第26話 喋って!君らの計画!
前回のお話
斬撃 飛ばして、竜を斬った。
「で、コイツどうすんの?」
ファウナの視線の先には、手足を厳重に縛られた男が、芋虫のように転がっている。
先ほどまで意識を失っていたのだが、ようやく気がついたようだ。
目覚めた男は、自身が縛られていること、仲間の2人が近くにいないこと、そして山岳竜の亡骸が目の前に横たわっていることから自身の状況を察した。
「お名前と所属を教えて頂きたいのですが?」
セバスチャンが屈みこみ、男の顔を覗きこみながら尋ねる。
「……」
「ふむ、だんまりですか」
どうやら男は黙秘権を行使する気のようだ。
口を開くことなく、忌々しげにユキト達を睨みつけている。
「ファウナが聞いた話では、こいつが山岳竜を操っていたんだよな?」
「ええ、コイツの仲間がそう言ってたわ」
「恐らくは、魔物使い……もしくは魔物操身者かもしれませんわね」
フローラの考えが正しければ、この男は魔物を操るタイプの加護を有している可能性が高いらしい。
ユキトは自身の能力で、男の持つ加護を知ることができないかと試してみたが、自身が付与した以外の加護は対象外であるようだ。
男から情報を聞き出そうにも、とても喋りそうにはない。
お手上げの状態だ。
「さて、お仲間は向こうの森の中に縛りつけてあるわけですが……」
突然、セバスチャンが妙なことを言い出した。
この男の仲間は既に炭になっているのだ。
ファウナとフローラはキョトンとした顔でセバスチャンを見る。
だが、セバスチャンが無意味な行動を取るとは思えない。
(コイツに仲間が生きていると思わせる……ということは?)
ユキトはセバスチャンの意図を推測し、見当をつけた。
そして、その意図をサポートするには、ファウナとフローラをこの場から離れさせるのが良いと判断した。
「ファウナ、フローラ。俺達はコイツの仲間のところに行っておこう」
ユキトはそう告げると、まだ事態を把握しきれていないファウナとフローラを連れて、その場を離れる。森の中にまで入っておけば大丈夫だろう。
こちらからも向こうからもお互いの様子は見えない。
残ったセバスチャンはユキト達が森の中に入ったのを見届けると、恐ろしい程に冷たい視線を足元の男に向けたのだった。
(これで良かったんだよな)
ユキトが推測するところでは、セバスチャンはあの男の口を無理矢理に割らせる気だ。
仲間が生きていると思わせたのは、効率的に口を割らせるためだろう。
仲間も捕まっていると思わせることで、どんなに自分が黙っていても、自分以外の者が既に自白しているかも、と不安にさせる効果がある。
そんな凄惨なシーンをフローラやファウナに見せる必要はないし、ユキトも好んでみたいものではない。
「ユキト様、セバスはいったい何を?」
「恐らくは強引に情報を聞き出すつもりだと思う」
「えっ!?」
「ああ、なるほどね」
ユキトの軽くオブラートに包んだ回答に対して、驚くフローラと納得するファウナ。対照的な反応だ。
「山岳竜を使って何をしようとしていたのか。それを確実に聞き出さないと、他に被害が出るかもしれない」
今回は、山岳竜の存在に怯えた森の魔物が、森の外へ逃げ出そうと群漏もどきを引き起こしていた。
だが、それだけが目的とは思えない。領都バロンヌまで数日という距離に山岳竜を潜伏させていた理由が何かあるはずだ。
とはいえ、情報が足りない状態で想像しても仕方がないだろう。
そちらはセバスチャンに任せ、ユキトは話題を変えることにする。
「それにしても、ファウナとフローラが炎の中から出てきたときは驚いた」
ユキト達はファウナの位置を把握していなかったので、まさか山岳竜の火炎ブレスの先に2人がいたとは思ってもいなかったのだ。
「フローラが来てくれなかったら危なかったわ」
「ファウナさんが男達の視線を逸らしてくれたおかげですわ」
互いに見つめあって感謝しあう2人。若干の百合百合しさがある。
2人とも美女なので絵になってしまう。
「あと、加護の力が凄過ぎて、調子に乗ってたかもしれないわ」
ファウナが反省の弁を口に出した。
「いや、ファウナがいなかったら勝ててないよ」
対するユキトは本心を口にする。
ファウナ達なくして勝利はなかっただろう。
「もちろん、フローラもな」
「ユキト様……」
2人の顔を交互に見るユキト。
どことなく良い雰囲気だ。
「しかし、俺が一番役に立ってないな」
「いや、ユキトのくれた加護があってこそよ?」
「そうですわよ!」
ユキトの自身を卑下する発言に、ファウナとフローラは語気を強めて反論した。
ファウナとフローラにとってみれば、ユキトから加護を付与されたことは、自身の努力や才能を認めてもらった意味合いがあるのだ。
この世界では、本人の努力と才能が足りなければ、与えられた加護は定着せず、一時的な効果を及ぼすのみとされている。
逆に言えば、永続的な加護が付与されたということは、自身の才能や努力を神が認めてくれたということを示す。
特にフローラは、魔法を必死に勉強したにも関わらず、火炎球しか修得できなかったのだ。そこにユキトから加護を与えられたことで、これまでの努力がようやく認められたように感じていた。
「ま、加護のおかげだな」
フローラ達の気持ちを知ってか知らずか、ユキトは自身の能力に感謝を告げた。
その頃、縛られた男は悪魔を見ていた。そうだ、この初老の男は悪魔に違いない。見た目はやや老いた紳士風の男だが、その目に宿る光は皮膚を斬り裂くように鋭い。
「もう一度聞きますが、アナタはどこの所属で、目的は何ですか? 嘘をついても、お仲間の証言と比べれば、すぐに分かりますからね?」
「お、おえは……じこびぃあれんがうの……こうふぁくいんだ……」
既に男には歯がなかった。もちろん、セバスチャンによる「問い掛け」は全身に及んでいたが、その詳細は省く。
「ジコビラ連合国と言えば、東南の海を越えたところにある国ですね……」
この男から聞き出すべきことはまだまだありそうだった。
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「とんでもないことが分かりました」
1時間ほどして、ようやくセバスチャンが森から姿を見せた。服のあちこちに赤黒い染みが出来ているが、セバスチャン自身の血によるものではなさそうだ。
「あいつは?」
「死にました」
ユキトの問いに、セバスチャンはあっさりと答える。
フローラが僅かに表情を硬くする。
「それで、とんでもないことって何だったの?」
「ええ、ファウナ様。それは……
セバスチャンの話をまとめると、男達は海を越えたところにあるジコビラ連合国の工作員で、あの男は魔物操身者だった。
彼らは山岳竜を支配下に置き、この森まで連れてきたそうだ。
その目的は、領都バロンヌの軍をこの森に引きつけることだった。
彼らの計画では、まずこの一帯を治める領主に、森で群漏が発生したと誤解させる。そうすれば、領主は群漏の早期鎮圧のために軍を出すしかない。
次に、やってきたバロンヌの軍勢を山岳竜で襲う。そうすれば、ドラゴン討伐のために、さらに援軍が追加されるだろう。
その隙に、ジコビラ連合の軍船が奇襲をかけ、手薄になったバロンヌを一気に制圧する。
ジコビラ連合国の計画はこのようなものであった。
バロンヌは、アスファール王国にとって、海沿いの重要拠点である。落としてしまえば、利用価値はいくらでもある。
「ってことは……」
「はい、ユキト様。バロンヌに危険が迫っているということでございます」
「た、たいへん……早くお父様に……」
一難去ってまた一難。
ユキト達は大至急でバロンヌを目指すことになった。
なお、フローラが重要なセリフを口走っていたが、ユキトは聞かなかったことにした。だが、何らかのフラグが立っているのは、間違いなさそうである。
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ユキト「魔物操身者の能力ってさ、眠るときは魔物の支配は解けないの?」
フローラ「ちゃんと手続きを経てシャットダウンすれば大丈夫なんです」
ユキト「あ、いきなり電源を落とすとアウトみたいな?」
フローラ「そういうことです」