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第47話 戦闘!忍び寄る素数!

序盤の描写についても、おいおい修正していきたいなぁと考えているこの頃。


過剰な点は削り、薄い点は描写を厚くしたい。

 

 ユキトが最後尾を歩いているという構図は、最初の犠牲者がユキトとなることを意味している。少なくともユキトの故郷で放映されていたB級パニック映画では、それがテンプレ的展開であった。


 そして、この世界(ディオネイア)においても、それは例外ではなかったようだ。荒地に生息していた存在は、最後尾のユキトへと狙いを定めた。


 ゆっくりとユキトとの距離を詰めていく。


 最初に魔物の気配を察知したのは、セバスチャンだった。ユキトが付与(エンチャント)した加護により、セバスチャンには、マンガやアニメでいうところの「剣豪」の力が備わっている。剣から斬撃を飛ばしたり、剣の長さより大きなトラックを真っ二つにしてしまうアレだ。もちろん、心眼の一つや二つは会得済みである。


「ユキト様、付近に何らかの気配が」


 セバスチャンの警告に、ファウナとフローラが周囲を見渡す。土を剥き出しにした大地が広がっている他には、背丈の低い茂みが点在しているのみだ。


「何もいないわ」


 ファウナが口にした瞬間だった。鈍い音とともにユキトの足元が陥没し、その中へとユキトは引きずり込まれた。


「地中!?」


「ユキト様!」


 そう、敵は地下に潜んでいたのだ。


 この魔物は、少人数の足音に反応し、特に隊列の最後尾の人間を襲う習性がある。簡易的な土魔法を用い、標的の足元を陥没させ、地中でとどめを刺す。その後、内臓を喰らった死体を地上へと捨てるのだ。


 しかし、今回の餌は少し勝手が違ったようだ。魔物は、確かに地中へと引きずり込んだはずの獲物が、煙のように消えていることに気がついた。



「さて、地下からどうやって地上に誘き出すかだな」


 ユキトが引きずり込まれ、慌てているフローラの背後から、ユキトの呑気な声が響く。


「え? ユキト様!?」


「あ、瞬間移動(テレポーテーション)ね」


 ファウナが口にしたように、ユキトは引きずり込まれた瞬間に瞬間移動(テレポーテーション)を発動させたのである。地上へと瞬間的に転移したため、魔物はユキトを見失っているはずだ。


「いつでも発動できるように構えてたからな。セバスさんからの警告もあったし。お、顔を出したみたいだぞ」


 ユキトを引きずり込んだ穴。そこから、硬い外骨格を有する大きな頭部が姿を見せていた。ユキトの姿を凝視しているようだ。捕らえたはずの獲物が、何故か地上に戻っているという状況に、混乱しているのかもしれない。



「昆虫の魔物のようですわね」


「ふむ、百九年蝉かもしれませんな」


「百九年蝉?」


「蝉の魔物ですが、幼虫は地中で109年間を過ごすと言われております」


 ここでユキトが思い出したのは、地球に生息していた17年蝉と13年蝉という蝉である。この蝉は17年や13年の周期で姿を現わすため、周期ゼミと呼ばれる。また、この周期年数が素数であるため、素数ゼミという異名もある。


「109は素数……だよな?」


 暗算にはあまり自信がなかったユキトだが、ここでは素数か否かは重要ではない。問題は地中に潜む魔物の倒し方である。


「さて、どうやって仕留めるかな」


 ファウナなら地中に引きずり込まれても、先に拳を一当てすれば倒せるように思うが、油断は良くない。ボロウ戦のようにファウナとて無敵ではないのだ。



「フローラは土魔法とかは使えないか?」


「ユキト様から頂いた加護は、どうも人助け向けの加護らしく、いまだに攻撃用に使える魔法は火炎球(ファイアボール)だけです」


 ユキトがフローラに付与(エンチャント)した「魔法少女」の加護は確かに人助け指向かもしれない。結界魔法などの防御・補助系魔法は強化されたが、攻撃用の魔法への補正はあまり働いていないようだった。


「ファウナ、地面を殴りつけたらエネルギーが地中を伝わっていって、敵の足元がボーンと吹き上がるような技って使えないか?」


「……ユキト、それって魔法の領域よ?」


 ユキトの知るマンガでは良くある描写だったが、言われてみれば、武術というよりは魔法に近い効果だ。確かにあれはどういう仕組みなのだろうか。


「うーん、ここで魔物に逃げられると、新人冒険爵としては辛いところなんだよな」


 百九年蝉は、一瞬で移動したユキトを警戒して、遠くから様子を見ているようだ。このまま魔物に逃げられると、依頼は不達成となり、あまりよろしくない。


「よし、逃げるか」


 ユキトの出した結論は逃げることだった。熊などの動物は獲物が逃げると本能的に追い掛けたくなる。相手は魔物なのだから、ユキト達が逃げれば、襲いかかりたくなるだろうという算段だ。


 果たして、ユキト達が背中を向けて走り出すと、穴から頭部を出してユキト達を眺めていた百九年蝉は、すぐさま追撃に移った。


 土魔法も併用し、地中を泳ぐように進んでくる。


「追って来てるわね」


「地面の盛り上がりがこっちに向かって来てますわ」


「で、ユキト様。どうされるおつもりですかな?」


「いい手は思いつかなかったから、力技で行く。力こそパワーだ」



 もはや蝉はユキト達のすぐ背後にまで迫っている。ユキトは以前に自身に付与した「とある加護」を再度呼び出した。リロード期間は十分に経過している。


「よし、変身リベンジだ!」


 そして、荒地には銀色の巨人が出現したのだった。



 *******



「おおぅ……これはまた」


「銀色の巨大ゴーレム……」


「魔物の噂のせいで、今回は目撃者は出ないわね」


「あの……ネロルの街で噂になっていた巨大ゴーレムというのは、もしかして?」


「あとでユキトから説明があるわよ、きっと」


 姿を見せない魔物の噂が広まっているせいで、この荒地にはユキト達以外の人影はなかった。ネロルの街のように、巨人が目撃されて大騒ぎになる事態は避けられそうだ。


 ユキトが巨人の姿でいられるのは約3分だ。この加護の有効時間が3分間なのである。一度切れると、5日間は再度の付与(エンチャント)できなくなる。


(時間がないから、さっさと掘り返すか。充分に引きつけたしな)


 40メートルの銀色の巨人と化したユキトは、右手の指を揃えると、魔物が潜んでいると思しき地面の盛り上がりを、思い切り掘り返した。


 バゴォッ!!!


 土魔法を併用することで地中を進んでいた魔物とは異なり、ユキトラマンは力任せに地盤を抉った。百九年蝉も突然現れた巨人には対応できなかったようで、巨人の手により、あっさりと周囲の土砂とともに地表に投げ出された。


 その姿は、体長が約4メートルの蝉の幼虫だ。百九年を地中で過ごす魔物であるが、成虫になるまでは地表に出ることはない。逆に言えば、百九年蝉にとっては、現在の状況は極めて異例の事態であった。


 百九年蝉は仰向けになって、3対の脚を蠢かしている。抜き身の剣を片手にセバスチャンが近づいていく。


「百九年蝉の外骨格は極めて強靭と聞いておりますが、こうなってしまえば生け捕りすら可能ですな」


 セバスチャンの語るところによれば、百九年蝉は非常に珍しい魔物であるらしい。生け捕りにすれば、王都からの評価も非常に高いものになるだろうとのことだ。新人貴族としては、覚えをめでたくしておくのは悪くない。


「じゃあ、生け捕りだな。土を掘れないように脚を縛るか」


 だが、百九年を生きる生命力の為せる技だろうか。この危機に対して、百九年蝉は驚くべき反応を見せた。


 羽化である。地上に投げ出された百九年蝉は羽化することで逃げようとした。


 百九年蝉の羽化は、ユキトの知る蝉のそれように穏やかなものではなかった。幼虫が奇怪な叫び声を上げたかと思うと、身体を震わせ、外骨格が激しい勢いで周囲に飛び散った。


「ぬわっ!」


 百九年蝉の近くに立っていたセバスチャンは、慌てて地に伏せて飛び散る破片を回避する。


 だが、百九年蝉はその翅を大きく広がると激しく羽ばたかせて、仰向けの姿勢から一気に空へと飛び上がった。ユキトが慌てて手を伸ばすが、巨大蝉はギリギリで回避して空へと逃れる。


 セバスチャンもすぐさま姿勢を立て直し、成虫となった百九年蝉に向かって斬撃を飛ばす。銀閃が一直線に百九年蝉に走った。


 ガズッ!


 流石は強靭と評される百九年蝉の外骨格である。羽化したばかりで柔らかいということもなく、巨大蝉はセバスチャンの斬撃に耐えてみせた。


 しかし、完全に無傷というわけにはいかなかったようで、脚を一本斬り飛ばされ、空中で体勢を大きく崩している。


「むぅ、硬いですな」


「いや、セバスさん、充分!」


 この隙に、ユキトは前回試せなかった光線発射の準備を整えていた。もちろん狙いは百九年蝉だ。


「男のロマン、なんとかニウム光線を喰らえっ」


 胸の前でばつ印に組み合わせたユキトの手から、青みがかった光の粒子が百九年蝉に向けて放射された。光線発射は男のロマンである。異論は認められない。


 狙いは外れず、逃げ去ろうとする百九年蝉に命中し……


 チュドーン!!


「あ、爆発しましたわ」


「生け捕りって言ってなかった?」


「高位の爆裂魔法以上の威力はありましたな」


 翅や脚と思われる破片が周囲に飛び散っていく。


 こうして、姿を見せぬことで知られていた荒地の魔物は、新人冒険爵の手によって退治されたのである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。




ユキト「FFの影響で100以下の素数は覚えてるなー」

セバスチャン「レベル系魔法というものがあったのですな?」

ユキト「この世界にはないよな」

セバスチャン「ええ。レベルという概念がないのです。代わりに年齢になりますか」

ユキト「20歳だとレベル5デスで死ぬのか。厄年みたいだな」

セバスチャン「60歳は大厄ですな」



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