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第43話 叙爵!冒険爵ユキト!

 

「シジョウ ユキト。アスファールへの貢献を認め、ここに冒険爵へ封じる」


 アスファール王の威厳ある声が聖堂に響き渡る。アスファール王は、跪いて下を向いたユキトに歩み寄ると、自身の持つ杖の先をユキトの頭に近づけた。


 ここでユキトは顔を上げ、手で杖の先端に触れ、誓いの言葉を述べる。


「王国のため、王のため、冒険爵としてこの身を捧げます」


「うむ。これにてシジョウ ユキトはアスファール王国の冒険爵である」


 ここまでが、儀礼に則った固定のやり取りであった。


「よし、堅苦しいのはここまでだ。ホールで祝宴の準備をしておる! 飲んで食うぞ!」


 アスファール王の威厳は着脱式になっているようだ。急に明るいおっさんにジョブチェンジしたアスファール12世に、ユキトも苦笑いを返すしかない。


「シジョウ卿。これであなたもアスファール王国の臣下です」


 今回の儀式の取りまとめを担当していたハンドラ伯爵が近寄ってきて、ユキトに声をかける。


 ユキトは、ハンドラ伯爵を音楽室で見たバッハに白い口髭をつけたようなひとだなぁと思うが、もちろん口にはしない。


「シジョウ卿としては、王国に属するのに抵抗はございませんでしたかな?」


「やっぱり冒険者はあまり国に属したがらないものなのですか?」


「そうですな。実力が高い冒険者ほどその傾向がございますな。シジョウ卿の逸話を伺った範囲では正直お断りされるものと思っておりましたぞ」


(断っておくべきだったか……)


 尤も、王様の要請を断れるほどにユキトの心臓は強くない。さらに言えば、公平な冒険者を名乗るにはアスファール王国に肩入れし過ぎている自覚もある。


 ならば、爵位を受け入れて、王国の庇護下に入るのも手だ。それに領地があれば、根無し草としてこの世界(ディオネイア)を生きるよりはずっとマシだろう。


「ところでシジョウ卿……」


 突然、小声になったハンドラ伯爵がユキトの耳元に口を寄せる。


「ボロウはどのように処分されたのですかな?」


 どうやらハンドラ伯爵は、いや貴族達は、王都で狼藉を働いていたボロウを殺したのはユキトだと考えているらしかった。


 無理もない。ボロウがユキト達に絡んだ一件は、少しでも情報網を持つ貴族なら簡単に耳にすることができる。そして、その後にボロウは謎の死を遂げたのだ。ユキト達の仕業と捉えるのが普通である。


「いえ、私は何も……」


「おっと、そうですな。優れた冒険者ほど奥の手を隠し持っているものです。野暮なことを伺いました」


 ハンドラ伯爵は深く頷き、勝手に納得してしまう。


 実際のところ、ボロウから逃げ出したユキト達は、ウィンザーネ侯爵家が持つ屋敷の一つを借り受けて、王城に出向くまでそこに滞在していただけだ。ユキト達にとってもボロウの死は驚愕すべき事態であったのだ。


(なるほど、それでこの視線か……)


 ボロウの死がユキトの仕業と考えられていることを知って、ユキトは先ほどからの疑問が解消した。


 多くの貴族からは好意的な視線が飛んできているのだが、1人だけ睨みつけてくるカイゼル髭の貴族がいたのである。その衣装からしてもかなりの上位貴族であることが伺える。


「あれが、ニューマン公爵なんだろうな」


 多くの貴族からすれば、成り上がり公爵家の威光を笠に着て、王都で乱暴狼藉を働いていたボロウを、排除してくれたのがユキトである。加護のおかげで誰も手が出せなかったこともあり、彼らは大いに溜飲を下げたのである。


 だが、ニューマン公爵からすれば、私設兵団の中でも最強として知られていたボロウを消されたのだ。しかも証拠がないので、ユキトを弾劾するわけにもいかない。視線が厳しくなるのも無理はない。




 場がホールへ移ると、多くの貴族がユキトの側へと寄ってきて挨拶を始めた。本来であれば、声をかけるのにもルールがあるのだが、ユキトの武勇伝を聞きたい上位貴族が率先して声をかけているので、文句を言う者はいない。


「シジョウ卿、私はカイオ・ブレイブリーだ。先のジコビラ連合との戦での活躍、是非に聞かせて欲しい!」


「ブレイブリー閣下もシジョウ卿の武勇伝が気になるようですな。あ、私はチャリア・ラングです。どうぞ宜しく」


 ユキトはいきなり公爵2人に捕まってしまった。実に心臓に悪い。頭のハゲ上がった戦士のようなおっさんがブレイブリー公爵、長髪に白いものが混じった気品ある男がラング公爵だ。


「む、カイオとチャリアの2人で新人貴族を独占してはいかんではないか」


 そこに割り込んできたのは、アスファール12世である。セバスチャンから聞いていた通り、武勇伝は貴族の娯楽として持て囃されるものらしい。ユキトの心臓が心配である。


 そんなユキトが王と公爵2人を相手にする様を、少し離れたテーブルから、ファウナが哀れみを込めた目で見つめていた。今日はユキトの付き添いとしての参加だ。料理をつまむことも忘れない。


 なお、フローラとセバスチャンはウィンザーネ侯爵の名代として、挨拶回りの最中である。流石に戦後の処理があり、ウィンザーネ侯爵は参加出来なかったようだ。


 そんなわけで、ユキトが王様と公爵閣下2名を相手に孤軍奮闘していると、不意に背後から声がかかった。


「是非、そのお力を見せて頂きたいものですな」


 ニューマン公爵である。


「おや、ニューマン閣下。流石にそれはシジョウ卿に悪いのでは?」


 ラング公爵が遠回しに非難する。


「なに、噂ほどの力があるのであれば、簡単なことですよ。ちょっと私の部下と手合わせをしてやって欲しいのです」


 ニューマン公爵は引くつもりはないようだ。ユキトに部下との手合わせを要求する。


 ニューマン公爵としては、ユキトこそがボロウを殺した相手と思っているので、ここでユキトの手の内を暴いておきたいところだ。潰せるようなら潰しておきたいという意図もある。


「ふむ、正直に言えばワシも見てみたいがの」


 ブレイブリー家は武の名門として知られている。当然、当主であるブレイブリー公爵も、ユキトの力には興味があるらしい。


「おいおい、カイオ……と言いたいが余も気になる」


 アスファール王にまでこう言われてしまうと、断るという選択肢はない。


「……分かりました」


 ユキトは力なく承諾する他なかった。


 *********


 宴会が行われていたホールは中庭に面しており、手合わせはその中庭で行われることになった。


 稀代の英雄の実力が見られるかも知れないとあって、貴族たちも興味津々という表情だ。



「シジョウ卿、ニューマン家のサイモンと申します。胸をお借りします」


 ユキトの相手として出てきたのはサイモンなる男だった。軽装鎧と細身の剣を装備している。


 胸を借りるという言葉とは裏腹に、サイモンの目には謙虚さの欠片も見当たらない。


 模擬戦ということで、命を奪うことは禁止されているが、所詮は紳士協定だ。絶対に守られるとは限らない。



「あの男は……」


 様子を見ていたセバスチャンが難しげな表情を見せる。


「知ってる人?」


「ええ、ファウナ様。あの男は剣の腕もさることながら、暗器の使い手でもあるのです」


「暗器!?」


「流石に王の目前でユキト様の命を奪うことはないでしょうが……」


 セバスチャンの言葉に、ファウナとフローラは心配を隠せない。


 ラング公爵もブレイブリー公爵も先程までとは別人のような鋭い視線をユキトとサイモンに送っている。流石に大貴族、ユキトの実力をわずかでも見逃すつもりはないようだ。



「シジョウ卿からどうぞ。私が一撃で決めてしまっては、皆様も興醒めでしょうから」


 サイモンが挑発的な言葉とともに、初手をユキトに譲る。ユキトが攻撃してきたところを、カウンターで返り討ちにする算段だ。


「じゃあ、俺から行かせてもらうか」


 ユキトは気楽な様子で、戦闘を開始した。こうなった以上は、少しくらいは自身の力を見せつけた方が良いだろう。


「変身!」


 ユキトのセリフとともに、眩い光がユキトを包み込む。


「なっ?」


 見物していた貴族達はその光に驚愕している様子だ。


 一方のサイモンは、その光が目眩しだと見抜いていた。だが、光の中のユキトの姿は一瞬で搔き消えてしまう。


(消えた!?)


 次の瞬間、サイモンのすぐ右に突如として気配が発生した。速いというレベルではない。サイモンは慌てて距離をとろうと左手に跳ぶが、青い淡光を纏ったユキトの剣が、サイモンの細身の剣を根元から斬り飛ばした。


 ユキトは、瞬間移動(テレポーテーション)と同時に武器破壊を狙ったのだ。これを初見でかわすのはまず不可能であろう。


 自身の武器が破壊されたことを知ったサイモン。だが、即座に左手をユキトに向けて伸ばす。


(喰らえっ)


 サイモンの左手には、小型の鉄針の射出機が備えられている。高速で撃ち出される針は、人体に深々と突き刺さり、大きな隙を生じさせる。


 この時、ユキトは視界を確保するために、頭部までは変身していなかった。当然、サイモンはユキトの頭部を狙い、鉄針を発射する。


 しかし、サイモンの攻撃に応じて、ユキトは腕で顔をガードした。まるで、そこを攻撃することを読んでいたかのようにだ。オリハルコンにすら匹敵する装甲に、鉄針が弾かれ、地面に転がった。


「そこまで」


 アスファール王の声が響く。


「その暗器、命を奪うほどのものではないが、模擬戦にはちと不向きだのう」


「……申し訳ありません」


「とはいえ、タネが露見した暗器は役には立たぬ。シジョウ卿の完勝と言ってよかろう」


「……はい」


 サイモンとしても、剣を斬り飛ばされて、暗器を防がれた時点でお手上げである。負けを認めざるを得なかった。


「流石はシジョウ卿だ」


「移動が見えなかったぞ」


「まだまだ本気ではなさそうだ……」


 周囲の貴族たちも概ね満足のようだ。


「ユキト!」

「ユキト様」


 そんな貴族達の中から、ファウナとフローラがユキトに駆け寄ってきた。


「あの暗器、よく受けられたわね」


「あー、あれはサイモンが攻撃箇所を強く意識してくれたお陰だな。テレパシーで伝わってきたんだよ」


「お見事でしたわ、ユキト様!」



 そんなユキト達を苦々しげに見つめるニューマン公爵。結局、ボロウを倒すような力については暴くことができず、この手合わせは、ユキトの評価を高めただけに終わった。


「シジョウ卿め……」


 だが、そこに飛び込んできた知らせに、ニューマン公爵は大いに狼狽することになった。


「大変です! ニューマン公爵邸が何者かに襲撃されました!」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


引き続き、自宅を離れているので、スマホからの編集・投稿です。お見苦しい点がありましたら、ご容赦下さい。



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