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第35話 暗躍!王都に潜む野心!

 前回のお話

  ユキトは領地をもらった!


 アスファール王国の王都アスファ。大理石を中心とした美しい建造物が立ち並ぶことで知られる王国最大の都市である。


 その中心街を2人の男が歩いていた。1人はブロンドの髪に青い瞳、長身で体格も良い戦士然とした男。もう1人は黒髪黒目で、やや長身であるが体の線の細い男だ。


「おい、イトマ」


 先を行くブロンドが背後の黒髪に声をかける。


「なんだい、ボロウ?」


 軽い口調で返事をする黒髪。

 それを受けて、ボロウと呼ばれた男は明らかに気分を害したようだ。


「イトマごときが偉そうな口を利くんじゃねぇ! ボロウ様だろうが!」


 ボロウと呼ばれた男は激昂すると、イトマと呼ばれる男を殴りつけた。

 殴られたイトマはあっさりと倒れ込む。


「メルア様の御厚意で、赤旗兵団に所属できていることを忘れるなよ! 言葉が分かる程度の能力しかないくせに」


 ボロウはそういうと倒れたイトマに軽く蹴りまで入れる。


「早く立ちやがれ! トルネの野郎から寄付金を取り立てるぞ」


 自身で殴っておきながら、早く立てと急かすボロウに対して、イトマは怒る風でもなく、むしろ微笑みを残した顔で立ちあがった。


「そんなに慌てなくても」


 その口調に再びボロウは気分を害した。だが、また殴り飛ばしても時間を無駄にするだけだと考えたのか、イトマの返事を黙殺して、歩き始める。


「あれれ、急ぐとハゲるよ?」


 イトマもその後を追う。

 メルア・ニューマン公女に召喚された虚井 暇(うつろい いとま)。彼は、王都にてニューマン公爵家の私兵団である赤旗兵団の一員として生活していた。




 豪商トルネの屋敷は、王都の中心街の一角にあった。今回はニューマン家から先触れを出して、赤旗兵団への寄付金を受け取りに行くと伝えてある。イトマは単なる荷物持ちである。


「これはボロウ様、ようこそいらっしゃいました」


 恰幅の良いトルネがにこやかな笑顔でボロウを迎える。だが、イトマはトルネの目の奥に、ボロウへの恐怖と警戒が宿っていることを見抜いた。



 ボロウ・カリウンは、加護持ちの揃っている赤旗兵団の中でも最も強いと言われている。最強と呼ばれる所以は、持っている加護の理不尽なまでの強力さにある。


 +完全防御の加護:敵意を持った攻撃によるダメージを一切受け付けない。


 この加護のおかげで、ボロウは負けを知らない。そのため、彼の行動は暴力的かつ高圧的であり、王都の民衆から恐れられていた。

 

 酒場での飲食料金を踏み倒す程度は当たり前で、様々な相手に因縁をつけて小金を巻き上げる、美女と見れば半ば強引に手を出すなど、性質の悪さは折り紙つきだ。しかも、背後には公爵家がついている。


 当然、恨みを買った相手も多く、中には武器を持って挑んできた者もいたが、彼には傷ひとつつけることはできなかった。


 豪商であるトルネも、ボロウに逆らうと痛い目を見ることは承知している。それゆえに赤旗兵団への寄付を強要されて、断ることができなかったのだ。


「こちらがお約束の寄付金です」


「おう、悪いな」


 ボロウは口ではそう言いつつも、全く悪そうな素振りを見せず、金のはいった袋を無造作に掴み、そのままイトマに押しつける。


「で、俺の小遣いも欲しいんだが?」


「心得てございます」


 トルネもそれなりの商人である。このゴロツキのような男から何を求められるかは理解していた。別途用意していた金貨入りの小袋を渡す。


「もらっておく」


 そう言うとボロウは満足そうに頷き、袋を懐に捻じ込むと、トルネの屋敷を後にしたのだった。彼の後ろを黒髪の男がついていく。


「くそっ……あのゴロツキが……」


 視界からボロウが消えた途端、トルネは先ほどまでの愛想笑いを消し、忌々しげに呟いた。失った金は、経営する商会の1か月分の純利とほぼ同額だ。


 ガチャ


「今の方々は……」


 部屋のドアが開き、たまたま来訪していた神官の老女がトルネに話しかけてきた。部屋で待っているように頼んだのだが、帰っていくボロウを窓から見て、廊下へ出てきたようだ。


「ああ、あれが噂のボロウですよ」


「何と、恐ろしい……あれは、とんでもないわ」


「ええ、酷い野郎なんです」


 相槌を打つトルネだが、神官の様子は違った。青ざめた顔をして、細かく震えている。


「違います……その男では、あんな小物のことではありません。後ろにいた黒髪の……あれは、何ですか? 人ですか? 魂がもはや人間の形をしていなかった……恐ろしい」


「え?」


「あれは……人ではなかった」


 古い付き合いである神官が初めて見せた尋常でない様子に、冷たい汗が背中を流れる。トルネは2人が帰っていった道を見つめるしかなかった。


 ***************************************


「ジコビラが敗北した!?」


 ニューマン公爵家の長女、メルア・ニューマンはジコビラ連合があっさりと敗北したという知らせを受け取り、驚愕した。


 メルアの魅了能力により、手駒と成り果てた者はジコビラの中枢にも存在する。

 その駒から事前に入手していた情報では、山岳竜を陽動に用いて、守備が手薄になったバロンヌに海から奇襲をかけるという作戦だったはずだ。陽動が成功しなかったとしても、そう簡単に決着がつくとは思っていなかった。


 メルアの計画はこうだ。

 まず、ジコビラ連合国にバロンヌを陥落させる。そうすると、王都は重要拠点であるバロンヌ奪還のために軍を送ることになる。その隙に『まろうど』を中心とした赤旗兵団により、王都の中心部を制圧。自身が持つ魅了の能力も併せて使うことで、民衆の支持も取り付け、王権をニューマン家へ移管させるというものだ。


「計画変更ね……」


 加護持ちから成る赤旗兵団は強力無比な戦闘力を誇っているが、それでも王軍全体を相手にするのは危険が過ぎる。


「まずはジコビラが敗北した理由を調査して」


 メルアは部下に指示を出した。


 場合によっては、もっと手駒を増やす必要がある。もしも、ジコビラとの戦争で活躍した加護持ちの兵士でもいれば、適当な理由で王都に呼び寄せて、魅了の加護で隷属させても良いかもしれない。


 メルアは自身の魅了の加護は神が与えた力だと考えている。この力を使い、王国を支配し、やがては皇国まで平定するのだ。召喚の魔法陣を知ることが出来たのも神の意志に違いない。


 だが、召喚は常に都合の良い相手を呼べるわけではない。異世界から呼び出された勇者が世界を救うこともあれば、異世界から呼び出された狂人が世界を滅ぼすこともあり得るのだ。


 *****************************


 一方、王都で進む計画(クーデター)など露知らず、ユキト達は新たに領地として受け取ったサブシアの地へと向かっていた。

 ユキト、ファウナ、フローラ、セバスチャンの4人に加え、「荷物持ち」の兵士達が5人ばかり同行している。今回は馬車移動である。


 なお、慣例として「冒険爵」に同行する兵士は護衛とは呼称されないことになっている。護衛を必要とすると思われては、冒険者の恥であるという考えからだ。


「フローラとセバスさんは、ついて来てよかったのか?」


「サブシアまでの案内も要るでしょうし、冒険爵として領土をお治めになるにも、まずは内政に詳しい者が必要でしょう」


「そうですわよ。まずは法律や税についてお教えしますわ」


「俺の思ってた不労所得と違う……」


「先に言っとくけど、私はそういうの手伝えないからね?」


 早くも戦力外宣言を出すファウナの隣で、ユキトは売られていく子牛の気分で空を眺めていた。

 馬車は揺れながら、サブシアへ向かう。ドナドナが聞こえてきそうな光景であった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや評価、感謝です。


誤字・脱字などのご指摘がありましたら感想欄までお願いします。もちろん普通の感想もお待ちしております。


暇「どうも、ラスボスです」

ユキト「待て待て待て、適当な事を言うんじゃない」

暇「え? そこはあるある展開じゃないの?」

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