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第38話 不発?知識チート!

 前回のお話

  領土へ到着

 サブシアへ移動してきた日の翌日、ユキトは町の様子を見て回った。とはいえ、基本的にはタンドーラ町長の説明を聞くだけだ。


 ユキトが町を見て回る間に、町役場の職員が領主館の掃除を進めてくれるらしい。しばらく空き家になっていたようなので埃がたまっているようだ。



 ユキトは町を一回りした後、役場に戻って、町長から主な産業や税収などの説明を受けた。

 サブシアは街道沿いの宿場町ということで、宿の数が多く、他には飲食店や旅具点などを営んで生計を立てている者が目立つ。近隣にある村は農業が主産業だそうだ。


「うーん、特に何も言うことがないぞ……」


 ユキトとして知識チートで町を発展できないかとも思っていたのだが、実際にその立場になってみると何をして良いか難しい。

 農業革命へと打って出たい気もするが、素人知識でやれるものではない。無理に強行して、今年の農作物が全滅となったら、一揆が起こりかねない。戦力的には鎮圧できるだろうが。


「やはり紙の導入あたりか」


 無難なところで、紙の導入を検討してみる。ユキトは高校生の頃、体験教室で紙すきを行った記憶があるため、紙漉きならどうにかできそうである。


「この町で何かを書き残すときに使うものは羊皮紙か?」


 仮にも貴族なので、町長相手に丁寧な口調は改めるべしとフローラに言われ、ユキトは領主っぽい口調に改めている。


「はい。正式な書類などは羊皮紙を使います。日常生活では、木の板や布を使いますが」


 やはり紙はまだ実用段階にはないようであった。さっそくユキトは紙の説明を行い、それを産業化したい旨を伝える。羊皮紙よりも安価に作成すれば、町の主力商品となるだろう。



「――というわけで、植物の繊維を煮て、それを漉いたものが紙だ」


「ふむ……」


 タンドーラ町長はユキトの説明を聞いて、何やら考え込んだ。紙漉きの説明が難しかったのだろうか。


「ひょっとしてユキト冒険爵が仰っておられるのは、これのことでしょうか?」


 そういうとタンドーラは役場の奥から何枚か茶色の薄いものを持ってきた。若干の色が付いているが、紙に見える。いや、紙にしか見えない。


「紙があるのか……」


 既に紙があることにショックを受けるユキト。異世界は紙が実用化されていないものではなかったのか。ラノベ通りに進めてくれないと困るではないか。ユキトは、そんな文句を誰に向けてでもなく呟いた。


「いや、冒険爵様。これはエルフにしか作れないものです。価格も非常に高く、町にもこの3枚しかありません」


 ユキトの落胆を見て、町長が慌てて説明する。


「ユキト様、これはエルフの織葉と呼ばれていて、製作技術はエルフしか知らないものですわ」


 フローラも解説を付け加える。どうやら、エルフは紙の製作技術を持っているようだが、一般には広まっていないらしい。となると、産業としては成立する。特許という概念もないだろう。


「じゃあ、これを量産できれば売れるか?」


「羊皮紙よりもかなり安ければ売れるでしょう」


 羊皮紙を作成するには、かなりの手間が必要だ。そのため、日常的に使うことはない。日常生活で何かを記すには、木の板か布を使うのが一般的である。安価な紙が普及するようなら、需要はあるだろう。また書籍への利用も考えられる。


 早速、ユキトは産業化のための調査班を結成させた。紙に向いた植物の選定が最初の任務だ。予算は後日正式に組むことにするが、まずはスタートアップとしてユキトのポケットマネーを使うことにした。生産が軌道に乗れば、回収は容易だろう。


 紙の製作手順は、できる限り詳細に思い出して調査班に伝えておく。領主たるユキト自身が紙を漉くわけにはいかない。調査班には、様々な植物を使って紙を漉いてもらい、使い勝手が良い植物を選び出してもらうのだ。



「さて、次はリバーシだ」


 異世界あるあるの一つとして外せないのが、リバーシ製作だ。ここは宿場町の性格が強いので、良い土産物になるだろう。そう考えて、ユキトも次の知識チートとしてリバーシを選んだ。


 だが――


「ゲンペイゴですね」


 ユキトの説明を聞いたタンドーラ町長は、無情にもリバーシを既存の遊戯であると指摘した。この世界(ディオネイア)には、ゲンペイゴという遊戯が既に存在するらしい。


「源平…碁?」


 ユキトはショック以前に、狐につままれたような顔になった。

 不思議なこともある。源氏も平家もないはずの世界でゲンペイとはどういうことだろう。この世界(ディオネイア)に来た当初は、自身の聞く言葉が自動で翻訳されていると思っていたユキトだが、どうもこの世界で使われている言葉は、日本語であるように思える。


(何かおかしいな。この世界は日本の影響を受けている?)


 二度と戻れないほど隔絶している2つの世界のはずだが、2つの世界には何か関係がありそうだ。この推測を、ユキトは心のメモにしっかりと書きつける。


 だが、情報が不足していることを考えても仕方がない。今は町の産業だ。リバーシがダメなら、次の手がある。


 ユキトはそのように考え、他の遊戯も確認してみる。その結果、将棋やチェスは世界(ディオネイア)に存在しない……少なくとも町長は把握していなかった。


 チェスならば、貴族受けも良さそうである。

 サブシアは自然が豊かな地域だけあって、腕の良い木工職人も在住している。ユキトはすぐさま数セットの試作品を作るよう指示を出した。

 営業がてら、王都へ行く時に持参したいところだ。もし、紙の試作品も間に合うようなら、ルールを紙に書いておくのも良いだろう。いい宣伝になる。


 その他にも、様々な作業に対するマニュアルという概念の導入や、町役場の書類のフォーマットの策定など、ユキトの現代知識は細かい点で役に立った。


 結果として町役場の職員からは、ドラゴンスレイヤーというよりも、細かい工夫が上手い貴族と認識されたようだ。


「思っていた知識チートと違うけど、まぁ仕方ないか」


 ユキトはカバンの奥で眠っている電子辞書を思い浮かべる。あれが起動さえすれば、相当量の現代知識を得ることができる。恐らくは、紙の作り方も、合金の作り方も、様々な化学薬品の生成方法も記載されているだろう。

 電池さえ充電できれば、ユキトの勝利は約束されるのだが、その手段は見えてこない。


「まずは紙とチェスだな」


 ユキトは焦らずにゆっくり領地を発展させようと心に決める。時間に限りがあるわけではないのだから、確実に進めていけばよいのだ。


 だが、そんな領主のスタートを切ったユキトの元に、王都から一通の手紙が届いた。冒険爵の任命式である。



ここまで読んで頂きありがとうございます。


んー、今になって思えば、領土の確認は飛ばして王都へ向かわせた方がテンポが良かったですね。反省点です。


都合により、明日は恐らく更新が出来ないと思います。明後日はどうにかしたいところです。

今後ともご清覧の程よろしくお願いいたします。

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