第30話 秘策!タコ作戦!?
前回のお話
なんと、フローラは侯爵令嬢だった!
「ユキト様ですね。私が魔物使いのマヤです」
侯爵と挨拶した後、ユキトはさっそく魔物使いと1対1の打ち合わせを開始した。
ユキトの前に立ったのは20代半ばと思しき凛々しい女性だ。
パンツスタイルの正装。モノトーンではあるが、闘牛士の衣装に近い。
鞭を持たせると似合うだろうなとユキトは妄想するが、顔には出さない。
「よろしく、マヤさん」
「ドラゴンスレイヤーと伺っていましたので、もっとゴツい方を想像しておりましたが、お優しそうで良かったです」
そう言うとマヤは軽く微笑んだ。魔物使いは人間を扱うのも上手いらしい。
「早速だけど、マヤさんの飼い慣らしている中に、こんな感じの魔物はいる?」
ユキトは作戦に必要となる魔物の特徴を伝える。頭部から生える触手状の脚を複数持っており、骨を持たず、体は柔らかい魔物。つまりはタコ系モンスターである。
「その特徴を持つ魔物は……クラーケンですね」
「マヤさんが使役できるヤツ?」
「とんでもないです。クラーケンはA級の魔物です。普通の魔物使いが馴致できるものではありません」
「無理か……小さくて弱くても良かったんだけど」
「弱くても良いのですか? 眷属のオザシキクラーケンなら馴致した個体がいます」
「オザシキクラーケン?」
「小型のクラーケンです。2メタ程度のサイズですね」
メタはメートルとほぼ変わらない単位であるということは、ユキトもこれまでの経験で学習済みである。確かに御座敷という名に相応しい小型クラーケンのようだ。故郷のミズダコより小さい。
「それで大丈夫だ。会わせてもらっていいかな。俺の能力との相性を確認したい」
「承知しました」
外は既に暗いが、時間は貴重だ。
ユキトとマヤは作戦実行の可否を確認するため、2人で海沿いの兵舎へと向かった。
なお、ファウナは侯爵邸で部屋を与えられ、先に休んでいる。
マヤとユキトは海岸へ向かって歩いてゆく。
魔物使いは魔物の世話を必要とするため、一般兵の兵舎とは離れた位置に専用の建物が用意されている。
魔舎が併設された魔物使い用の宿舎だ。
魔舎には海水が引き入れられており、魔物の個室ともいえる魔房は、水門を開閉することで海と直接繋がるようになっている。
その魔房の1つに、大きなタコがいた。体色が緑色なので、ユキトの知識にあるタコとは少し違うようだ。
「この子です。名前はオクラ」
オザシキクラーケンのオクラ。安直なネーミングである。
だが、ユキトもそれを指摘するような野暮な真似はしない。
ユキトの勘ではマヤさんは怒ると怖い。
「じゃ、確認作業を始めよう。マヤさんはあっちを向いていてもらえる? で、オクラは海中に」
そう言うと、ユキトは自身の能力を使い、オクラに対して、とあるモチーフを元にした加護を付与したのだった。
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翌朝、侯爵を含む一同は邸内の軍備会議室へと集まった。
ユキトから作戦の可否の報告を受けるためである。
「侯爵様、作戦は実行可能です」
ユキトは、どこか憔悴した表情で報告を行う。
「シジョウ殿? 顔色が優れぬようだが?」
昨夜、邸内で出した食事が悪かったのだろうか。もしくは宿泊させた部屋に不都合があったか。侯爵から見ても、明らかにユキトの顔色は良くない。
「いえ、昨夜の実験の影響で眠れなくなったもので……。あと、私のことはユキトと呼んでもらって大丈夫です」
「そうか。では、ユキト殿。作戦が実行可能というならば、詳細を聞かせてくれ」
「はい、承知しました。本作戦は……」
ユキトが説明した作戦は、侯爵たちを驚かせるに十分な奇想天外なものだった。
「お前は本当に可能だと思うか?」
軍備会議室には、侯爵とセバスチャンのみが残っていた。
侯爵としては、ユキトと行動を共にしていたセバスチャンの忌憚のない意見を欲するところである。
「可能なのでしょう。ユキト様の能力はこの世界の常識を超えております」
「ふむ。ではあの男に賭けてみるか」
「賭けると仰っても、兵は伏せておかれるのでしょう?」
「もちろんだ。失敗した時のことも考えておくのが執政者の責務だ」
こうして準備は整えられていく。
海は静かにその時を待っていた。
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2日後、セバスチャンは偽手紙を伝書鳥の足に括り付け、海上へと解き放った。
伝書鳥は羽音を残して、沖へ向かって飛んでいく。
この鳥は、自分の巣を正確に把握して帰巣する本能を持つ。驚くべきことに、巣が船上にあってさえもだ。
「我らバロンヌの守備兵を誘導することに成功せり」
間もなく夕刻となる海上で、伝書鳥の運んできた手紙を受け取ったジコビラ連合の指揮官は、ニヤリとその髭面をゆがめた。
猛将として知られる男だが、王国には何度も苦杯を嘗めさせられてきた。借りを返済する絶好の機会に思える。
「よし、王国の奴らに一泡吹かせてやろう」
おびき出し作戦が成功したということは、バロンヌの守備は紙のようなものと判断して良い。
現在ジコビラの船団は、王国側に気づかれぬよう、かなり沖合に停泊している。
指揮官は、船団を夜のうちにバロンヌへと近づけ、明け方に一気に攻め込む指示を出した。
戦力で勝っている状態なので、夜間に攻め込んで同士討ちする事態は避けたいという判断だ。また、夜間に接岸するのは難しいという理由もある。
「ようやくだな」
「アスファールの奴ら、驚くだろうぜ!」
「街の女ども、待ってろよ~!」
「ははっ、お前は下半身の戦闘準備だけはばっちりだな!」
ジコビラの兵士たちのテンションも高い。
戦闘前特有の盛り上がりだ。
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ジコビラの船団が沖合からバロンヌの港湾を目指している頃、ユキトとマヤは海岸に立っていた。2人の傍の海中に何らかの影が見えるが、恐らくはオクラであろう。
「伝書鳥を放ったタイミングからすると、そろそろだと思うんだが」
「夜間から明け方が奇襲の鉄板ですからね」
背後からの風を受け、マヤの髪が海へ向かってなびく。
暗い海を見つめながら、静かな時間が過ぎていく。
やがて、遠見の魔法を使っていた見張りが敵影を発見した。
8隻の船からなる船団だ。だが、どの船も船体と帆が黒く塗られている。
事前に来襲を知っていなければ、発見は困難であっただろう。
敵影発見の知らせを受け、ユキトはマヤに聞こえるように宣言した。
「作戦を開始する」
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フローラ「ユキト様の加護は、テンプレレベルまで使い古された設定じゃないと使えないんですよね?」
ユキト「ああ、直接的に何かのキャラの力をそのままってわけにはいかない」
フローラ「なぜなんでしょうね?」
ユキト「チョサクソードという剣で斬られるからだ」
フローラ「え?」
ユキト「この武器の最強の使い手はヒトガタネズミでな」
フローラ「恐ろしいですわ」