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第23話 調べろ!深き森の謎!

ブクマや感想ありがとうございます。


「まっっったく、忍べてない……」


 ユキトは肩を落としつつ、元の世界の忍者のイメージを思い返した。




 先ほどユキトは、森林内への調査へと赴く前に、自身に忍者をモチーフにした加護を付与(エンチャント)した。忍者は実在した職業で、実際はかなり地味だったようだ。だが、創作物においては超人のイメージが固まっている。そのイメージをモチーフとしたのだが……


 +忍術の加護:一定時間、忍術が使用可能となる


 ユキトに付与(エンチャント)された加護は、忍術を得るタイプのものだった。ユキトが得られた忍術は、分身の術と火遁の術。ユキトと加護との相性がもう少し良ければ、他の術も使えたのかも知れない。


 まず、分身の術は、自身と全く同じ姿をした分身を産み出す術だ。しかし、耐久力はほぼなく、何らかの攻撃を受けると消えてしまう。対する火遁の術は、口から火炎を吹く術だ。射程距離は10メートル程度だ。


 自身の姿を増やしてみたり、炎を吐いてみたりと、どちらも忍ぶという概念とは真逆である。森の中に口から炎を出す存在がいたら、目立つことこの上ないだろう。


「魔物に気付かれずに潜入するのはあきらめるか……」


 ユキトはため息をつきつつ、3人とともに森の中へと足を踏み入れるのであった。


 *******************


 森の調査と言っても、まずは森を横断している街道を進み、森の深部へ向かう。ユキトは念のため、頭部以外は宇宙警察への変身を済ませていた。一方のフローラは魔法少女にはならず、普段の姿のままで進むことを選択したようだ。変身にトラウマがあるのかもしれない。



 森の中を進むユキト達だが、流石に森から魔物が溢れているというだけあって、魔物の姿は何度も目撃する。


 警備所でも見かけた全方位に脚を持った蜘蛛のような蟲。

 人間の腕のような身体に透明の翅を何対もつけた飛行蟲。

 数メートルはある赤と黄色の斑のムカデ。

 鋭い牙を持つ6本足の猪。

 異常に巨大な目玉を備えた猿のような何か。


 だが、そういった魔物らは、森から出現したかと思えば、そのまま街道を横切って向かいの森へ消えていくのみだ。ユキト達には目もくれない。


「確かに何かおかしいわね」


 ファウナが不思議がる。


「魔物には多かれ少なかれ人間を襲う本能があるのよ。こっちに向かってこないということは、それ以上の理由があるってことね」


「不吉なことを言うのはやめてくれよ」


 ユキトが嫌な顔をする。


「いえ、確かにこの異変は群漏(ブレイクアウト)とは異なるようでございます」


 セバスチャンもそんな事を言い出した。


群漏(ブレイクアウト)の発生時には、魔物が群生相という形態になります。これは魔物の生息密度が一定数を超えると見られる形態です」


 ユキトは知らないが、地球でも、イナゴなどの昆虫は群生相と単独相とでその姿が異なる。蝗害を引き起こす程に発生したイナゴは、翅の長い群生相の形態となることが知られている。だが、森の魔物はその姿を単独相から変えていないという。


「そういえば、フローラも言ってたけど、森に群漏(ブレイクアウト)を発生させる魔物はいないんだっけ?」


「ええ、知られてはおりません。知られていないだけという可能性もありましたが、目にした魔物はいつもどおりの形態です」


「とすると……」


「キルルルルル」


 ユキトの話を遮るように、甲高い声がすぐ横の森の中から響いた。街道沿いの茂みの奥に何かがいる。


ガサガサッ


 木々をかき分けて出現したのは、人の2倍程はある巨大なカマキリだった。いや、カマ状の腕が4本もついており、ユキトの知るカマキリとは少し違う。体色も鈍い鉄のような色だ。


「この魔物は人を襲う本能が勝ったって感じだな」


 ユキトを見据えてくる巨大カマキリの複眼には何の感情もこもっていないが、そのカマを振りかざした姿は、明確にユキト達への敵意を示していた。


 シャッ!


 風を切る音を立て、カマ状の前脚がユキトを襲う。だが、変身の効果でユキトの反応速度は向上している。両腕を掲げてガードし、その攻撃を弾く。


 しかしながら、そもそもカマキリのカマは相手を斬るための武器ではない。押さえつけ、その強靭な顎で喰らいつくためのものだ。


 瞬く間に、残りの3本のカマがユキトを追撃する。計4本のカマが、両腕のガードの上からユキトの身体を押さえつけ、動きを封じた。


「!!」


 ユキトが押さえ込まれたと見て、ファウナが慌てて援護に向かおうとする。

 だが……


 ゴオオオオウゥ!!!


 ユキトの口から吹き出された強力な火炎がカマキリの頭部を包み込んだ。火遁の術である。


 たっぷり3秒ほど放射された火炎の後には、頭部が消失した巨大なカマキリの姿が残った。残った首の一部は炭化している。そのまま巨大なカマキリは動きを停止した。


「危なかったな」


 この魔物に炎の耐性があったら、ユキトはただでは済まなかっただろう。


「ユキト……」


 ファウナがユキトの隣に駆け寄って来て、心配そうな声を出した。


「ファウナ……心配させたか?」


 ユキトはカッコ良さを意識した声で言葉を返す。

 

(お、良い雰囲気じゃね?)


 ピンチを切り抜けたヒーローと心配していた美女の構図だ。


「ユキト……あれ」


 だが、ファウナの心配そうな視線の先を辿ると、その終着点はユキトではなかった。

 その後ろの森だ。先ほどの火炎を受けて、木々に炎が燃え広がっている。これはマズい。


「か、火事だーー!!!」


 ユキトは慌てて、火を叩き消しに奔走するのだった。


 ******************


「というわけで、森林火災が危ないので、ユキト様の火遁の術は禁止ですわ」


 ユキトはフローラから火遁の術の封印を言い渡されてしまった。確かに危ういところだったが、3人の手伝いもあって、どうにか火を消すことはできた。森林火災は免れたのだ。


「で……これはなんでしょうか?」


 だが、燃えている木々を消火している最中に、フローラが大木がなぎ倒された跡を見つけたのである。


 何者かにより、力任せになぎ倒された樹木。その痕跡は森の奥、すなわち魔物たちが溢れてきた方向へと続いていた。


「まるで獣道のように木々が倒されている……巨体による力任せって感じだな」


 ユキトは残された痕跡から、これを引き起こした生物を想像する。

 

 巨大な身体を持つことは間違いなさそうだ。十中八九、今回の魔物の異常行動に関係しているだろう。ユキト達はその痕跡を追って、森の奥へと進むことにする。


 1時間程、その巨大な獣道を進んだだろうか。ユキト達の目の前が急に開けた。


 森の中に広い空間が作られていた。地表は、力で蹂躙されて、なぎ倒された樹木で覆われている。そして、空間の真ん中には1体の巨大な(ドラゴン)が眠っていたのである。


「げえ……勘弁してくれ」


 ユキトの嘆きは森の中に消えていくのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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