりだなと考えながら、ユキトは学校の感想を口にする。


「そうだなあ。懐かしいってのが正直なところかな」


 クラスという概念がある貴族学校は、ユキトの感覚では、大学よりは高校に近い。もう二度と味わうことはないと思っていたが、まさか異世界で擬似的な高校生活を体験できるとは思いもしなかった。


「そういえば、ユキト様の故郷では子どもは全員が学校に行くのでしたわね」


 日本の義務教育の概念については、ユキトは皆に説明していたが、ラング公爵を始めとしたこの世界の人々はただ驚愕するばかりだった。流石にアスファール王国では実現は難しいらしい。


「クラスメイトはいかがでした?」


「アントニーのインパクトが強すぎたな。他のヤツと話す機会がなかった」


 即答するユキトに、フローラがクスクスと笑いだす。


「ファウナさんが勝利した時のアントニーの顔ったらありませんでしたわね」


「あの顔は傑作だったな。そういえば、見届け人になってくれたバトとケントに御礼を言っておかないとな」


「バトさんと言いますとブレイブリー公爵家の次男さんでしたわね」


「なかなか良さそうなヤツだったな」


 ユキトは、熱血タイプと言わんばかりのバトの四角い顔を思い出す。嫌みもなく好感が持てる男だった。


「そう言えば、ユキト様のクラスには、総教会の女性司祭と、リムス伯爵の一人娘がいるらしいですわね。ユキト様、リムス伯爵の娘には気をつけてくださいませ」


「リムス伯爵?」


 ユキトには聞き覚えのない名前である。フローラは表情を引き締めて、ユキトに説明を行う。


「リムス伯爵は女性なのですが、リムス領には国内最大の歓楽街があって、多くの娼婦たちが働いているそうですわ」


「ほほう、歓楽街と娼婦か」


 歓楽街と聞いて、ユキトが急に興味を持ち始める。ユキトも健全な男性なのであった。


「リムス伯爵は、娼館を保護する法律を整備し、更に領内に古くから続いていた歓楽街を再開発して、急拡大させた敏腕です。その娘というだけあって、計算高く、狙った男は逃がさないと評判ですわ」


「へぇ、狙った男は……って俺が狙われるのか?」


「ユキト様は、英雄であることをもう少し自覚してくださいませ」


 フローラが言うには、王の覚えもめでたく、バロンヌを守った英雄として評判も高まっているユキトは、伯爵家や男爵家の令嬢の結婚相手としては、申し分ない優良物件と見做されているとのことだ。ゆえにリムス伯爵の娘がユキトを狙うのではないかとフローラは心配している。


「いいですか、充分に気をつけてくださいね」


 フローラは念入りにユキトに忠告を与えると、自分の教室へと戻っていった。放課後とはいえ、まだやることがあるらしい。クラブ活動でもあるのだろうか。


 フローラと別れたユキトは、そのまま自身の教室へと向かう。どうせファウナはいないだろうが、荷物は置きっぱなしだ。回収する必要がある。


「確かに俺も貴族になった訳だし、ハニートラップには気をつけ――」


 ユキトが色仕掛けには用心しようと決心しながら教室のドアを開けると、ユキトの机におっぱいが座っていた。いや、実にお見事な胸を持った女性が座っていた。


「Oh……」


 思わず女性の胸元に目が吸い寄せられるユキト。


「あらぁ? ユキトくん。戻ったのぉ?」


「あ、ああ。 えーと、君は確か……」


「ストレィよ。覚えてねぇ」


(こいつが例の歓楽街の伯爵の娘か? ……気をつけよう)


 ユキトは気を引き締める。まだ入り婿になる気はない。


「さっきは災難だったわねぇ。アントニーってば、いつもあんななのよぉ」


 ストレィの声には、鼻にかかったような艶っぽい響きがある。


 もちろん、声だけではない。お見事としか評せない胸のサイズと、反対にきゅっとくびれた腰、更にスラリと長い艶めかしい脚。そんな肉感的な身体を持っていた。しかも、胸元の大きく開いた、黒っぽい布地のセクシーな服を纏っている。


(いかんいかん……だが、それにしてもデカいな)


 自制するつもりでも、思わず目が胸にいってしまうユキト。


 これが、後に稀代の魔道具師と呼ばれるストレィと冒険爵ユキトとの出会いであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


この学園編の評価が芳しくない気がするので、とっと終えて、さくさくと新規メンバーを追加して、次の章へ進みたいところです。新しい加護も出したい。


今週は、平日が忙しいことと、これまでの文章などを少し見直したいのもあり、平日の更新は隔日程度になるかと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

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