第36話 昇級!七極の噂!
前回のお話
王都で公女が悪巧み
暇「ボクも出たよ!」
サブシアへ向かう馬車の中でユキトは自身のギルドカードを見る。
銀色に輝くB級のカードだ。山岳竜の討伐の功績で昇級したのだ。
ユキトはバロンヌの冒険者ギルドでの昇級時のやりとりを思い出す。
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「B級への昇級に問題ありません」
ギルドの職員、カールと名乗る男はそう断言した。
「え、そんな簡単にB級に上げちゃって良いの?」
戸惑うユキトに対して、カールは呆れたように応える。
「山岳竜を倒し、敵船団を被害なく拿捕してしまうのを簡単と仰るのでしたら、何も申しません」
もっとも、敵船団の拿捕に関しては、戦争の功績であって冒険者ギルドとは無関係だ。実力の参考にはするが、昇級のポイントには加味されない。
「ファウナ様もB級ですね」
山岳竜との戦いで大きな役割を果たしたファウナである。ユキトとしても自分がB級なら、ファウナもB級もしくはA級だと考えている。
戦後処理や手続き、ジコビラとの交渉で忙しいため、フローラとセバスチャンは同行していない。フローラはC級据え置きで、セバスチャンの級はいまだ不明だ。
「ユキト、有名人になっちゃうねー」
冒険者ギルドの食堂でファウナと昼食をとっていると、ファウナがユキトをからかってくる。実際にバロンヌではユキトの事を知らぬ者はいない。
しかも、領都を出入りする旅人や商人は、面白い情報としてユキトの功績を仕入れていく。尾がつき、鰭がつき、いつの間にか「素手で敵船団を壊滅させた」などという話まで出回っている。
思わず「人間の領域じゃねえ」とつっこみたくなるが、ファウナがもう少し力を上げれば、簡単にやってのけそうだ。
「あまり目立つと良いことないんだよな」
ユキトは強いと知られることで面倒事が舞い込むと信じている。今までの人生で読んできたライトノベルがその根拠だ。間違いない。
「確かに。七極に目をつけられたりしてね」
「なんだ、その七極って?」
ファウナの口から飛び出した聞きなれない言葉に、ユキトは思わず問い返した。何となく物騒な予感がする。
「凄まじい力を持つとされる7つの存在ことよ」
「おおう……」
どうやら四天王とかそういう類のものらしい。世界クラスで名が通っているのであるから、相当にヤバイことが伺える。
「まず1柱目は」
「待って、聞きたくないから! 聞いたら絶対に戦うことになる気がする!」
「なにそれ、ユキトの世界の迷信? ちゃんと知っときなさいよ」
ユキトの予感は当たるのだ。ライトノベルが根拠ではあるが。だが、そんな話が異世界人たるファウナに通用するはずもない。結局、ファウナから無理矢理に七極について説明されてしまう。
「まず、竜神スペル・ビアスね。竜族の神位体と言われているわ。実力は七極で一番とも」
「神位体ってと、種族の枠を飛び抜けた個体だっけ?」
「そうそう。竜の枠を超えて亜神になったと言われてるわね」
「竜の上は神なのか……」
竜族で一番強いヤツくらいに覚えておけば間違いなさそうである。
「次に眠神スロウ。創造の女神様が産み出した古来の神の一柱とも言われてるの」
「眠神って名前からは強そうな雰囲気しないな」
「そうね。でも、この神様は耐性とか無視して相手を眠らせちゃうらしいわ。生物でも無生物でも眠らせるって」
「なんじゃそりゃ。地味だけど強いな」
眠神は絶対的な眠りを与える存在として知られる。旅の途中で急に意識を失ってしまった時などは、近くを眠神が通ったのだと人々の間で広く信じられていた。
「で、次が私と同じエルフ族で極魔道士とも呼ばれているアウリティアさん」
「エルフにもいるのか」
「この人は、高度な魔法技術と広い知識でエルフ族を再興した存在らしいわ。アウリティアさんが改良した魔法や魔道具は数限りないわね」
エルフ繋がりなのか、どことなくファウナも得意気である。
「で、氷結の魔女イーラ。この人は氷系魔法の達人で旅をして回っているから、目撃例も多いわ。あとは、吸血姫ルクスリア、復讐神インウィデア、大巨人グラ・グリトね」
「復讐神ってなんだ?」
「一説には神様が零落して亜神になったとも言われてるけど、詳細は謎ね」
どうやら七極にも、ある程度知られている存在とほとんど謎の存在がいるようだ。
「だいたい誰が決めてんだよ」
「冒険者ギルドの上層部じゃないかしら」
「七極……出来る事なら会いたくないけどな」
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ユキトがそんなやり取りを思い出していると、馬車が止まった。
「ユキト様、そろそろ野営の準備をします」
馬車の外から兵士が声をかけてくる。
バロンヌからサブシアへは2日程かかる。そのため1度は野営を挟む必要があるのだ。
「この付近の魔物は?」
ユキトは誰となしに尋ねてみる。
「街道沿いですし、ロートゥくらいですわね」
フローラがごついメイスを片手に答える。頼もしい限りだ。ロートゥ1~2匹程度ならフローラも後れをとることはない。
天幕を張り、石でかまどを作り、鍋をかける。
ユキトは野営が嫌いではない。夜に魔物が襲ってくるという点さえ除けば、キャンプのようなものだ。カレーが食べられれば言うことないのだが、残念ながら塩味のスープや干し肉がメインだ。今回は干した魚があるのが有難い。
「異世界で領主様か……」
異世界の星空の下、カレーも食べられない領主様にはあまり魅力を感じていないユキトであった。
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