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第4話 試そう!チートスキル!

 前回のお話

  管理者「神話とかから加護を作れる能力やるわ」

「ここが異世界(ディオネイア)か……」


 ユキトの眼前には、原野と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。低めの丘も目に入るが、それなりに平坦な地形である。


 ユキトの出現した場所のすぐ傍には、石で舗装された細い街道があり、丘の裏手へと続いているようだ。


(一見したところ地球と変わりないな)


 空の太陽はまだ高い。


 ユキトは軽くあたりを見回して、街道の傍に座るのに手ごろな岩を見つけた。その上に腰をおろし、肩にかけていたカバンも足元へと置く。


 まずはジャケットの内ポケットからスマホを取りだしてみる。「圏外」という無情とも当然と言える表示を確認して、ユキトはスマホの電源を切った。元の世界との隔絶を象徴するような行為だが、電池を残しておけば、いずれ使えるシーンがないとも限らない。

 スマホの電源を落としたユキトは、数秒目を閉じて、気持ちを切り替える。


「さて……」


 まず、管理者からもらった豆らしき食料をカバンから取り出して、1粒だけボリボリと音を立てて齧る。気持ちを切り替えるのに加え、味も確認しておこうと思ったのだが、これがなかなか美味い。薄い塩味と香ばしさがあり、ついついもう一粒食べたくなる味だ。


(豆が予想外に美味いのはありがたいけど、まずは俺の能力の確認からだな)


 ユキトがこの世界に迷い込んだ際に、世界の管理者を名乗る存在から与えられた特殊な能力。この能力がユキトの今後の異世界生活を大きく左右するであろうことは想像に難くない。


 まずは、自身の能力を明確に把握しておく必要があるだろう。


(俺の世界の神話を元にした加護を得られるって言ってたよな)


 ユキトは管理者から受けた説明を注意深く思い出す。管理者が言うには、神話に登場する存在をモチーフとして加護を付与できる力だという。


(まずは俺を対象として……)


 与えられた能力をどのように発動させれば良いのかは、まるで初めから知っていたかのように理解していた。


 まずは対象を指定する。もちろん対象はユキト自身だ。他には誰もいない。


「加護のモチーフは……あの神様で試してみるかな……」


 ユキトは目を閉じて、元の世界の神様の一柱をイメージする。目を閉じて意識を集中させるユキト。岩に座ったスーツの若者が眉間にしわを寄せつつ何かを念じている姿は極めて怪しい。


 だが、そんな怪しい見た目であっても、どうやらユキトの念じた神様はモチーフとして認識されたようだ。ユキトの初めての能力は無事に発動した。


 加護が生成され、ユキトは自分の身体に何か大きな力の奔流が流れ込んできたのを感じる。これが加護の力なのだろう。その力に意識を向けると、脳内に加護の情報が流れ込んできた。


『日食の加護:一定時間、日食を引き起こす魔法を得る』


 ユキトが思い浮かべたのは古事記、その中の天照大神であった。


 ユキトが天照大神を選択したのは、その知名度によるところが大きい。ユキトがとっさに思いつく神様は多くない。流石に天照大神ともなると、ユキトも多少はその逸話を知っている。天照大神と言えば、日本人の総氏神ともされ、一般的には一番偉い神様というイメージで知られている一柱だ。


 日本人の半分が知っていると仮定しても、6000万人に知られていることになる。ディオネイアの基準では圧倒的な数字である。


 問題は得られた加護の効果である。


 天照大神と言えば、太陽の化身かつ最高神である。そうであるからには、大抵のことはできるように思える。ひょっとしたら、ドラゴンや魔王が足元にも及ばない強力な神通力を持っているのかもしれない。


 しかしながら、日本人の多くが持っているイメージは、天岩戸に隠れたという引きこもりエピソードである。ユキトの能力で生成される加護は、神様の本来持っている力ではなく、人々のイメージを参照して生成される。


 その結果が日食を引き起こす魔法が得られる加護であった。太陽の化身が岩戸に引きこもるエピソードを如実に示す加護である。


 ちなみに、ユキトは知らないが、天照大神をモチーフにすることで生成される加護は、引きこもり系加護になる確率が8割以上となる。


 さて、この日食を引き起こす魔法、普通に生活する上では完全に意味がない魔法である。聖職者などになれば、奇跡を起こす力として使い道があるのかもしれないが。


 そもそも、魔法ということは、魔力を消費すると思われた。どの程度の魔力を要するのかは不明だが、日食という天変地異を引き起こす大魔法である。魔力がないと言われたユキトには使えない可能性が高い。


「……まぁ、テストだし、良しとするか」


 使いどころがないことを思うと喜べないが、加護が付与されたことは確認できた。テストとしては成功と言ってよいだろう。


 そして……




――5分か……」


 先ほどの加護は5分程度で消えてしまった。一定時間という説明だったが、この加護に対するユキトの適性の問題かもしれない。仮にも天変地異を引き起こすような加護だ。大神官ならともかく、一般人のユキトに適性があるとは考えにくい。


 もちろん、ユキトとしても、加護が消えるまでの5分の間に日食の魔法を使ってみようとしたが、何も起こせなかった、というより、魔法の発動のさせ方が分からなかったわけである。


「魔法の使い方は今後の検討課題だな。あとは……そうだ、同じ加護が生成できるのかも試しておかないと……」


 もし同じ加護を1度のみしか生成できないということであれば、天変地異を引き起こす加護を永久に失ってしまったことになる。消えてしまった加護を再度生成できるのか、しっかりと確認しておく必要がある。ユキトは、先ほどと同じように古事記をイメージする。


 そうすると、これも能力の効果なのだろうが、10日間程はこの加護を生成できないことが感覚として伝わってきた。ぼんやりと脳内に感覚として生じるのである。


 どうやら、加護の再生成までには、リロード時間というようなものが必要らしい。


「まぁ、待てば再利用できるってのは朗報だな。じゃあ、次を試すか……」


 ディオネイアは剣と魔法の世界であるらしい。となると、ユキトとしては戦闘力が欲しい。もしくは金を産み出すような能力もありだろう。


 だが、ユキトの記憶では日本の神様はあまり戦闘に長けているイメージはないし、神様が金を練成するようなシーンも記憶にない。


 ここでユキトが次にモチーフとして思いついたのは天照大神の弟であるスサノオであった。スサノオ様なら暴れん坊のイメージであり、腕力などがアップする加護が生成できるかもしれない。

 だが、悪いことをして追放されたという良くないイメージもある。ユキトとしても、加護にはその辺りは反映されたりしないのだろうかと心配であった。

 モチーフは選べても、そこから得られる加護そのものは能力にお任せなのだ。


 だが結果から言うと、ユキトの適性が全くなかったため、スサノオを加護のモチーフにできないようだった。

 覇気というものから離れた生き方をしているユキトが、嵐の神とも言われるスサノオをモチーフとした加護を得るのは無理ということなのだろう。


 ユキトは、他にどんな神様がいたかを必死で思い出そうとする。どうにかこうにか何柱かの神様の名前を思い出して試してみるが、ユキトの神様に関するイメージ不足が原因なのか、なかなか加護の生成が成功しない。


 肝心の能力を行使する者の認識が、こんな名前の神様がいたはず……程度では、能力を発動させるにはイメージ不足なのである。


「えーっと…これって思ったより使えない能力なのか? ダメだ……もう思いつかない……あ、トイレの神様っていたよな」


 元々、能力の確認のつもりであったユキトだが、少ない選択肢が減ってきたこともあり、とっさに頭に浮かんだトイレの神様をモチーフにしてみることにした。


 ユキトはトイレの神様という一般的な名前しか知らないが、そもそもは厠神や雪隠神とも言われる一柱だ。


(確か……実際はとても偉い神様で、あとは歌にもなったからで知名度はあるだろうし……)


 ユキトの持っていたイメージはかなりあやふやではあったが、漫画やなどから聞きかじった知識がサポートしてくれたのか、どうにか加護が生成された。そもそも人々がトイレの神様に対して持っているイメージも不明瞭なのだ。


『便通の加護:一定時間、お通じがとても良くなる』


「えぇぇ……」


 あまりにも微妙な…いや残念な加護の効果だ。この残念さは、ユキトのイメージ不足にも一因があるのだが、本人は気付かない。


 そして、その効果はすぐに発現した。急にグルルルルルと鳴り出したお腹を抱えて、ユキトは慌てて近くの草むらに身を隠す。


 10分後…


「この能力、使えねぇ!!!!」


 運よくカバンにポケットティッシュが入っていたので、難局は乗り越えられたユキトであったが、神様の加護よりも紙様の加護の方がよっぽどありがたさを感じる事態であった。寒い駄洒落を地でいっている。


 流石にトイレの神様の加護というだけあって、お腹の具合は実にすっきりしている。このトイレの神様の加護も30分程度で消えてしまった。トイレへの適性というのも良く分からないが、ちっとも残念さを感じない。


 さらに驚いたのは、この加護のリロード時間が7年だったことだ。この期間、いったい何を基準に決まっているのだろうか。


 どちらにせよ、ユキトは2度と使う気はない。いや、便秘にでもなったら考えるかもしれないが。



(さて、次は……

 ん、もう暗くなってきてないか?)


 ユキトが能力の確認に時間をとられ、ふと気がつくともう太陽は随分と低くなっていた。

 おかしい、当初の予想では能力を簡単に確認したら、付近の集落なり街なりを探そうと思っていたのだ。


(……テンションあがって熱中しすぎた。このまま夜になったらヤバい……)


 ユキトは急いで街道を歩きはじめるが、周囲はだんだんと暗闇に包まれていく。街道は石で舗装されているとはいえ、日本の道路に比べればデコボコも激しい。


 街道を急ぐユキトであったが、運悪くと言うべきか当然と言うべきか、足を踏み外して前に倒れ込んでしまった。


「げふっ!!」


 どうやら街道の石畳が剥がれ、そこが深さ30センチ程の窪みになっていたようだ。暗くなってきていることもあり、窪みに気付かなかったユキトはそこに落ち込んでしまったというわけである。


「痛ててて ……って、濡れちまった」


 不幸な点として、窪みには雨水が溜まっていた。そこにユキトが倒れ込んだため、スーツのスラックスはぐっしょりと濡れた。足こそ捻らなかったものの、膝を打ったようで少し痛みがある。


 こんな平原で夜を過ごすなど考えたくもないが、街道はメンテナンスが充分とはいえず、ところどころで石畳が剥がれている。暗い中を歩くには少しばかり危険な道のようだ。


 ユキトは慌ててカバンの中身を引っかき回し、底の方にライターを発見した。喫煙用ではなく、以前に墓参りに行ったときのものだ。


 ライターを確保したユキトは、急いで辺りに落ちている枯れ枝や枯れ草などの燃えそうなものを集めて、火をおこす準備をする。


(せめて火がつけば……)


 墨を流したような闇が、あたりをすっぽりと包み込んだ頃、丸めたポケットティッシュにつけた火が、井形に組んだ枯れ枝にようやく燃え移った。


 オレンジ色の炎が安定してきて、ユキトはほっと息をつく。炎というものは見ていると落ち着くものだ。パチパチと枯れ枝のはぜる音があたりに響く。燃える程度に乾燥した枯れ枝が得られたのは幸運であった。


 カバンには着替えも入っていることだし、とりあえず濡れてしまったズボンは脱がねばなるまい。


(かなり濡れちまったな。しっかり乾かさないとな)


 ユキトはズボンを脱ぐと、焚き火の熱が届く位置に枯れ枝を立て、それにズボンを引っ掛けた。乾くまではしばらく時間がかかるだろう。


 だが、ユキトがカバンから着替えを引っ張り出そうとしていると、突然、ユキトの正面側の茂みがガサリと音を立てた。


 ユキトがギョッとしながら、視線を向けると、茂みの中から小ぶりの影が姿を現した。距離は焚き火から7~8メートル程度だろうか。


(え……あれは……? 管理者からこのあたりは比較的安全って聞いてたんだが……!?)


 茂みから出現した存在は焚き火に照らされ、その姿をはっきりと確認できた。身長1メートル程度の小さな人型の生き物だ。子どものように見えるが、その全身は一切の色彩が失われたような黒いシルエットになっている。

 目の部分が2点だけ赤く光っている以外には、笑ったような半円形の赤い口が見えるだけだ。口の中の歯はとがっていて、少なくともベジタリアンではなさそうだ。まるで幽霊のようであるが、足までしっかり存在しており、手には棍棒のようなものを持っている。

 確実に人に害をなそうとしている気配がビンビン伝わってくる。


 カゲビト。魔物としては非常に弱い部類に入る。この世界の成人男性なら、武器を持っていれば1対1で不覚をとることはまずない。


 しかし、丸腰の現代人にとっては脅威である。カゲビトの手にしている棍棒で殴られれば、ただでは済まないだろう。倒れたところをそのまま殴られ続ければ、命を落とすことも充分に考えられる。


(終わった……)


 多少腕に覚えのある者ならば、素手でも戦うことも可能な相手なのだが、そんなことを知る由もないユキトは、初めて見る魔物の姿に絶望していた。


「カカカ」


 不気味な声をあげ、焚き火を回り込もうとして、近づいてくるカゲビト。


 人間、追いつめられると現実逃避するように出来ているのだろう。

 恐ろしいその外見は、特撮モノに出てきた敵の戦闘員のようだな……とユキトは思った。子供の時にテレビで再放送をやっていた特撮モノに登場した、敵の戦闘員だ。色違いの5人で構成されている戦隊モノもあったが、確かメタルスーツをまとって戦う宇宙警察モノにも出てきたはずだ。


(どうせ異世界なんて非現実的な状況ならば、いっそのことヒーローが助けに来てくれればいいのに)


 そんなことを考えていたユキトだが、カゲビトは焚き火を回り込んで近づいてくる。

 だんだんと現実逃避している猶予はなくなってきた。目の前に迫りくる現実に対処しなければならない。


 だが、じりじり距離を詰めてくるカゲビトに対して、ユキトが全力で逃走を図ろうとしたその瞬間、突如ユキトに加護が付与された。脳裏に加護の情報が浮かぶ。


『変身の加護:超金属の甲冑を身にまとう「変身」が使用可能となる』


「……は?」


本作品のチート能力は漫画やアニメのテンプレ設定を与える能力です。異世界モノでよくある「知識チート」の要素を能力に取り入れて見たかった次第です。


知識チートでは、ボクらが良く知る事柄が、異世界で大きな効果を示し、それに対する異世界の人々の反応が面白いわけですが、これを能力でやってみました。クロスオーバーもののSSの楽しさもこの辺りにあると思っています。

問題はそれがちゃんと面白さに結びついているかという点ですが。


8/23 前書き、後書きを修正

8/27 1~2話を3つに分割したので、話数が1つずつずれました。(ストーリーに影響なし)

8/31 文章を推敲、冗長な記述を修正

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