第27話 到着!領都バロンヌ!
前回のお話
執事さんは拷問もできる。
「まろうど……? 異世界から?」
バロンヌへと向かう道すがら、ユキトはフローラとセバスチャンに自身の能力の由来と、自分が『まろうど』であることを説明した。
だが、フローラはどうにも信じ切れていないようだ。
「いえ、ユキト様を疑うわけでないのですけど、ねぇセバス」
「フローラ様、『まろうど』は御伽噺というわけではございません」
一方のセバスチャンは、意外なほど簡単にユキトの『まろうど』という言を信用した。なんでも、若い頃に世界を回っていて、『まろうど』と思しき人間にも出会ったことがあったという。
だが、世間的には『まろうど』とは御伽噺と捉えられおり、フローラのような反応が普通だ。ユキトを疑うつもりがなくても、やはり常識というものがある。
「となると、ファウナは何で信じたんだよ?」
思えば、ファウナはあっさりとユキトが『まろうど』だと信じていた。当時のユキトは、この世界の人はそんなもんだと思っていたが、ファウナの反応は特別だったようだ。ファウナは御伽噺を信じていた女の子だったことになる。
「だ、だって、養父が言いよったけん」
ファウナについては、どうやら養父の教えが良かったらしい。聞けば、ファウナの養父のバイオムも若い頃は世界を旅していたようなので『まろうど』と出会ったことがあったかもしれない。
これに対してセバスチャンが「……バイオム殿の」と呟いた。ユキトは「何かのフラグだなぁ」などと考えつつ、聞かなかったことにする。
「とりあえず、ユキト様のとてつもない力が異界に由来していることで納得致しました」
発散気味だった話題を、セバスチャンが総括する。出来る執事である。
「やっぱり、とてつもないか」
「はい」
ユキトの確認は即座に肯定される。
既にファウナもセバスチャンも異常とも言える戦闘力を身につけている。
ユキトの世界の漫画内では、よくある戦闘力であり、よくある技量であるが、それが現実に顕現してしまうと、やはり常識外れにカテゴライズされるようである。文字通り世界が違うのだ。
「俺も無闇矢鱈に加護をばら撒くつもりはないけどな」
ユキトとしても、俺の加護って強すぎるんじゃないかな?とは思っていたので、無差別に加護を広めて回るつもりはない。世界の安定を壊しかねない気がしている。
「私は大変感謝していますわ」
フローラが上目づかいでユキトに感謝を伝えてきた。自身が努力が認められたかのような加護を付与してもらったことが、フローラの中で大きいらしい。変身のポーズとセリフだけは未だに納得していないが。
「私も感謝してるからね」
ファウナも負けじと感謝を伝えてくる。この世界の人々にとっての加護は、ユキトが思っているよりも精神的に大きな意味があるようだ。
「私も感謝をお伝えするシーンで?」
「いや、セバスさんは良いから」
タイミングの良いセバスチャンのセリフに一同に笑いが生まれる。
ユキトは「良い人たちに出会えて良かった」と心の中で安意する。
「ところで、セバスさんの会った『まろうど』ってどんなだったの?」
話にオチもついたので、ユキトは気になっていた点を確認する。
管理者は「ここしばらくはユキトの世界からの『まろうど』は来ていない」と言っていたが、何らかの手違いで紺スケや安藤である可能性もある。
「別の世界から迷い込んだと仰っておられました。文化などは大差なかったようですが、魔物や魔法の種類、神の名などは異なるようでした。あとは言葉ですか。こちらの言葉を覚えるまでは、念話魔法で会話していたそうです」
どうやら、セバスチャンが出会った『まろうど』にとっては、異世界というよりは外国くらいの差異だったようだ。となると、ユキトの世界の出身者ではない。
「それにしても、言葉か……」
ユキトは管理者が自動で翻訳機能をつけてくれたと思っていたが、他の『まろうど』にはそのサービスはなかったようである。ユキトが特別扱いされたのか、もしくは……
「この世界では日本語が使われている?」
ユキトはその可能性に思い至るが、理由は分からない。なんにせよ、判断を下すには材料が足りない。他の情報が増えるまでは、この疑問はいったん棚上げしておくのが良さそうだ。
そこから、バロンヌまでにはおよそ3回の野営が必要であった。
緊急事態ということで、少し急いでの行程である。
途中で、カゲビトやロートゥと戦ったり、盗賊という名の自殺志願者が現れたりもしたが、一行は無事に領都バロンヌへと到着した。
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バロンヌは海沿いの都市である。
海岸を囲むように高い城壁が聳え立っており、その内側が中心街だ。領主であるウィンザーネ侯爵の邸宅も壁の中にある。
一方で、城壁の外側にも市街地が広がっている。漆喰で塗り固められた家々が海岸沿いに密集しており、太陽の元でくっきりとその白さを浮かびあがらせていた。ギリシャのサントリーニ島を思わせるような景観だ。
「おお、これは綺麗だな」
「でしょう」
ユキトの感想に対して、隣のフローラが何故か得意げである。
「皆さま、こちらへ」
セバスチャンの声に呼ばれていくと、どうやら城壁の内側に入るための手続きを済ませてくれたようだ。壁は緑がかった石で組まれており、その分厚さと高さから、この都市の重要性が伝わってくる。
「門を抜けるのにしばらく時間がかかると思ったけど」
門の前の行列を見ながら、ユキトがセバスチャンに尋ねる。
「緊急事態でございますからな。早く領主様にお知らせしませんと」
確かにバロンヌへの奇襲が計画されているという情報は、一刻も早く伝える必要がある。奇襲を受けるまでの準備期間があればあるほど、バロンヌ側が有利になるのである。
「で、どうやって領主様に連絡するんだ?」
ユキトとしては、フローラとセバスチャンの正体に見当はついている。ついているが触れてはいない。今回も知らない前提で尋ねてみた。
「私にツテがありますの」
フローラが胸を張って答える。なかなか形の良い胸である。
エルフたるファウナより大きい。
「え、フローラって結構いいとこのコなの?」
ファウナはフローラの正体には気が付いていないようだ。当初の用心深さはどこへ行ったのだろうか。加護の影響で頭の中身まで筋肉になっていないことを願うユキト。
「じゃあ、俺とファウナは宿で待ってるといいか?」
ユキトは気をつかって、そんな提案をする。
先にフローラやセバスチャンから貴族様に話を通してもらった方が、ユキトも気が楽だ。
「そうですな。まずは我々だけで領主様に会えるか確認して参ります」
セバスチャンが軽く目礼して、返答した。セバスチャンはユキトの意図を把握してくれたようだ。
「こちらの宿でお待ちください」
セバスチャンが「大海の小舟亭」という転覆しそうな名前の宿名と簡単な地図が記載された羊皮紙をユキトに渡す。門から宿までは複雑な道ではなさそうだ。
「了解。じゃあ、バロンヌの街を見物しながら宿に向かうか」
バロンヌは魚料理が美味いという。
こちらの世界に来てから魚を食べていないこともあり、ユキトのDNAが激しく魚を求めていた。
目指すは魚料理である。
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