第42話 不運!誓約破りの代償
自宅外なのでスマホからの編集・投稿です。お見苦しい点がありましたら、ご容赦下さい。
ユキト一行にまんまと逃げられたボロウは、このまま公爵邸に戻るか、ユキトを捜索するか迷っていた。
ユキトに不思議な能力があることは理解できた。もし見つけたとしても、再び逃げられる公算が大きい。
だが、このまま戻って失敗したと報告するのも癪だ。公女様からの評価が下がってしまう。
(イトマのヤツが裏切ったことにでもするか)
そう考えながら、公爵邸への近道となる路地に足を踏み入れる。だが……いつも人気のない路地であるはずが、正面に何者かが立ち塞がっている。ボロウはその細身の影に見覚えがあった。
「やぁ、ボロウ。まんまと逃げられたみたいだね」
「……!? イ、イトマ?」
確かに殺したはずの暇がボロウの目の前に立っている。喉まで切り裂き、トドメを刺したはずの男だ。
「突然だけど、ボロウくんには退場してもらおうと思うんだ。だって飽きたからね。いい考えでしょ?」
平時であれば、この暇のセリフにカッとなるボロウだが、今はただただ不気味さを感じている。
「お前に俺が殺せると?」
だが、自身の加護は鉄壁である。こんなひょろい男に自身を退場させる力があるとは思えない。
「おいおい、君の加護のことは自分が一番知ってるだろ?」
死んだはずの男は、両手を広げながら、おどけた口調で語る。
「だから、君は運悪く事故死する」
暇がそう告げたのと同時に、上方から何かが落下してきて、ボロウの肩に直撃した。
「ぐあっ!」
砕け散ったのは植木鉢だった。
「おや? 窓辺に置いてあった植木鉢が運悪く風か何かで落下してきたみたいだね」
ボロウの加護は敵意ある攻撃に対して発動する。わずかでも何者かの悪意が含まれていれば、ダメージは無効化されるのだが、逆に言えば、偶然の事故には効果がない。
「これは、お前が……いや、それならダメージは通らないはず……」
ボロウは混乱していた。偶然に植木鉢が落ちてきたとは思えない。だが、暇が何か仕掛けを施したのであれば、ダメージは通らないはずだ。
「ボクは君を攻撃なんてしてないよ。ただ、君の運命を破滅する方向に変えただけさ」
「運命だと?」
「いやぁ、シジョウ君の能力は面白いね。ボクの故郷の伝承やらアニメやらのよくある設定を加護にできるなんて」
暇は誰に語るでもなく説明を始めた。
「ボクの世界ではよくある話なんだ」
「相手の希望を叶える代わりに、何かの約束をする。相手がその約束を破った場合、そいつは破滅する」
「ホントなら相手に指を突きつけてドーーーーーンとか言うところなんだけどね」
滔々と語る暇は実に愉快そうだ。
ボロウには暇の言ってる意味が十全には理解できなかった。だが、カウンターサーベルを渡す際の「ボクを斬るな」という条件が罠だったことは理解できた。
あえて約束を破らせることで、何らかの能力を発動させたのだろう。
「それがお前の加護ってわけか! ……とすると何で死んでねぇ? 貴様、複数の加護持ちか!?」
「複数? いいや、ボクがこの世界に来た時に貰った力は『三枚の御札』だけさ」
「じゃあ、貴様はなぜ生きてやがる?」
「これ、呪いなんだ。ある世界を滅ぼすついでにそこの神様を殺しちゃってね。呪われちゃった。だからボクは死ねない。滅べない」
ウツロイ イトマ
禍人
+主神の呪い:異世界の主神の呪い。滅びることができない
+異界漂流:異なる世界へランダムに移動する
+三枚の御札:一度、目にした能力や加護を3回だけ使用できる
「これがボクのステータスなんだけど、あ、他人には見えない仕様だっけ? 残念だなー、称号にウルトラスーパーデラックスイケメンとか書いてあるんだけどなぁ。見えないかー」
暇は息をするように嘘を混ぜる。
「お前は一体……」
「ボクは色んな世界を巡っててね。たまたま漂流中にあの公女様の召喚に引っかかってこの世界に来たんだ。全く迷惑だよね」
「お前、公女様に忠誠を捧げてねぇのか?」
「ん? あぁ、彼女は大好きだよ? でも、ハンバーグが好きだからって、ハンバーグの命令に従うヤツはいないでしょ」
ボロウはハンバーグが何かを知らない。だが、話が噛み合っていないことは分かる。そして目の前の男が異常であることも。
「知ってるかい? トゲトゲという虫がいるんだけど、トゲのない種が見つかったのでトゲナシトゲトゲと名付けられたんだ。それで……あ、ごめん。この話は今は関係なかった」
この男はおかしい。ボロウはこの世界に来て初めての恐怖を覚えた。絶対の防御を持ってからは、久しく感じなかった感情だ。人は理解できないことを恐れる。
「さて、この世界に召喚されて、すごい加護を得て、主人公になった気分はどうだった?」
「何?」
「ボクはそういう運が良かったひとは嫌いなんだよ」
「何を言って……」
「だって運がいいだけだもの。努力して強くなった主人公も努力できる才能があっただけだし、仲間の協力を得られた主人公は環境が良かっただけだし、運さえ良ければボクでもできると思うんだよね」
ボロウは悟る。この狂人と話しても意味がない。自身が生き残るためにはこいつを殺すしかない。もう一度殺し、バラバラにして各部位を埋めてやれば復活できまい。
「もう一度死ね!」
ボロウはその身を包む恐怖を必死に傍に置き、自身が生き延びるために、暇に向かって踏み込む。
だが、勢いよく足を踏み出した石畳が不意に凹み……
ガラガラガラッ!!
突然、道が崩落し、出現した穴にボロウも転がり落ちた。人の背丈ほどの陥没である。
「ゲホッ、な、なんだッ!?」
「おやおや。運悪く道路が陥没したみたいだね。自宅で大人しくしていた方がいいよ。君が死ぬまで事故が襲ってくるから。何日くらい生きられるかなー?」
ボロウは戦慄した。冗談ではない。こんな頻度で、このような事故が襲ってくるとなれば、確実に死ぬ。
「じゃあねー、また会おうね」
そのセリフに反して、暇にはボロウと二度と会う気がないのは明白だった。片手をひらひらさせながら、くるりと背を向けると、何処かへと去っていく。
「くそッ! 俺は死なんぞ!」
やっとのことで穴から這い出したボロウは急いで自宅に逃げ込もうとする。
だが、自宅へ向かう彼に、暴走した馬車が襲いかかり、建造中の石壁が倒れかかった。骨が折れ、血は流れ、ボロウが自宅へ辿りついたときには既に満身創痍であった。
「俺は……英雄になって、メルア公女と結ばれるはずだ……公女様もそう仰っていた」
やがて傷口が不自然に化膿し、不慮の火事で自宅から焼け出され、流れ矢が飛んで来るなどの数多の不運に見舞われ、ボロウの命はあっさりと散った。
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「えっ、ボロウが死んだ!?」
数日後、公爵邸に用意された自室において、暇はボロウの死の報に触れた。
「そんな……誰がそんなことを……!」
報告を届けた使用人と二言三言の会話を交わす。そして、使用人が立ち去ってから虚井 暇はこう言った。
「ボロウって……誰だっけか?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブクマ、評価にも感謝です!
ユキト「暇、お前のセリフぎりぎりだからな!」
暇「え? ドーーーンのところ?」
ユキト「分かってるなら自重しろ。あの名作以外にも似たようなモチーフはたくさんあるんだから」
暇「でも、もぐr
ユキト「ああーーーやめい!」