第25話 一閃!剣豪の技!
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前回のお話
ドラゴンがいて、火を吐いた。
(しくじったわ……)
ファウナは、自身の判断を悔恨していた。
山岳竜がその口腔より強烈な火炎を吐き出した瞬間、ファウナは気絶させた男も連れて逃げようとした。
なにしろ、この男は森の異常に関する重要参考人である。ここで死なせるのは勿体ない。
だが、山岳竜が吐きだした火炎は、ファウナの想像よりも凄まじい火力を持ち、一瞬で広い領域を飲み込んだ。
ファウナだけであれば、森を蹂躙せんと吐きかけられる火炎を回避することも容易だっただろう。
だが、気絶した男を抱えようとすれば、初動が遅れる。気がついたときには目前に炎の渦が迫っていた。
避けられないと判断したファウナ。
全身に闘気を纏い、腕を交差させると、姿勢を低くして守りの体勢を取る。
恐らく、無事では済まないだろう。
(加護の力が凄過ぎて、調子に乗っちゃってたかな……)
竜の口から吐かれた炎が一帯を包む。
轟音とともに、周囲の景色が白い輝きで塗りつぶされた。
幾つかの黒い影が揺らめくものの、すぐに光に流されるように消えていった。
……だが、ファウナの身体には何も変化がない。
「!?」
「大丈夫ですわ、ファウナさん」
「フローラ!!」
ファウナが顔を上げると、そこには炎防護魔法を展開する魔法少女フローラの姿があった。
ファウナが男達と戦闘になったことで、フローラを観察していた者がいなくなり、変身が可能になったのである。ファウナをサポートできればと探していたのだが、最高のタイミングで登場となった。
10秒ほどの炎の嵐が止むと、一帯の木々はほぼ消失していた。周囲には、黒く炭化した株が点在している。
フローラ達と結界内の空間のみが元の情景を維持していた。
逃げようとしていた2人の男も炎の直撃を受けたようで、黒い塊となって転がっている。両者とも原形をとどめていない。
一方、重要参考人の男はフローラの結界内にいたため、無事である。
「グルルルルル」
山岳竜は焼け跡に立つファウナ達を見つけると低く唸った。ひょっとすると、無差別に火炎を吐いたのではなく、自身を支配していた人間を殺すつもりだったのかもしれない。
何にせよ、指示を出していた人間は退場したが、肝心の山岳竜は健在だ。
再び火炎を吐かれる前にと、ファウナは山岳竜に向かって走り寄る。接近戦あるのみだ。
だが、ファウナの力を承知している山岳竜は、彼女との接近戦を嫌がったようだ。
その大きな翼をはためかせると、大空へと浮かび上がり、ファウナから距離を取る。
「やっぱり飛んだか!」
ユキトが空を見上げつつ叫ぶ。
山岳竜は得意げにファウナを見降ろしている。空から火炎を吐き続けられると、ユキト達の勝ち目は薄い。
「剣も届きませぬな。せめて、あの翼に斬撃が届けば……」
セバスチャンも悔しげだ。
確かに空を飛ぶための翼の皮膜は他の皮膚と異なり、さほどの硬度はない。斬り裂くのは難しくはないだろう。剣が届けばの話だが。
「セバスさん、斬撃は飛ばせないのか?」
ユキトの質問にセバスチャンが困惑する。
「飛ばす? 斬撃を……でございますか?」
どうやら、この世界では斬撃は飛ばないようだ。
もちろん、それが通常なのだ。ユキトが目にしていた創作物では、達人が剣を振ることで斬撃が飛んでいたが、その仕組みは謎である。現実世界には真空の刃などない。
だが、ユキトの能力を使うことで、この世界でも斬撃は飛ばせるだろう。セバスチャンの剣技のレベルを見る限り、剣を扱う加護との相性は良いはずだ。
ユキトは現状を打開し得る案を実行する。
「セバスさんに俺の世界の剣豪の力を渡す」
ユキトはセバスチャンにそう告げると、知る限りの剣豪のキャラ達を思い浮かべる。
様々な創作物に登場する剣士キャラ。
彼らは、普通に斬撃を飛ばすし、2メートルもない刀身で10メートル超えのバスを真っ二つにする。
漫画では珍しくもないテンプレな描写であるが、およそ異世界で知られる剣術の域を超えている技ばかりだ。
そんなユキトの思念に応じて、チートな加護がセバスチャンに付与された。
+剣豪の加護:異世界の剣豪の技を得ることができる
「こ、これは……」
セバスチャンが絶句する。
フローラに魔法少女の加護を与えたときもそうだったが、ユキトのやっていることは規格外も良いところだ。だが、今は驚いている時間も勿体ない。
「キルルルルルル」
空を舞っていた山岳竜が甲高い声をあげた。
続けて、ユキトたちに向かってその口を開く。喉の奥から赤い光が漏れている。
「ブレスが来るぞ!」
ユキトが警戒する。ユキトとセバスチャンの立つ位置は、フローラのいる場所から少し距離がある。魔法による防御は望めない。
そんな中、セバスチャンは冷静に自分のやるべきことを把握していた。ゆっくりと剣の柄に手をかけ、心を落ち着ける。
そして……地上から山岳竜の翼に向かって一筋の剣閃が走った。
この日、異世界で初めて斬撃が空を飛んだのであった。
「グガアアア!!」
不幸な山岳竜は何が起こったか理解できないまま、翼を切断され、地面に落下していく。
セバスチャンの剣から放たれた斬撃は、見事に山岳竜の翼を、根元から斬り落としていた。
「凄まじいですな……」
セバスチャンが自身の力に半ば呆れながら呟く。斬撃の威力自体が、桁はずれに向上している。
ドゴォォーーーーン!
荒っぽい地響きを立て、山岳竜が焦げた大地に叩きつけられた。
地上に墜ちた山岳竜には、ファウナの接近戦を回避する術がない。
翼を失って混乱している山岳竜に対して、ファウナの拳と蹴りが確実にダメージを積み重ねていく。
特に山岳竜が火炎を吐く徴候を見せると、その長い首に強力な一撃を叩き込み、呼吸を乱し、ブレスを封じている。
その隙に、セバスチャンは山岳竜に死角から近づいていく。
山岳竜もファウナの相手で手一杯で、周囲を警戒する余裕はない。
セバスチャンは、山岳竜の斜め後ろ、残っている翼の真下から数メートル離れた位置に立った。
剣を鞘に納めると、腰を落とし、そのまま静かに待つ。居合の構えだ。
動きこそないが、気を張りつめているのが伝わってくる。
その機会はすぐに訪れた。
ファウナの一撃が、山岳竜の体勢を崩した。
山岳竜は前脚を折って倒れ込み、その頭部は地面すれすれの位置にある。セバスチャンの目前だ。
そして、一閃。
その一撃によって、山岳竜の首は身体から離れ、焦げた大地に転がった。
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「グゲェェエエエエエ!!」
驚いたことに斬り飛ばされた首は、まだ生きていた。
どこから発声しているのか不明だが、荒々しい叫びをあげ、爛々と輝く瞳がユキトを睨みつける。
「凄まじい生命力だな」
「ドラゴン種の特徴ですわ」
流石に身体の方は動かないようで、斬り落とされた首から大量の血が流れ出ている。
「ユキト様、眉間に剣を刺せば、トドメを刺せるはずです」
セバスチャンがユキトにトドメを促す。
ここまで追い込んだのはセバスチャンとファウナであるが、その力の源はユキトにある。セバスチャンとしても、その能力に敬意を払うべきと考えた。
「分かった。トカゲ、悪く思うなよ」
山岳竜がこの地に来たのは、恐らくは例の男達によるもので、本竜の責任ではないのだろう。
とはいえ、支配が切れてもユキト達を焼き殺そうとした相手だ。トドメを刺してやるのが筋である。
ユキトは竜の頭部に近づくと、青い光を放つ剣を眉間に深く突き立てた。
「ガググゴ……ガグ……」
剣を突き立てられた山岳竜の首は、しばらく唸りを上げながら痙攣していたが、やがて動かなくなった。
チートな能力の前に山岳竜は討伐されたのである。
後日、この行動により、ドラゴンスレイヤーの称号がユキトに贈られることになるのだが、この時のユキトはまだ知らない。
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