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第41話 襲来!鉄壁の男!


 その大柄な男は早朝の宿に姿を現した。軽装鎧をまとい、腰にはサーベルを下げた厳つい男だ。


「シジョウってやつはいるか?」


 宿の受付は若い男だったが、その(ボロウ)のことを良く知っていたようだ。青い顔をして、額に汗を滲ませている。


「2階か? 教えなければ殺す」


 殺すという言葉に、受付の男がビクッと身を(すく)める。


「は……はい、2階にご宿泊しておられます」


 この王都では、ボロウには逆らうべからずと認識されている。宿泊客の情報を漏らしたと彼を責めるのは酷というものだろう。


「そうか。だが、俺が質問したら一回で答えろ」


 ガッ!


 ボロウは、カウンター越しに受付を殴り飛ばし、宿の階段へと目を向けた。カウンターの向こう側に転がった男は、殴られた頬を押さえながら、奥に身を隠す。



「お前がボロウか」


 受付とのやり取りが聞こえたのか、受付の正面にある階段から黒髪の男が降りてきた。ユキトである。


「シジョウってのはお前だな? 公女様がお待ちだ。俺について来い」


 挨拶もなく単刀直入に用件を述べるボロウ。しかも、ユキトが断ることを予想しているかのように、回答を待たずに腰のサーベルを抜き放った。その口調から想像できる通り、大変に気が短い男らしい。


「(いきなりかよ……)外に出ようか」


 宿の中で暴れて迷惑をかけるわけにはいかない。ユキトはそう考えて、宿の前の通りへ出るようにボロウに促す。


「へぇ、俺とやろうってのか?」


 小馬鹿にしたような表情を浮かべながら、ボロウは宿の玄関を潜り、ユキトとファウナもそれに続く。フローラとセバスチャンは戦いに参加しないようだ。


 早朝の通りである。道を行く者はいない。時間的な関係もあるが、少数の通行人もボロウの姿を認めると道を引き返していく。


「さ、こいや」


 ボロウは自分の加護に相当の自信があるのか、指をクイクイと曲げ、ユキトたちに攻撃を促す。


「いいわ、お望み通りにしてあげる」


 ユキトと並んでいたファウナが一歩前に出る。ファウナの素早さと腕力は先制攻撃に向きだ。普通の人間なら何もできずに終わる。


「ひゅ~、こんな美人のエル


 ドンッ!!


 ボロウがセリフを終える前に、一瞬でファウナが踏み込み、ボロウの胸部に一撃を加えた。軽装鎧の胸部の鉄板が大きくひしゃげ、その威力の大きさを示している。


 だが、ボロウはその場から一歩も動かなかった。


「すげえな。見えなかったぜ」


 その口調からも、ボロウは全くダメージを受けていない様子だった。

 平然とした表情のまま、目の前のファウナを見降ろし、手に握ったサーベルを振り上げる。サーベルの刀身がギラリと光る。


「!?」


 ユキトが違和感を覚えたのは、今までファウナの戦いを傍で見ていたからだろう。

 これまで、ファウナは攻撃を加えた後に隙を作ることはなかった。だが、今のファウナは殴ったままの姿勢で固まっている。


「ファウナっ!?」


「か、身体が!」


 やはりその姿勢のままファウナは動かない。何らかの力で動きを止められているようだ。


 ボロウの情報を受けて、対策を練っていたユキトだったが、まさか完全防御以外にも能力を隠し持っていたとは誤算だった。


「死ななけりゃ、あとで相手してやる」


 ボロウは好色な光と残虐な光を同居させた目で、焦るファウナの表情を確認しながら、サーベルを振り下ろした。


 ザンッ


 肉を斬る手ごたえだ。最近のボロウは、理由をつけては人を斬っている。この手ごたえが癖になるのだ。


 だが、目の前で斬られていたのは、ファウナではなかった。


「ユ、ユキト!!!」


 動けなかったファウナは斜めに突き飛ばされ、その場に飛び込んだユキトの身体がサーベルを深々と受け止めていた。


「ちっ、殺すなと言われてたのによ!」


 ボロウも驚いた様子だ。公爵家とはいえ、王が呼び出した人物を勝手に殺したとなれば、ボロウを無罪放免とするのは困難である。


 ドゥ……


 肩から深く斬られたユキトの身体が、前のめりに路上に倒れ込む。

 ファウナも茫然とその姿を見ている。既にカウンターサーベルの効果は切れており、身体は動くはずなのだが、その光景を前に固まってしまっている。


 だが


 ボシュウゥゥゥ


 風船が縮むような音を残して、ユキトの身体が煙のように消えた。


「あ?」

「え?」


 ボロウとファウナが間の抜けた声を上げる。ユキトの身体が倒れていた場所には、血の痕跡も何もない。

 呆気に取られる2人。



 そこに別に人物の声が響く。


火炎球(ファイアボール)!」


 その声で我に返ったボロウが、顔を上げると、50メタほど離れた位置から、銀髪の女が放ったらしき火炎球(ファイアボール)が一直線にボロウに向かって飛んできていた。


 ダメージはないと分かっていても、思わず両手で顔をガードする。


 ボンッ!


 炸裂した炎がボロウの上半身を包み込む。とはいえ、ボロウは燃えるようなものは身につけていない。炎はすぐに霧消した。だが、気がつくとすぐ横に倒れていたファウナの姿が消えていた。


 慌てて、火炎球を撃ってきた女の方を見るとこちらの姿もない。


「くそ、逃げられたか」


 ボロウは自身の強襲が失敗に終わったことを知った。



 ***************************



「危なかった! 危なかった!」


 宿が面していた通りから、2本ばかり裏手にある通りをユキト達は走っていた。今はボロウから少しでも離れるのが重要だ。


「びっくりしたっちゃけんね!」


 ファウナが目に軽く涙を浮かべつつ、ユキトに抗議している。ファウナが、斬られたユキトは忍術による「分身」であったと聞かされたのは、あの場を離れてからのことだ。


 火炎球が炸裂する瞬間に、後ろから手を取られ、そのまま移動したのだ。瞬間移動(テレポーテーション)によって。



 ボロウの完全防御の加護に対して、ユキトが出した策は逃げることだった。


 昨夜、酒場から宿に戻る道すがら、ユキトは何かよい加護はないかと考え、試行していたのだが、非常に強力な加護を手に入れたのである。


 +超能力の加護:異世界の超能力者(エスパー)の力が使用可能となる


 使えた力はサイコキネシスとテレポ―テーション、テレパシーの3つだ。


 サイコキネシスは手を触れずに物を動かすことができる超能力だが、敵を引きちぎったりするような出力はない。ナイフなどの武器を投げつければ、攻撃に使えるかもしれない程度だ。


 次のテレポーテーションは100メートル程度の距離を一瞬で移動できる力である。所謂(いわゆる)ショートワープだ。同行者も数人程度は運べるようだが、人数に応じて発動までに時間を要するのが欠点だ。


 3つ目のテレパシーは意図したことを付近の人間に伝える能力だ。また、近くの人間が強く念じたことを受け取ることもできるが、こっそりと他人の思考を読むほどの力はない。


「テンプレ通りの超能力者だな」


 恥ずかしくなるくらいに捻りのない超能力であるが、特に瞬間移動(テレポーテーション)は有用だ。距離の制限はあるが、修行次第で伸ばせそうな予感もある。


 ボロウ戦の前のユキトのステータスは次のようなものだった。ユキトが試したところでは4つが加護の上限数である。その意味ではフル装備だ。以前にも使った忍術の加護を再び付与(エンチャント)してみたが、先ほどはこれに救われた形になる。


 シジョウ ユキト

 『まろうど』 付与師(エンチャンター) 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 冒険者ランク B

  +変身の加護:超金属の甲冑を身にまとう「変身」が使用可能となる

  +忍術の加護:一定時間、忍術が使用可能となる

  +超能力の加護:異世界の超能力者(エスパー)の力が使用可能となる

  +不死の加護:一度のみ、致死ダメージを通常の怪我の水準まで抑える


 先ほどの戦いで、ファウナが動けなくなったと気付いたユキトは、咄嗟に分身の術を使い、ファウナを庇ったのである。同時に自分はテレポーテーションでボロウの背後に回った。


 一方、こっそりと宿の裏から抜けだして、遠くから様子を伺っていたのが、フローラとセバスチャンだ。フローラもユキトが斬られた瞬間には思わず悲鳴を上げそうになった。


 そこに、ユキトから「ファイアボールをボロウの顔に撃て!」とテレパシーが入ったのである。フローラは、以前にオルグゥと戦ったときのことを思い出し、即座に指示を実行した。


 後は、火炎球(ファイアボール)を目くらましとして、ユキトはファウナの手を取って、テレポーテーションしたのである。


 撤退戦としてはこの上もなく成功であった。


「しかし、ファウナの攻撃も通じないとなるとどうするかな……」


 ファウナの一撃を防いだということは、完全防御というのは比喩表現ではなかったようだ。次回のボロウとの遭遇を考えて頭を悩ませるユキト。次は他にも手下を連れてくるかもしれない。(いとま)によれば、公女に従う『まろうど』はたくさんいるらしい。



 だが、ユキトの心配は無駄になった。

 数日後、ボロウは無残な死体となって発見されたのである。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマ、評価も大変ありがたいです。


誤字、脱字、指摘事項は感想欄までお願いします。もちろん普通の感想もお待ちしております。


ボロウ「あ? もう俺の出番は終わりか!?」

ユキト「能力は強いのに、性格でやられフラグが立ってるもんな」


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