第37話 こんにちは!領主様!
前回のお話
七極ってヤバそうです
ユキト一行の馬車は、目的地でもあるサブシア地方に入っていた。
サブシア地方は森と湖のある自然豊かな土地である。
「っていうと聞こえは良いけど、田舎ってことだよな」
「それなりに大きな街道も通ってますから、開発次第では大きくなりますわよ?」
フローラの言によれば、サブシアは宿場町としての側面が強いが、寒村というわけではないらしい。千人以下の町で、領内には他にも幾つか村があるとのことだ。
だが、ユキトがこの世界で初めて訪れたネロルに比べると、町の規模は小さいと言わざるを得ないようである。
「まぁ、それくらいが気楽でいいな」
ユキトとしても、あまり大きな都市を任されても困る。責任と荷物は軽い方が良い。
「王都だと人口はどのくらいなんだ?」
フローラから人口の話が出たので、ついでに他の街についても尋ねてみる。
「王都は5万の民を擁していますわ」
5万人。地球で言えば中世のパリの人口に近い。この文明水準で考えると、かなりの大都市と言えるだろう。とはいえ、外部に示される人口は少し盛ってあるのが通例である。ユキトは実態は3~4万人程度だろうと見積もった。
「王都か、一度は行ってみたいな」
ユキトは世間話程度のつもりで口にしたのだが、フローラがきょとんとした顔をしている。何か変なことを言っただろうか。
「近いうちに王都には行くことになりますわよ?」
「え?」
「爵位の任命式がありますから」
どうやら冒険爵という爵位を正式に授かるには、王都へ行き、王から任命される必要があるらしい。
「そう言えば、この世界の爵位ってどうなってんだ?」
今更ではあるが、爵位について知っておいて損はないだろう。
「まず、爵位には、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵とあります」
「俺が知ってるのと同じだな」
「基本的に爵位は領地に紐付いています。サブシアは本来は男爵領ですの」
この世界でも爵位は担当する領地に対して与えられている。そのため、広大な領地を管理している大貴族は、領地とともに下位の爵位の任命権を幾つか持っていることが多い。領地を任せる場合には、ともに爵位を与えることになる。
なお、爵位の正式な任命は王が執り行うが、この任命式は儀礼上のものだ。ただし、領地を持たない法衣貴族や上位貴族については、王にのみ任命権がある。
「冒険爵ってのは?」
「冒険爵というのは、冒険者として多大な功績を示した者を国が迎え入れるための爵位ですわ」
なお、王国における冒険爵の階級は功績によって上下するのが慣例である。過去には伯爵位と同等に見做された例も存在した。
「なるほど、その冒険爵の任命式ってのが王都であるわけか」
「ユキト様の功績はきっと王都でも評判になるでしょうから、注目が集まると思いますよ」
ユキトの王都行きは、王都からの通知待ちらしいが、ほぼ間違いないとのことだった。ユキトとしては、王様に挨拶するのは気が重いが、王都を観光してみたくもあり、複雑な気分だ。
「ユ、ユキト様!」
ユキトがまだ見ぬ王都へと思いを馳せていると、馬車の周囲の兵士が緊張した様子で車内に顔を出す。
「どうかしたか?」
「魔物が出ました。牛喰らいです」
魔物と言われ、ユキト達も慌てて馬車から飛び出した。
馬車の進行方向に、大きな黒い塊が3つ見える。全身を毛で覆われており、ヒグマを一回り大きくした程度のサイズだ。
「ファウナ、あいつらって強いのか?」
「オルグゥより弱い程度ね。変身したユキトなら負けることはないわよ」
牛喰らいは獣型の魔物である。その名の通り、牛を襲って食べることが多い。その形状は、熊の頭部を失くして、その位置に巨大な口がついている姿を想像すると良いだろう。
「じゃあ、俺とファウナで退治ってことでいいか?」
「いいわよ」
「では、私めは見物させて頂きます」
「ユキト様、ファウナ様、頑張って下さい」
兵士達もユキトがドラゴンスレイヤーであることは承知しており、微塵も心配した様子はない。ユキトが変身して甲冑姿になったときは歓声が上がったほどだ。
結局、3体の牛喰らいのうち、1体をユキトが斬り、残りの2体はファウナによって倒された。ユキトの剣は簡単に牛喰らいを両断し、ファウナの拳は一撃で牛喰らいを絶命させている。完勝だ。
見物していた兵士達も流石はドラゴンスレイヤーだと満足気である。良い土産話が出来たと考えているのだろう。
「あんな魔物が出るんじゃ、近くの村も大変だな」
領主の主な仕事は魔物狩りになるかもしれないと考えるユキト。
実際、魔物の討伐は領主の重要な仕事の一つであり、冒険者ギルドに任せっぱなしとはいかないのが実情だ。
魔物と遭遇してから間もなく、馬車はサブシアの町へと到着した。
ユキト達が通ってきた街道を挟み込むように町が形成され、なるほど宿場町という感じである。町の周囲には簡単な塀がこしらえられているが、魔物の襲撃を防ぐには若干心許ない。
一行を出迎えたのは、恰幅の良い人の良さそうな男だ。
「町の長をしておりますタンドーラと申します」
「えーと、このたびサブシアの領主に任命されたユキトです」
ユキトは何と挨拶して良いか分からず、アドリブで対応する。だが、意外にもこの対応が好評だった。
「ドラゴンスレイヤーの冒険爵様と聞いていたので、さぞかし勇猛な方がお越しになると思っていたのですが、いや、実に丁寧な御方で安心いたしました」
本来、冒険者の強さと執政者としての能力は全く別だ。タンドーラ町長からすれば、蛮勇をふるう領主が来ると、自身が苦労することになる。町長は、ユキトの丁寧な対応を見て、心底ホッとしたようであった。
「今日はゆっくりして、明日から色々と聞かせてもらいたいですが、急ぎの問題はないですか?」
ユキトも一応は領主らしくあろうと、急ぎの対応がないことだけ確認する。野宿も嫌いではないが、やはりベッドでしっかり寝たいものである。知識チートは明日からだ。
「急ぎと言えば、この町の近くに3体の牛喰らいが出没したという知らせが……」
「あ、それは解決してる」
どうやら、ユキトは領主の初仕事を終えていたようであった。領主としては、幸先の良いスタートである。
ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマ、評価も感謝です。皆さんに楽しんでもらえるように頑張って参ります。
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ユキト「ここんとこ展開が地味だな」
ファウナ「話の切れ目だからね。仕方ないわ」
セバスチャン「王都では荒れますので」
ユキト「いや、勘弁して……」