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第29話 発覚!フローラの正体!

 前回のお話

  ユキトは魚が食べたい


 ユキト達のいた宿からウィンザーネ候の屋敷までは、馬車で20分程度の距離だった。


 街と海を見下ろす高台。そこにウィンザーネ侯の屋敷は建っている。

 紅に染まった空を背景に、要塞と見紛うような重厚なシルエットを浮かび上がらせている。実際、軍事的な意味を持つ建物なのであろう。


「ようこそ、シジョウ殿、私がコロルド・ウィンザーネだ」


 案内に従って、巨大な扉を擁する玄関をくぐると、いきなり目的の人物が待ち構えていた。


 ウィンザーネと名乗ったのは、口髭を生やした快活そうな中年男性である。

 その背後には、フローラとセバスチャンの姿もある。


「はじめまして、侯爵様。お目にかかれて光栄に存じます。シジョウ ユキトと申します。礼儀作法には詳しくないので、礼を失した行動がありましたらご容赦願います」


 ユキトはすらすらと挨拶を述べた。

 ファウナが驚いた顔でユキトを見る。しっかり挨拶したことが意外だったのだろうか。失礼な話である。


 だが、タネを明かすと、ユキトが読んでいたライトノベルで、主人公が貴族に会った時のセリフのコピーである。


「は、初めまして、侯爵様。ファウナと申します」


 ファウナも挨拶を返すが、ユキトの挨拶に驚いていたせいで、焦って簡単な言葉しか出てこない。


 2人の挨拶を受けて、ウィンザーネ侯爵は満足そうに頷いた。


「娘が世話になったそうだな」


 ウィンザーネ候の言葉を受けて、ユキトは「想像通りのフラグが回収されたな」と心中で呟く。対するファウナは、状況がつかめず怪訝そうな顔をしている。


「黙っていて申し訳ありませんでした。私はフローラ・ウィンザーネ。ウィンザーネ家の長女です」


 侯爵の後ろに控えていたフローラが、一歩踏み出して、申し訳なさそうに頭を下げた。


「まぁ、ユキト様はお気づきのようでしたが」


 セバスチャンがそんな言葉を付け加えた。

 その言葉にフローラが驚いて顔を上げる。


「えっ?」


「まぁ、何となくは……ね?」


 そもそもダンジョン内でティータイムを楽しんでいる時点で、普通の冒険者だと思う方がおかしいのだ。ユキトとしては「異世界あるある」がまた一つ達成されたと思うばかりである。


「ちょ、ちょい待って。待って」


 一方のファウナは混乱中だった。

 情報を整理する時間が必要のようである。


****************


 「――そんなわけで私は冒険者として、領内を回っていました」


 フローラは領内のありのままの状況を見て回るために、冒険者という姿で2カ月ほど旅をしていたという。


 途中、問題があれば解決に助力し、やっかいな魔物がいれば討伐する。どこぞの黄門様のような旅路だ。もちろん、助さん格さんの役は、セバスチャンである。


 思えば、旅の途中でフローラが見せていた使命感ようなものは、自身が侯爵家の長女だという強い自負心から出ていたのだろう。


「じゃあ、フローラは侯爵令嬢ってこと?」


「はい。黙っていてすみません」


 ファウナに謝るフローラ。




「さて、そろそろ本題に入りたいがいいかな?」


 ウィンザーネ侯は、ユキト達が落ち着くのを待っていたようだ。


「はい」


 姿勢を正す一同。ウィンザーネ候は4人を見渡してから、ゆっくりと口を開く。


「既にセバスから聞かせてもらったが、海の向こうのジコビラ連合国が奇襲を計画しているらしいな」


「セバスさんが聞き出したところによると、そのようですね」


「当然、我らはジコビラを迎え撃つつもりだ」


山岳竜(ベルクドラク)は倒れましたが、それでも奇襲を仕掛けてくるでしょうか?」


 ユキトとしては、山岳竜による作戦が失敗している以上、敵国も引き返す可能性があると思っている。

 このユキトの問いに、セバスチャンが回答する。


「連絡が途絶した場合には、指揮官の判断で作戦が行われるとのことです」


 どうやら、工作員から聞き出した情報らしい。


「しかし、こちらをご覧ください」


 そう言って、セバスチャンがカバンから何やら取り出した。

 封のされた手紙が2通と1羽の鳥であるらしい。


「工作員に書かせた手紙と伝書鳥です」


 セバスチャンは工作員を脅して、偽の手紙を書かせていたのであった。


「こちらの手紙には作戦が成功してバロンヌの守備兵をおびき出した…という内容が、こちらには失敗したという内容が記載されております」


 流石は出来る執事である。セバスチャンは、侯爵がどう判断しても対応できるように、内容の異なる偽手紙を準備していたらしい。


「ジコビラには作戦は成功したと思わせる」


 侯爵は即座に返答した。すなわち相手に奇襲させるつもりのようだ。


「作戦が失敗したと思わせれば、敵は引き揚げるのでは?」


 ユキトとしても、それは悪手だと思うが、念の為に尋ねてみる。


「可能性はあるが、確実ではない。それに兵の損失がなければ、すぐに同じような軍事行動を起こすだろう」


 ジコビラ側の兵士に被害がなければ、今回は引き揚げたとしても、すぐに似たような手段を取ることは予想できる。そして、次回も事前に計画を暴くことができるとは限らないのだ。


「今回の機会を逃すわけにはいかぬ」


 執政者としては当然の決断である。


「まぁ、そうですよね」


 隣でファウナが残念そうな表情をしているのを横目で見ながら、ユキトも侯爵の発言に同意する。


「でも、具体的にはどうしますか?」


「まずは守備の兵を少なく見せる。演習する兵も、見回りする兵も減らす」


「森にドラゴン討伐に向かったと思わせるためですね」


「うむ。そして、沖合の監視を徹底的に強化する。同時に海岸線沿いに兵を伏せる」


 侯爵は奇襲を待ち伏せするつもりのようであった。良手である。


「海戦は行いませんか?」


「船を出せば、向こうもこちらの動きに気付く。不意打ちができぬ」


 海戦をするとなると、こちらが相手の動きを掴んでいるというメリットを放棄することになる。これも妥当な判断である。


 ふむ……とユキトは考え込む。


「シジョウ殿。ここまで聞かれたからには協力できぬと言ってもらっては困るぞ?」


 色々と尋ねてくるユキトに対して、侯爵は戦争への協力を要請した。いや事実上の命令に近い。実際、ユキトは軍事に関する重要な情報を知ってしまったのだ。断ることは難しい。


「ええ、協力はしたいと思います」


 ファウナが隣でユキトの方に顔を向けた。きっと不安げな目をしているのだろう。だが、ユキトはそのまま言葉を続ける。


「俺に作戦があります。上手くいけば、こちらの兵も敵兵もほとんど犠牲なく、勝利出来ると思います」


 ユキトの言葉に、一同は目を丸くする。

 当然ながら、侯爵も信じられない様子だ。


「そ、そんなことができれば、言うことはないが……」


「確認させてもらいたいのですが、魔物使いは侯爵様の軍に在籍していますか?」


 ユキトも山岳竜の一件で知ったわけだが、この世界には魔物を使役可能な職業(ジョブ)がある。彼らは魔物を飼いならし、命令に従わせることができる。


「程度にもよるが2~3人おるぞ」


「では、そのうち1人を俺に貸してください。水棲の魔物を扱える人です。俺が必要とするのはそれだけです」


「その程度ならば問題ないが……」


「俺の作戦が実行可能か否かは、少し準備してみないと分かりません。失敗に備えて、侯爵様の作戦は進めておいて頂ければと思います」


 ユキトの発言に、他の全員が怪訝な視線を向けるのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


誤字や脱字、矛盾点、気になる点がありましたら、感想欄までお願いします。


もちろん普通の感想についても頂戴できると励みになります。

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