第5話 参上!メタリックヒーロー!
前回のお話
ユキトは宇宙刑事になった。
『変身の加護:超金属の甲冑を身にまとう「変身」が使用可能となる』
思ってもみなかった加護が生成され、あっけにとられるユキトであったが、何はともあれ目の前の脅威に対処せねばならない。
特撮は神話でも英雄譚でもない気がするが、せっかくの加護であり、有効に使用せねばならない。変身し、甲冑を身にまとうことができる加護であれば、現状を乗り切る大きな助けになるはずだ。
「変身!!」
ユキトは直感的にそう叫んだ。加護のおかげか、はたまたお約束だからか、変身の発動方法はこれしかないとユキトは確信していた。
果たして、ユキトの身体は強い光に包まれ、次の瞬間には白銀のメタルスーツを着た状態へと変身していた。
その姿は、甲冑によく似たデザインとなっており、プレートアーマーと言えないこともなさそうだ。だが、頭部をすっぽりと覆っている部分は兜というよりは、ヘルメットのような丸さを帯びている。
やはりこれは、ユキトの良く知る変身ヒーローの概念を異世界用にアレンジしたものなのだろう。
一方のカゲビトは、驚き戸惑っていた。ターゲットが自身の攻撃範囲に入り、棍棒を振りかざそうとした時に、ターゲットが光り輝き、さらにはその姿を変じたのであるから、それも当然である。
戦場では、数秒もの戸惑いは簡単に死に直結する。相手がディオネイアの冒険者であったのなら、この隙に切り倒されて終わっていただろう。
だが、この場で戸惑っていたのは、カゲビト以外にも一名いた。
(ホントに……変身したな)
突然の加護の生成からのメタルスーツへの変身という急展開に、ユキトの認識が追いついていなかった。
全身がメタルスーツに覆われている感覚があり、視界はヘルメット状のプロテクター越しのものになっている。剣と魔法の世界への配慮なのか、腰には剣を帯びているようであり、ビームサーベルを振り回すことはできないようだ。
ここでユキトが次に何をするべきかに思い至る前に、カゲビトが先に行動を起こした。棍棒でユキトに殴りかかったのである。ユキトも慌てて回避行動を取ろうとする。
だが、現代人たるユキトは不意に棍棒で殴りかかられた経験などない。身のかわしに失敗し、太ももあたりに棍棒の大振りの一撃を受けてしまう。
ガンッ!!
鈍い金属音が響き、思わずユキトは顔をしかめた。身長1メートル程度の相手とはいえ、思い切り殴りつけられたのだ。
痛みがすぐに打撃部に襲ってくるはずであった。だが……
(ん……全く痛みがない……)
いったい何の金属でできているのは分からないが、どうやらこのメタルスーツはカゲビト程度の攻撃は完全にシャットアウトできるようだ。さすがは宇宙警察の武装である。
なお、ユキトは知らないが、このスーツの対物防御力は幻の金属であるオリハルコン製の全身鎧をも若干上回る。カゲビト相手には、オーバースペックも良いところだ。
「次は、こっちが攻撃する番だな!」
カゲビトの攻撃が自身に効いていないことに安心したユキトは、あえて大声で攻撃の意志を口に出し、腰に帯びていた剣を抜き払った。
付与されている加護のおかげか、もしくは変身の効果か、現状のユキトの筋力は飛躍的にアップしているようだ。手に握った剣の重量はほとんど感じない。しかも驚いたことに、鞘から抜いた剣は、うっすらと青い光を纏っている。
(なるほど……ビームサーベルっぽさを出してるわけか)
ユキトは勝手に納得すると、そのままカゲビトに対して青い薄光を纏った剣を構える。
だが、ほとんどの現代日本人は、それなりの大きさの生物を殺すという経験がない。ユキトも例外でなく、カゲビトに剣を振るうことに対して、相当な躊躇いを生じていた。剣を構えたものの、相手に斬りかかることができない。
だがユキトが動かなくとも、カゲビトは動く。カゲビトは棍棒を振りかざし、ユキトに向かって飛びかかってきた。そして、この行動がカゲビトの死期を早める結果となった。
カゲビトが飛びかかってきたことに驚いたユキトは、とっさにカゲビトに剣を向け……そして青く光る剣は、ほぼ抵抗なくカゲビトを両断したのだった。
*********
(うわぁ……向こうが殺しにかかってきたとはいえ、すごい罪悪感あるな、これ)
目の前に転がっているカゲビトの死体を眺めながら、ユキトは初めての魔物撃退を噛みしめていた。
「とりあえず、危機は乗り切ったな」
ユキトはふぅと息を吐きつつ、焚き火の前に座る。もっとも、まだ変身しているので、吐いた息はヘルメットの中に留まっている。
「それにしても……神話や伝説って特撮モノも含むのか?」
突然に生成された加護だが、ユキトが現実逃避中に頭の中に思い浮かべた特撮ヒーローをモチーフにした加護であることは間違いない。
管理者からは、ユキトの世界の神話や伝説を対象にできると言われたが、特撮モノも伝説に含まれるということだろうか。英雄という意味では間違っていない。
「それにしても……防御力は充分だったな」
棍棒で殴られた個所をなぞってみるが、白銀色の金属には僅かなヘコミも見当たらない。
「痛みは全くなかったけど、アザとかになってないか?」
スポーツをしている時には偶にあることだが、身体を動かしていたときは脳内麻薬で痛みを忘れていただけで、しっかり怪我していた……などというオチでは困る。
メタルスーツで覆われた自身の身体の状態を確認したいが、変身を解除してしまうとまた急に襲われたときに不安が残る。あの黒い魔物が一匹だけとは限らない。むしろ複数いると考えるべきだろう。
「部分的に解除とかできないのかな」
そう呟きつつ、殴られた周辺の装甲に意識を向けると、下半身だけ変身が解除された。どうやら、ある程度の範囲ごとに変身を解除することが可能のようだ。
全身の変身が解除されるよりは安心だな……と考えながら、ユキトは棍棒が直撃した太ももあたりを確認する。
焚き火に照らされた肌は、特に色が変わった様子もなく、アザどころか赤くすらなっていない。
(やっぱり、何ともなってないな。これは素晴らしいぞ)
防御力の高さに驚きつつも、頼もしさを感じるユキト。この物騒な世界で生き抜くにはこういう強大な防御力こそが重要である。
(それに神話や伝説と見做される範囲については研究の余地があるな)
特撮モノが能力の対象となったということは、どうやらユキトが考えていたよりも広い範囲が対象になっているようだった。
確かに管理者は「非実存の対象」と言っていた。恐らくはディオネイアでは、そういう非実存の存在が登場するのは、神話や伝説くらいのものなのだろう。
だが、ユキトの世界ではこの条件に当てはまる対象が沢山ある。特に日本という国はその手のエンターテイメントが非常に充実していた。
(これは、色々と確認しないとな……)
ユキトが自身の能力について検討することを決めた時、不意に背後の茂みからポキリと枝を踏み折る音が聞こえた。
慌てて振り返るユキト。当然、ユキトは先ほどの黒い存在を思い浮かべていた。
そのユキトの反応を見て、自身が見つかったと思ったのだろう。1つの影が茂みから飛び出して、ユキトに走り寄ってきた。先ほどの魔物よりは随分と大きく、しっかりした衣服も身にまとっている。
どうやら人間のようだ。
「ま、待て!」
相手が人間と見て、慌てて制止するユキト。盗賊の類かもしれないが、先ほどの魔物に比べれば、まだ対話の余地があるはずだ。とはいえ、思わず口から言葉が出てしまった日本語は通じないだろう。さて、身ぶりで意志の疎通が図れるだろうか。
だが、ユキトの心配を余所に、その人影からは意外な反応が返ってきた。
「何者だ!!」
まさかの日本語である。いや、これは管理者が「まろうど」向けに言葉が通じるようにしてくれたと判断すべきだろうか。どちらにせよ、ユキトにとってはありがたいことであるし、その検討を今やる必要はない。まずは異世界コミュニケーションだ。
ユキトの前で停止した人影をよくよく見れば、ショートヘアの女性のようだ。女性にしては長身だが、10代後半くらいに見える。非常に整った顔立ちをした美女であるが、こちらに向けて拳を構えており、ユキトを完全に警戒している様子だ。
「お、俺は怪しい者じゃない!! こ、これは宇宙警察のメタルスーツで……」
ユキトは慌てて女性に対して、自身は怪しい者ではないと説明を試みる。だが、ユキトは現在の自身の姿を考えるべきであったのだ。
今のユキトは、上半身はメタルスーツとフルフェイスのヘルメット、下半身は先ほど変身を部分解除しており、さらにズボンは乾かすために脱いでいるため、当然ながらパンツ一丁。おまけにカゲビトを両断して血がべっとりとついた剣を片手に持っている。
日本であれば職務質問待ったなしだ。いや、剣は銃刀法に引っかかるため、そのまま連行されるだろう。
ユキトに相対する女性も、そんなユキトの全身を一瞥すると、彼女なりの結論を出したようだった。
「めっちゃ怪しか!!」
方言の入ったツッコミとともに、鋭いローキックが放たれ、ユキトの太ももにクリーンヒットする。
「痛ってぇ~!!!!」
彼女のローキックはなかなか良い蹴りだったようだ。夜の平原にメタリックヒーローの悲鳴が響き渡った。
*******
「で、アナタは何者なの?」
とりあえず変身を解除したユキトに彼女が問いかける。なお、ユキトの下半身については、カバンから引っ張り出した綿パンに着替えている。
「見ての通りの旅人だよ。旅の途中で道に迷ってしまって、ようやく街道を見つけたものの夜になっちゃって」
ユキトは適当な設定を口にするが、信じてもらえている感じはしない。
一方で、ユキトの方も出会ったばかりのこの女性を完全に信用しない方が良いことくらいは分かる。ここは日本ではない。外国どころか異世界だ。
彼女が盗賊や物盗りには見えないとはいえ、この世界の状況を確認するまでは、うかつに「まろうど」であることを伝えない方がいいだろうとユキトは判断した。サーカスに売られたりしたら困る。元の世界の道具だって高値で売れるかもしれない。
ユキトはチラリと色々と荷物が詰まっている遠征用カバンに目を向ける。
だが、その視線の移動に気がついたファウナは、ユキトの心情を把握したようだ。
「ああ、私を警戒しているのね。こちらも盗賊などではないわ。私はファウナ。冒険者よ」
彼女の名前はファウナというらしい。髪はショート程度。キリッと鋭い目つきをしている美女だ。背たけもユキトとそう変わらない。気になる点と言えば、耳が尖っているところだ。
ユキトの脳裏にエルフという言葉が浮かぶが、いきなり尋ねるのは失礼かも知れないと自重する。とりあえずはユキトも名乗っておくべきなのだろう。
「俺はユキト、旅の途中だ。夜になったので火を焚いて休息していたら、そこに転がっている怪人?…魔物? とにかくソイツに襲われて撃退したところだ」
ユキトの指した先には両断されたカゲビトの死体が転がっていた。
「カゲビトね。 まぁ、この辺りはカゲビト程度しか出ないみたいだけど」
「……カゲビト」
「アナタはカゲビトを知らないの?」
ファウナは不審そうな表情でユキトを見る。
「遠くから来たもんでね。良かったらカゲビトについて教えてもらえるか?」
ユキトは慌てて取り繕う。
「カゲビトが知られていない地域もあるの?」
「まぁ、俺のいたあたりにはいなかったもので」
ユキトのいた地域にはカゲビトはいなかったので嘘ではない。
「ふーん、そんな地域もあるのね。まぁ良いわ。
カゲビトは魔物の中でも最弱とも言われている存在よ。通常は1体、もしくは2~3体で行動し、武器は手に持った石や棍棒のみ。普通の冒険者ならば、遅れを取ることもないわ」
ファウナはユキトの説明に半信半疑ではあったが、カゲビトについて教えてくれた。
「危険性はそんなに高くないってことか」
「とはいえ、一人では気を抜いて寝るわけにもいかないけどね」
「あー、確かに」
いくら相手が弱くても、こちらが寝ていたら危険であろう。それくらいは異世界からきたユキトでもイメージできる。
「一人旅の場合は、下枝を払った木の上で夜を明かすのがセオリーね。身体はロープなどで軽く固定するの。
もちろん、そのような状況はできるだけ避けるべきだし、地域によっては、むしろ危険な場合も多いわ」
カゲビトについて簡単に教えてくれるファウナ。流石は冒険者だとユキトは感心するが、実はこの程度の内容は、ディオネイアでは一般常識に近い。
「さて、次はこちらが聞く番でいい? アナタは自身を旅人と言ったけど、先ほどの甲冑姿は何?」
「あ、あれは……」
やはり旅人といったのは信用してもらえていなかったようである。
ユキトはファウナにどこまで説明して良いかを考える。加護というものは、ディオネイアにあると管理者も言っていたし、既に変身した姿も、解除するところも見られている。現状では、誤魔化すことも難しいだろう。
「あれは、加護によるものだ」
誤魔化すことを諦めたユキトは、加護を付与できるなどという部分は伏せ、変身は加護によるものだと説明することにした。
「加護!? アナタは加護持ちなの!?」
「ああ。先ほどの甲冑姿に変身することができる」
「なるほどね、初めて聞くタイプの加護だわ。けれど、かなり有用な加護のようね!」
この世界には使えない加護もあるようだなとユキトはファウナの反応を見て察する。
「俺はあまり腕に覚えがないからな。こういう加護はありがたいんだ」
「カゲビト程度の相手をするには過ぎた加護だと思うけど」
とりあえず、加護については納得してもらえたようだ。はてさて、朝まで彼女と何を話して過ごすべきか。
ちなみに、エルフかどうか尋ねてみると、特に無礼な質問ではなかったようで、あっさりと肯定されたのだった。
なお、似たような設定の小説も膨大ななろう小説の中にはあるとは思いますが、そこは御容赦ください。一応、簡単に検索してまるかぶりの作品はなさそうだと思っているのですが……。
8/27 1~2話を文字調節のため3つに分割したので、話数が1つずつずれました。(ストーリーには影響なし)