第19話 後始末!ダンジョンクリア!
今日のお話で、物語の「旅立ち編」が一区切りです。
クィーンオルグゥはファウナにより倒された。
「いや、ファウナ様。恐るべきお力ですな」
セバスチャンもその非常識なファウナの力を目にして、驚き半分、呆れ半分といったところのようだ。しかし、思うところがあったのか、音もなくユキトの隣に移動し、小声でささやく。
「あの力もユキト様が?」
「……一応」
恐らくは武術の加護とファウナとの相性が良かったのだと思うが、原因がユキトであることは間違いない。一応などと答えているが、一応どころか犯人である。
一方のフローラは何やら魔法で何かを確認しているようだ。
「ユキト様、脱出可能のようですわ」
どうやらダンジョンコアが破壊されたことにより、魔法による脱出が可能となったようだ。
「じゃあ、外に出よう」
ユキトが促すと、皆が頷く。ようやく外に出られるのだ。1日中ダンジョンにいた計算である。ダンジョンの踏破としては異例の短さであるのだが。
「あ、クィーンオルグゥの身体は一緒に運べない?」
ファウナがフローラに尋ねる。あんな恐ろしい怪物の死骸と一緒に行くというのは、全く嬉しいものではないが、どうやらボス級の魔物からは多くの素材が採れるらしい。角にせよ皮にせよ、非常に価値が高いとのことだ。恐らくはクィーンオルグゥも例外ではないだろうというのが、ファウナの見立てである。
「大丈夫だと思います。では、クィーンオルグゥの身体も一緒に」
早速、フローラは目を閉じて、指先から紡ぎ出した魔力の糸を地上へ向けて伸ばしていく。厚い岩盤を抜け、地表に達した魔力の糸を器用に操り、簡易転移陣を仕立てあげる。現在地のほぼ真上の地表にワープすることになるようだ。
「脱出魔法」
フローラの言葉とともに、青白い光がユキト達を包み込むと、次の瞬間にはその場から全員の姿が消えさった。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
「ワヒャアアアアアア!!!」
複数人の悲鳴が響き渡る。
場所はどこぞの村の中央広場。すっかり夜の帳が下りているようではあるが、人通りも多い場所だ。そんな場所に般若の顔をした巨大な魔物が姿を見せたら、このようになるということだ。
「なんでこんなところに?」
「ここが真上でしたので……」
脱出魔法には脱出先が池の中だったり、建物内だったりしないように避けてくれる機能がついているらしいが、街や村の中を回避はしてくれないようだ。
「死骸なんだけどな」
「死んでいても迫力がございますからねぇ」
とりあえず、魔物が動かないことで混乱は少し落ち着いてきたようだ。村人たちも遠巻きにユキト達を眺めている。そこに慌てて一人の恰幅のよい男性が走ってきた。
「なにごとですか!!」
ユキト一行のボンデ村の夜は、まずは村長に謝罪することから始まるのであった。
「――ふぅ、疲れたな」
フローラとセバスチャンがオルグゥ討伐に出る際に、ボンデ村の村長とは顔を合わせていたおかげもあって、事情はすぐに理解してもらえた。
まず、オルグゥの巣とも言えるダンジョンが近辺にあったことに驚かれ、それを踏破して危険を排除したことを大いに感謝された。村の近くにオルグゥの巣があったというのは、軒先にスズメバチの巣があるよりも危険なのである。
しかも、クィーンの死骸という明確な証拠もあるのだ。村長としては、知らぬ間に村が滅びる危機を救ってもらったことになる。
「村の宿泊施設って言ってたけど、思ったより快適だな」
日も暮れてきていたので、ユキト達はネロルへ戻るのを明日にして、村長が手配してくれた施設に宿泊していた。宿に泊まっても良かったのだが、是非にと頼まれては断るのも野暮というものだろう。
実際、ベッドもそれなりに柔らかく、部屋の作りもしっかりしている。食事は野菜スープと猪と思しき焼いた肉、麦をつぶして焼いたと思われる何かであり、ユキト以外は美味しそうに食べていた。
元日本人たるユキトとしては、不味いとまでは言わないが、いささか物足りないものであったが。
流石に疲れていたのか、その夜のユキトたちは、いつ眠ったかすら気がつかないうちに眠りに落ちた。
翌朝、一行はネロルの街へ出立した。村からは3時間程度の見込みだ。村長にお願いして、荷車を借り受けている。ユキト達は賃料を払うと言ったが、頑なに拒否されてしまった。もちろん乗せるのはクィーンオルグゥの巨体である。
「セバスさんの収納魔法に格納できないの?」
ユキトがそんな質問をしてみたが、流石に大きすぎるらしい。テーブルあたりが限界ということだ。
荷車を引き、ネロルの街まで移動する。言葉にすれば短いが、なかなかの労力であった。いや、セバスチャンは涼しい顔をしているし、ファウナも余裕だ。フローラもそこまで大変そうではない。ユキトのみが死にそうになりながら、荷車を押している。
「ユキトは体力がないわね」
隣で荷車を押しているファウナが呆れたような口調で声をかける。ユキトも、変身さえすれば体力や筋力、反射神経が向上するのだが、通常時はこの世界の冒険者としては非常に非力な部類に入る。
なお、断っておくと体格という観点で言えば、ユキトもこの世界の平均に対して、そこまで劣っているわけではない。これは、この世界の食糧事情によるものだ。ユキトの世界でも、食料事情が改善されることで人類の体格は変化してきた歴史がある。
さて、ようやくネロルの街に到着した。街は、いまだに謎の巨人騒動の真っ只中にあるらしかった。冒険者たちの動きが慌ただしい。
「責任を感じる……」
「感じるっていうか、間違いなくユキトのせいだしね」
呟くユキトに、小声で返すファウナ。正論であった。
まず、4人は冒険者ギルドへと向かう。顛末を報告するためと般若野郎を買い取ってもらうためだ。
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「ワシがネロルのギルド長、モルト=マカランだ」
最初にギルドの職員さんに簡単に事情を伝えると、一介の職員の手に余ると判断されたのか、会議室へと通され、ひげ面で強面のおっさんが登場した。クィーンオルグゥの身体もギルドの裏手の倉庫へと移動させてある。
「モルト殿、さっそくですが」
セバスチャンはモルトというギルド長と顔見知りらしい。セバスチャンが詳細を説明する。ダンジョンが広がっていたこと、オルグゥたちの巣になっていたこと、ボスを退治したこと。
「近場にそんなダンジョンが生まれてたとはなぁ」
ギルド長は顎をこすりながらため息をつく。足元にそんなダンジョンが育っていたことが、それなりにショックだったようだ。
「オルグゥの生命力を反映して、成長が早かったのでしょうな」
「それにしてもダンジョンの発見報告と踏破が同時になされるたぁ……前例がないわけじゃねえが」
通常、ダンジョンが発見されると最寄りの冒険者ギルドに報告がなされる。冒険者ギルドは、対象のダンジョンを調査し、難易度を設定する。冒険者たちは攻略パーティを組み、何度もアタックをして、ようやく踏破されるという過程が普通なのである。
「あとはあのクィーンオルグゥもすげえな。ありゃ、A級下位はあるだろうな」
ギルド長から見ても、あの般若は強そうに見えるらしい。
「素材は取れそうなの? 魔石は持ってると思うけど」
魔石というのは、魔物の体内に生成される魔力の結晶であり、強力な魔物ほど純度が高く、大きな魔石が採れる傾向がある。高値で買い取ってもらえる素材の代表格だ。
ファウナの問いにギルド長は少しバツが悪そうな顔をする。
「角もあるし、上質の魔石も持ってるだろうが……ギルドの現金がなぁ」
「あ、巨大ゴーレム対策ね」
「ああ。あれから全く姿を見せねぇが、対策を緩めるわけにはいかねえ。だが、出費がかさむ一方だ。まだ当分は警戒態勢を続けなきゃなんねぇから、現金が必要なんだわ」
「……」
怖いものなどなさそうなギルド長も、お金の問題はお手上げらしい。ファウナがジト目でユキトを見る。「どうすんのよ」と目で訴えていた。
「あー、そのことなんだけど」
たまりかねてユキトが発言する。この機会に巨大ゴーレム騒動も収めてしまいたい。
「事情があって深くは話せないけど、巨大ゴーレムはもう近辺に出現することはない。俺がそんなことを言っても信用できないかもしれないけど、保証する」
ユキトがきっぱりと言い切ったのを受けて、ギルド長も困惑する。
「ん? それはいったいどういう……いや、あのクィーンオルグゥをたったの4人で退治して、見つけたダンジョンをその日に踏破しちまうようなパーティだ。信用するぞ」
「信用してもらえるのか。感謝するよ」
「いや、こちらのセリフだ。念のため、警戒活動はゼロにはしねぇが、これで経費を大幅に縮小できるぜ!」
「ふむ……」
事情を知らないセバスチャンではあるが、ファウナに視線を向け、一人納得する。
(ファウナ様の力があれば巨人を撃退もしくは討伐していてもおかしくはないですな)
実際は、撃退も何も、ユキト本人が巨大ゴーレムであったわけだが、さすがにそこまでは考えが及ばない。フローラはよく分からないという顔をしているが、ここで何かを発言するつもりはないようだ。
「じゃあ、クィーンオルグゥの素材は明日までに査定しておくぜ。あと、セバスの旦那はともかく、フローラの嬢ちゃんとファウナの嬢ちゃん、ユキトの小僧は昇格だ。受付でC級のギルド証を受け取っておいてくれ」
どうやら、3人はC級に上がったようである。本来ならE級から昇格するとD級であるが、ユキト達は、仮にもダンジョンを踏破しており、A級と思われるボスまで倒している。衛星村にオルグゥの被害が出る前に食い止めていることを含めても、C級に上げて問題ないというギルド長の判断であった。
4人が会議室から出て行ってからギルド長はニヤリと笑う。
「イキのいい奴らが出てきたじゃねえか。しかも、ありゃあ巨大ゴーレムも倒してやがるっぽいな。
大方、倒したら土に還っちまったかなんかして、討伐した証拠がないんだろうぜ。証拠がない相手を倒したと言わねえのは冒険者の矜持だな。嫌いじゃねえぞ」
このギルド長、勝手な勘違いでユキト達を高く評価していた。
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「そうだ、ファウナ」
「ん?どうしたのユキト?」
冒険者ギルドを出て、大通りを宿へ向かう途中、ユキトは思い出したかのようにファウナに声をかけた。
「ボスから炎を吹かれたときに、身体から変な光を出してたろ?」
「ああ、あれね」
「いつの間にあんな技を?」
ユキトは、ファウナがいつの間にか異世界離れした力を発揮していた件について確認する。
「前にユキトが、出身世界の格闘家は生命力を手に集めたりするって言ってたでしょ? それで、私も攻撃のときにそれが出来ないかなって練習してたんだよね」
「ああ、気とか闘気とか呼ぶやつな(俺の世界にも実在はしないけどな)」
「威力がありすぎる拳だと、相手を殴り飛ばせずに拳が貫通しちゃうのよね。だから、当たる瞬間に拳全体にその闘気ってのを纏わせて、面として当てるようにしてたのよ」
「なるほど、そうやってオルグゥをふっ飛ばしていたんだな」
「そうしないと、相手に拳が突き刺さるだけになっちゃうからね」
どうやらファウナは、拳のインパクトの瞬間、大きく広げた闘気を拳に纏わせ、拳と同時に打ちつけることで、相手を殴り飛ばせるようにしているらしい。
「で、それを応用して、炎を吹き飛ばしてみたってわけ」
ファウナは得意げに語る。武術の加護とファウナとの相性も良いのだろうが、加護を使いこなそうと創意工夫を怠らないファウナの努力も、ファウナをチート格闘家に育て上げる原因であるようだ。
加護を与えたユキトとしても、ファウナがどこまで強くなるのか、少し心配である。
「そういえば、フローラってなんで冒険者になったんだ?」
続いてユキトはフローラに話しかけた。
「え? 私ですか? それは、世の中の困っている人々のお役に立ちたいと……」
「うお、なんと立派な志!」
「冒険者って富と名声が欲しいからって言ってはばからないヤツらが多いのにね」
ファウナもフローラの言葉には驚いたようだ。
「ところでフローラってどこか偉い貴族とかのお嬢様なの? セバスさんは執事か何か?」
「!?」
突然そんなことを尋ねたユキトをギョッとした顔で見るフローラ。
(あ、これバレてないって思ってた顔だ!)
慌ててユキトは誤魔化そうとする。
「なんてことあるわけないか」
「そ、そうですわよ、ユキト様」
冷や汗をかいているフローラの後ろで、セバスチャンは生温かい目をフローラに送っている。これは、フローラの演技については諦めているという意思表示であろう。ダンジョンでティータイムを楽しんでいた時点で隠す気はないとしか思えない。
「で、フローラとセバスさんは、この明日以降はどうすんだ?」
「え? 特に予定はありませんわ」
「いえ、フローラ様。そろそろバロンヌへ向かわねば」
セバスチャンがフローラに忠言した。すると、珍しくフローラが嫌そうな表情を見せた。どうやらフローラはバロンヌへ向かいたくないらしい。だが、そのフローラの思わぬところから伏兵が出現した。
「あ、バロンヌもいいわね」
ファウナがバロンヌに興味を示したのだ。
「あ、ユキト、バロンヌってのはこの地域の領都で、とても大きな港沿いの街よ」
まろうどであるユキトに気を使ってか、ファウナが説明してくれる。
「へぇ、領都か。ってことは、偉い貴族様がいるんだろうな」
貴族様という言葉にフローラがビクッと反応する。フラグだなとユキトは心の中で呟く。
「ええ、この辺りの領主様がいるわ」
「俺は、あまり貴族様に興味は……」
「あと、お魚が美味しいわよ」
「よし、行こう」
魚が美味いと聞いて、ユキトのDNAが即座に反応した。身体が魚料理を求めている。行かなければならない。食べなければならない。
「では、御一緒しませんか?」
即座にセバスチャンが提案してくれる。これはフローラに拒否させないための手段であろう。それくらいはユキトにも分かる。とはいえ、見知った仲である。4人旅も楽しいだろう。
「よし、じゃあ次はバロンヌで魚料理だ」
こうして4人の次の目的地は領都バロンヌと決定した。その中でフローラだけが不満気な表情であったが。
閲覧ありがとうございます。いや、ホントに。社交辞令でなく。
誰かに読んでもらえるのは、嬉しい限りです。楽しんでもらえていたら良いのですが。
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8/26 単語の微修正
8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割したため話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)