第22話 危険!魔物溢れる森!
「いやぁ、お見事でした!」
「流石はダンジョンを踏破されただけのことはある!」
ユキト一行が盗賊を撃退してから、商人と護衛達は積極的に話しかけてくるようになった。盗賊との一件もあり、ネロルで話題のダンジョン踏破組が、どうやらユキト達であると知られたようだ。
「巨大ゴーレムも秘密裏に倒されたと聞きましたぞ?」
(え? 巨大ゴーレムも俺たちが倒したことになってんの?)
ユキトとしては初耳の情報であるが、それを否定してしまえば、ネロルの街に再び混乱を招きかねない。ここは、口を閉ざすことで消極的肯定とする。なお、この情報の出所はギルド長であった。
「いやあああああぁ~」
フローラはある程度回復したものの、時々思い出したかのように頭を抱えて奇声を挙げている。変身の不発が余程効いたようだ。
商人達もフローラにはあまり触れようとしない。可哀そうな子という認識なのだろうか。
「ユキト様達もバロンヌへ?」
隊商の責任者らしき男がユキトに話しかけてきた。良く日に焼けた体格の良いおっさんだ。
「ああ、魚が美味いと聞いたんで」
「おお、確かにバロンヌの魚料理は美味いですぞ!」
どうやらバロンヌの魚料理は、商人達にも好評のようだ。ユキトの期待が高まる。
「ところで我々はこの先のリエスの森を抜けるつもりですが、ユキト様達はどうされますか?」
責任者はこの後のコースについて尋ねてきた。だが、ユキトには判断ができない。リエスの森とは何だろうか。横にいたセバスチャンの方を見る。
「私どももご一緒させて頂きたいですな」
ユキトの視線を受けて、セバスチャンが代わりに答える。
「おう、それは心強い」
その答えに、隊商の責任者は嬉しそうな表情を浮かべた。ユキト達と一緒にいれば、盗賊の心配をしなくて済むというのが大きいのだろう。
「……ユキト様、この先にリエスという森がありまして、そこを横断する街道を使うとバロンヌまでの近道となるのですよ」
小声でセバスチャンが説明してくれる。なるほど、森を迂回するコースはその分だけ遠回りになるようだ。だが、当然注意点もあるはずだ。
「森に魔物は?」
「深部には生息していますが、街道沿いはあまり出現しません」
リエスの森には警備所があり、森林警備兵が常駐する仕組みだ。さらには冒険者ギルドの支部も併設されている。そういうこともあり、街道に近づいた魔物は早期に討伐されている。
「じゃあ、問題ないか」
そう返答したユキトだったが、何か起こりそうな予感がしていた。お約束というヤツである。
それから一行がリエスの森に差し掛かるまで、途中で2回の野営を挟んだ。
野営時には、商人たちが食料をふるまってくれたおかげで、ユキト達は購入した食料をほとんど消費していない。ただ、しきりに酒を勧めてくるので、それを断るのが大変だった。酔って歩いていて、また異世界に飛ばされでもしたら困るのだ。
*************************
「うわぁ、大森林って感じだな」
ユキトの目前には深い森が広がっていた。リエスの森は広大な面積を誇っており、迂回するとなれば1週間近いロスを生じる。そのため、王国の事業として森を貫通する街道が設けられたのは、100年近く前のことらしい。
「まずは警備所に挨拶かな」
隊商の代表の言葉に従い、隊商とユキト達は一先ずはリエスの森の警備所へと向かった。
だが、一行が森の入口に位置する警備所に近づくと、何やら様子がおかしい。いつもならばリエスの森で魔物を討伐して生計を立てている冒険者たちの姿がほとんど見えない。
「これは何かあったか?」
隊商の代表らしき人物が、警備所の様子を見て訝しんでいる。
その時、警備所の影から1体の蜘蛛のような生物が走り出てきた。犬程度の大きさであり、胴体から全方向に向かって長い脚が生えている。魔物だ。
隊商の護衛がすぐさま槍で仕留める。数本の槍で貫かれたその生物は、しばらく脚をジタバタと動かしていたが、やがてキュウと脚が縮こまり、そのまま動かなくなった。
「こんな場所に魔物が!?」
「何かおかしいぞ」
護衛達が騒ぎ出した。この警備所の近辺に魔物が出ることはほぼないはずなのだ。
騒ぐ声を聞きつけたのか、警備所の扉が開いて、中から森林警備兵が姿を見せる。その表情は暗く、目の下には隈ができている。疲労困憊しているようだ。
「森を横断するのはやめた方がいいぞ」
その警備兵は隊商に向かってそう警告した。何かが起こっているのは間違いなかった。
「ちょっと、何が起こってるの?」
前に出たファウナが警備兵に尋ねる。
「うむ、魔物の群漏だ。森の奥の魔物が付近まで溢れ出ている」
警備兵の答えに護衛達が慌てはじめた。
「群漏だと!?」
「となると、森は通れないな」
「当たり前だ。死ぬ気か」
魔物の群漏とは、ある地域の魔物が何らかの原因により爆発的に増えて、周辺地域に大量に移動してくる現象のことである。
10年ほど前に発生したスライムの大規模な群漏は歴史に刻まれる大惨事となった。それ以外にも世界各地でたまに発生している現象だ。
「となると、早急に迂回を済ませねばならんな」
隊商の責任者はすぐに森を迂回するコースを指示する。決断こそが責任者の仕事である。群漏であれば、時間が経つほどに森から溢れ出る魔物が増加するのだ。迂回するといっても森の近辺を通る以上は、危険な事には変わりない。
「おい、俺たちも迂回しよう」
ユキトもすぐに迂回を提案する。こういう判断は早い。
「いいえ、ユキト様。何が起こっているか確かめませんと」
ユキトの出した森を迂回する案に対して、フローラは確認を主張した。
「何が……って群漏が起きてるんだろ?」
「この森には今まで群漏を起こした事例はないのです。群漏を発生させる種類の魔物もいないはずですわ」
「え? それじゃ、それ以外の何かが起こってるのか? 益々危ないんじゃないか」
「それを確認するのが冒険者の責務です」
どうもフローラはこういう厄介事に首を突っ込むのを好むなぁとユキトは思う。だが、性格というのとも少し違う気がする。使命感を持っているようなのだ。
「ファウナはどう思う?」
ユキトはファウナに話を振る。こうなったら、民主主義に任せよう。
「私は構わないわよ」
どうやら、消極的賛成のようである。
「フローラ様に従うのみでございます」
セバスチャンも消極的賛成を示した。
「分かった、仕方ない。だが、あんまり危険だったら逃げるぞ」
民主主義に則り、ユキトも覚悟を決める。ユキトは、危険なフラグをビンビンに感じていた。
隊商の一行は、ユキト達の無事を願う言葉をかけつつ、森を迂回する道へと去って行った。また、警備所の兵士達も、いつでも引き揚げられるように退去の用意を始めたようだ。
そんな彼らを横目にユキト達は森へ入る準備を整える。
「さて、俺たちは森の奥地の調査だな。魔物には見つからないように森を進みたいもんだな……」
何か良い加護のモチーフはないかとユキトは頭をひねる。
(調査……諜報……隠れる……忍ぶ……おっ?)
ユキトが思いついたのは、古来の諜報員であり、アニメや漫画でもおなじみの忍者である。忍者のイメージを使って加護を作れば、森の中でも隠密に調査を進められるはずだ。
「よし、忍者でいこう」
閲覧ありがとうございます。評価や感想をいただけると励みとなります。