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第49話 お勉強?貴族学校への勧誘!

 前回のお話

  日本、人多すぎだろ。

 

「ニホンの民は、狩猟や農業を営んでおるのか?」


「うーん、狩猟をおこなっている人は非常に珍しいですね。農業を営んでいる人は確か……200万人くらいだったかと」


「200万も! ……と言いたいところだけど、1億以上の民がいるんだよね?」


「それ以外の民は何をして暮らしているのだ?」


 アスファール王もラング公爵も、日本の国民が何をして日々の糧を得ているのか想像がつかないようである。ユキトもこれだけ文明が異なれば無理もないだろうな、と説明に悩む。


「こちらで言えば、商人……が一番近いですかね」


「なるほど……となると食料は他国から輸入しておるのか」


 流石に執政者だけあって、アスファール王はここまでの会話で日本の食料自給率の低さを推察してみせた。なるほど、確かに商人が多いということは、高い経済力を持った国であろう。農業を営む国民が少ないのであれば、他国から輸入すれば良いという構図は、この世界でも同様である。


「御意。あとは職人も多いです」


 ユキトは工業について述べているのだが、自動化された大規模な生産レーンを説明できる自信はなかったので、職人という言いまわしで誤魔化している。


「高い技術を持つ国でもあるのだな」


「はい、私の世界でも我が国の技術の高さは認められておりました」


「剣や槍を打つのかい?」


 ラング公爵の質問は、武器に関するもの……ひいては戦争に関するものと解釈すべきだろう。ラング公爵は、剣や槍とこそ尋ねているものの、全く予期せぬ回答が飛び出すことを期待しているようだ。


「いいえ、武器ということで言えば、剣や槍とは全く異なる武器が使われております」


「ほう」


 アスファール王が身を乗り出してくる。王として、国に新たな武器がもたらされる可能性を見逃すわけにはいかない。


 一方で、ユキトはこの世界に銃をもたらしたいとは思わない。あれは人を殺し過ぎる武器だ。今後のディオネイアの歴史を血で染める覚悟が必要である。


「飛び道具の類が一般的ですが、さらに兵器……つまりは自動化された武器による戦争が可能でした。核兵器という名の、1つでこの王都を消し飛ばす爆裂弾もあります」


 1つで王都を消し飛ばすと聞いて、思わずアスファール王とラング公爵が、嘘発見器の女性に目を向けた。隣のハイドラ伯爵までも女性の方を向いている。女性文官は、ゆっくり頷いて、ユキトが嘘をついていないことを皆に伝える。


「はい、シジョウ卿の仰ることは真実のようですわ。正直、私も信じられませんが、私の審議の加護が真実であると告げています」


 半ば呆れた顔をしてアスファール王がユキトへと向き直る。


「シジョウ卿は……そのカクヘイキなる武器の作り方を知っておるのか?」


「いいえ。こちらの世界で例えるなら、国の学者が集まって理論を研究し、腕利きの職人達が技術の粋を凝らして製作するべきものです。日本ではただの庶民だった私は、大まかな理論しか知りません」


 作り方を知らないというユキトに対して、アスファール王は、残念なような安堵したような表情になる。前者は執政者として他国を圧倒する力を手に入れられなかったことに対する表情であり、後者は人間として手を出してはいけない領域に触れずに済んだことに対する表情であった。


「大まかな理論と言ったけど、シジョウ卿は多少は学問が分かるのかい?」


 ラング公爵は自領において、芸術や学問を保護している。ブレイブリー公爵が武を重んじるとすれば、ラング公爵は文化や芸術、学問を重視していた。異世界の学問については大いに興味を惹かれるところだ。


「うーん……どうでしょうかね。この世界の学問の基準が良く分からないですからね」


 ユキトの回答は慎重だ。無いとは思うが、学問というのが理論物理学を意味していたらお手上げである。


「歴史や法律はそちらの世界とは別物だろうから、算術などはどうだい? そうだ、つい先日に実施した文官の試験問題がある。それ解けるかい?」


 ラング公爵がそう言うと、嘘発見器役の女性が席を立ち、しばらくして数枚の紙を持って戻ってきた。羊皮紙でなく紙であるので、エルフから購入しているのだろう。


 突然のテスト開始であった。


(聞いてないぞー! いきなりテストをやらされるなんて)


 1枚目の紙には、架空の領地における税収や領民数の推移、穀物の収量やらが記載されていた。続いて2枚目の紙に記されていたのは、その領地の現状を説明し、問題点を指摘せよという問題文であった。


「えーと、そんなに難しくなさそうですので、やってみましょう」


 ユキトは簡単に情報を整理する。3枚目の紙は白紙なので、この紙に説明を書けば良いのだろう。


 まず、穀物の収量が増加しているが、領民数はそれを上回る増加率を示していた。また、税収も増加しているのだが、その伸び率は穀物の収量と同等であった。


 ユキトはこれらを折れ線グラフにまとめて、紙に記載していく。


「では、説明します。このグラフからも明らかであるように、この領地は領民の増加に食料の増産が追い付いていませんね。であるにも拘わらず、穀物にかけている税率を引き下げていないので、領民が飢える可能性がありますね」


 ユキトの説明にラング公爵が唸る。ユキトが急ごしらえで作った資料をじっと見つめている。ユキトとしては、急ぎで作った資料を真剣に眺められると不安になるばかりだ。だが、ラング公爵の口から飛び出した質問は意外なものであった。


「シジョウ卿……そのぐ、ぐらふ?っていう絵は何だい」


「え? こっちはグラフが無いんですか?」


 地球での折れ線グラフの発明は意外に新しい。1786年にウィリアム・プレイフェアという人物が自書の中で初めて用いたと言われている。この世界(ディオネイア)において、グラフが発明されていないのは不思議ではない。


「これは分かりやすいな……」


 アスファール王もユキトの示したグラフの有用性をすぐに理解した。文章で長々と説明されるのと異なり、グラフとやらには主観が混じる余地がなく、一目で傾向が理解できる。


「これはすごい……これは有用な知識だよ!」


 ラング公爵もその感激を露わにして、隠す素振りもない。シジョウ卿の知識は極めて有用であると、ラング公爵もアスファール王も確信していた。短い時間の会話だけでこのような収穫があるのだ。恐らくもっと多くの有用な知識を持っているだろう。


「知識爵に叙任するべきであったわ」


「え……そんな爵位もあるんですか?」


「今、作った」


 アルファール王は勝手に爵位を作り始めてしまう。ユキトは思わず「作ったんかい!」と突っ込みを入れそうになるのを必死で耐えた。「罪状名=ツッコミ」でのギロチンは嫌だ。


 そんなユキトに対して、ラング公爵が驚くべき提案をする。


「シジョウ卿、貴族学校に入学してみないかい?」


 貴族学校というのは、貴族の子弟が学問を修め、互いに交流を深め、貴族としての礼節を学ぶための学校だ。年齢制限はないが、中高校生あたりの年代が中心である。もちろん、急に貴族に取り立てられたような者が、必要に迫られ、30歳を過ぎてから入学するような例も珍しくはない。


 ラング公爵としては、ユキトの知識をもっと引き出したい。だが、肝心のユキトがこの世界には不案内であり、何が有用で何が不要かをはっきりとは認識していないようだ。そこで、まずはこの国の一般的な知識や法律を学んで欲しいと考えたのである。


「もちろん所領のこともあるし、冒険爵であるシジョウ卿を長く引き留めるつもりはないよ。1、2ヶ月程度の話でどうだい?」


「えーと、学園編でも始まるんですかね?」


 突然の勧誘に、ユキトは意味不明の呟きを返すのが精一杯であった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


なお、学園編に突入するとエタるというジンクスもあるようなので、ストーリー展開に必要な範囲のみで、深入りはしない予定です。


ラング「グラフってすごいね!」

ユキト「なお、こっちは円グラフです」

ラング「これもすごいじゃないか!!」

ユキト「別名をタワシパジェロって言います」

嘘発見器の女性「あ、この人、嘘つきました」

王「パジェロて……そんな古いネタ、読者に通じるかの?」

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