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第21話 いらっしゃい!盗賊さん!

8/27 読みやすさを考慮して文字数が多い話をいくつか分割しました。そのため、話の話数が昨日の時点から少しずれていますが、ストーリーへの影響はありません。


 ユキト達の前を進む商人たちの獣車。ユキト一行はその後ろを追うように付いていく。獣車とはいえ、隊商には徒歩の護衛がついているので、置いて行かれるような速度ではない。隊商としても、旅人が後ろに付いて来ることは良くあることなので、ユキト達を気にしている様子はない。


「それにしてもダンジョンには参ったな」


 ユキトは無事にダンジョンから生還できて、心の底から安堵していた。


「ボスがなかなか凄かったわね」


 ユキトの言葉にファウナが応じる。ユキトの口から「お前の方がスゴい」と出そうになるが、ギリギリで踏みとどまった。危ないところであった。


「魔物ってあんなふうに上位種ってのがいるんだな」


 ユキトは魔物のことをほとんど知らない。当然の疑問だった。


「そうですわね、例えばカゲビトも、上位種として死影(モルスシャドゥ)殺魔之闇(オプスクーリタース)が知られておりますわ」


「上位種だけではございません。神位体(エヴォルシオン)と呼ばれる存在も稀にございます」


 フローラとセバスチャンも魔物講義に加わった。それにしても聞き慣れない単語が出てきた。


神位体(エヴォルシオン)?」


「完全に種族の枠を超えた個体のことでございます。例えば、蜥蜴人(リザードマン)神位体(エヴォルシオン)は、姿もドラゴンにも似たものとなり、蜥蜴人(リザードマン)やその上位種とは比較にならない圧倒的な力を有します」


「20年ほど前に、カゲビトの神位体(エヴォルシオン)がこの近辺に出現した記録がありますが、A級レベルの強さだったそうですわ。空中に浮かぶ5メタほどの巨大な影の姿で、魔霊(リッチ)にも匹敵する魔法や呪法を操ったとか……」


「なるほど、その種族の枠を跳び越しちまった存在なのか」


「まぁ、滅多に出現するものではございません。どの魔物の種族においても世界に1体いるかいないかというところです。神位体(エヴォルシオン)の個体こそがその種族の始祖(オリジナル)という説もあります」


 種族の始祖(オリジナル)と呼ばれる魔物。ユキトとしては一生縁がないことを祈るばかりだ。


 一行がそんな物騒な話をしていると、すぐ前を行く隊商の様子が何やらおかしい。獣車が止まっている。


「おい、早くどかすんだ」


「周囲を警戒しろ」


 護衛達もなにやら騒いでいる。何事かとユキト達が獣車の前方を確認すると、通行を妨害するかのように、街道に大きな丸太が横たわっていた。しかも複数本である。


「いけませんな、盗賊の常套手段でございます」


 セバスチャンが眉を寄せながら口を開く。丸太で馬車や獣車の通行を妨げておき、そこを狙うのだ。


 やがてセバスチャンの指摘通り、左右の小さな林から剣や槍で武装した集団がわらわらと姿を見せた。薄汚れて髭も伸び放題の姿は、どう見ても正規の兵士には見えない。


 隊商とユキトたちから少しばかり距離を空け、20人程度で取り囲むように位置取っている。


「おう、ようやくネロルから商人どもが出てきたようだな」


 盗賊の頭と思われる体格の良い男が嘲るような口調で喋る。野太い声だ。


 盗賊の発言を受けて、隊商の護衛の一人が盗賊達に向かって一歩踏み出す。だが、その瞬間に林の中から矢が飛んできて、その護衛の足元の地面に突き立った。動くなという意志表示だろう。


「げ!? ど、どうする?」


 お約束の展開「盗賊の襲撃」である。異世界あるある100に入っているだろう。

 だが、心の準備ができていないユキトは狼狽して、仲間に意見を求めた。


「運の悪い盗賊もいたものですな……」


「全くですわね」


「やっちゃうけどいいかしら?」


 ユキト以外の3人は特に焦った様子もない。全員、ダンジョンを踏破しているわけであり、盗賊など相手になるはずもないのだ。


 ファウナ一人で盗賊を全滅させるなど朝飯前である。セバスチャンだけでもいけるはずだ。


「あぁ、そうか」


 ようやくユキトも盗賊が脅威にはならないことを理解した。そもそもクィーンオルグゥの圧倒的な威圧感に比べれば、薄汚れた盗賊の姿には滑稽さすら感じる。


 だが、危険は小さいと判断したユキトに、別の心配が生じた。


(殺すことになるんだろうな……)


 元の世界の倫理観からの葛藤である。ファウナ達は盗賊の命を欲しているわけではないが、撃退する際に相手が死んでも構わないと考えている。というよりも、ここで逃がすと次の被害者を生むのだ。逃すくらいであれば、殺すべきなのだ。


「隊商の人たちに被害が出るのも面白くないしな」


 善良な人が殺されるくらいならとユキトも気持ちを切り替える。ユキトも無駄に人を殺す気はないが、このシーンは無駄ではないと判断した。


「フローラ、変身して隊商に防護魔法(プロテクション)を」


 フローラには防御を担当してもらうべく、ユキトは指示を出した。


「了解しましたわ!」


 が、ユキトは重要な事を忘れていた。そう、フローラに付与した魔法少女をモチーフとした加護には条件がある。


  +魔法師の加護:第三者が見ていない場合に、魔法に長けた魔法少女へと変身できる


 その条件をすっかり忘れていたのだ。当然、隊商とその護衛はバッチリと第三者である。


 同様に条件を忘れていたフローラも、変身のためにポーズをつけて大声で叫んだ。ノリノリである。


「フローラ、メイクアーープッ!!!!」


 3秒ほど、無情な時間が流れた。チチチと小鳥が空を飛ぶ。


 馬車から外を覗いていた商人達も、護衛達も、盗賊達ですらもフローラに訝しげな視線を送っている。やがて、その視線に哀憫の情が混じってきた。


 対するフローラは、顔がみるみるうちに真っ赤になり……ボフン!!! 頭の先から湯気を出し、獣車の影に潜り込んで、うずくまってしまった。耳の先まで真っ赤になっている。


「ああああああああ!!!」


 どうやら強力な精神攻撃を受けたようで、何やら叫んでいる。よほど恥ずかしかったらしい。


 こうして1人は使いものにならなくなったが、ファウナとセバスチャンは健在だ。戦力的には何も問題はない。


「……えー、あらためまして……変身!」


 ユキトの声とともに眩い光がユキトを包みこむ。宇宙警察への変身だ。その光景に驚く護衛と盗賊達。これが戦闘開始の合図になった。


「なんだ! 魔法か!?」


「射殺せ!!」


 その声に従って数本の矢がユキトに飛んでくる。だが、ユキトの装甲はオルグゥの拳をも防いだ実績がある。盗賊の放つ矢程度では、傷一つつけることはできなかった。


「な、なんだアイツは!?」


「取り囲んでころ……グハッ!!!」


 盗賊達がユキトに注目している隙に斬り込んだセバスチャン。彼の持つ剣は、相手がオルグゥでないので通常の切れ味しか発揮していない。鬼殺しの加護の適用外なのである。だが、セバスチャンの腕があれば、盗賊を斬るには普通の剣で充分だったようだ。面白いようにサクサクと斬り伏せられていく。


 一方のファウナは、最初に盗賊の頭と思われる男に走り寄った。その速度には誰も反応できない。盗賊の頭が気がつくと、目の前にファウナがいたのだ。


 ファウナは二コリと笑うと、拳に闘気を纏わせて、軽くその腹を殴る。


 ドフッ!!!!


 盗賊の頭は20メートルほど飛んで行き、ゴロゴロと10メートルほど転がって動かなくなった。命が助かったとしても、戦闘は継続できないだろう。ここで、ようやく盗賊達は自身の置かれた状況を認識したようだ。


「や、やべぇヤツらがいるぞ!」


「に、逃げろ! にげ……ギャッ!!!」


 盗賊達が浮足立ったと見て、護衛達も戦闘に参加する。


「逃がすな!」


「お二人の邪魔をするなよ!」


「あ、エルフの方が地面をふっ飛ばしたぞ!?」


「あの辺にいた盗賊も一緒に吹っ飛んだな……」


 それは、一方的な蹂躙であった。

 バトル漫画の主人公と中世ヨーロッパ風では文字通り世界が違うのだ。



 そんな中、ユキトも近くの盗賊を捕縛しようと試みる。

 が、そもそも盗賊は逃げ出していて、誰もユキトには近づいてこない。地味ではあるが、矢を撃たせたことで、充分に役目は果たしたと言えよう。


 こうして、運の悪い盗賊団は壊滅した。盗賊は15名が死亡。8名が重体。残りは逃げて行ったようだ。


 対して、隊商側は護衛2人が軽傷を負ったのみだ。

 いや、もう一人大きなダメージを負った者がいた。精神的なダメージである。


 フローラはまだ獣車の影でうずくまっている。

 いまだ、耳の先まで真っ赤なままであった。


ここまでの閲覧ありがとうございます。

感想や評価などをいただけると幸甚です。どうぞ、宜しくお願いします。

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