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第20話 旅立ち!目指せ領都!

 バロンヌへ向かうことを決めた翌日、ユキト達は再び冒険者ギルドへとやってきていた。

 C級のギルド証は昨日の段階で受け取っている。今日はクィーンオルグゥの素材の査定と換金のために訪れたのである。


 ユキト達がギルドに入ると、ギルド内にたむろしていた冒険者らの視線が集まってきた。既に、ユキト達がダンジョンを攻略した噂が広まっているらしい。彼らが向けるのは、以前のような値踏みする視線ではなく、憧れや羨望が混じったものだ。悪い気分ではない。


「いらっしゃいませ、ユキト様。査定は済んでおります」


 ギルド職員のキリュートがユキト達に声をかけてきた。


「ありがと。それでどのくらいになった?」


「えー、角が金貨25枚、魔物が装備していた服飾品が金貨12枚、皮が金貨8枚、血が……」


「き、金貨、ンじゅう枚!?」


 ユキトは思わぬ高額に驚くが、ファウナもフローラもそんなものだろうという顔をしている。


「ユキト、相手はダンジョンのボスよ?」


「熟練者のパーティですら命を落とすような魔物を討伐した戦利品ですので、当然の価格ですわ」


「……で、魔石が金貨30枚分ですね。合計で金貨82枚です」


 キリュートが教えてくれた査定額は金貨82枚だった。ユキトの故郷では高級な和牛を一頭買いすると100万円程度になる。高級肉牛として知られる松阪牛だと1000万円になることもあるらしい。

 魔物の場合は素材が重視されるので、食肉の例と比べる意味もないだろうが、仮に金貨10枚で100万円と換算すると、820万円分の価値である。


「オルグゥ族はあまり価値の高い素材が取れないことと、戦闘による痛みも多かったので少し低い価格になっております」


 キリュートが申し訳なさそうな顔で説明した。

 戦闘による痛みと聞いて、ユキトは目を細めてファウナの方を見る。ユキトの視線に反応してファウナは目を逸した。


 とはいえ、ユキトにはファウナを非難するつもりは毛頭ない。ファウナこそが、今回のボスの討伐の功労者である。


「ま、充分だ」


 ユキトの発言にフローラもファウナも頷く。なお、セバスチャンはフローラの後ろに控えている。特に口を挟む気はないようだ。


 キリュートが差し出した金貨82枚の入った袋はかなりの重量だった。受け取ると、ズシリと手に重さが伝わってくる。以前の学習を踏まえて、ユキトは袋の中身に間違いないことを確認する。


「確かに82枚だな。倒したのはファウナだが、分け方はどうする?」


 ユキトはファウナに向かって取り分を聞いてみる。


「え? 確かにボスは私が倒したけど、取り巻きは皆が引き受けてくれたわけだし、4分割でいいんじゃない?」


「じゃあ、1人20枚ずつにするか。2枚余るけど、とりあえずパーティ共通費用にしよう。皆もそれでいい?」


「ファウナさんがよろしいのであれば」


「ファウナ様のお考え通りに」


 皆が今回の討伐はファウナの手柄と考えているので、当人が良いのであれば、フローラもセバスチャンも異論がないようだ。早速、ユキトの手によって1人あたり20枚の金貨が分配された。


 金貨20枚あれば、街でも数年は普通に暮らせるらしい。


 あまり大金を持ち歩くのは物騒だということで、4人とも冒険者ギルドに大半を預けることにした。冒険者ギルドは、銀行のように預金が可能なのである。ユキトは金貨19枚を預け、残りは銀貨に両替してもらった。金貨のままだと買い物に不便なのだ。


 一行が冒険者ギルドから出るとフローラが口を開いた。


「ダンジョンから無事に戻れたことを感謝しに、教会へ行きませんか?」


「教会?」


 ユキトは宗教にあまり良い印象は持っていない。嫌っているわけではないが、独善的なイメージを持っている。これは元の世界というよりはユキトの国の傾向であろう。そもそも、異世界(ディオネイア)は神様が実際に存在する世界なので、信仰のあり方もユキトの故郷とは異なるはずだ。


「そういえば、俺は……えーと、わけあって神様のことに詳しくないんだが、この国の神様ってどういう感じなんだ?」


 誤魔化しきれていない微妙な表現で、この国の宗教に探りを入れるユキト。


「この世界を創造したとされるのが、創造の女神クレアールよ。最高神として大抵の教会で信仰されているわ」


 ファウナが事情を察して説明してくれる。


「運命神フェートと生命の女神ハイムも合わせて信仰されていることが多いわね」


 どうやら、異世界(ディオネイア)は多神教のようであった。教会も様々な人を受け入れているというので、ユキトも一緒に祈りに行くことにする。神様が実際にいるのであれば、敬意を見せておいても損はないだろう。


 教会は街の中心部、冒険者ギルドからもそう遠くない距離にあった。フローラも近いからこそ、寄って行くことを提案したのだろう。周囲の建物より一際立派に見えるのは、どの世界でも変わらないらしい。


 中に入ると、思っていたよりも多くの人が祈りをささげていた。長机が左右に10列ずつ並んでいるが、その4割程度が祈りを捧げる信者で埋まっている。


「……祈りってどうやるんだ?」


 厳粛な場に配慮して小声で尋ねるユキトにファウナが答える。


「クレアール様の名前を呟いて、心の中で感謝を捧げるのよ」


 ファウナ、フローラ、セバスチャンが祈りを捧げるのに倣い、ユキトも女神に感謝を述べる。


(えーと、管理者さんからもらった加護のおかげで、どうにかやっていけています。ありがとうございます……これでいいのかな?)


 祈りを終えた一同は教会の外へと出る。入れ替わりに人々が教会へと吸い込まれていく。かなり人の出入りがあるようだ。


 教会を出てから聞いたところでは、創造の女神クレアールは世界を創造した後から、長い眠りについており、聖域にてその名が呼ばれることで再び目覚めると言われているらしい。


 毎年、聖域とされている皇国の大聖堂にて、女神様の覚醒を願ってその名を呼ぶ儀式が行われているが、いまだ女神様が応えたという記録はないという。随分と寝起きが悪い女神のようだ。



 無事に教会で祈りを捧げた一行は、続いて食料や旅の必需品を道具屋にて購入した。野営道具やパンと干し肉を中心に、緊急時の水も購入してある。ユキトはナイフなどの旅道具を購入した。


 通常はパーティの食料や道具類はそれなりの荷物になる。だが、ユキト一行には、セバスチャンの収納魔法(ストレージ)があるため、その点でかなり楽である。もちろんセバスチャンに何かあった時の保険として、各自でも少量の物品を携行する。


 フローラによれば、バロンヌまでは1週間程度の距離らしい。


 太陽はちょうど真上にある。雲はほとんどなく、透き通るような青い空が広がっている。風も心地よく、旅立ちには良好な日だ。風を受けながら、一行はネロルの街の門を抜ける。


 門の外では、隊商の馬車とその護衛達が、バロンヌへ向けて街を離れるところであった。同じ方向へ向かうならばと、ユキト達も彼らの後ろをついていくことにする。旅は道連れ世は情けである。もっとも馬車といっても牽いているのは、犬に似た獣であった。ファウナに聞くと獣車と呼ぶらしい。


 さぁ、向かうは領都バロンヌだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。感想や評価をいただけると励みになります。レビューなんかをいただいた日には小躍りして喜びます。


8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割したため話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)

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