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第34話 ご褒美!不労所得!

 前回のお話

  ファウナはナンパ男を投げ、ユキトは差し入れをもらった。


「ちなみにユキト様は何か欲しいものはございますか?」


 3人は侯爵邸へ戻る途中である。眠ってしまったファウナはユキトが背負うことにした。エルフは細身なのでそこまで重くはない。背中に当たる膨らみも程良いサイズである。


 セバスチャンの質問は、この戦争の論功行賞に関するものだった。


「んー、俺の夢は昔から不労所得なんだけどな」


「不労所得?」


 この世界には不労所得の概念がないのか、怪訝な顔をされる。


「不動産……つまり土地とか建物とかから収入を得るんだ」


「ほほう」


 セバスチャンが満足そうに頷く。何か拙いことを言っただろうか。

 何か誤解を与えたような気がする。


 訂正しようかと考えながら、ユキトは侯爵邸の玄関をくぐった。

 だが、訂正のタイミングは失われた。


「ユキト様ぁ~~」


 邸内に入った途端、フローラがユキトに飛び付いてきたのである。

 顔がほんのり赤く、呼気に酒精が混じっている。


「お前もか!!」


 前門のフローラ、後門のファウナだ。

 フローラは片手にワインのグラスを持ち、もう片方でぐいぐいと腕を組んでくる。


「ユキト様ぁ、私を置いて、どぉこ行ってらしたのですかぁ~」


「フローラは侯女様だし、あまり連れ回せないだろ」


「そんなぁ、いじわるです」


「むにゃ……ふあ? フローラ?」


 ユキトとフローラとが会話する声で、後門(ファウナ)が目を覚ましてしまった。挟み撃ちである。どちらも獲物を逃がすつもりはないようだ。


「ユキト様ぁ、今回は本当にありがとうございましたぁ。ユキト様も飲んで下さぁい」


 こうして、ワインによる二次会が開催されてしまう。ユキトが部屋に戻ったのは、もうすっかり日が暮れた後だった。ちなみに、ワインは上等の品で大変美味しかった。


 ***********************


「うう……頭が痛い……」


 翌日、伯爵邸のベッドの上には、頭を抱えて呻くユキトの姿があった。

 窓から差し込む朝暉がシーツの白さを際立たせており、気持ちの良い朝だ。一方で、ユキトの頭はズキズキと痛みを訴えており、気持ちよさとは無縁だ。完全に二日酔いである。


 コンコン


 部屋がノックされる。


「ふぁーい」


「おはようございます、ユキト様」


 ユキトが無気力な返事を返すと、フローラが入ってきた。昨夜はワインをがぶ飲みしていたのに、平然としている。強い。


「お水をお持ちしましたわ」


「ありがてぇ」


 旱魃にあえぐ農民のような気分で受け取ったグラスの水を飲み干す。


「午後には論功行賞の式があるらしいので、それまでに回復してください」


 フローラが恐ろしいことを言い出す。


「無理無理、俺の午後は死んでる予定だ」


「最悪、私が解毒魔法を使いますから」


「え? そんなのあるの!? 今すぐに! はよ!」


 藁にもフローラにもすがる気持ちのユキト。二日酔いは辛いのである


「へ、変身しないと使えないのです」


 フローラは魔法の知識は豊富だが、実際に使用できる魔法はほとんどない。相性の問題なのか才能の問題なのか、実用レベルの魔法は、火炎球(ファイアボール)のみである。しかし、魔法少女に変身することでその制限が解除されるのだ。


 というものの、この変身にはポーズと決め台詞が必要である。フローラとしては、これが非常に恥ずかしい。


「そこを何とかお願いします……うっ痛い」


「だ、大丈夫ですか?」


「死ぬ……解毒してもらわないと死ぬ」


 フローラの保護欲に訴えかけることで、何とか解毒してもらおうとするユキト。

 二日酔いは辛いのである。


 ****************************************


「これほどの功績は歴史上にも類を見ない水準と言えよう」


 ウィンザーネ侯爵の言葉に、ホール内に並ぶ武官・文官達はともに頷いている。


 論功行賞なのであるが、実質はユキトのための場となっていた。ホールは、白い石で造られた大きな建物で、床には赤い敷物が敷かれている。普段は議会などに使われているようだ。

 ユキトは侯爵の隣に、ファウナも舞台の端に立っている。


 侯爵はユキトの功績を挙げていく。


 まず、ジコビラ連合国の陽動作戦でもあった山岳竜を討伐した件。

 続いて、敵の作戦を明らかにして、バロンヌへと報告した件。

 最後に、敵船団を無力化し、ほぼ被害なしでの拿捕を成功させた件。


 バロンヌにも、それなりに癖のある武官・文官がいるわけだが、これだけの功績を並べられると「すげぇ」しか感想は出てこない。


 もちろん、ユキトの功績は、ファウナとフローラとセバスチャンがいてこそだ。そして、ジコビラの作戦を聞き出したのはセバスチャンである。山岳竜の討伐についても、ユキトはトドメを譲られただけで、ほとんどファウナとセバスチャンの功績だ。


 であるが、それを指摘しない程度にはユキトも大人である。ユキトに功績を集めることにより、戦勝の象徴(シンボル)として扱われているのだ。

 ウィンザーネ侯爵としても、娘であるフローラを公の場で賞するのは避けたい。セバスチャンも今更の功績は必要としていない。その結果である。


「ということで、ドラゴンスレイヤーのユキト殿」


「えっ、はい」


 侯爵の隣でボーっとしながら、自身がひたすらに褒められるのを聞いていたユキトだったが、急に呼びかけられて、慌てて返事を返す。


「貴殿には、我が領内のサブシアの地を与えようと思うがどうか?」


「え?」


「本来ならば、男爵として封ずるところだが、貴殿には冒険爵の爵位が良かろう」


「えーと」


 確かにユキトは不動産や建物からの収入が欲しいと言った。だが、領地が得られるとは思ってもいない。


 一方、ホール内の武官や文官はこの程度の褒美は当然という顔をしている。大英雄を領内に招くことができるのであるから、不満があるはずもない。話題にもなるし、所属しているという事実だけで軍事的な意義も大きい。


「何、貴殿は冒険者であるのだから、常に領内にいる必要はない。普段の管理は代理の者に任せて、帰還する拠点として使ってもらえば良いのだ」


 侯爵としては、ユキトを過剰に縛りつけようとして逃げられるのは避けたい。とりあえずは所属してもらうことが重要と考えていた。


「は、お受け致します」


 ここで断ると侯爵のメンツも潰すことになる。ユキトの心臓には毛は生えていないのである。それに管理は代理がやってくれるというのであれば、素人でもどうにかなるだろう。要は飾りなのだ。そう考えて、ユキトは返事を返した。


(はぁ、内政編でも始まるのか? でも俺に知識なんてないぞ?)


 二日酔いは解毒してもらったにも関わらず、ユキトの頭は再び痛くなるのであった。


ここまで閲覧ありがとうございます。評価やブクマもありがとうございます。


なお、内政はフレーバー程度の予定です。しっかり内政チートをするのは、他に沢山ある名作にお任せします。このお話のメインは異世界における冒険譚ですので。


ユキト「そうだよな。俺、内政の知識ないぞ」

ファウナ「加護の力で何とかならないの?」

ユキト「内政モノのテンプレって何かあったっけな」



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