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第3話 もらおう!新規特典!

 前回のお話

 公務員曰く「ここは異世界だよ」

 友人らの無事を祈るユキトを余所に、管理者はマイペースに話を続ける。


「さて、この世界にお越しになった記念というわけではないのですが、『まろうど』の方には、何かしら特典をお渡しすることになっていましてね。特殊な能力とか、強力なステータスとか、あと特殊な種族へ転生などもありますな」


「能力? ステータス? それがもらえるってことですか? (来た!! チート来た!!)」


 異世界ファンタジーモノで恒例のチートな能力の授与である。ユキトのテンションがグンと上がる。

 思っただけで敵を殺す能力や全てのパラメータが限界突破しているなど、ラノベではお馴染みだ。


「はい。この後、ディオネイアに降り立って頂いた後は、我々からの援助は一切出来かねます。そこでディオネイアに基盤の無い『まろうど』さんがこちらで生活する際の一助となるように、という優遇措置ですな」


「まろうど限定の新規特典ってところですか」


「そう考えてもらって結構ですよ。四条さんの身体に魔力が一切含まれていないところを見ますと、元々いらっしゃった世界は魔法がない世界だったように見受けられますね」


「ということは、ディオネイアには魔法があるんですか!?」


「はい。魔法の無い世界からお越しになったとなれば、いろいろ大変ですよ。是非とも特典を持っていってください。ただ、自由に選んでもらうわけにはいかないので、こちらのくじを引いてもらうことになります」


「え? くじ?」


 管理者はカードのようなものを数枚取り出すと、ユキトの前にババ抜きのトランプのように扇形に広げて見せる。どうやらこのカードから1枚選べということらしい。外見はどれも同じカードである。


(異世界で生きていく上で、とてつもなく重要になる気がするけど、どれも同じに見える。となると、あまり考えても仕方ないな)


 ユキトは決心すると、広げられているカードの1枚を選択し、そのカードを引き抜いた。


 ユキトが引き抜いた瞬間、引き抜かれたカードが輝き、光の粒子となってユキトの胸のあたりに吸い込まれ、消えていく。


「おや、これは加護を付与できる能力ですね。当たりと言って良いかと思いますよ」


 管理者はこの能力を当たりと評価した。これは期待が持てそうだ。となると、色々聞いてみなければなるまい。能力を持っていても使い方が分からなければ意味がない。


「えっと……加護というのは?」


「この世界では、神話に登場する神々や英雄、聖獣などをモチーフとした不思議な力が人や物に宿ることがあって、人々はそれを【加護】と呼んでいるのですよ」


「モチーフ? 例えばどんなものですか?」


「そうですね……例えば、神話に登場する、火炎魔術で魔物の群れを一気に焼き払ったという魔道士の逸話なんかをモチーフにした場合、その高位の火炎魔術のスキルを得る加護とか、火炎魔術を使った時に威力が倍になる加護とかになりますかねぇ」


「なるほど……で、それを俺が付与できる?」


「はい。加護を与える対象と加護のモチーフを決めると、それに応じた加護が付与されます」


「つまり、俺は指定した対象に神話に出てくるような凄い力を与えることができるってことですか?」


「ええ、簡単に言えばそういうことになりますかね。ただ、加護を付与する対象の適性によって、モチーフに制限がありますんでね、そこはご了承ください」


「適性ですか、わかりました。でも……神話上の力ってのは、確かに凄そうではあるんですが、この世界の神話とか伝説とか全く知らなくても使える能力なんですか?」


 ユキトとしては、この異世界の神話や伝説については全く知識が無いわけで、この懸念は当然のものであった。


「あー、確かにこの世界の神話や伝説を学習していただく必要がありますね。

 先ほども申しました通り、加護というのは神話に登場する神々や英雄の力をモチーフとします。ご本人が神話を全く知らないという状況では、何をモチーフにするかを決められませんからね」


「となると、すぐにはこの能力は使えない……少なくとも、そういう学習ができる環境が整うまで使うのは無理ってことですか」


 ディオネイアがどのような世界なのかは詳しく知らないが、生活基盤が確立していない転移初期に、せっかくの能力が使えないのは困る。最悪、それで命を落とすかもしれないのだ。


 ユキトに深刻な表情が浮かんでいることに気付いたのか、ここで管理者から意外な提案がなされた。


「では、特別に四条さんの出身地の神話や伝説から加護のモチーフを選べるように調整しましょうか?」


「え?そんなことできるんですか? ……でも、俺のいたところでは神話と言っても、実際にあった話ではなくて創作されたものっぽいですし、神話に出てくる神様とか英雄も実在しなかったか、大きく脚色されていると思っています……それでも大丈夫ですか?」


 元の世界の神話を対象にしてくれるとは、異常なまでのサービスの良さだ。これほど厚遇してくれるなら、異世界で『まろうど』をするのも悪くないかもしれない。

 だが、ユキトの世界では神様が物理的に観測されたことはなく、ユキト自身も世界に神様は実在していないと考えている。そんな世界の神話から加護が得られるのだろうか。


「ええ、問題ありません。むしろ好都合です。実は加護の仕組みというのは、神の力そのものではなく、神話に登場する神々や英雄などに対する民衆の信仰や憧れ、畏怖などの想い……そういった『姿なき存在』へ向けた精神的なエネルギーを利用したものなのです」


 管理者が加護の仕組みについて、ユキトにも分かりやすく説明をしてくれる。


「実際の神様の力を借りてくるわけじゃなくて、人々の信仰心とかの精神エネルギーが加護の力の源になっているってことですね?」


「はい、その通りです。ですから、実際の神様の力とは関係なく、神話での描かれ方や人々のイメージを参照して加護が生成されます」


「なるほど……だとすると、神様がいなくても、皆のイメージがあれば十分というわけですか」


ユキトとしては能力がつかえるのであれば力の出どころはどこでも構わない。


「むしろ、実際に神様がいらっしゃると、異世界の場合は権利関係が面倒でしてね」


「権利関係」


「ええ。信仰の対象が明確に実在しちゃいますと、その存在が向けられた精神エネルギーの権利者になります。例えば、ある人物に向けられた尊敬や羨望などだと、その人物が精神エネルギーの権利者になりますね。人物の場合、死後100年まで有効です」


「権利者」


「はい。権利者が存在する場合は、その精神エネルギーの利用に使用許諾が必要になるのですが、異世界だと使用許諾を得るのも難しくて……」


「使用許諾」


「こちらの世界なら、神々から加護への使用許諾が既に出ているので大丈夫なのですけどね。まぁ、お話を聞く限り、四条さんのお国だと神様はいない、もしくは権利者となるほど世界運営に関わっていないようなので大丈夫でしょう」


「運営……なんだかイメージが狂うなぁ」


どうやら、世界間の権利関係というのも色々とややこしいものらしい。


「というわけで、四条さんの出身地……そうですね、世界となるとちょっと広すぎて調整が難しいので、お国くらいを範囲としまして、そこで信仰されている神話や伝説などに登場する神々や英雄……要するに『非実存の対象』への人々の思いを使って、加護を生成するように調整しましょう」


「大雑把に言えば、俺の国の神話とか伝説とかに出てくる神様をモチーフにして加護を作れると思っておけば良いわけですね」


「ええ、そうですね。まぁ、出身国の神様や英雄であれば、信仰されている場所が他の場所でもいいです。ただ、それなりの人数が認知している神話や伝説でないと、加護を生成するだけの精神エネルギーが集まりませんので、お気をつけ下さい」


 加護のモチーフとする対象が人々にあまり知られていない場合、加護の原料となる精神エネルギーが不足し、加護が生成ができないようだ。だが、ディオネイアで最も大きな国の人口が数百万人である。

 一方、ユキトの出身地の日本という国は一億人以上の人口を誇る。この時点で圧倒的なアドバンテージがある。

 このディオネイアではユキトが得た「異世界の神話から加護を生成する能力」が、とんでもない力を発揮するとは、この時のユキト自身は知る由もなかった。



 その後、ユキトが管理者から聞いた話をまとめると、このディオネイアという異世界は、いわゆる剣と魔法の世界であるらしい。生まれてから数千年程度しか経っていない若い世界であり、生態系、魔法などについて、もっと充実させていくことが神々の直近の運営方針だそうだ。



 そんな話を聞いた後、いよいよユキトはディオネイアへと送り出される。一旦送り出した後は、『まろうど』であっても、管理者から干渉されることはないとのことだ。


 最後に、お土産として丸っこい豆のようなものが詰まった袋を渡された。


「その豆も『まろうど』向けのサービスです。栄養もありますし、腹が減ってはなんとやら。体調を整えたり、他にも色々と効果がありますので、加護の能力をお使いになる前には、この豆を1粒食べることをお勧めします」


 管理者の言によると、どうやら食料らしい。一粒でお腹いっぱいになるような魔法の豆ではないようだが、それなりに栄養もあるようで、渡された一袋で1週間くらいなら生き延びられるそうだ。至れり尽くせりである。


 公務員みたいだなんて思って悪かったと心の中で詫びるユキト。もらった豆は、一緒に転移してきたカバンに詰め込んでおくことにする。


「できるだけ安全性の高い地域に送りますんでね。街道を日が沈む方向へ向かえば、街に着けます……では、よい人生を」


 管理者がそう述べると、ユキトの視界は再び白く染まり、次の瞬間には青い空と一面の平原が目に入ってきたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


良くあるテンプレ設定を踏まえつつも、出来るだけオリジナリティを含ませて、良質なエンターテイメント小説にしたいと思っております。筆力が及ぶか分かりませんが、どうぞ宜しくお願いします。


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